【完結】ユーディー(偽)のアトリエ──アーウィンタールの錬金術士(ハーメルン移植版)   作:ブドウ冷やしんす

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ああ、なぜこのおもいは、つたわらないのか(棒)



すれ違う思い(棒読み)

 

side店主

 

 

それはユーディットが『琥珀湯』という魔力回復ポーションを発売した3日後の事だった。

 

 

ワーカーの世界は全てが自己責任であるため、当然、情報というものの価値は冒険者以上に重要だ。

 

自分の命に直結するのだから。

 

それだけに、本当に有用な情報ともなれば積極的に金銭や『仕事上の融通』として取り引きされる。

 

その場合の伝播(でんぱ)速度は、組合を通して情報を共有する事が多い冒険者の比ではない。

 

 

結果……

 

 

「繰り返し使える魔法の杖があると聞いたんだが」

 

「後から来たヤツは引っ込んどけよ! それより薬草ポーションもう売り切れちまったのか!?」

 

「魔力回復ポーション5本を予約したい!」

 

「デニッシュまだか!?」

 

「魔法のリボンってのはギガント・バジリスクの魔眼も防げるのか? 討伐の話があって、軍がワーカーも集めてるんだ」

 

「守りの指輪をくれ! 次の仕事までにほしい!」

 

 

それだけではない。

 

ワーカーから情報を得たと思われる貴族からの使者や商人、一般人までもが……

 

 

「ここの錬金術師が作る素晴らしい(・・・・・)香水をお嬢様が御所望です」

 

「結婚式までに記念のワインがほしいんだが」

 

「先に商売の話をさせてくれ! ワインを5ケース仕入れたい!」

 

「私は南方から来た商人だが、ここにいる錬金術師が素材を探していると聞いた。特産品のサボテンを購入しないか?」

 

 

このままでは宿が回らない……

 

この前の爆発 (※神丹でやらかしました) は帳消しにしてやるから助けてくれユーディットぉぉぉ!?

 

こういう時に限って何でいないん……あ、そうだ今朝……

 

 

何故このタイミングで彼女を呼んだのですか皇帝陛下ぁぁぁ!?

 

 

「おい! まだなのか!?」

「予約を!!」

 

 

うわぁぁぁぁぁぁ!!!

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

《城に向かう馬車の中》

 

 

……うー、やっぱり『お城に招待』なんて緊張するなぁ……

 

アルシェは『皇帝陛下はゴロツキ同然の人さえ騎士に取り立てるくらい豪胆な方だから、異国出身の一般人であるユーディーなら、多少の失礼は見逃してくれる』って言ってたけど。

 

 

それにしてもアルシェが元・貴族って聞いてビックリしたというか納得したというか。

 

おかげで(付け焼き刃とはいえ)最低限のマナーを教えてもらえて助かったよ。

 

 

……でも『元』って、何があったんだろう。

 

だからワーカーなんて(『なんて』って言ったら失礼だけど、危険な仕事だし……)やってるのかなぁ。

 

踏み込んでいい話か迷ったから聞けなかったけど……他のみんななら知ってるのかなぁ。

 

今度それとなく聞いてみようかな。

 

 

おっと、今は『皇帝陛下の件』が先決よね。

 

などと、あたしが硬い表情をしてると付き添いの騎士ニンブル様が

 

「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」

 

ニコッ、キラッ。

 

 

……ひぃぃ。

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

「やぁ、よく来てくれた! 君が噂の錬金術師、ユーディットだね。会えて光栄だよ」

 

緊張でガチガチのあたしを驚くほどフレンドリーに迎えてくれたのが皇帝ジルクニフ……るーん?……ふぁー……えっと……陛下!!

 

あらゆる女性を(とりこ)にしそうなキラッキラの笑顔を浮かべた超絶イケメンである。

 

 

「突然呼び出したりして申し訳ない。素晴らしいアイテムを作り出す凄腕(すごうで)の錬金術師と聞いて、一度話してみたくて仕方なかったんだ。さぁ座って」

 

 

いやもうこんな美と権力の頂点みたいなハイパー美男子に下にも置かない扱いされたらメロメロのトロトロになっちゃうわよね。

 

 

………………普通は。

 

 

あたし?

