【完結】ユーディー(偽)のアトリエ──アーウィンタールの錬金術士(ハーメルン移植版) 作:ブドウ冷やしんす
禁輸騒動をキッカケに色々と…という話。
sideプルトン
「購入できないって、どういう事ですか!?」
漆黒の剣リーダー、ペテルが声を強める。
私としても気持ちは分かるため、努めて冷静に応えた。
「……帝国は彼女の作成物を輸出規制品に指定してしまった。組合としては手を出せない」
「な!? そんなの冒険者に対する政治介入じゃないですか!!」
「言いたい事は分かる。だが“
漆黒の剣から『ユーディット・フォルトーネの作成物は冒険者の活動を劇的に改善するはずなので、組合で販売委託を受けられないか』と申し出を受け、
「何とかならないんですか!? 組合長!!」
「………………少し、待ってほしい。可能な限り手を
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あれから3日ほど。
お客さんが急に減ったのは、輸出規制の事で警戒されたからみたい。
でもまぁ、あくまで国内で使いますよってお客さん達は戻って来てくれるはずだから、その人たちが『禁制品にされたわけじゃない』って理解してくれるまでは待つしかないかな……
なんて事を、南方から来たという商人から仕入れたサボテンでソーン
……このサボテン、帰化してくれないかなぁ。
さて、どうせ
ちょうど今日なら、たぶん下にいるはずだから。
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食堂に降りて来たあたしは、フォーサイトのみんなを見つけると
「ごめんアルシェ! 今、調合で手が離せないから小麦粉買って来てくれない!?」
「いいよ、任せて」
……アルシェの背を見送って『ごめんねー』と手を合わせる。
その様子に察したのかイミーナさんが、
「……どうしたの? なんか聞かれたくない話?」
「……いやぁ、何と言うか……皆さんアルシェの家の事情って何か聞いてます?」
あたしが言うと、みんなそろって複雑な表情。
ヘッケランさんが、
「あー、そういう事か……まぁな? 確かに俺らも気にはなってるけど、商売柄『余計な
ロバーさん、
「まず『悩み事』なんでしょうから、話してほしいのは山々なんですが……」
イミーナさん、
「ったく、水臭いのよね。一緒に死線をくぐって来たんだから、私らが引くような話なんて早々ないわよ」
なるほどー。本当は聞きたいけど『職業柄』かぁ……
こういう時こそ『友達』の出番ってわけね!
けど、フォーサイトのみんなにも打ち明けてない話かぁ……それには親密度を上げなきゃ、かなぁ。
親密度……うーん……そうだ!
デートしよう!!←ゲーム脳
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アリバイ作りの調合をしつつアルシェを待っていると、
「お待たせユーディー。小麦粉どこに置いておく?」
「おかえりアルシェ!……ほい完成っと! 小麦粉はそこに置いといて?」
手早く片付けるとアルシェに向き直り、
「突然だけどアルシェ、デートしよ!!」
アルシェは最初『ポカン』としたあとジワジワ顔を赤くして
「……ぇえええ!?!?」
見てて面白かった←
「ど、どぅしtっっ……な、なな、な、何を、言い出すのかしらユーディー」
いつも通りの落ち着いた風を
そんなに照れる事かなぁ。普通に友達付き合いでしょうに。
「友達なのに、いつも仕事ばっかりで一緒に買い物とかお散歩とかした事ないから、たまにどうかなぁって。ね、いいでしょ? デート! デート!」
「わかっ、分かったから連呼しないで!」
ぃよっし!!
これで嘘のお使いも突っ込まれずに済む!!(外道)
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「夕暮れの街並みキレイだねー」
「……そ、そうだね……」
あっちへブラブラこっちへフラフラ。
たまに屋台を冷やかしたり、服とかのショップを覗いたり……
それにしてもアルシェぎこちない……うーん、何故。
まだ開いてるカフェあるから、休憩がてらお茶でも……と、考えていたら
「ぇ、アルシェ!?」
後ろから声……誰?
振り返ったアルシェが驚くように言った。
「レーちゃん!?」
「あんたにまでレーちゃん呼びされる筋合いはなぁい!!」
ビシィッ! とアルシェを指差す、おデコが輝かしい同世代くらいの娘。
その姿勢のままプッと吹き出して言う。
「このやりとりも久しぶりね?」
「……うん、久しぶり」
友達かなぁ……でもなんだろ、アルシェは少し居心地悪そう。
「……ふーん、本当に冒険者になったのね」
上から下まで見て言った。
……冒険者……?
