カラカラと転がった路傍の小石が、大型のオートマタによって踏み潰された。
インベイドピラーの侵食を受け、人類に牙を剥く軍需工場から産み落とされた無数の兵器達が、地にて蠢き、空を占める。通常の生徒であれば絶句し、脇目も振らず逃げ出す恐怖を具現化した展望は、されど一瞬の内に崩れていった。
『!?』
雨の如く降り注いだミサイルが、大通りを征く戦車を穿ち、高所を陣取るヘリを墜とす。突然の奇襲に反応が鈍いオートマタ達を、更に榴散弾が襲った。
戦場にぽっかりと空いた大穴を見逃さず【アーポロー】が着地し、ついでに近くにいた大型オートマタを蹴り飛ばす。寸前まで搭乗していた【へーリオス】も機銃を回転させて雑魚を一掃すると、【アーポロー】を再び乗せてビルの間を縫い宙を滑って行く。
「ん〜爽快!無双ゲーみたいだよ!」
「油断しないでお姉ちゃん!反応が近くなって来た!」
【アーポロー】と一定の距離を保って移動する【アルテーミス】のレーダーは、既に目標を捉えている。
機体にダメージを与え得る存在を、フライトモードに移行した"ヘーカーテー"と"セーレーネー"と共に優先して撃破しつつ、奥地へと潜り込む彼女の横腹を、それは狙った。
「っ、もういるよ!お姉ちゃん!」
寸前のバックブーストで難を逃れた【アルテーミス】は、傍に連れる二体と一緒に、クローでビルごと自身を貫こうとした触手を迎撃する。
一端に痛覚を持ったように揺れて触手が下がると同時に、【アーポロー】が本体を視認した。
複雑怪奇に空中廻廊が入り乱れる防衛施設。その中心を玉座とする預言者が一体、ホドを。
「こら!私の妹に手を出すなんて、百億万年は早いよ!【へーリオス】!!」
呼びかけに応えた【へーリオス】が、蒼炎をはためかせ、ホドへと突撃する。
当然、安直な猛進をはたき落とさんとするホドだったが、何故か触手は寸前で避けられ、空を切るばかりに終わった。
『
「すごい!ヒマリ先輩!この【アーポロー】すごいよぉ!"流石アルテーミス"のお兄ちゃん!!」
『ふふっ。そうでしょうそうでしょう。何せ私は天才ですから』
『(ジト目)』
淡く発光する月桂樹の冠の導きのままに【アーポロー】は【へーリオス】を駆り、上下左右へとクローを避け、遂にホドへと肉薄する。
すれ違う瞬間、ホドの頭部へとショットガンをばら撒きつつ跳ね、着地した【アーポロー】.は、ショットガンを腰部のハンガーへと雑に引っ掛け、己が拳を握り締め、撃った。
「とりゃぁ!!」
『…!?』
加速装置の噴射により、重みを増した鉄拳がホドの頭部を揺らし、凹ませる。
「とりゃとりゃとりゃとりゃとりゃとりゃとりゃとりゃ!!!」
『!!』
まるで流星のような拳の雨に怒りを燃やし、何としてでも振り落とさんと全ての触手が【アーポロー】へ狙いを定める。
「とぉぉりゃぁぁ!!!」
『…!!?』
最後に飛びきり痛い一撃を叩き込み、戻って来た【へーリオス】に乗って素早く離脱する【アーポロー】が寸前まで立っていた座標を、無数の触手が串刺し、榴弾で諸共に爆撃された。
下手人は勿論【アルテーミス】。二段の折りたたみ式銃架を畳み、肩から銃口を覗かせていたカノン砲を格納すると併せて、二機の専用オートマタとアーポローのいるホドの背後へ回った彼女は、侵食された機械兵の攻撃に対して冷静に対処する。
「【セーレーネー】」
名を呼ばれたのは、満月を彷彿とさせる色合いのオートマタ。マシンガンを仕舞い【アルテーミス】の前へと羽ばたいた彼女は、突き出した両腕の先から輝きに満ち溢れたバリアを展開し、銃弾を防ぐ。
「【ヘーカーテー】」
もう一方の新月に似て暗いオートマタは、両腕をパカっと開いて内部の電子装置を曝け出すと、先端を無差別に機械兵へ向け、特殊な信号を発信する。
ケセドとは異なり、インベイドピラーを通じた間接的且つ簡易的な制御下にあって、セキュリティに多少の隙がある機械兵らは、"ヘーカーテー"が散布する電子の病原体の侵入を許すと、一時的に制御権を失効。映画に出てくるゾンビを模した緩慢な動きで、味方を攻撃し始めた。
『…!!』
良いように捌かれた挙句、配下も