 

 

……………………さっきから蕁麻疹(じんましん)が止まらないのよ!!!

 

ーもー!! 何が悲しくてイケメン相手に鳥肌立ててなきゃいけないのよ!? あたしだって普通にキュンキュンしたいわ!! けどちょっとでもキュンとなると

 

 

……ぞわわぁ……

 

 

あ゛ぁぁぁー!!!

 

うぅ……あんな事さえなきゃ、こんな事には……

 

 

あれは忘れもしない『私』が入社したての頃。

 

当時、オフィスには『ピーッ』(匿名)さんという美形の先輩がいて、女性社員の憧れの的だったの。

 

どうせ『私』には縁のない人よね、なんて思ってたんだけど、ある日なんと食事のお誘い!

 

キターコレ! 勝つる!!

 

そんな風に舞い上がったわ。

 

で、仕事終わりに食事(デート)を控えた当日。

 

『私』は仕事の相談(という名の談笑)を『ピーッ』さんとしてたんだけど……

 

 

「……やっと見つけたわ

 

ボサボサ髪の女性が休憩室の入口から入って来て言った。

 

 

「!? お、おま、どうして」

 

聞いたわ、本当は奥さんも子供もいるんでしょ

 

「ちがう……聞いてく」

 

ここ(・・)に作った赤ちゃんはどうする気よ!?

 

「た、頼む、落ち着い」

 

うるさい!! あんた殺して私も死ぬわ!!!

 

 

ぶちまけられる何かの液体。

 

『ピーッ』さんのすぐ後ろにいた『私』も当然

 

バシャア

 

女性の手にはライター。

 

漂うガソリンの臭い。

 

 

あ、これ死んだわ。

 

 

……と、確信した『私』だったけど運良く警備の人が女性を怪しんで通報してくれてたらしく、間一髪で着火は避けられた。

 

 

無事に助かって、めでたしめでたし、とは行かなかったのよね。

 

結局それ以来、ある程度以上のイケメン相手にキュンとすると『死の感覚』がフラッシュバックするようになっちゃって……完全に心的外傷後ストレス障害(PTSD)ってトラウマです本当にありがとうございました。

 

 

じゃあブ男ならいいだろって?

 

それキュンとしないじゃん。

 

まぁ、そこまで言っちゃうと失礼かも知れないけど、なら恋愛は仕方ないとして『この人なら結婚相手くらいならいいかな』って思えるには長い付き合いは最低限必要なわけで、年々ブラック化する企業(最初はギリセーフかと思ってたんだけどねぇ……)に勤める『私』に、そんな時間的余裕あるわけないのよ。

 

 

かと言って『イケメンセンサー』に引っかかってキュンとしないギリギリラインの三枚目を探すってのも、それどんな確率よ。

 

 

は? カウンセリング?

 

全額自己負担なのに受けるわけないじゃん。

 

 

で、気が付いたらアニメやゲームにハマる30代女性が完成してた、と。

 

 

さて、そんな『私』から見て今の状況は……

 

まずセンターに超絶イケメン皇帝陛下がドン!

 

その横には美形騎士ニンブル様がドン!

 

オジサンならセーフかと思いきや中々どうしてイケオジなバジウッドさんナザミさんがドドン!!

 

唯一の救いか紅一点レイナースさんは、

 

 

ニコッ」(ドヨドヨドヨドヨドヨ……)

 

 

ガソリン女みたいな空気出てるぅ!!

 

なんでぇー!?

 

 

ぎゃあぁぁぁフラッシュバックがががががが!!!

 

あんたらさては寄ってたかってあたしを殺す気だな!?(錯乱)

 

一刻も早くこの場を離れたいぃぃぃ!!!

