妄想の赴くままにィ! オレは止まらねぇぞォー!
◆◇◆
「またお前か、ナツキスバル。なんだ、人が格好つけている時に邪魔をするなど万死に値するぞ」
「万死は言いすぎじゃねぇ!? いや、そうじゃなくて! っだから!」
「はぁ、何が言いたいのか分からん。言うことを考えてから口を開け。見切り発車は自分の首を絞めるぞ」
「水を差したのは悪かった。本当に、頼むから俺を間に挟んでどかーんなんてことはやめてくれよ?」
「君は……」
「勝手に割り込んでおいて自分が人質か。悪知恵を働かせたな、別に私はお前ごと焼き尽くすことだって──」
そう言って再び凄まじい熱量を持った火球を生みだしてみせるが、
「──しないよ。お前は絶対それを俺に打たない」
「……あれだけ私の炎にビビっていた癖に、一週間見ない間にずいぶんと変わったみたいだな?」
「ほら、男子三日会わざれば刮目してみよって言うだろ?」
「ふん、時間稼ぎは十分だろ。それで、言いたいことは定まったのか?」
「……お前の気持ちはよくわかる。だけど、それでも、今は手を引いてほしい」
「私の話を聞いていなかったのか? 私はこれ以上信念を曲げることはできない。それは私が生きていく唯一の指針だ。信念なき余生に、私は意義を感じない。信念の喪失は、私の喪失だ。お前の言葉一つで変わるものではない」
「なら、お前が生きていてもいいって思える他の指針を、俺も一緒に──」
暴走する正義に身を焦がす少女を説得しようとするスバルの言葉を、賢人会の一人の翁の悲鳴が遮った。
「──ま、魔女だ、な、なぜ、この神聖な場所に、ふ、ふふふ二人も!? 半魔、魔女の係累! 魔女、魔女、魔女ぁぁぁぁ!?」
翁は賢人会というにはあまりに無様な醜態を晒してその場に蹲った。
気が狂ったかのように「魔女!魔女!魔女!」と、叫んでいる。
突然の発狂にさしものホムラも気勢を削がれた。
それも、その言葉の向けられた先はまず間違いなくホムラであるのだから。
「私が魔女、か」
「お、おいおい、急にどうしちまったんだ? あの爺さん。いくら国のお偉いさんだからって今この場でボケられるのは勘弁なんだが……ていうか、今、『半魔』って言ったか……?」
「…………」
スバルは老人の指さす先、そこにいるホムラへと目を向けるが、ホムラはいつもならその言葉を取り下げるよう反論しそうなものだが、今のホムラにはそんな様子はどこにもなかった。
ただ、今の自分の行いを省みているかのような。
魔女、とそう言われることになにか思うことがあるのだろうか。
「ならば私はさながら紅焔の魔女か。ふむ、悪くないな」
違った。ただ名前を二つ名を考えていただけだった。ていうか二つ名かっこいいな、おい。
「ああああああ!? はやくっ、はやくそいつをなんとかしろ!! 何をしている! 騎士よ! 貴族! 誰でもいい! はやくっ、あの半魔を、魔女をぉぉお!!」
「五月蠅い。少し黙っていろ」
「あ………ぅ………」
いつまでも叫んでいるイカレてしまった老人を威圧し黙らせるホムラ。
余計な横やりに次ぐ横やりで機を見失った。
ここからまた騎士と仕合うのも微妙に思う。
さてどうしたものかと思案し、ホムラの動きが、流れが止まったその瞬間に、
「紅焔の魔女殿。どうかお怒りをお納めください」
賢人会の代表であり、閻魔の服従支配から唯一逃れていたマイクロトフ議長が口を開いた。
「彼は人の血筋を読む加護を授かっているのです。おそらく貴方様の種族を知って驚きを隠せなかったのでしょう。それは彼の未熟さ故ではありますが、部下の責任は私にあります故、そのお怒りは私に。──時に、貴方様がハーフエルフというのは事実なのでしょうか?」
「さぁ、知らんな」
「ふむ……それは」
「私は生みの親を知らんのでな。そこの翁の加護がそうであると示したならばそれが事実なのではないか。私の知ったことではない」
「左様で御座いますか」
掴みどころのない会話。
この老人が何を考えているのか、その真意が読めない。
奴の真意を閻魔に問うも、その答えは『不明』であった。
まず間違いなく老人は何かしらの仕掛けを施しているはずだ。
「……どうにも調子が狂うな。何を腹に抱えている御老人。貴卿の真意が読めん。貴卿が精霊使いの素養を持っているようにも見えない。しかし貴卿は閻魔の調伏も真意を見通す力も受け付けていない。察するにそれをさせないミーティアを持っているのだろうが……大精霊にも劣らぬ閻魔の影響を防げるミーティアを何故、今この場で持っているのか、不思議でならない」