しかし、理性的とは言い難い攻撃は単調で、軌道も予測が容易い。【アーポロー】は【へーリオス】により上昇し、【アルテーミス】は下がって難なく回避すると、モノアイで睨みつけてくるホドを煽るかの如く、ふわふわと飛び回りながら射撃を再開した。
「この辺り?」
『そう!そこだよっ!』
【へーリオス】に備え付けてあるバズーカを片手に、空中廻廊を縫うように飛ぶモモイが、マキに問う。
『そこが一番!』
『光の剣が直撃しやすい角度です!』
「アリスちゃん!」
マキの言葉をコタマが繋ぎ、好機到来を理解したミドリが、這い寄る触手に弾を送る最中で三機目へと合図する。
視線を釘付けたホドの後方。遍くを照らす陽光に身を隠していた【ヤーヌスEx-s】は、収束が完了したスーパーノヴァの力を解放し、青の巨剣を大敵へと振り下ろした。
「魔力充填、100%…光よ!!!」
クロノススクールの三つのカメラが捉えた極太のビームが、余波でビルを削り、機械兵を吹っ飛ばしながらも直進する。
まともに食らえば消滅しかねない威力を誇る破壊の権化に、ホドは自らの証明を以て対抗した。
『っ!?ホドから高エネルギー反応を検知!!』
『なっ』
チャージが早すぎる。その発言は、直後のあり得ざる栄光の輝きによって掻き消された。
頭部を挟む吸気口で大気を取り込んだ、ホドのモノアイが一際灯る。視界に映る者全てを、世界から滅さんと。意志の強度を可視化した光は、質量を伴って青の巨剣と衝突した。
「くっ…!」
「頑張ってアリス!」
「負けないで!アリスちゃん!!」
戦場を支配する閃光。あまりの眩さに閉じたくなる瞼を開ければ、そこには膨大なエネルギーの奔流が拮抗する光景があった。
わずかな間に押し引きを絶え間なく反復する双方の力は、やがてホドに軍配が上がり、青の巨剣は徐々に押し戻されていく。
「負けませんっ、仲間の為にも…!」
しかし、偉大なる太陽を背にする巨躯のMSSは怯まない。
仲間の為にも、この刃を届かせてみせると。【ヤーヌスEx-s】は、一層剣に力を込め。
「アリスはっ、勝ちます!!」
栄光の輝きを、打ち破った。
『…!?』
勢いを増した青の巨剣が、玉座へと突き刺さる。
栄光の輝きによって軌道を逸らされたせいで致命傷には至ってはいないものの、ホドの右側頭部は激しく損壊し、幾つかの触手も焼け落ちた。大打撃には違いなく、戦闘を優位に進められるだろうと誰もが思考したのと同時刻に、更なる朗報が届く。
『ホドのエネルギーが基準値以下にまで低下!?部長!これって!』
『恐らく、先の攻撃の反動でしょう。通常はチャージが必要なものを無理に撃ったのですから、内部の機関などに相当な負担を強いた筈です。今が攻め時かと』
「よーし、ミドリ!アリス!一気に決めちゃうよ!」
「はい!」
「うん!」
繰り出すクローには覇気がなく、火器の照準もブレブレ。如何にもなホドのパワーダウンにつけ込み、三機は地上の敵を無視して惜しみなく武装を回した。
「雷ちゃん MarkⅤ、展開します!」
重厚なリアスカートの裏側から拡散したのは、八機の小型ドローン。ウタハの用いる電ちゃんの面影を感じさせる形状のそれは、【ヤーヌスEx-s】の周囲を縦の円状に囲むと、同機の放つ背部ビームカノンや大腿部ビームキャノンと一緒に、ホドの装甲を虫が食む風に削っていく。
「
脚部が縦に割れ、ケンタウロス染みた姿へと変形した【アルテーミス】が、【ヤーヌスEx-s】を叩き落とさんとする触手をカノン砲で迎撃し、機銃を向けるヘリや大型オートマタを撃ち抜く。
飛行に意識を割かない分集中した一手一手は、正確に標的に命中し、回避を許さない。
「アーポロー…!」
ダメージソースである【ヤーヌスEx-s】を止めようにも、【アルテーミス】に阻まれて思うようにいかないホドに、'【アーポロー】が接近する。
【へーリオス】を離れ、スライディングで火花を散らしつつも空中廻廊をすり抜け、虚空へと身を踊らせた【アーポロー】は、背部のブースターで須臾の間に距離を詰めると、ホドの胸部めがけて灼熱を纏う右拳を繰り出す。
「フィンガー!!!」
『!?』
不意を突いた貫手に、ホドが体を捩らせる。
分厚い装甲をバターみたく溶かして侵入した拳は、されどそこで終わらず、ホドの内部にて自らのエネルギーを放出した。
