熱い
◆◇◆
「──どうして悪を成す」
この世には二種類の人間がいる。
果たして人を大別するのに是か非か、本当にそれだけで足り得るだろうか。
それは例えば正義と悪か?
それは切っても離せず、共存せざるを得ない矛盾した存在。
それぞまさしく人間であり、故に人間を分けるには不向きだろう。
ならばあるいは敵か味方か。
そんな極論的で社不的な考え方もあるだろう。
だが間違っている。
赤の他人など総じて敵に決まっている。
知らぬは罪、すなわち有罪。
未知と敵には畏敬と礼儀を払うが安寧。
まぁ、うだうだ適当抜かしたが何を言いたいかといえば要するに、──この現場を見て見ぬ振りするか、そうでないかだ。
「貴様らが今すぐにそこな弱者を甚振るのを辞めないと言うのであれば……
──貴様らの相手には私がなろう」
「なんだぁお前、いきなり表れてなぁに偉そうなこと言ってんだ? あぁ? お前一人で俺たち三人相手にどうするってんだ? えぇ? 赤の他人の為にテメェが代わりに落とし前つけてくれるってのかぁ? おチビさんよ!」
今の状況を手短に説明するならば、不良と引きこもりとヒーローごっこである。
はい。助けに来てくれた有難い助っ人は、どこからどう見ても偉そうな小児でした。どうもありがとうございます……じゃねぇや!?
「おいバカ! 逃げろっ早く!」
引きこもりの少年は少女の身を案じ、ただでさえ傷ついている身を挺して不良どもの足にしがみついて叫んだ。
情けなくとも、無様であろうともそれ以上に大事なものが少年にもあった。
だが、それを不良たちはげらげら嘲笑いながら振りほどく。
「ぐふっ! げばぁ! あばぁっ!」
「ギャハハハハハハ」
「急に元気になってどうしたんだ!? さっきまでの情けない土下座は嘘だったってか!?」
「おいおい! そりゃあいただけねぇなぁ! オラァ!」
「(く、くそっ、バカスカ蹴りやがって……! でもこれで女の子は逃げられるはず……! って、何してんだあのガキ……!)」
少年は薄目を開いて案じた少女の姿を見た。
少女はふざけているとしか思えないポーズをとって何かを呟いていた。
ぶつぶつと何やら呟いていた少女はその動きをピタッと止めて言い放つ。
「──神判。貴様ら不良三人──ギルティ。正義を執行する!」
「は?」
「な~に言ってんだ、オメェ」
「なんだなんだ?」
少女は両手で男たちの方を指差し宣言する。
「さては俺たちが子供だからって手を出さないとでも思ってんのか~? これだからガキはよぉ………まっ、ガキのしつけすんのも俺たち大人の役目ってなもんだよなぁ!? あぁ!? ガキィ! 人様に指ィさしちゃあいけませんって、習わなかったのかぁ!?」
「──」
「ば、バカ! 逃げろぉぉぉぉぉ!!!!」
「陳腐な怒り。見た目そのまま。いいとこの坊ちゃんが関の山。道を外れた凡平な貴様に私の名を教えてやろう。──誰とも知らぬ子供に殺されたとあっては流石に可哀そうだからな」
「え?」
「──我が名はホムラ。正義の味方だ。冥土の土産に覚えて、逝くといい」
世界が遅く感じた。
少女の宣言は鮮明に聞こえ、しかし世界は動かない。
少女は、唱える。
「森を焼き、大地を焼き、空を焼く終焉の焔よ! 今こそ悪逆なる下郎を焼き尽くせ!」
周囲の雑草が焼き消えた。
地面を熱風が覆い、大気が歪む。
顕現するは自然の怒り。
すべてを終わらせ、生を無に帰し、大地へと還元し、次なる肥やしとする再生の炎。
それは大気を取り込み、無限に膨張するエネルギーの塊。この場にいる何人も逃れることはできない。
少女の指先に集約するは終焉。
それは──、
その場にいた少年──菜月昴をも覆いつくして──
少女は終りの言葉を告げた。
──アル・イーラ。
顕現するは熱の暴力。
行使されるは絶対なる力。
それは万夫不当の神なる意思。
神威のホムラ。
それを遅れた世界で見送っていた昴は予見した。
皮が爛れて、骨が溶けて、肉が焼けて、臓物が灰となって、喪に付される、逃れられぬ『死』を──。
時は動き出し、両親の走馬灯が見え、そうして──
「──そこまでよ!」
運命は覆された。
キーィィィンッッ!!!
