Re:ゼロからオリ為す異世界生活   作:萎える伸える

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 同じ言葉使いすぎィ!


熱は冷めて

 

 

「こんな夜分に誠に申し訳ございません」

 

「──卿が謝ることではない。この国随一の治癒士であるフェリスが頼られるのは当然のこと。それを有する当家にもその意識はある。無用な矜持で民を見捨てるようなことはしない」

 

「では、クルシュ様のご厚意に感謝を」

 

「うむ」

 

 そのような畏まった会話をするのは騎士ラインハルトと公爵家当主クルシュ・カルステン、その人である。

 

 その背後では担架に乗せられて運ばれる二人の重症患者の姿があった。

 

 それを視認して、クルシュは彼らをこの国で唯一治療できるであろう従者の名を呼んだ。

 

「フェリス!」

 

「──も~こんにゃ遅くに公爵家に押し入るなんてラインハルトらしくないじゃにゃい。いったいどんな怪我人を運んで来たってわけ~?」

 

 そう騒々しく人々が行きかう中、眠そうに、そして気だるそうにドアから現れた。

 

「やあフェリス、夜分遅くに申し訳ない」

 

「そりゃトモダチの頼みだし~? フェリちゃん優しいから助けちゃうけど~、あんまりクルシュ様に迷惑かけるようだと承知しないからね。貸し一!」

 

「ああ、ありがとう」

 

「ったくもー、それで患者はどこに、ってなによこれー!」

 

 そう言って、ラインハルトへの咎めるような視線を外して患者に向き合ったフェリスは主人の前にもかかわらず大声を上げた。

 

「──片やお腹の中身ぐっちゃぐっちゃ! 片や全身大火傷! 何があったら街中でこんなことに……! もう! 今すぐ麻酔と温水の準備を!」

 

 フェリスはその重症度を見てすぐさま意識を切り替えで屋敷の召使に命じた。

 

 フェリスにとって、一般に重症と呼ばれる怪我は重傷足りえない。骨折だろうと、四肢欠損だろうと、この国最高の術士にかかればお茶の子さいさいだ。

 

 だが、運ばれてきた患者の怪我、否、これは怪我などと呼ぶべきものではない、ほとんど致命傷とも呼ぶべきものだ。

 

「ラインハルトは早く出ていって! あんたがいると魔法が乱れる!」

 

「すぐに。では、失礼します、クルシュ様。二人を、よろしくお願いします」

 

「……いや、この様子では私も邪魔になるだろう。フェリス──頼んだぞ」

 

「っ、そのお言葉だけでフェリちゃんってばいくらでも頑張れちゃいます! ご安心ください、私に治せない怪我なんてありはしません!」

 

「ふっ、頼もしいな」

 

 

 ラインハルトとクルシュが病室を離れ、フェリスはドレスの袖を捲って気合を入れた。

 

「ふっ」 

 

 

 まずは死にかけの少年の腹部へ手を翳す。

 

 

 一晩に及ぶ手術が始まった。

 

 

◆◇◆

 

 

「ふぅ……」

 

 

 まずは内臓の状態を確認する。

 水のマナを巡らせ、具合の悪いところを探す。

 結果は酷いものだった。

 

「お腹の中ぐっちゃぐちゃ、背骨手前までの裂傷に表面の火傷。焼いて傷を塞いだみたいだけど、手当てが杜撰すぎて、ゲートが傷ついてる。その後気休め程度に水のマナで干渉したことで変な形で治癒が始まってる。こんなの、治してもまともに生きていけないじゃない」

 

 酷いなんてものではなかった。

 それはもう凄惨の一言だった。あまりに惨い状態。

 ──だが、

 

「ま、私にかかればちょちょいのちょいってね」

 

 フェリスは手に医療用の刃物を握り、少年の腹部を切り開く。

 血が溢れるが、フェリスが干渉すればすぐさま血が止まる。

 まるで臓物が生きているかのように動き、千切れた血管が繋がり、零れた胃液が浄化され、敗れた腸が修復されていく。

 

「───」

 

 先ほどまで苦痛に歪んでいた少年の表情が、今は少し安らかに変わっている。

 

 麻酔が効いていると言えど、少年への負荷は相当なもの。

 フェリスは患者が手術に耐えられるだけの体力が残っているようには思えなかったため、まず最初にスバルに自身の体力を分け与えた。

 