「ソーラー、エンドっ!!!」
周辺に轟く大爆発。ホドの胸部は抉られ、一方吹き飛ばされた【アーポロー】はといえば設計通りの自爆耐性で軽傷で済み、【へーリオス】に受け止められた。
「ちょっとお姉ちゃん!いくら弱ってるとはいえ危なくない!?」
「大丈夫大丈夫!もう攻撃パターンも見切ったから!」
黒煙に機体色が燻んだ【アーポロー】を乗り回すモモイは、常日頃と変わらない明るさと自信を以て力強く宣言する。
そんな彼女の様子で再び不安に襲われたミドリは、懐疑的になるも、客観的に戦況を分析しても有利であると判断し、口を噤んだ。
「私、帰ったら打ち上げでネアポロアスのピッツァを食べるんだ…」
「アリスは新型のコントローラーを買いたいです!」
『二人共。そういう話は倒してからね』
順調にフラグを立てていくアリスとモモイ。二人を咎め、そして若干ミドリに同情するハレや、背後のマキ達ですら、そう遠くない内に倒せるだろうと踏んでいた。
しかし、彼女達は一つ、重要な事を失念している事に気づかない。
それこそ王道なゲームには付き物な、あの存在を。
物語を覆す、お約束という名の試練を。
「あれ。ひょっとして、今」
数分後の戦場で、現実を正しく認識し始めたモモイが呟く。
「ちょっとピンチ…?」
「お姉ちゃんがあんな事言うから…」
「言っただけじゃん!?」
三機の火力に晒されて尚ホドは健在で、後回しにしていたオートマタは気の遠くなる数へと増殖していた。
順当に進めば、破壊できる。そんな予測を打ち壊したのは、ホドを取り囲む支援ドローンの存在だ。
「ボスが回復していきます!間違いありません、クソゲーです!!」
「うわーん!もう少しで倒せそうなのにー!!」
ドローンの照射する光を受けたホドの傷は、時間が巻き戻っていくように修復されていき、最後には何事もなかったかの如く完全な状態へと回帰する。
スーパーノヴァや、アーポローフィンガーの痕の修復は意地でも阻止している為、勝機が絶えた訳ではない。だが、ダメージと回復の均衡が釣り合っている今、不利を抱えているのはホドではない。MSSの弾薬や動力に限界があるモモイ達であった。
「それにしたって、敵の数が多い。デカいやつ以外は無視してたけど、だからってここまで増える…?」
『その事なんだけど、今C&Cから通信が来た!どうならホドは、工場が自壊する速度で稼働させてるみたい!』
「えぇ!?そんなのあり!?」
未来を見据えた不確実な生存より、この時を踏み締めるべく確実な生存を選択したホドは、明らかにMSSを攻撃するよりも、防御を優先する遅滞戦術へと移行。脅威となる弾だけを的確に避け、軽いダメージは甘んじて受けるかの者の堅牢さは中々に手強く、打ち崩せないまま追い込まれていく状況は、徐々に三機を焦らせていく。
「っ、このままでは…!」
脳裏を過ぎる
『最後の一機の出撃はまだなの!?』
『現在最終チェック段階だそうです!予想ではあと三分と!』
『ふむ…おや?この反応は』
全てのシュミレーションに置いて、満点を叩きつけたエースは未だ不在。到着するまでの時間稼ぎをするにしても、その間に誰かが撃墜される可能性は否定しきれず、更に、最初の一機を発端に、撃墜の連鎖も考えられる。
通信も脳内もこんがらがり、現実と想像が混交する三人を、巨影が呑み込んだ。
「これ、は…?」
徐々に小さく、存在を濃くしていく影は、遂に大地へと足を着けた。
巻き上がった砂埃を切り裂く、ツイン・アイの眼光。始めに、海老が乗っかった桃色の右腕が露わとなり、次いで穴子がくっついた左足、カリフォルニアロールの盾を装備した左腕、卵を装着した右脚が一つずつ自らを明瞭にすると、一歩前に出て最後の砦を隠すベールを脱ぎ去り、寿司職人を彷彿とさせる鉢巻を巻いた頭部を披露した。
「カイテンジャーの、KAITEN FX MK.0…?でも、前見た時と少し違う」
「もしかして、助けに来てくれたの!?」
背部に配置されたトビウオの胸ビレ的なウイングや、同じく背部から伸びるタスマニアキングクラブ風のシザー型サブアームという異物こそあるものの、元より特徴的な外観は、パイロット達と機体名をすぐさま特定させた。
