最終編第三章の内容も含んでいますので、ご了承の上、お読みください
ミレニアムサイエンススクールの一角、エンジニア部室。そこは、正しく戦場だった。
「【アーポロー】の動力システム、オールグリーン!」
「次は【アルテーミス】の確認だ!急いで!!」
「何かネジが落っこちてきたんだけど!何処のやつ!?」
「ごめんここのやつ!上に投げて!!」
「またカイテンジャーが犯行声明出してる」
「見とる場合かぁー!!!」
液晶画面の明かりが唯一の頼りである室内は、配線に気づかず躓き、転んでしまいそうなくらいに薄暗い。しかし、相反して人の動きは忙しなく、これより開始する特殊作戦に、如何に力を注いでいるかが伺えた。
「緊張してきた…上手く動かせるかな」
「安心してください、ミドリ。アリス達は
「そうそう!ホド?とかいうやつだって、多分楽勝だよ!」
「本当かなぁ…」
そんな中、中央のメインモニター前で会話を交わす者が三人。いずれも、ゲーム開発部に所属する生徒だ。
此度の特殊作戦において、重要な役割を担う彼女らの様子は、各々で違った
天童アリスは、これから起こる出来事に胸を弾ませ、才羽モモイは、既に帰還後の打ち上げを何処でするかに思いを巡らせ、才羽ミドリは、そんな二人が少し楽観的過ぎではないかと不安を抱く。
ある意味で、いつも通りな光景。異なるのは、リーダーである部長の欠如や、制服でなく、パイロットスーツを着用しているくらいか。
「皆、準備は良さそうだね」
「あっ、ウタハ先輩。どうでしょうか。ユズちゃんの機体はできましたか?」
「それなんだが、すまない。彼女の操縦技術に応えられる機体の設計に手間取ってしまって、まだ完成してないんだ。エンジニア部の名誉にかけて、作戦中には必ず間に合わせるが…」
いや、そもそも納期に遅れた時点で、エンジニア部の名誉も何もないか。肩を落とし、無念の表情でそう呟いたウタハを、ゲーム開発部は全力で慰めた。
「そんな事はありません!ウタハ先輩達は、アリス達がラスボスの討伐クエストに挑むのに、相応しい武器を用意してくれました!」
「そうです!ユズちゃんが間に合わなかったのは、確かに不安ですが。エンジニア部が作った機体はとても強力です。私達がちゃんと操縦できさえすれば、三人でもきっと作戦は達成できます」
「なんならパ〜フェクトにクリアしちゃうかもね!だから、安心して!ウタハ先輩!」
「…ありがとう。そう言ってくれると、部員達も浮かばれるよ」
可愛い後輩の真っ直ぐな言葉に、ウタハの顔に落ちた影が、目元の隈も霞む笑みへと移ろう。
事実、エンジニア部の開発した
「っと、そろそろ時間だ。遅れてはいけないからね。各自、専用機に搭乗してくれ。ここからは、ヴェリタスが指示を引き継ぐ」
「「「
気合いの入った返事を皮切りに三人は散開し、背後にて佇む巨大なMSSへと走っていく。けれど、アリスは途中で思い出した風に踵を返し、ウタハの下へと戻った。
「ウタハ先輩。あの装備も、準備しておいてください」
「…
アリスの搭乗する機体。"ヤーヌス"が装着するもう一つの装備の使用に、ウタハは難色を示す。
Extinguish-Life unit。通称、Ex-lは、ただ装着するだけでは意味がない。アリスが有する、もう一つの側面を呼び覚ます必要があるのだ。
確かに、Ex-l装着時の"ヤーヌス"の性能には、目を見張るものがある。だが、孕むリスクも到底無視できず、暴走の可能性だって否めない。
万が一に、第三勢力として"ヤーヌス"が戦場に君臨すれば、作戦は間違いなく崩壊するだろう。
「問題ありません。だって、アリスのメインジョブは、
けれども、彼女は勇者である。
意表を突かれたように目を見開き、そして優柔に細めたウタハは、それに、と更なる説得を試みようとしたらアリスを制し、了承した。
「そうだったね。分かった。戦闘予定区域の付近に待機させておこう。ただし、Ex-lを使うのは、本当に追い込まれた時だけだ。約束してくれるね?アリス」
「はい!ありがとうございます、ウタハ先輩!」
「礼はいらないよ。さぁ、行っておいで」
笑顔で手を振るアリスに手を振り返し、やがて彼女が搭乗した機体が、地下のカタパルトへと下降していくのを見届けたウタハは、瞼を閉じ、深く呼吸する。
「…さて、ヒビキ、コトリ」
「
「私達も、戦うとしよう」
数秒の沈黙の後、再び世界を映した紫色の瞳は凛としていながらも、その深奥には、不沈の炎を宿していた。
「行くよ」
「
『手順通り、ここから先は私達、ヴェリタスがオペに就くよ。まず最初に作戦内容の確認をしたいんだけど、問題はない?」
『ないよ!』
大型エレベーターによって三人のMSSが輸送される最中、コックピットの画面の端に、二頭身にデフォルメされたチヒロが姿を現す。
彼女の問いかけに、アリスとミドリも首肯すると、画面を埋め尽くす程の画像やテキストが送信された。
