Re:ゼロからオリ為す異世界生活   作:萎える伸える

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 駄文駄文だぶんぶんぶん


『烈火の如く』

 

◆◇◆

 

 

 紅の焔が舞い、虹色の一閃が斬り伏せる。

 剣など簡単に溶かせるはずのホムラの火が効いていない。

 原因は一目瞭然、剣に纏わせている虹色のマナだろう。

 

 閻魔がホムラへと伝えてくる。

 あれは精霊さえも殺し得る破滅の光であると。

 

「くッ!」

 

「君がこの状況で人質を取ることを良しとしない者であることは分かった。だが、そうなれば君は私に勝てない」

 

 ホムラはユリウスを倒し切れない。否、太刀打ちできずにいた。

 火が効かないだとか、精霊殺しの魔法剣だからとか、そんな複雑な理由ではない。

 もっと単純にして明快な理由、それは──

 

「貴卿、強いな。いったいどれほどの鍛錬を積んで才能を開花させたか………いいや、貴卿の才能はこんなものではない。そうだな」

 

「敵とは言え、お褒めに預かり光栄だ。君もその幼さでよくもこれほど精霊術を極めたものだ。そのセンスは驚嘆に、そして敬するに値する。しかしだからこそ分からない。何故、君はこの場に現れた。何故、それほどの力を持っていながらこのような蛮行に及んだ」

 

「ぐッ」

 

 流れるように華麗な後ろ蹴りがホムラの左腕のガードの上から刺さり後ろへと後退する。

 ガードしたにも関わらずその一撃は強烈で、ホムラはその場に膝をついた。

  

 ホムラは今、炎の礼装を纏っていない。纏っていれば、あるいは蹴りを防ぐこともできたかもしれない。

 だが、

 

『我、助力補助、不可』

 

「分かってる。お前は他の騎士を押さえておいてくれ」

 

 閻魔は今、すべての力でもって近衛騎士たちを押さえている。

 いくら大精霊に近い力を持っているとはいえ、殺すことなく捕縛させ続けるというのは至難の業だ。

 あるいは殺してしまったなら捕縛を維持する必要もなくなるが、閻魔も、そしてホムラもそんなことはしない。

 

 彼らは徹頭徹尾、正義の味方であるのだから。

 

「ホムラ、わしは………」

 

「不用意に動くな、あいつがあんたを狙うとも限らん。安心しろ、あいつの相手は私がする。あんたの役目はあいつを倒した後だ。だから大人しくそこで見ていろ」

 

「むぅ……」

 

 後ろで戦いに参入できないロム爺は状況の悪さに呻いた。

 

「いけー! ユリウス、そこや! やってまえ!」

 

「アナスタシア様、どうかお下がりを、それとあまり品のない行いは慎んでくださいますように」

 

「なんやユリウス、ウチを守ってくれるんやないの? ウチの応援、邪魔やった?」

 

「──まさか、貴方様が後ろにいる限り、私に敗北はあり得ません」

 

「ほんならええやんな? よぅく守ってや、ウチの騎士様?」

 

「御意」

 

 そう言うや否やユリウスの纏うマナが増大する。

 その威圧感たるやあの時の『剣聖』とも遜色ない、まるで敗北を感じさせぬ佇まい。

 相対するものに戦う前から敗北を錯覚させる絶対的な存在感。

 

 あるいは少し前の彼であったなら、一つの綻びから一パーセントの勝利を掴むこともあり得たかもしれない。だが、今の彼に敗北の二文字はない。

 何故なら、彼は王選候補者アナスタシア・ホーシンの一の騎士であり、その守るべきお方が後ろで己の戦いを見ているのだ。

 優雅を気取る見栄っ張りな騎士が、負けられるはずもない。

 今の彼は正しく無敵であり、その剣筋には一筋の油断も隙もない。

 

「──ッ!」

 

「いくらこの神聖な場に踏み入った狼藉者とはいえ、まだ幼い君を斬るような真似はしたくない。何より君をここまで通してしまった警備に当たっていた騎士の、引いてはその代表たる我々の責任でもある。どうか矛を収めて欲しい。さもなくば、君の気が済むまで私が相手になろう」

 

「……くッ」

 

 膝をつくホムラに、剣を眼前に構え起立するユリウス。

 既に力の差は判決が出た。

 どれだけやろうと、今の状態のホムラがこの騎士に勝つことはできない。

 

 それを思い知らされる。

 

 理不尽とは思わない。

 彼は彼なりの信念があって立ち塞がっているのだ。

 彼を理不尽とは思わない。

 

 しかし、この状況は別だ。

 この状況を生んだあの男の所業と、それを許したこの国の重鎮、ひいてはこの国を許すわけにはいかない。

 諦めるわけにはいかない。

 

 ──嗚呼、私は怒っているのだ。

 