「? そりゃあ重鎮なんだろうし護身用の、そのみーてぃあ? ってやつぐらいぐらい常備してるんじゃ……」
『──否、魔法器とは万能にあらず。素養なき者の願いを成就する小器は古の魔女が作りし遺物。その力は偉大なれど、眇眇たり。我の恩寵を悉く防ぐ器など総じてあり得ぬ。あり得るとすれば、それは我に対して突出した専用の器に他ならぬ』
「おぉ、お前普通に喋れたのな」
「ふむ、精霊様の仰せの通り、これがそのミーティア。火のマナの干渉を完全に遮る王家の秘宝。これを此度は宝庫より拝借して参りました。いやはや、許可を取るのにいたく手間がかかりましたが、手間をかけた甲斐はありましたな。ほっほっほ」
「食えん老人め」
「な、なんでそんな、それじゃまるでホムラが来ることを予想してたみたいじゃねぇか……!」
「──ええ、その通り、我々は彼女の来訪を事前に予期しておりました」
「……マイクロトフ様、今何と?」
その言葉を聞き逃せないのはこの国の騎士であり、今先ほどまで少女と戦っていたユリウスだ。
その声に一つ頷き、マイクロトフはことの次第を話し始めた。
「ことは今より半年前、王族方々がお隠れになり、次代の王の選定について龍歴石に刻まれた時から決まっていたのです。今日、王選候補者の方々がこの場に揃い、そうしてこの場に憤怒の魔女が現れること。それらは事前に龍歴石のお告げによって予期されておりました」
「馬鹿な、何故そのことを我々に共有なさらなかったのか!?」
その言葉に反論を返したのは未だ動けぬ騎士団長だった。
「ふむぅ、この事実は我々賢人会の中で秘匿することが決定されました。それはこの場への侵入が可能とは考えられなかったというのも理由の一つとして挙げられます」
「くっ……」
それを言われてしまえば、問題はただの少女の侵入をここまで許してしまった騎士の落ち度だ。
予言があろうとなかろうと、守れなければその責任は間違いなく騎士の怠慢にある。
「お話を遮り、申し訳ございません」
それを理解し、団長はその場で頭を垂れた。
「いいえ、貴方の疑問も最もです。件の龍暦石のお告げは以下の通りでした。曰く、『現れるは憤怒に焼かれ怠惰を許さぬ傲慢なる魔女。其は王国に繁栄を齎らす運命の使徒。この国に再臨せし災厄の先触れを祓う神威の巫女なり。王国の歴史に名を刻む其を受け入れられたし、──決して龍の逆鱗に触れるべからず』、と」
そう、魔女の来訪は事前に予期されていた。
それは先ほど発狂していた老人も知っていたこと。
しかし、それが、その魔女がハーフエルフであったことが彼の恐怖を煽ったのだ。
それにしても予言の内容は大雑把であやふやなものだった。
要約するならば『いい魔女だから手を出すなよ』、とそういうことだ。
しかし、何故。
今日まで王国に繁栄を齎してきた龍暦石が、これほど一人の少女の運命を記述したのか。
これは今までなかったこと、故に賢人会でも意見が分かれ、結局来るかもわからぬその魔女のことは秘匿することに決まったのだ。
「なんだそれ……じゃあ、ホムラも巫女ってことなのか?」
「いや……龍の巫女とはどうやら扱いが違うようだ。しかし、そのような不穏なお告げ、王国の大事を我ら近衛にも知らせないなどと、何をお考えであるのか。それにお告げの内容はどこか龍が彼女を特別視しているかのような……」
「私が予言に、か。ふん、何とも光栄なことだな。忌々しい。私が運命などというクズの使者などと、世迷い言もいいところだ。──だが、一つだけ認めてやろう。私は確かに王国の歴史に名を刻むだろう。この国に蔓延る悪を撃つ正義の味方として、あるいは平和の象徴としてな」
「お前ほんとぶれねぇな!?」
天に向けて指を差し、宣言する。
己が平和の象徴となる正義の味方であることを疑わない。
「あなたが何者か、我々は知りませぬ、しかしあなたが王国に繁栄を齎らす可能性が示された以上、我々はそれを検討しなければなりませぬ。今度こそ御同行、願えますかな? 悪いようにはせぬと、私が誓いましょう」
ここまで侵入してきた不届き者には過ぎた温情だ。
一族郎党まとめて刑に掛けられてもおかしくない蛮行を犯したにもかかわらず、今王国を動かしている賢人会のトップに悪いようにはしないと言質を貰えたのだ。