「ぅ、うん、そうなの」
「で、一緒にいるのは同じチームの人かしら」
「ううん、彼女は」
「初めまして! 錬金術士のユーディット・フォルトーネです! あなたもアルシェの友達?」
「……『も』……外でできた友達って事ね? 私はレティシア・フェンドルスよ。まぁ一応は貴族だから本当は洗礼名とか色々付いてるけど、長ったらしいから省略した方が覚えやすいでしょ?」
「あ! すみません馴れ馴れしくしてしまって」
……言っては何だけど、あんまり貴族らしく見えなくて気付かなかった。服装とか。お付きの人とかもいないし。
「いいのよ、気にしないで? どうせ落ちぶれ貴族だし、アルシェの友達ってんなら気にしないわ」
……貴族って言っても、色々な人がいるんだぁ。
そんな風に思ってるとレティシアさんは、
「けどまぁ、元気そうで安心したわ。いきなり学院やめて出て行っちゃうんだもの」
「え、学院をやめて?」
ちょっと驚いて口を
「そうよ? アルシェは魔法学院でトップクラスの……って、そんな事も話してないの?」
アルシェにジト目を送るレティシアさん。
「何にせよ、アルシェをよろしくねユーディットさん? 事情は知らないけど、
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「……私の家は、初めはそれなりの名家だった」
カフェで席に着いてコーヒーと、アルシェには紅茶を頼んで一息。
南方から輸入してるらしい。
アルシェは
「だけど、皇帝陛下の改革で取り潰された。お父様には陛下が認める水準の能力がなかった。言ってしまえば、それだけの事。でも、お父様は納得できなかったみたい。『まだフルト家は終わっていないと示すために必要な事だ』と言って、貴族のように振る舞ったし、貴族のような生活を続けた。そのために借金までして」
借金!?
そうか、アルシェの『事情』って……
「……本当は『現実逃避だ』って私も気付いてる。でも育ててもらった恩もあるし、昔のお父様は違った。だから、いつか気付いてくれると信じて、学院を自主退学して私が返済し始めた。友達には冒険者になると言って出て来たけど、帝国では冒険者の仕事は少なくて、ワーカーに……みんなには秘密にしてほしい。……心配かけたくないから」
「……アルシェ。アルシェのお父さんとお話がしたいの」
「え?………………って、なんでクラフト出してるの!?」
「アルシェは充分がんばったじゃない! ここらで目を覚ましてもらわないと!!」
「そんなの使ったら永眠しちゃうから!! 危ないから仕舞って!!」
「むー!!!」
腕(と帽子の羽根)をバタバタするあたし。
我慢ならなくて荒ぶってしまった。
クラフトにはトブの大森林で見つけた『はじけクルミ』というのを使ってみたの。
『クルミ』と言っても本当のクルミではないみたい。
普通のクルミは硬い殻まるごとが種だけど、はじけクルミは内側にガスが溜まって弾ける時に飛び出す小さな粒が種、硬い殻は果肉らしい。
間違えて食べようとする人がケガするんだとか。
ちなみに、フロジストンの代替素材が見つからないので、まだフラムは作れていない。
渋々クラフトを仕舞う。
「けど本当このままじゃダメだよ!……あ、そうだ! 家出しちゃおう! あたしんトコ来なよ!
「え!……ュ、ユーディーと……(ほ、本当にそうしたい……)……ぅぅ、けど、ごめん、無理だよ。妹達を見捨てられない!」
「妹ちゃんいるの!?」
「うん……二人」
「二人も!?」
アルシェを家から引き離したい、けど妹ちゃん二人……んがー! どうしろってのよ!?
………………そうだ!
「いい事思い付いた! ちょっと待ってて!」
あたしはポシェットからゼッテル(錬金釜に木材ぶっ込んでぐーるぐるしたらできた。帝国では羊皮紙ばっかりで高いんだもの……)を取り出し、書き始める。
「ユーディー、何を書いてるの?……えぇっと……
『 む す め た ち は あ ず か っ た 』
……ユーディー!?」
「アルシェ! 妹ちゃんたちをあたしの弟子にする!」
「…………………………………………へ?」
「だいじょーぶ! これでも売れっ子錬金術士よ! 子供二人の生活費なんてヘッチャラだし、授業料とかは出世払いでいいし、いくらでも待つ! で、アルシェはあたしの助手ね! これなら縁切っても問題ないでしょ!!」
「……ユーディー……」
「今、書き終わるから待って?『返してほしくば、自力で商売したカネで迎えに来い。ユーディット・フォルトーネ』っと!」
「……ありがとう、ユーディー……
………………けど『弟子にする』って手紙じゃないと人
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数日後。
結果から言うと、アルシェは両親と大喧嘩して出て来た。
『せっかくのチャンスをもらった。二人の将来のために連れて行く』と。
(それでも貯めていたお金は一応置いてきたらしい)
長年勤めてくれてた老執事さんが手引きしてくれたらしく、アルシェと両親がバトルしてる間に、妹ちゃんたちはあたしが確保。
ヘッケランさんが停めておいてくれた馬車でアルシェも連れて離脱。
その間にロバーさんが、昔の
……イミーナさん?