 その為に最優先とされるのは『ゲート』。

 ゲートとは、世界と(オド)を繋ぐ大切な道だ。

 本来こちらから中へと干渉することはない、そしてできない。

 

 しかし、フェリスは、その優しさに満ちた力は、どんな人のオドにも馴染みゲートを通して力を分け与えることが出来る。

 そう、フェリスが平然とやってのけたのは身体よりも先に『(オド)』を整えるという荒業だ。

 魂が肉体の形を決め、肉体は魂に依存している。

 

 故に、そこに魂がある限り、実質フェリスに治せない怪我などないのだ。

 

 

「……ふぅ、これで、この子は大丈夫」

 

 

 まだ治すべきところはあるものの、少なくともこれで今すぐに死ぬようなことはなくなった。

 本当なら完全に治しきってしまいたいが──フェリスは、反対側に眠るもう一人の患者である少女を見て断念する。

 

「ほんと、ラインハルトったら面倒な患者を持ち込んでくれて……」

 

 一目見てわかる重症。

 全身火傷。さらに身体の至る所に裂傷、打撲傷、首筋には噛み傷まで。

 その両腕は炭化し、鼻も唇も耳さえも焼け落ちている。

 そして、

 

「っ! 外面だけかと思ったら、そんなんじゃない。これ、中身の方が酷い火傷じゃないッ!!」

 

 再びマナを通したフェリスは知る。

 

 これが、外傷ではなく──『内傷』によって浮上した傷であることを。

 

 つまり、彼女は外側からではなく、内側から焼かれていたのだ。

 

「……いや、違う。内側からも、外側からも、両側から焼かれてるんだ。誰が、こんな酷いことを、ううん、そもそも内側から体が焼けるなんて、そんなの……」

 

 想像だに恐ろしい。

 それはきっと地獄の所業だ。

 まだ幼く見える少女にはあまりに酷なこと。

 

 

 さらに、

 

 

「それになに、この、マナの干渉が弾かれる感覚……」

 

 

 治療しようとすると彼女の『ゲート』から『火のマナ』が溢れてきて回復を阻害する。

 まるで『魂』が外からの干渉を拒んでいるかのように。

 何者にも侵させないという意志を感じる。

 それはまるで、誰かがこの子を守ろうとしているかのようで。

 

 懸命に、懸命に弱い『火』の力が彼女に干渉する力を阻害する。

 

 それが彼女の回復を妨げているわけだが、どうにも、その力には悪意が感じられなかった。

 

「──でも、ごめんね。私にも矜持があるの。あの方の為に、あの方の期待に応える為に、あの方のお役に立つ為に、私はどんな怪我だろうと治せなきゃいけないの。──私の前で、誰一人死なせたりしないんだから」

 

 混じり気のない、純蒼な光が部屋を満たす。

 フェリスの白い手が強く強く発光し、少女の内から反発する力を力づくで押さえつける。

 ゲートを水のマナで覆い、阻害を阻害する。

 

「これで──っ!」

 

 一際強く水のマナが活性化し、強くされど優しい光が彼女を照らす。

 

 そうして、

 

 ──ホムラの火傷がじわじわと消失していった。

 炭化していたはずの腕はまるでかさぶたでも剥がれるようにして黒の下から新しい白い肌が表出していく。

 裂傷、打撲傷、噛み傷。

 ありとあらゆる傷が治っていく。

 

 まさしく『奇跡』とも呼ぶべき現象。

 

 死にゆく命が、助からぬ運命にあった魂が、現世に留まることを許される。

 

 

 これが、この神龍王国ルグニカにおける最高の治癒術士、『青』の力だ。

 

 

 病室に朝日が差し始めた頃、死にゆくはずだった二人の少年少女の傷は──完治した。

 

 

◆◇◆

 

 

「ふぅ………」

 

 

 ガチャ、と病室の扉を開くと、そこからくたびれたフェリスが出てきた。

 

「フェリス、終わったのか?」

 

「クルシュさまぁ………」

 

「あの……あの二人は……」

 

「だいじょーぶ、二人ともちゃんと完治させました」

 

「はぁぁ………よかったぁ」

 