スバルは、心底ほっとした。
とにかくこれで彼女がすぐに罪に問われることはないだろう。
一件落着──、
「──断る」
だが、ホムラはその温情を一言で切り裂いた。
「──は。な!? ここまでのご温情を賜って、なおも刃向かうというのか!? いくらお告げと言えどこれほどの無礼ッ!」
「ふん。何がご温情だ。すべてはそちらの都合だろう。私の行動をお前たちが勝手に決めるな。私は誰の言うことも聞かん。何があろうと、私は……」
その時、ホムラの身体が若干前へとぶれる。
極小さな変化。機微。
しかし、スバルは気づいた。
ホムラはもう限界、いいや、とっくに限界を超えていることに。
スバルが止めた時点で、もう限界を超越していたのだ。
「ほ、ホムラ──」
「ホムラ」
否、その兆候に気づいたのはスバルだけではなかった。
この場でずっと黙ってホムラの行動を見守っていた一人の少女が、今日初めて前へと出た。
壇上を降り、立っているのがやっとなホムラの前に立つ。
「ホムラ、行け」
「………フェルト。……たとえ、お前の言葉だろうと」
「──ホムラ」
その名前を呼ぶ声には、確かな拒絶の意思が込められていた。
さしものホムラも返す言葉を失う。
違和感。どっと、胸に圧し掛かるような重みがかかる。
「あたしは助けを求めてない」
「…………ッだが、お前はっ」
「……ホムラや、ここは一度退いて体勢を整えてはどうじゃ」
「ックロムウェル、お前まで何をッ」
お前だけは退くなんて言うべきじゃないだろう、今こそお前の役目だと、そうホムラの目は語っていた。
しかし、更なる静止の声をかけたクロムウェルことロム爺はしかし、冷静に、落ち着いた瞳でホムラを見つめた。
「ホムラ」
名を呼ばれる。それが、こんなにも苦しいものであることをホムラは知った。
「…………そうか。わかった。………いくぞ、クロムウェル」
「はぁ……まったくその名で呼ぶなと言っとるじゃろうが……本当に難儀な娘じゃ」
そうしてようやく、ホムラは折れた。何故。
また、ホムラは信念を突き通せなかった。何故。
また、拒絶された。何故。
間違えた。失敗した。
どうすればよかった。
何を間違えた。
私は、ただ、家族を……
「……お待ちを、この娘の予言は賜りましたが、このご老人の安全は保証されてな…──」
「──黙れ、目障りだ」
立ち塞がった騎士をホムラは地に叩き伏せる。集めたまま行き場を失っていた大量のマナを使って、上から叩きつけ無理やり地に沈める。質量を持たぬ純粋なマナを莫大な量消費することで実現できる力技だ。
「むぅ、何を不機嫌になっておる」
そんな魔法の使い方をするホムラはハッキリ目に見えて不機嫌だった。
それは、フェルトに拒絶されたこともあるが、原因はもっと根底のことだった。
ホムラは退却しながら想起する。
それはホムラとフェルトが出会った時の口約束。
『この恩は一生忘れない。私に何かできることがあれば、この境遇だろうとなんとでも……』
『いいよ、そんなの。少なくとも今はな。あたしの人生はあたしのもんだし、あたしはこの状況に関して助けを求めちゃいねーよ』
『そうか、強いな』
『ああ、こんなとこでこそ強く生きなきゃだからな!』
『なら、助けが必要な時は言え、それが人道に反するものでない限り私は命を賭してお前を助けよう』
『はっ、覚悟決まりすぎだろお前。どう生きたらそんな風になるってんだ? ま、嫌いじゃねーけどさ。じゃ、あたしが困ったら助けてくれよな』
『ああ、必ず』
想起される。
それは初めてであった日のこと。王都に入れたはいいものの、行き場所もなく食べるものもなく野垂れ死にそうになってたところをフェルトに拾われたのだ。
本当だったら、あのまま死んでいてもおかしくなかったのだ。
だからこそ、あの龍暦石の予言が気に食わない。
あれは、運命などではない。そんな、ちんけなものではない。
あれは、フェルトの優しさと意思ゆえに生まれたものだ。
断じて天上の脚本によるものではない。
私が生まれたことも、私がこのような信念をもったことも、王都に来たことも、フェルトに出会ったことも、何もかもが運命だというのなら、初めから決まっていたことだと言うのならば、私は──。
『逃げろォ!』
『はやく、こっちだ!』
『なんでって、そりゃ、お前、俺に聞くなよな』
『オレ、お前の信念好きだぜ、だから──』
