先ほどまでの戦いが嘘だったように静まり返った住宅街。その道の真ん中で私はちらちらと隣に立つ黒い影を見やる。そう、何度も夢に見た憧れの人――
「……」
実物を見たのは初めてだが、夢に見たままなので私は思わず生唾を呑んでしまう。彼、もしくは彼女は輪郭すらもぼやけているため、背丈以外の情報はほとんどない。それに加え、瞬きをすればその瞬間に消えてしまいそうなほど気配が薄く、思わず手を伸ばしそうになってしまう。
【大丈夫ですか?】
その時、私の目の前に青白く光る文字列が浮かび上がった。ハッとして顔を上げるとフードに隠れた
「あ、はい! おかげさまで助かりました!」
【いえ、こちらこそもっと早く来ることができればよかったんですが】
そこで
【こちらも緊急事態が発生しましてシノビの分身が消されるまで気づけませんでした】
「分身が消されるまで?」
【はい、シノビの分身は消えると本体に分身が得た情報が流れます】
つまり、シノビちゃんの分身が消えた後、本体に私が襲われていることを知り、駆け付けてくれたのだ。シノビちゃん自身、ドッペルに分身が消されるのをわかっていたため、時間を稼げと事前に伝えてくれたのだろう。そのおかげで私は
「あの、シノビちゃんは大丈夫でしたか?」
一先ず、自分の危険は去ったのでずっと気になっていたシノビちゃんの容態を確かめる。ドッペルのワイヤーが刺され、消えてしまった。刺されたのは分身とはいえ、本体にも何かしらの影響があるかもしれない。
【シノビの分身は初撃で消えれば本体にダメージは移りません】
私の質問に
【では、本題に入りましょうか】
シノビちゃんの無事を聞いてホッと安堵のため息を吐いていると
【シノビから話を聞いていると思いますがあなたは人間ではなりません】
「っ……」
シノビちゃんから聞いていたし、自分でもすでに受け入れている。しかし、憧れの人からその事実を突きつけられると心に来るものがあった。
【シノビに話は聞いていましたが本当に受け入れているんですね】
数秒ほど私を見つめた後、
(それに……)
ドッペルに追い詰められ、死んだと覚悟を決めたあの時、何故かドッペルの攻撃を躱した。それから私の身体能力は飛躍的に向上したのである。あの身体能力は人間の域を超えていただろう。きっかけはわからないがあの時、私は確実に人間を止めてしまったのだ。
【その方が話が早くて助かります。この後ですが――】
「え……」
私の様子に軽く頷いた彼、もしくは彼女は次の文字を浮かばせようとした時だった。不意に
「ッ!?」
その瞬間、
「ッ――」
――盾が融解して赤黒い靄が私たちを襲う。そして、私には何も起こらなかったが、
「
慌てて
一人、住宅街に取り残されてしまった私は呆然と彼、もしくは彼女が消えた先を見つめる。どこまで飛ばされたのかわからないほど遠くまで飛ばされてしまったらしい。
「影野さん!」
「ッ!? あ、なたは……」
突然、名前を呼ばれたせいで肩を震わせてしまった。そして、急いで振り返り、私の名前を呼んだ人物に思わず目を丸くしてしまう。
「よかった……無事だったんですね」
「え、榎本、先生?」
そこにいたのはまるで何かを撃ち出したようにこちらに右腕を向けている榎本先生だった。