アルシェの両親が『衛兵ー!』とか騒いでも問題ないように、あらかじめ屋敷の前の通りを監視、巡回の兵士さんが近くに来た場合は『ヨソから来て道に迷った人』のフリして時間稼ぎ。
そう、アルシェはみんなに事情を話した。
その時の様子と言ったらもう……
『カチコミしてやる』と両親に怒ったり『水臭い』とアルシェが
全てが終わった後には、すでに貴族位を
手間とお金はかかったけど、友達のためだもん。
めでたし、めでたし。
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「……などという事があったようで」
sideジルクニフ
ロウネからの報告に口角が上がってしまう。
「なるほど、めでたい話だ。相応の教育は受けていて、姉は優秀な
姉の方は優秀なのだろう? と、爺に確認するように視線を向ける。
爺は
「しかし、アルシェがワーカーになっていたとは……『鷹がグリフォンを産む』などとは言いますが……何と言う
馬鹿な両親のせいで弟子が手元を離れたらしいと立腹だな。
「ケリが付いて良かったではないか。とはいえ、今一番の関心は彼女なのだろう?」
「それは勿論。かの天才との縁を多少なりとも繋いでくれるのですから、これはこれで悪くない結果でしょう」
「ロウネ、分籍に異議申し立てがあっても取り合わないよう『それとなく』指示しておけ」
「はっ」
これで、ただ放っておくだけで天才錬金術士の弟子も優秀な
いずれ再び勧誘するとしよう。
……そのようにほくそ笑んでいると、誰か、恐らくはロウネの部下が、取り次ぎを求めてきたらしく
「少し失礼します陛下」
ロウネが応じる。
……ロウネが小さく『何だと!』と驚く声。
何かあったか?
「……陛下、こちらを」
ロウネが何やら紙の束を渡してくる。
「……何だこれは!?」
それは王国各都市の冒険者組合から連名で届いた陳情書であった。
内容は『ユーディット・フォルトーネの作成物は冒険者の活動に必要な物であり、組合が扱う分だけでも輸出を認めて欲しい』というもの。
『認められない場合は冒険者に対する政治介入と見なして抗議する』だと!?
「これ全部が……王国の組合、全てか」
一体、誰が旗振りを……
「……陛下、今のところ王国の組合からのみの働きかけではありますが、他国の組合や、もし王国にまで援護を求められたら……」
「……『帝国は冒険者に政治介入する国だ』と吹聴されるという事か、クソが!」
……筆頭はエ・ランテルか。
やってくれたなアインザック!!
「………………『組合の責任において組合員に売却する場合のみ例外として委託販売を認める』と伝えろ。ただし『それ以外で所持が確認された場合は相応の賠償を求めるので……
……精々覚悟しておけ』ともな!!!」
つい陳情書の束をぶち
えぇい、忌々しい!!
「情報局の連中に予算と仕事をくれてやれ! 物流を追い、絶対に見逃すな!!」
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「毎度どうもー!」
なんとか少しずつ客足が戻ってきたわね。
アルシェの問題も解決できたし、心機一転ね!