 

 

……などという状態で冷静に会話できるはずもなく、自分で何を喋っているかの自覚もないまま拝謁(はいえつ)の時間は終わりを迎えたのだった。

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

「……ただいまぁ」

 

 

「! おかえり、ユーディー」

 

歌う林檎亭に帰るとアルシェが迎えてくれた。

 

おぉ! あたしの癒やしよ!

 

 

あれ? なんか宿の中が静かね。

 

あたしが出る直前まぁまぁお客さんいたと思ったけど。

 

いたのはアルシェと、なんか難しい顔して紙を読んでる店主さん。

 

フォーサイトのほかのみんなは情報収集とかだろうか、ここにはいない。

 

 

「……ユーディー」

 

 

「ん? なぁにアルシェ」

 

 

なんか言い出しづらそうね。何かしら。

 

 

「ユーディーは、その……これからも、ここに? それとも……お城とか、魔法省とかに、仕事へ?」

 

 

「……へ? なんで?」

 

 

「ぇ……だって、お城に呼ばれて……ユーディーの実力だったら、きっと重用されたりとか」

 

 

「……ぁー、そんな話もされたような気はするけど……あはは、ないない! やっぱりあたしはフリーの錬金術士やってる方が性に合うっていうか」

 

なんて、全然マトモに話できなかったのをごまかすみたいに言うと、アルシェが急に飛び込んで来てぉうふ。

 

おぉう、どしたどした? いきなりハグして。

 

 

「……いなく、なっちゃうかと……」

 

 

あぁ! そういう事か!

 

そっかそっか、そうよね、あたしいなくなると宿も静かになっちゃうし、せっかく仕事も順調なのに収入減っちゃうよねぇ。

 

安心させてやろうと抱きしめ返す。

 

 

「もう、心配性なんだから。どこにも行かないよ、あたし」

 

 

軽く離して顔を見、ぇ、ちょ、泣いてる!?

 

泣くほど心配だったの!?

 

そうかー、まぁお嬢様だったのにワーカーやるくらいだもんね……

 

ハンカチで涙を拭いてやり、笑いかけた。

 

 

「ね!」

 

 

「……うん!」

 

 

よし、解決!

 

……とはいえ『家の事情』気になるなぁ。大丈夫なのかな。

 

 

と、そんなやりとりの後で店主さんが

 

「ユーディット、これは、今どういう事になってるんだ?」

 

読んでた紙を見せつつ聞いてくる。

 

 

「何がですか?」

 

紙を受け取り読んでみると……

 

 

宛 ユーディット・フォルトーネ

 

貴殿の作成するアイテムは輸出入貿易管理法における“輸出規制品”に指定された。

 

よって、国外への売却、譲渡を全て禁ずる。

 

違反した場合、作成者、売却者または譲渡者を禁錮50年の刑に処す。

 

また、ユーディット・フォルトーネを帝国の“特一級技術者”に認定する。

 

このため国外への移動は、その目的に関わらず事前の申請を行い許可を得る事。

 

違反した場合、ユーディット・フォルトーネを懲役250年の刑に処す。

 

バハルス帝国 皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス

 

 

「…………………………へ?…………………………ぇえええええ!?

 

 

「なんだ、何も聞いてないのか。……ユーディット、皇帝陛下に何を言ったんだ」

 

 

やっぱりイケメンこわいぃぃぃぃ!?

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

sideジルクニフ

 

 

「……はぁ」

 

つい、小さく溜め息が溢れた。

 

 

和やかに彼女を送り出した後に残るのは、思ったような結果にならなかったという微妙な気不味さだ。

 

 

バジウッドが口を開いた。

 

「フラれちまいましたね、陛下」

 

 

「……ほぅ? 流石は『百戦錬磨』のバジウッドだなぁ。言ってくれるではないか

 

 

「ちょ、いや陛下、冗談じゃないですか! マジに受け取らないでくださいよ!」

 

 

「……フッ……ニンブル、私は何か間違えたか? それともバジウッド、私は市井(しせい)の女性への接し方として誤った選択をしたか?」

 

 

ニンブルが応える。

 

「いえ陛下、何も問題はなかったように思います」

 

 

バジウッドも続く。

 