 心底安心したようにエミリアはその場に崩れ落ちた。

 きっと、それは敵対する候補者の前で晒すべき姿ではなかったけれど、そんな矜持や面目よりも遥かに安心が勝ったのだ。

 

 

「クルシュさまぁ~フェリちゃんとっても頑張ったので褒めてください~」

 

「あぁ──よくやったな、フェリス」

 

「はわぁ」

 

「やはりお前の手はこの国に、そして私になくてはならないものだ」

 

「そのお言葉が頂けただけで、フェリスは感無量です」

 

「ふっ、本当によくやってくれた」

 

 クルシュに寄り縋るフェリスに、抱きしめるように支えるクルシュ。

 まったく仲睦まじいようで結構だ。

 

「あの、私からもお礼を。本当に、すごーくありがとうございました」

 

 水を差すようで悪いが、エミリアは感謝を告げずにはいられなかった。

 

「あなたは──エミリア様。そうですか、あの二人は貴方のお連れ様でしたか。あの堅物ラインハルトがいてあんな重傷者が出るなんておかしいと思いました。……おそらくあの二人は助けを求めずに重傷を負い、その後あなたが助けを求めた。だから、ラインハルトが手を貸した。そういうことですね?」

 

「……ええ、私が不甲斐ないばっかりに」

 

「ま、二人とも助かったんですし、フェリちゃんのおかげで! あんまりお気になさらずに」

 

「本当にありがとう、このお礼は必ず……」

 

「あと、あんまり貴方様が何度も頭を下げるのはよくないと思いますよ? ま、それはそっちの従者ちゃんに後でお叱りを受けてくださいっ、フェリスは今日は疲れたので休みます!」

 

「ではな、エミリア。ロズワール辺境伯にはこちらからも一方を入れておいた。暫くは当家に残留されるが良い」

 

「あ、それとあの二人が目覚めても決して無理はさせないでくださいね、暫くは絶対安静です。それまでは事件の取り調べやらなんやらは私がさせないようにしておきますので」

 

「……本当に、何から何までありがとうございます」

 

「はいはーい、ではでは~」

 

「───」

 

 

 エミリアがお礼を言う中、クルシュとフェリス、そして一言も話すことのなかった老執事が部屋を去った。

 

 

◆◇◆

 

 

 部屋に残ったのはエミリアとラム、ラインハルト、そうしてフェルトだけだ。

 

 フェルトはすでに眠りについていて、エミリアも疲れが見える。

 二人が助かったことで張り詰めていた気が抜けて意識が薄れかかっているのだ。

 

「──っ」

 

「大丈夫ですか?」

 

 それを支えるのはラインハルト。彼にはまるで疲れた様子がない、

 鍛え方が違うのだろう。

 倒れかかったエミリアを支えたまま、ラインハルトは告げた。

 

「エミリア様も、どうかお休みください」

 

 ラインハルトからラムへとエミリアの体が預けられる。

 

「でも……」

 

「エミリア様、私からもお願い申し上げます。敵対する候補者に頼りになる以上、対価の交渉は必須です。今日はあちら様の優しさで保留となりましたが、明日以降談判に入ることでしょう。なので、それに備えて今はどうか」

 

「……わかったわ。ラムも、ありがとうね」

 

「いいえ、ラムは慣れているのでご心配なさらず」

 

「ラインハルトも、今日はすごーくありがとう。このお礼は、また今度……」

 

「お気遣いなさらず、お休みください」

 

「二人をお願い………──」

 

 

 そう言って、エミリアは二人の隣のベッドに横たわった。

 

 慣れない街を走り回り、徽章を失った不安、二人との出会い、魔法の行使、無力のストレス、敵対する候補者との交渉、そうしてそのまま朝まで治療が終わるのを待っていたのだ。無理もない。

 

 今はゆっくり休ませてあげるのがいいだろう。

 

「貴方は大丈夫ですか?」

 

 エミリアが休息に付き、ラインハルトは残った少女、ラムへと問いかけた。

 

「はい、ご心配には及びません。私からも主人に代わって心から御礼申し上げます」

 

「いいえ、お役に立てて何よりです。それでは、僕も家へと連絡を入れなければならないので、失礼します」

 

「………」

 

 

 ラインハルトが出て行くまで、ラムは貴方を下げ続けていた。

 

 

◆◇◆

 





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