「こんにちはー。ユーディット・フォルトーネさんね? お届け物です!」
見慣れない女性冒険者さんね。
モンスターとかが普通にいる世の中だから、手紙とか小包とかを届けるのは冒険者の仕事。
帝国での数少ない冒険者の仕事も、ほとんどは配達らしい。
スクロールケースから取り出して渡されたのは、リボンで巻いた……手紙、かなぁ。
「こんにちは。どちらから?」
「エ・ランテルから来ました、ブリタっていいます」
「……え、直接!?」
冒険者への直接依頼だと割高になるのに。
通常、郵便物は送り主が組合に持って行って、組合が各方面ごと仕分け、それぞれの行き先の『護衛依頼』に便乗させる形で宛先が近い組合まで運ばれて、そこからは
人件費(しかも組合員や
速達かぁ。誰だろう……
「サインお願いしまーす」
「はーい。送り主って誰です?」
「エ・ランテルのリイジー・バレアレさんです」
「リイジーさん!?」
あちゃー。例の件かなぁ……
あたしは国外には出られなくなっちゃったし、作成物も渡せないし、何て言って謝ろう……
レシピについては何も言われてないし、単純に素材サンプルくらいならセーフかなぁ……
何にせよ内容が内容だろうし、部屋に戻ってから読もうっと。
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部屋に戻ると、双子ちゃんはお昼寝中。
あたしの錬金術実演で、はしゃいでたから疲れちゃったかな。
三人と同居する事になって、急遽二段ベッドを購入。
どっちが上とか下とかでケンカしないかなぁと思ってたら、意外にもクーデちゃんは上の段で「高ぁい!」と喜び、ウレイちゃんは下の段が「隠れ家みたいで面白い」と気に入ったみたいで、好みはそれぞれなんだなぁと一安心。
で、あたしはアルシェにベッドを譲り、ソファーで寝る事に。
まぁ、倒れるギリギリまで調合してたりするからねぇ。
さて、手紙の内容は……
作業机に着いてリボンを解いて読んでみた。
……はぁ、要約すると『すでに状況は理解してるけど、あきらめきれないから
『必ず受け取りに行くから、一枚にまとめておいてほしい』?
……どうやって受け取りに来るんだろう。
まぁリイジーさんの熱意に免じて、レシピだけなら大丈夫だろうし、書いてだけおくか。
ん、何々、『うまく受け渡しできるかも分からない物のために高い羊皮紙を使わせるのは申し訳ないから、この手紙の裏でも使っておくれ』?
今さら羊皮紙一枚ケチりたいと思うほど困ってはいないけど、本人がそんなので良いって言うなら、そうさせてもらおうかな。
どれどれ、ペラリ。
……リイジーさん、裏表を間違えて手紙書いたのかなぁ。裏に縁取りみたいな細かい模様があるんだけど。
まぁいいや。カキコカキコ……
《少女書込中…》
……よし、こんなもんかな。
あとは……サインっているのかなぁ? うーん……
と、ドアを開ける音。
「ただいまユーディー」
頼んでたお使いからアルシェが帰って来たみたいね。
「あ、おかえりアルシェ!」
振り返って手を上げた。
「……ユーディー、今の何?」
「へ? 今のって?」
「机の上で何か魔法が発動したみたいだったけど、大丈夫? 邪魔したんじゃなければ良いけど」
「………………机の上?」
机に向き直ると、リイジーさんの手紙が消えていた。
「……あれ? 手紙がない!?」
「手紙?」
「リイジーさんから! 受け取りに行くから
するとアルシェは顔色を悪くして、
「……ユーディー、それ、
「……すく……何?」
「自動的に相手の所へ転移する手紙。
「………………ぇえ!? そんなのあるの!?」
知らないアイテムこわいぃ!!
「しかもレシピを教えるなんて、皇帝陛下に知られたら大変だよ……」
「え!? レシピもダメなの!?」
「普通に考えたらそうだよ!?」
「……そうなの?」
あたしの返答に、アルシェは頭を抱えて
「……ユーディーは自分が周りからどれだけ注視されてるのか自覚した方が良い」
「………………あたし注目されてるの?……つまり、えっと……商売繁盛?」
「……(ダメだ、私がしっかりユーディーを守らなきゃ)……」
「え? 何か言った?」
「……ううん、何でも。……リイジー・バレアレも知られたくないだろうから、バラしたりはしないとは思う。今回の事は誰にも秘密。良い?」
ギリギリセェェェフ! そうか危なかった!
良かったぁ……さすがに変な汗が……
「わかった! なかった事に、だね!」
「……(はぁぁぁ……もぅ)……これからは、何か妙な話があったら先に相談して。ユーディーを騙そうとする人も増えるかも知れないから」
「……ぅぅ、なんかゴメンね? あたし、こっちじゃ世間知らずなんだね……」
意外と知らない事が多いっていうか、異世界なんだし当たり前かぁ……
アルシェが困ったように微笑みかける。
「……一緒に頑張ろうね、ユーディー」
「……うん!」
ヤバい、アルシェが天使に見える。
優しさが
色々なオバロ二次は数ある中、リイジーさんにレシピを騙し取られる主人公ってあまりいないと思うの()