はい、タイトルセンス皆無ですね。
なぜ私は熱にこだわっているのでしょう。
とくに理由はありません。どうぞ
この場に集まっているのはクルシュ陣営の三人とラインハルト、そうしてフェルトだ。
ただし、約一名が椅子に拘束されている状態だが──。
「──それで、卿がエミリアの徽章を盗んだというのは本当か?」
「だー! はなせー! このー!」
「質問に答えればすぐにでも解放してやる」
「──っ。………盗んでねーよ」
「──残念だが、私に嘘は通用しない。貴様は賊か」
「……この、くそ貴族がっ」
「ちょ、ちょっと、これはなんの騒ぎ!?」
クルシュが腰元の剣へと手を置き、断罪が始まろうとした今この瞬間に、彼女が焦ったように扉を開いて参入した。
「エミリアか」
「な、なんでフェルトちゃんが拘束されてるの?」
「……それは貴殿が一番わかっているのではないか?」
「え、えぇ? えーっと、それは、その………」
「………徽章を盗むということが、どれほどの罪か、貴様はわかっているのか、賊」
「はぁ? そのちょっと豪華なだけの徽章がなんだってんだよ」
「これはこの国の次期王候補を見極めることのできる、王戦において最も重要な代物だ。それが貴様の服の中から出てきた。これがどういう意味か、わからぬとは言わせないぞ」
「ちっ、勝手に着替えさせて荷物を漁るなんざ貴族のやることじゃねーな!」
「貴様を着替えさせたのは当家の使用人の気遣い故だ。不可抗力と知れ」
「けっ」
エミリアを他所にフェルトの罪とその処遇が決まろうとしている。
突然の出来事に心がついていけていない。
しかし、取り合えず一端落ち着いてもらおうと、それができるだろう人物へと目くばせする。
「ラ、ラインハルト………」
「……すみませんが、今この場で僕にできることはありません。クルシュ様の決定に私が否やを唱えることは騎士としての私の領分を超えることとなります、ご理解ください」
「……ごめんなさい。そうよね。なら……」
「……エミリア様?」
エミリアはそのまま視線を二人へと戻し、一歩前へと出た。
「──クルシュ様」
「……エミリア。様付けなどせずとも良い。我らは対等な立場かつ敵対する候補者だ。貴殿が私に敬称をつける必要はない」
「……わかりました。なら、クルシュさん」
「ああ」
「その子を解放してあげてくれませんか?」
「……なに?」
エミリアの道理に合わぬ言葉に、クルシュは不可解だと言わんばかりに眉を顰めて、エミリアの真意を視線で問うた。
「もう一度言います。その子を解放してあげてください」
「何故だ? この者は貴殿の徽章を──」
「預けていたの……、です」
「………なんだと?」
その言葉は、クルシュの顰蹙を買ったようだった。
クルシュの瞳が明確に険しさを持った。
当然だ、クルシュは【フェルトが徽章を盗んだこと】を知っているのだから。
彼女の問いにフェルトは答え、それには『嘘の風』が吹いていた。
ならば、フェルトには確かに【徽章を盗んだという意識がある】。
そういうことだ。
「私はフェルトちゃんに戦いの間、預かって貰っていただけ。だから、フェルトちゃんが徽章を持っていることにはなんの問題もありません」
「──あまり私を失望させるなよエミリア。言っただろう、私に嘘は通用しない」
そして、エミリアの言葉が嘘であることもまた、クルシュには筒抜けなのだ。
敵対しているとはいえ、この場においてクルシュに恩があるはずのエミリアが嘘を吐くということは、平常ならざる関係の亀裂を生みかねない。
クルシュはエミリアがハーフエルフであるということになんら悪感情を持ってはいない。
しかし、彼女が王たる器であるかは未だ疑問視していた。
未だ幾数回の交流しか持たないが、今までの言動を見る限りエミリアは上に立つものとしての意識がない。その純粋なまでの善性は尊ばれるものではあれど、彼女の振る舞いは平凡に過ぎる。
それはクルシュが治めている領地の村娘と何ら変わらない。
ハーフエルフであるという出自から、他者とは違う素地と可能性を感じないではないが、今のルグニカにおいてそれではいけないのだ。
王国としての矜持と高潔さが、王が不在となった今もまだ存続していることを他国に示さなければならない今のルグニカにとって、いつかたる王器では足りないのだ。
今、すぐにでも王威を示せる器でなくては──。
「──ならば言わせて貰いますが、私は今は真実なんてどうでもいいことだと思います」
そんな失望と不信を孕んだクルシュの疑念を、エミリアの暴論が叩き切った。
「なん、だと?」
「たとえフェルトちゃんが私の徽章を盗んだと、そう
「……勘違いだと?」
そんなはずはない。
クルシュはその可能性をすぐさま否定する。
なぜなら、その言葉を吐いているエミリアから今まさに『嘘の風』が吹いているのだから。