スタンプラリー並みの軽さで重罪を集めて回る、絶賛指名手配中な正義のヒーロー、無限回転寿司戦隊カイテンジャーと、KAITEN FX MK.0。突如として顕現した彼女らは、右腕部のSUPER 海老マシンガンを開放し、その砲身を回した。
『っ!違います、避けてください!』
ホドのクローを回避して間もない、【ヤーヌスEx-s】へと。
「きゃっ!?」
獲物へと飛びかかる無数の銃弾が、【ヤーヌスEx-s】の装甲を食い千切り、体勢をぐらつかせる。
第三者が少なくとも敵の敵だと認識したホドは、その好機を逃さない。空に翳したしなる触手で、【ヤーヌスEx-s】を叩き落とした。
『「アリス!?」』
「アリスちゃん!?」
焦り救援に向かおうとするモモイとミドリの行手を、ホドの触手が阻む。
大ダメージを食らった上、地上を埋め尽くすオートマタの海へと消えてしまったアリスを助けたいが、ホドの横槍が邪魔で行けない。そうした状況の元凶であるKAITEN FX MK.0から、笑い声が響く。
「ふははは!助けに来たとは笑わせてくれる!」
「なっ!?」
挑発に乗ろうとしたモモイをミドリが止め、手を引いてホドの触手をすんでで回避する。
空を切り風を鳴らす攻撃が眼前を通り過ぎ、一旦冷静になったモモイは、それでも収まらない怒りを問いという形でぶつけた。
「じ、じゃあ、なんで邪魔するのさ!?」
「ふっ、良いだろう。笑わせてもらった礼だ。我々の目的を聞かせてやろうではないか!」
『…いいえ。貴方が言うまでもありません』
高揚しているらしいレッドの言葉を、ヒマリが遮る。
常日頃の穏やかで悪戯好きな態度を消し、感情が読めない瞳をした彼女は、ズバリカイテンジャーの目的を言い当てた。
『
「…当たりだ。中々、鋭い者がいるな!」
「だとしても関係ない。レッド!残る二機を倒して、機体を回収するぞ!」
「ああ!回り続けるレールはやがて…正義の未来へと繋がる!無限回転寿司戦隊・カイテンジャー、行くぞ!」
「「「「応!!」」」」
正義とは何かと小一時間詰問したくなるような台詞だが、モモイ達にそんな暇は毛頭ない。むしろ、喉を震わす手間すら惜しく、波寄KAITEN FX MK.0やホド、そしてオートマタの軍団に、各々のMSSの操縦に意識を傾注せざるを得なかった。
「くぅぅ…!」
急速降下し、地面スレスレで持ち直してヘリの誘導ミサイルを振り払った【アーポロー】が乗る【へーリオス】に、ホドのクローが追い縋る。反射的に右へと傾けたお陰か、被害は側面を擦るに留まったものの、【アーポロー】は得意のレンジから遠ざかるばかりで、攻勢に転じる余裕は全くなかった。
「全然、離させてくれない…!」
「ハッハッハ!どうした、この程度か?」
「せめて、苦し紛れでつけたようなサブアームとかがなければ…」
「ああ、そこに関してはどうか触れないでくれ。
『メターい!?』
一方【アルテーミス】はというと、こちらは何処からともなく落ちてきた剣で武装する、KAITEN FX MK.0に絡まれている。
後方からの砲撃支援をコンセプトとしている【アルテーミス】は、近接戦の間合いで真価を発揮できない。ウイングにより高機動を実現したKAITEN FX MK.0はそこを利用して、高火力且つ盾にも転用できるサブアームなどを用いてとにかくしつこく付き纏い、本来の役割を実行不可能にさせていた。
「…え?」
最早これまでと思える窮地。されどそれは、何も悪い事だけを意味する訳でもない。
天啓と解釈できれば、エリクサーの適切な活用場面と感じられれば。ピンチはチャンスとも言うように、八方塞がりな今は打破し得る。
して、勇者はしがみつく迷いを振り払い、そのようにした。
「!!」
鬼札を切る、決断を済ませた。
「アリスちゃん!?」
「なっ、貴様!?まだ意識があったのか!」
オートマタの軍団が形作る海から、【ヤーヌスEx-s】が飛び出る。
あちこちの損傷が目立ち、特に右腕に至っては繋がっているだけと形容するのが正しい有様だというのに。力強く飛翔した【ヤーヌスEx-s】はハッチを開くと、残ったミサイルの全てをKAITEN FX MK.0へと射出し、叫ぶ。