 理不尽、大いに結構。

 立ち塞がるのであれば、打ち破るまでだ。

 ホムラの信念に、諦めるという言葉はないのだから。

 

 

「腐りきった王国を払拭する世情の浄火よ、今こそ我が身に大いなる力を齎せ」

 

『無茶無謀、汝、許容を超える行使。未だ癒えきらぬ身にて焔を扱うは無謀の所業。断固拒否』

 

「力を、貸してくれ。……頼む、家族なんだ。やっと見つけた、家族になれるかもしれない人」

 

『………否、汝もまた我が家族なり。故に汝の身の安全を優先する』

 

「なぁ、閻魔。私は未だお前がいないと碌に力を示せない子供だ。お前の助力なくして私は正義足りえない。今だって正しいのはお前の方だ。それは分かっている。……だが、それでも、私が私である為に、お前に胸を張れる正義の味方で居続ける為に、今は無理を承知で力を貸して欲しい。それが、私とお前の約束だろう?」

 

『……時間にして一分、それが最大にして最低の譲歩なり』

 

「ああ了解した」

 

 

 応えた途端、終焉のカウントダウンが開始する。

 

 

「まだ、やるのかい」

 

「私の信念に、諦めるという言葉はない!」

 

「それが君の決断であるならば、私もまた私の全霊でもって迎え撃とう」

 

 

 ホムラの姿が一瞬炎の中に隠れ、すぐさま姿が現れる。

 それは以前ともまた違うドレスコード。

 前回より派手さはなく、しかしそこには確かな品がある準礼装。

 洋風のドレスから和風の御淑やかな着物姿へ。

 

 ひらほらと舞う薄い羽衣には当然防御力などない。故に纏う火も少なく、己の身を焼くこともない。

 

 だが、侮るなかれ。

 そこに秘められし焔は大精霊の力そのもの。

 一発限りの揚花火。

 

 この一撃で決める。

 

 きっと、この一撃を放てばホムラは動けなくなるだろう。

 まだホムラは身体が完全には癒えていない。厳密にはオドが、だ。

 治療後、ラインハルトに対するオドの行使がホムラに相当な負荷をかけていた。

 オドの行使は奇跡の履行。されどその代償は高くつく。オドとは魂そのもの、本来使ってしまえばそれまで。決して癒えることがない。

 だが、ホムラはどういうわけかオドが再生する体質だったが故、大傷に至らずに済んでいる。

 

 それでも、代償としてホムラの肉体に様々に不備が出ている。

 発熱、発汗、嘔気、倦怠感、思考力の低下、動悸不全、左半身の麻痺、ゲート不全から、マナ欠乏症まで。

 ハッキリ言って絶対安静でいなければならないほどの重症患者だ。

 

 きっと、角を失った最強の鬼でもいたら共感することができただろう。

 

 だが、ホムラはその一切を考慮しない。己の身を顧みない。ただ一心に、正義の味方である為に。

 

 正義の味方とは、そうまでして示さなければならない彼女の信念なのだ。

 

 だから、動けなくなる前に、少女は口を開く。

 

 

「私は、怒っている」

 

 

 ホムラの纏う炎が揺らぐ。

 

「……何を」

 

 突然、独白を始めたホムラに何かの策かと警戒を露わにする騎士だったが、しかしホムラはそれを気にも留めない。 

 

「私は怒っている」

 

 再び、炎が揺らぐ。今度は更に大きく。

 

「私は怒っているッ! 私の家族に理不尽を強いたあの男に、それを許したこの国に、それをさせたこの世界に、何よりも家族を守れなかった私自身にッ!」

 

 独白する、心に浮かぶ想いの丈をあるのままに叫ぶ。

 叫ぶたび、吐き出すたび、ホムラの炎は勢いを増していく。

 苦しく激しい倦怠感の中で、しかしそれに反比例するように眼光の鋭さが増していく。

 

「私は許せない! 家族を守れぬ己の弱さを!」

「私は許さない! 人を苦しめる理不尽を!」

 

「私は断じて認めない! 人が人らしく生きる様をッ! どうして運命などという安っぽい脚本に捻じ曲げられなければいけないのか!」

 

 想起する。人が人らしく生きる様を。

 

 フェルトが足を洗いロム爺と共に行商でもする姿を、あるいは郊外に家でも買って農業に勤しむ姿を、あるいは何でも屋、あるいはあまり似合わないが花屋なんかも以外とあり得るかもしれない。

 どう考えても男と一緒になる姿は想像できないが、そんな可能性だってあるのだろう。

 

 人の可能性なんて無限にあるのだ。どう生きてもいい。どう生きた先にもきっとそう生きた先にしか得られぬ幸福があり苦難がある。それが後悔に終わるかは分からない、分からないが、良いのだ。生きていく上で生まれるありとあらゆる選択肢を考えて、悩んで、迷って、それでも最後には自分で選んだなら。

 