しかし、エミリアはそうとも知らず堂々と狂言を吐き続けた。
「──私がわざと盗ませ預けていたのだと言えば、それが事実ではありませんか?」
「そんな馬鹿な話があるものか。そんな出鱈目な理由で誰が納得すると」
「私が納得します。そしてフェルトちゃんも納得させます。私とフェルトちゃんが納得すれば、この話は終わり。違いますか?」
エミリアの言ってることはつまり、こういうことだ。
──これは私とフェルトの問題だから外野が口を出すな、と。
……どうやら、知らず知らず侮っていたらしい。
なかなかどうして、大した胆力を持っているではないか。
見誤っていたのは私、そしてこうして今堂々と自らの意見を主張し、引き下がらないこの娘は、この者は、確かな資格を示している。
クルシュは理解した。
彼女もまた龍暦石に選ばれた王たる資格を持つ少女であり、私の
「──なるほどな」
「え? クルシュ様?」
「一理ある」
「クルシュ様!? い、いいんですか!?」
「盗まれた当人が良いと言っているんだ。ならば外野である我々が口を挟むことはない。貴殿はどうだ? 騎士ラインハルト」
「そうですね、僕は騎士として徽章窃盗という決して軽くない罪を見過ごすことができません。しかし、彼女はその罪をエミリア様をお助けすることですでに償った。つまりはそういうことでしょう」
「貴殿の言い回しも様になっているな」
「恐れ入ります」
「よかろう、この者の扱いはエミリア、お前に任せる」
「あ、はい!」
「………随分と無垢な笑顔を見せるものだ。少々、私としたことが目を奪われたぞ」
「……?」
「ふむ。フェリス、ヴィルヘルム、行くぞ」
「は」
「あ、クルシュさまー、待ってくださいよ~」
クルシュは従者を連れて、部屋を出ていった。
ガチャンと扉の閉まる音が部屋に響くのを部屋に残ったエミリアとラインハルト、そしてフェルトは聞いていた。
「はぁ………よかった……」
「お疲れ様でした」
「ありがとう、ラインハルト」
エミリアは慣れない会話で溜まった心労を溜息と共に吐き出した。
そうして、一段落つけてから当事者でありながら蚊帳の外であった少女に声をかけた。
「フェルトちゃん、大丈夫? 今、拘束を外すわね」
「……お前、なんで……なんで、あたしなんかを庇ったんだ」
「だって、あなたはホムラの家族なんでしょ?」
「そりゃ、でも、一方的なもんで……」
「……ホムラがね、あなたを助けて欲しいって、私にお願いしてきたの」
「あの、頭の硬いホムラが……?」
チラッと、つい扉の方を見た。
だが、扉に向かい側にホムラはいない。
ホムラは絶対安静だと言われている為に今も隣の部屋で布団の上だ。
だからこそ、彼女はエミリアに頼んでフェルトを助けるよう頼んだのだ。
あの人に頼るのを断固として拒みそうなホムラが。
「はっ、ほんと素直じゃねぇガキだな……」
フェルトはそう苦笑いした。
ホムラは正義にうるさいし、頭が固いが、恩を忘れるような子ではない。
そう思えば、気まぐれの善意というのも馬鹿にならないものだ。
ホムラを拾ったのなんて、本当に気まぐれでしかなかったってのに。
一週間たらずで自分が思ってるよりも絆されてしまっていたし、家族だと認めてしまっていた。
まったく、帰ったらロム爺に言ってホムラの好きそうなものでも買ってこよう。
金は大切だが、たまにはいいだろう。
そう心の内で未来の明るい算段を立てたフェルトは椅子から立ち上がってエミリアに向き直った。
「あんたには世話になっちまったな。あたしは借りは返す主義だ。あんたの頼みだったらタダで盗んできてやるぜ?」
「もう、そんなことお願いしません。……あなたの境遇に私ができることは、何もないもの……」
「そりゃたりめーだな。あたしの人生はあたしんだ。それをあんたにどうこうして貰おうなんて思っちゃいねーよ」
「………」
「……わぁってる、今日のことで盗みは当分懲り懲りだ。暫くは身体売る以外でなんとか食い繋いでいくさ」
「……そう」
「──あーもう! せっかく助かったんだから、そんな辛気くせー顔すんなよな! ほら、」
そう言って、フェルトはラインハルトがクルシュから預かっていた徽章を受け取って、
受け取り、自分の手でエミリアに返そうと、
「盗ったもん、返すよ」
「うん、ありが、とう………?」
一件落着──かに思われたが……。
──もちろん、そうは問屋がおろさない。
──待った。
待ったがかかった。
その声はそれまで黙ってやり取りを見ていた赤髪の青年のもの。
この国で最強の、王国の剣。
「これは、なんということだ……」
「……え? あ……」
ラインハルトがフェルトの手を掴み、驚愕する。
それはエミリアも同じ。
「え、嘘、徽章が……」
王候補を選ぶ試金石である徽章が──怪しく光っていた。
◆◇◆
これだけの内容でよくも四千字近く書けたよね。
みんな喋る喋る。てかホムラいないし。