甲高い音が鳴った。
決して止まらぬ熱世界が、甲高い音と共に凍りつく。
世界の覇権を握っていた絶対温度に、絶対零度が叛逆する。
「──」
だが、そんな驚きとは別に、少年はその瞳、その心臓を奪われていた。
相殺され弾ける紅輝と氷晶。そのベールに包まれる美しき君に。
少年がいまだ動けぬ中、状況は動き出す。
「急に微精霊たちが騒ぎだしたと思ったら、なんてこと──こんなところでそんなおっきな魔法! 危ないじゃない!」
「──誰だ?」
「こんな近くで急に莫大なマナが集まっててビックリしちゃったよ。ボクが防がなかったらここらいったい丸焦げだったんじゃにゃい?」
「──ずいぶんと力を持った精霊だな。なるほど。私の力に抗えるわけだ。私納得」
「まさか、あなたがやったの……? こんなに小さいのに。うそ……」
「のっけから失礼な人だな。私はこれでも成人している」
「え、あ、ご、ごめんなさい!」
「リア──今は謝ってる場合じゃない」
「──私の正義を邪魔したということは、貴様らも敵と見做して良いのかな? ──ハーフエルフ」
両手に火の玉を携えて少女――ホムラは問う。
「──ハーフエルフって呼ばないでよね。そっちがその気なら、舐めないことね。精霊使いの恐ろしさ、その身で味わうことになるわよ。小さいからって手加減してあげないんだから!」
少女は氷壁を、精霊は氷柱を構える。
二人で一人、攻守両取りが精霊使いの戦い方。
「──私はエミリア。ただのエミリアよ。どうやって知ったのか知らないけど、ハーフエルフかどうかなんて関係ないんだから!」
「──改めて、我が名はホムラ。己の出自を誇れぬものに、名を名乗る資格はない。その強大な力が身に余るものかどうか、私自ら試してくれる! 覚り悟れ、閻魔!」
今ここに、炎獄と氷獄、どちらが勝るかを決定づける一大決戦が始まらんとしていた!
勝つのは固く閉ざされた心を温かく溶かす太陽か! 制御の利かぬ憤怒を冷ます氷雪か!
「いざ、尋常に!」
「いくわよ!」「いくよ!」
「ちょ、ちょ~~~とまった~~~!!!!!!」
「――。」
「――?」
「――?」
あまりの緊迫した状況に水を差す男がいた。不良たちは小便を漏らして気絶し、灼熱と極寒で世界が覆われるかもしれないというそんな鬼気迫ったその刹那に、ただ見ていることしかできなかった少年は精一杯に叫ぶ。
その判断は吉と出るか凶と出るか。
勝負は少年と運命の勝敗に持ち込まれた。
少年が次に言う言葉、其れ次第で運命は、世界の命運は大きく変わるだろう。
果たして、少年――菜月昴は次なる言葉を叫んだ。
「──俺の名前は菜月昴! 天下不滅の無一文!」
「──ほう」
「え? 無一文……?」
「へえ」
「(……やべぇ……! こっから先なんも考えてなかったぁ!! 終わった! 違ぇ考えろ! この場を収める唯一無二のベストワードを……! そう、この場で俺だけが言えること! それは──!)」
「す、すすすす好きです!
つつつ、付き合って、く、くだしゃい!!」
……。
「──なに?」
……。
「──ほほ~ん?」
──俺は今、何て言った?
「へ?」
思考は働かなかった。
思っていた言葉は出なかった。
なんなら言うにしたってもっとカッコよく言いたかった。
だが、奇しくも差し出したその手は──。
「え、えええ、え~~~??!」
一目ぼれしたその子へと正確に向けられていた。満足、か、な……あ、もう無理だ。
ばたんきゅう~~
そこでスバルの意識は途絶えた
◆◇◆
題名は憤怒の神判にしようか迷ったけど、どっかで聞いたことあるなぁと思ったら七つの大罪と被ってた。