 きっと後悔しても、胸を張って生きていける。

 自分の人生を、自分の手で切り開いていける。

 

 それが人に与えられた尊き命の輝きだ。

 

 人には、可能性がある。

 生きていれば、可能性がある。

 死んだら終わりだ。

 もう言葉を交わせない。もう真意を知ることが出来ない。

 話せるうちに、伝えられるうちに、手が施せるうちに、助けられるうちに、救わねばならないのだ。

 

 

「私は断じて許さない! そのような理不尽を! 世の残酷さを! 不幸な悲劇を!」

 

「分不相応も! 生来の柵も! 差別も偏見も大罪も! あらゆる不条理に神判を下し、この世にまだ見ぬ天下泰平を実現する!」

 

「運命は天上の繰り糸ではなく、我らが手中にあるのだから!」

 

 

 それはあまりに純粋な輝きだった。

 何がそこまで彼女を駆り立てるのか、その真意は定かではない。 

 だが、その言葉は、その叫びは、その慟哭は、確かな輝きと炎を宿して広間に集う人々の心を打ち、魂を震わせる。

 

 生来の柵を厭わず輝くその姿にハーフエルフの少女は心を震わせ、

 分不相応を、理不尽を、真正面から迎え撃つその覚悟に使用人の少年は胸を熱くし、

 見栄に拘る騎士にさえ美しいと思わせ、

 運命を自らの手で掴み取るその姿勢に公爵は感心し、

 運命に腐心する一人の剣士の表情を曇らせた。

 

 

「故に、私はここにいる。故に私は逃げない。故に私は己が心を偽らない。貴卿はどうだ? 己の心を誤魔化していはしないか」

 

「私は騎士だ。そこには一片の疑いもない」

 

 ホムラの問いに騎士は迷うことなく答え、更なる言葉をかける。

 

「君の主張は理解した。……彼の様子を見るに君の言葉は概ね真実なのだろう。だが、その手段が格式を重んじるこの場所へ押し入ることというのは頂けない。君は手段を間違えた」

 

「見栄っ張りな騎士は手段を選ぶ。それは正しきに遅延を招き、遅れた騎士は守るべきを守れない」

 

「詭弁だな。手段を択ばねば更なる被害を招きかねない。迅速さが常に人を救うわけではない。現に君の行いは君と君の家族を危険に晒すものだ。例え連れ出せようとも、罪は免れない」

 

 ホムラの言葉に、騎士は淡々と冷静な言葉を返す。

 正義に執心する少女を諭すように、一つ一つ丁寧に反論する。

 その言葉に偽りはなく、厳しいが騎士の方が現実を冷静に見ている。

 

 それを感情だけで反論するのは簡単だが、ホムラにはそれができない。

 

「………ああ、その通りだ」

 

 ホムラはもう感情に任せて正義を振りかざすわけにはいかないのだから。

 

「ホムラが、折れた……!?」

 

 その様に驚きの声を上げたのはスバルだ。

 声にこそ出さなかったがエミリアも、そしてフェルトもまた驚いている。

 あの頑固で意固地なホムラが自分の非を認めた。

 

 それは今のホムラが正常でないことを意味していた。

 

「私はきっと手段を間違えている。私にとっても、誰かにとっても。私は手段を択ばないのではなく、選べないだけ、それは偏に私が弱いからだ。貴卿を倒すこともできず、閻魔なくしてこの場に立つことすらできない。そもあいつを守れなかったのも私が弱かったからだ。ああ、不甲斐なく、情けない。私は口だけ達者な無力な人間だ」

 

 あまりにホムラらしくない弱気な発言。

 立て続けに己の信念を突き通せない事態が続き、なおかつ肉体の不調まで重なったことで、ホムラ自身心が弱ってきているのかもしれない。

 

 それは不信。

 自分の正義が正しいかどうか疑ってしまう。

 だが、それは間違いだ。何故なら、この世に正義なんて端からないのだから。

 

 そう、あるのは──、

 

 

「……では何故、君はここに来た。それが分かっていて何故」

 

「──それが、私だからだ。それ以上の理由はない」

 

「そうか。ならば私も私として、君を止めよう」

 

 

 ──私が私に、そして家族に誓った信念だけ。

 

 

「『正義の味方』ホムラ」

 

「『近衛騎士』ユリウス・ユークリウス」

 

 

 ボロボロな袴で身を包んだ少女が極限まで高まった炎を振りかぶり、『剣聖』に次ぐ『最高の騎士』が七色に輝く直剣を構える。

 

 一点特化の赤と、万物を滅ぼす虹の光が衝突して──

 

 

「爆ぜろ──アルイーラ!」

 

「君を止める──アルクラウゼリア!」

 

 

「ちょっと待ったぁぁぁぁぁぁああ!」

 

 

 譲れぬ者同士の衝突を、再び少年は妨げる。

 

 

◆◇◆

 






 その輝きは烈火の如くッ!
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