青白く光る矢が大気を割く。真っ直ぐこちらへと迫るそれは私の命など簡単に奪ってしまうはずなのに不思議と恐怖を感じなかった。
「ドッペル!」
しかし、
(すごい……)
目の前で弾ける火花を見ながらその光景に息を呑んだ。矢の推進力が凄まじいのか、弾かれることなく、ドッペルの剣と拮抗し続けている。あれだけ私を苦しめたドッペルの身体能力を以てしても弾けない――いや、ドッペルの体が少しずつ後ろに押されていた。
「対抗するな、受け流せ!」
「今度こそ――」
「――駄目だ、まだ終わってねぇ!!」
矢を弾いた流れで私へと剣を振るおうとしたドッペルだったが、
「そのまま前に軌道をずらせ!」
「ッ!?」
「は、い、ぱぱ」
少しだけ苦しそうな声で頷いたドッペルは大きな翼を生やし、余波に巻き込まれないようにその場で羽ばたいて後ろへ飛ぶ。それと同時に両手の剣を傾けて矢の軌道をずらした。
「ぁっ……」
私にできたのは小さく声を漏らすことだけ。矢はそのまま地面に――刺さる直前、青白い粒子となって消える。
「ガッ」
そして、黒い影が突如として現れ、目の前で翼を生やしたドッペルの脇腹に跳び蹴りを入れた。蹴られたドッペルは
(この、人は……)
蹴りを入れた黒い影は私の傍に降り立つ。その姿はまさに漆黒。光すら飲み込んでしまいそうなほどの黒い外套を纏い、フードを深く被っているせいで顔すら見えない。
ああ、あの人だ。私がずっと夢に見た、憧れのあの人。見間違えるわけがない、やっと出会えた。本当に、いた。そう、実感した途端、ポロリと涙が一粒だけ零れ落ちる。
「……ファン、トムさん?」
【大丈夫ですか?】
「へぁ!?」
いきなり目の前に青白く光る文字が浮かび、情けない悲鳴を上げてしまう。その文字は時々、ノイズが走っているがしっかりと浮いており、私に向けられたメッセージなのだと数秒ほどかかって理解した。
「こ、れは……」
【時間がないので手短に。私はファントム。あなたを――】
「邪魔してんじゃねぇぞ!!」
光る文字が最後まで綴られる前に
「ちっ、相変わらず見えやしねぇ……どんな
「……」
「そんでもってだんまりか。本当に存在してるかわかんねぇ。そんなんだから
【勝手に周りが呼んでいるだけです】
「……はは、お前さんが本気を出せばこいつなんか一瞬で倒されちまうのに変に対抗できたから不思議に思ってたんだ」
その文字を見た彼は何故か嬉しそうに笑う。そして、サングラスを掛け直し、腰に手を当てた。
「お前、調子悪いだろ。それも絶不調もいいところだ。バースト寸前か?」
(バースト?)
聞き慣れない単語に首を傾げるが質問できる雰囲気ではないのでグッと我慢する。そもそも、シノビちゃんに教えてもらった情報もほとんど私に関することだけだったため、彼らが使う能力については何も知らなかった。私に知る機会は、あるのだろうか。
【バーストとは違います。調子が悪いのは否定しませんが】
「おっと、こいつは本格的に運が回ってきたみてぇだな。なら、俺たちにも勝機はあるってもんだ、な!!」
「はい、ぱぱ」
「っ――」
しかし、ドッペルが鎌を振る前に
【残念ですがあなた程度でしたら調子が悪くても倒せますよ】
そんな文字列が私、ドッペル、
「ドッペル!」
だが、
「……ぱぱ、動けない」
「はは……嘘だろ?」
やがて諦めたのか、大人しくなったドッペルを見て
(すごい……)
私を殺す寸前にまで追い込んだドッペルを片腕一本で押さえ込んでしまった。その光景に言葉を失ってしまう。
確か、シノビちゃんは誰かの命で私を守っていたようだが、
【依頼でここに来たのでしょうが引き下がっていただけませんか?】
「そう言われて引き下がると思ってんのか?」
【
「……はぁ」
「俺たちの負けだ。そいつは好きにしろ」
「……」
「ぱぱ、手」
「は?」
「手」
「繋がねぇぞ」
そんなやり取りをしながら彼らはこの場から去っていく。その様子を眺めていると不意に目の前の光景が一変する。住宅街なのは変わらないのだが、折れた電柱や陥没した地面が一瞬で元通りになったのだ。今までの出来事は全て悪い夢だった。そう、言われても信じてしまいそうなほど周囲の被害は消えている。
(でも、夢じゃない)
制服はボロボロだし、傷は未だにヒリヒリと痛む。左腕もなんとか動かせるようになってきたが違和感は残っている。
そして、なにより――。
「……」
――隣に立つ、