私は、救われてばかりだ。
逃げろ、そう言って爺様は私を逃した。
はやく、こっちだ、そう言ってガキ大将は母の死を堪えて私の手を引いた、怖いだろうに泣きたいだろうに。
初めて握った男の手は、自分より大きく力強かったのを覚えている。
どうして、私は救われてばかりなんだ。
どうして、私なんかを助けようとする。
疑問が拭えず、ガキ大将という印象にそぐわぬ真似をする男の子に、私は聞いた。
そしたら、そいつは急に顔を赤らめて。
私は世間知らずで恋沙汰に関して無知だったから、そいつの真意が読めなかった。
『あぁもう!言ってやる!言えないで死んでたまるかってんだ!俺はな!俺は、お前が……綺麗で強くて、時々抜けてて天然で、そんで時々こっちを殺しに来てるのかってぐらい儚げに微笑むお前が、お前のことがな! 好きなん──』
覚えている。一語一句。忘れることなく覚えている。忘れられるはずがない。
私はその時生まれて初めて人の好意というものを知ったのだから。
そうして同時に私は怒りに燃える炎を知ったのだ。少年の喉を邪な刃が切り裂いて、私の方へと倒れ込んできたその時に。やり直せぬ時の残酷さを前にして。
人が変われるということと、絶対に、赦せない悪が存在することを知ったのだ。
強さだけではダメだと知っているのに、私は今、怒りを正当化して駄々を捏ねているだけ。子供だ。過去から何も学んでいない。恥知らず。
それでも、その怒りの最たる矛先は、ホムラ自身だ。
なによりも、自分への怒りを抑えられずにいた。
救えない。助けられない。それは無力。
自分の無力さを嘆いている暇があったら次の策を考えろと冷静に冷静に頭ではわかっているのに。
己の無力が、ただただ憎い。
そんな少女の頭に大きな手が乗っかった。
「そうあまり溜め込むでない。お前さんは大概子供らしくないが、そんなところまで大人らしくする必要はないんじゃ。もっと素直に気持ちを伝えることを覚えるんじゃな。まぁ、フェルトはそれでもお前さんの気持ちぐらいわかっとるじゃろ。あまり自分を責めてやるな。少なくとも、ワシらが来た時フェルトは安心したような顔をしとった。お前さんのした事は無意味じゃないじゃろう」
「ふん、それはあんたも同じだろうが、歳を取ると説教臭くなっていかんな」
「ったく、それが素直じゃないと言うんじゃ」
「……すまない。止めてくれてありがとう。私が、間違っていた」
「お礼だけは素直に言えるのが、存外タチが悪いの。別に悪いことだとは思わんが……」
「感謝は、生きている間に、伝えられるうちに伝えるべきだ。私は、感謝の示し方を間違えた」
「そうじゃな」
「……あんたも共犯の癖に偉そうだな。どう言う風の吹き回しだ? 老いた爺が妙に生暖かい目を向ける。はっきり言って気味が悪い」
「ふん、わしはまだフェルトを連れ戻すことを諦めとらん。今は場が悪く退くしかないだけじゃ……だけじゃが、わしは、何もできんかった。わしは、ここに来ただけで、あの子の為に叫ぶことも足掻くこともできなんだ。だから、わしはお前さんに感謝しとるんじゃ。あの子が今はまだ助けを求めていないこともわかった。それがわしが諦める理由になるわけではないが、それを知れたのはお主のおかげじゃ。だから、ありがとうの」
「……そうか。どういたしまして、だな」
「うむ」
魔女と巨人の異色のコンビは、この神聖なる場所に堂々と侵入を果たし、堂々と退出を果たしたのだった。
そうして、その後ろを数人の騎士が付いていった。
◆◇◆
二週間分のネタがあっという間に消滅と。
はてさて、終幕へ向けて加速していきたいところではあるけれど、そうなるとスバルの一週間の話がー、まぁ、どっちにしろ必要にはなるけど、テンポがなぁ。
んー、白鯨に……ペテ公に……あいつにあの人にクソ野郎と、んでホムラ、と。
次からだいぶスバルの話になってしまう予感。
おかしいな主人公ホムラのはずなのに。
※現在鋭意試行錯誤中です。可能性と結末が無限択ありすぎて最良を探しています。概ね決まってるんですが、どうせならちゃんとしたものにしたいのでもう少しお待ちください。
大まかな筋書きが完成しました。
プロットを書こうと称して活動報告で筋書きを纏めようと思います。それが終わったら執筆再開します。ゼロカラワカツイセカイセイカツの方も並行して書いていこうと思ってます。よろしくどうぞ。