「俺から見ても良い男前でしたぜ?」

 

 

「ふむ……では爺、おま……あぁ、レイナース、爺を『持って』来い。落ち着いているようなら縄を解いてやっても良いが」

 

 

「はっ」

 

レイナースは隣の部屋から爺を連れて来た。どうやら落ち着きを取り戻したらしい。

 

 

「……とほほ、陛下あんまりでございます」

 

 

「お前が手順も何も吹っ飛ばして接触しようとするからだろう。一体どうしたというのだ」

 

 

「お聞き下さい陛下! ついに見つけたのです! 彼女は錬金術師ながら、魔法詠唱者(マジックキャスター)としては私に匹敵する存在です!」

 

 

「なんだと!?……ますます()しい事をした」

 

私は何を間違えたというのか……

 

「爺、話は聞こえていたのだろう。何か問題はあったと思うか」

 

 

爺は「……錬金術師という種類の人間を熟知しているとは言えませんが」と前置きして語り始める。

 

「基本、錬金術師というのは『一子相伝』などという形で代々受け継ぐ事が多く、弟子は一人だけであったりもするので、魔法詠唱者(マジックキャスター)の中でも特に閉鎖的です

 

……が、彼女の言葉の端々(はしばし)には次代に伝える事に前向きである風に出ておりましたので、省内で『知の共有と研究』を目的とする魔法省は流石(さすが)に抵抗感があるとしても、優秀な弟子候補を探す上で『皇帝陛下の側近』というのは有利な立場のはず。

 

何故、辞退したのか……」

 

 

聞けば聞くほど、考えれば考えるほど分からない。

 

それとも、やはり彼女が言う『市井の人々に寄り添う錬金術師』というものへの思いが強いのか。

 

 

それと……皆が触れなかった点、恐らく気付いていないのだろう、彼女が見せた反応が気にかかる。

 

瞳の奥に、確かに『恐怖』の色が見えた。

 

初めは緊張によるものかと思い、微笑みかけるなどしてみたが、何故か逆に『恐怖』は増した。

 

ニンブルやバジウッドは『問題なかった』と言うし、ならば私が『鮮血帝』と呼ばれているが(ゆえ)だろうか。

 

それとも……まさか……

 

 

『私と親しくして見せる事』を恐怖したのか?

 

 

確かに最近は貴族からの注文も受けるようになったと聞くし『皇帝との仲が良好である』などという話が流れたら自身が女性である以上、貴族子女から余計な嫉妬(しっと)や逆恨みを買う可能性がある。

 

それ故の『恐怖』か?

 

だとしたら、カベリア都市長ほどに理知的とは思わないが、中々に視野は広い。

 

 

残念だ。かえって地位や役職など実利を全面に出したアプローチをするべきであった。

 

何故、間違えたのだろう。

 

貴族共の相手ばかりして勘が狂ったか。

 

はたまた彼女の、逸脱者とは思えない『どこまでも普通な雰囲気』に気が(ゆる)んだか。

 

 

どちらにせよ、重要なのは『これから』だ。

 

零れたミルクがコップに戻る事はないのだ。

 

本来なら『ユーディットから色()い返事をもらい、彼女を送り出すまでに取り消す』予定だった勅命(ちょくめい)も、そのまま発してしまったが、視野の広い彼女ならば『帝国で商売する以上仕方ない措置だ』と理解してくれるだろうし、悪感情は抱かないだろうと思うが……

 

 

改めてドライなアプローチをするべきだろうか。

 

……逆に、いっその事『側室』に?

 

ロクシーのような切れ者ではないとはいえ、そこらにいる馬鹿女とは違う、確かな実力を持った充分に魅力的な女性だ(かと言って、どこかの王女のような不気味さもない)……悪くないな。

 

『貴族だからと重視される時代は終わった』と示す広告塔としても強力……いや待て、それを考えると時期尚早(じきしょうそう)か?

 

 

 

……どうするべきか。

 





陛下それだけはマジやめてくださいユーディーさん死んでしまいます。死因はキュン死(トラウマ的な)
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