「モモイ!ミドリ!ホドは頼みます!!」
「え!?」
「アリスちゃんはどうするの!?」
「私は、カイテンジャーを倒しますっ!!」
例えパーティーが離れ離れになっても、二人ならきっと大丈夫だろうと。ゲーム界に名を馳せる我らがリーダーが来るまで耐えれば、必ず勝てるだろうと。
理論的ではない絶対的な自信から発するアリスの言葉を、しかし二人は信用し、積極的に承諾した。
「ははっ、その意気や良し!相手してやぐぁぁ!!?」
たかが誘導ミサイルと侮り、最小限の動作で躱そうとしたKAITEN FX MK.0の油断を、ミサイルドローンが爆撃する。
馬鹿な、確かに避けた筈とイエローが上げた驚愕の声は【アルテーミス】の蹴りで揉み消され、明確な隙を晒したKAITEN FX MK.0に巡航形態へと移行した【ヤーヌスEx-s】が強襲し、衝突したままに推力を上昇させた。
「アリスちゃん!私達も頑張るから!」
「そっちも負けないでよ!もし負けたら壺ゲーの刑だからね!!」
「…はいっ!!!」
後に取材を受けたヴァルキューレ警察学校の生徒が、スイカバーを食べながら勇敢な突撃だったと語るそれは、KAITEN FX MK.0を驚異的な速度で連れ去っていく。
しかし、敵が抵抗なしに許す訳もない。サブアームや頭突きを無防備に受ける【ヤーヌスEx-s】の武装は破損し、装甲は砕けていく。
激しい損傷に耐える【ヤーヌスEx-s】だったが、遂に組んだ両腕の振り下ろしによって、ホドが見えなくなった彼方の場所で限界を迎えた。
「くっ!」
ショッピングモールを突き抜け、【ヤーヌスEx-s】が残骸に埋もれる。
悠然と地上に降り立ったKAITEN FX MK.0は暫し静観し、何も起こらないと見るや否や、【ヤーヌスEx-s】を回収せんと動く。が、刹那、前方から重くのしかかってきたプレッシャーに、足を止めた。
「…!」
コンクリートの塊を除け、大破寸前の【ヤーヌスEx-s】が這う這うといった様で、けれど勇ましく二本足を伸ばす。
「…ヒマリ先輩。アレを使います」
『ええ、良いでしょう。チーちゃん、アリスは私とエイミが担当しますので、貴方は後輩と一緒に二人に付いてください』
『…了解。あんまり無理はさせないであげてよ』
「勿論です」
誰もが勝敗を予見できる形勢でありながらも、スーパーノヴァを固く握り締める佇まいは、さも手負いの獣が牙をチラつかせるかにも取れ、KAITEN FX MK.0の行動を許容しない。
そうして、無限にも思える時間が二人の間に流れ…二本のビームが、停滞を破った。
「何!?」
攻撃の主は、赤と漆黒を基調とした戦闘機だ。しかし、【ヤーヌスEx-s】とは異なり、二つ並んだ三角錐型の巨大ブースターや、そこから生えたサブアームが開閉する三本爪、恐竜くさい尻尾を持つ戦闘機は紛れもなく異形で、勇者にはまるで似合わない外観をしている。
要請に応じ、馳せ参じた
「Extreme-Shiny unit、パージ。Extinguish-Life unitへと換装…」
接続を切った背部のオプションと四肢が合体して戦闘機になるとその場を離れ、代わりに空中分解したEx-l装備が、欠損した部位を満たしていく。
脚部は、人からかけ離れた逆間接型へと変貌し、腕部には、胴体から間隔の空く長い肩で、刺々しい双剣を握った黒腕が接続。外套を捨てた背部には禍々しい大型ブースターが背負われ、サブアームが翼を広げる直下には、太く鋭い尾が連結した。
換装を完了した【ヤーヌスEx-l】は、重量に引かれるがままに落下し着地すると、衝撃で跳ね上がった建物の残骸の内側で、最後のピースを嵌めた。
「
『不明なAIが接続されました。システムに深刻な障害が発生しています。直ちに使用を停止してください』
システムの起動により、何かが空回りする超高音と共に顔が真っ二つに割れ、露出したバイザーと、機体を駆け巡るラインが真紅に輝く。
「今、この瞬間だけでも構いません…だからっ、力を貸してください!」
最早その風貌は勇者に非ず。【ヤーヌスEx-l】が象る姿は。
「ケイっ!!!」
[…承知しました]
魔王、そのものであった。