『本作戦の目標は、ミレニアム近郊に出現したデカグラマトンの一体、ホドの破壊です。また、前回とは異なり、今回の出現地域の周辺には防衛施設に加え、軍需工場も存在している為、侵食されたドローンやオートマタ等も多数配置されています』
『数は大小合わせて五百体くらいかな!映ってないのも含めると、千体以上いるかも!』
「千体以上…多いですね」
支援用ドローンから、戦車まで。多種多様な兵器が地を闊歩し、空を翳らせる景色は壮観である。ある画像のビルの窓際には、スナイパーらしきオートマタの姿も視認できる事から、意識外からの攻撃にも注意する必要がありそうだ。
MSSに乗っているのでそう危険度は高くないが、だからといって無視できる量ではない。辟易するミドリに、ハレは追い打ちをかけた。
『工場が抑えられている限り、実質的には無限だよ。だから、生産設備の破壊に向かってるC&Cに、注意が向かないように動いて』
『ヘイトを集める…つまりタンクですね!』
『ちょっと違うような気もするけど、取り敢えず、陽動の役割もあると分かってくれれば大丈夫。最初の一撃でホドを破壊できれば、それに越したことはないけどね』
出現地域から行軍しようとするオートマタは、ヴァルキューレ警察学校の増援や、アビ・エシェフを装着したトキ達が対応しているという旨の説明も終わると、丁度エレベーターも停止し、カタパルトでの発進準備が進行し始めた。
出口へと波打つ矢印の光によって照らされた、近未来的な外装のトンネル。これを抜け、先に待ち受ける戦いはきっと過酷なものだろうと、三人は直感する。
『さて、最後は天才病弱美少女ハッカーにして、ヴェリタスの部長たる私の言葉で締めましょうか』
『…その前置き、いる?』
『愚問ですね、エイミ。いるに決まっています』
緊張が走ったパイロット達に、立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花(自称)なヴェリタスの部長、明星ヒマリが語りかける。
和泉元エイミのツッコミにも怯まず、得意げな面持ちで断じた彼女は、咳払いと共に表情を切り替え、真剣な態度で後輩に接した。
『アリス。モモイ。ミドリ。貴方達はシュミレーションで、実戦にも通用する水準の操縦技術を会得しています。この私が保証しましょう。ですから、不安がる事はありません』
「…」
『特にミドリ。謙虚は美徳ではありますが、自分を卑下し過ぎてもいけませんよ。貴方なら、立派に作戦をやり遂げるでしょう』
「あ、ありがとうございます」
小さく礼をしたミドリに頰を緩ませつつ、ヒマリは慈しみのこもった声を奏でる。
『お分かりとは思いますが、帰還するまでが作戦です。ちゃんと三人揃って、帰って来てくださいね』
「「「
元気いっぱいな返事を聞き届け、満足したヒマリは、自らの席をチヒロへと譲った。
『各機スタンバイ。ハッチ開放、カタパルトの推力正常値、行路クリア、地上に不審物なし…発進準備、完了。いつでも行けるよ!』
『じゃあ皆!頑張ってね!』
「任せて!Sランク評価でクリアしちゃうから!」
コックピット内に重くのしかかる機械の稼働音にも負けず、モモイがマキヘサムズアップし、そして先陣を切った。
「才羽モモイ!【アーポロー】!!』
彼女の呼び声に、黄金の機体が呼応する。
桃の瞳が灯った頭部の頂には、葉でできたような形状の冠を載せ、打撃を想定し強化された拳には、セミオート式のショットガンを把持。機動力の向上を図るべく増設された背部のブースターは、パイプオルガン宛らにずらりと並び、機体を乗せた大型フライトユニット、【ヘーリオス】は、今か今かと空を舞う時を待ち望んでいる。
「才羽ミドリ、【アルテーミス】!」
続くミドリに、銀灰の機体が共鳴する。
新緑の瞳が明度を上げた頭部の頂には、三日月の如きカーブを描く一角が立ち昇り、グレネードが装填された腕部には、長方形のマズルブレーキが付属した大型のライフルを保持。後方支援能力を高めるべく背部に搭載された二機の多連装ミサイルユニット、及びカノン砲は、狩猟の女神の威厳を沈黙を以て為し、その両脇は鎮座する自律思考型オートマタ、【へーカーテー】と【セーレーネー】で固められている。
「天童アリス、【ヤーヌスEx-s】!!」
トリを飾るアリスの名乗りに、蒼と白を基調とした機体のラインが水色を発した。
深い青の瞳が光を放った頭部には、ツイン・アイをより明確に区切る縦線が刻まれており、腰部に水平に装備されたヤーヌス用の光の剣:スーパーノヴァ Special editionの反動を抑えるべく、特に腕部や肩部は他の機体よりも巨大化。また、射撃戦を重視した装備、
「「「
起動した三機を、カタパルトが唸りを上げて射出する。
彼女らが飛んだ世界には、どこまでも行けそうなぐらいに澄み渡る空が広がっていて。
『…ふふっ。行ってらっしゃい。私の可愛い後輩達』
遥かなる冒険の門出には、ピッタリだった。