Re:ゼロからオリ為す異世界生活   作:萎える伸える

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『個別ネタ』
『神授のティアドロップ』


◆◇◆

 

 見たいものがある。

 それはとびきり凄いもので、とんでもなくおっきくて、途轍もなく途方もなく心を揺さぶるもの。

 

 見たものを魅了し、その魂までも掴み取って絡めとって離さない。

 鮮烈なまでの魅惑の色気。

 

 見たい。見たい。見たい。

 あなたの泣き顔が見たい。

 その醜く崩れる表情が見たい。

 その透明感のある曇りなき雫が頬をだくだくと伝うところを見たい。

 悲しくて、悔しくて、嬉しくて。

 何でもいい。どんな泣き顔もきっととびきり大きな感情が籠っているから。

 

 あぁ、、、脳が、震える

 

◆◇◆

 

 退屈だった。

 意味のない人生だった。

 何もしたいことがなかった。

 

 何をしようか。何もしたくない。

 興味ない。どうでもいい。

 勝手にしてくれ。オレには関係ない。

 

 そんな退屈に過ぎる森での暮らしが終わったのは、ある日のことだった。

 

◆◇◆

 

「なぁティア、お前、大人になったら何になりたいんだ?」

 

「大人になったら? 、さぁ、これまで通りここで暮らすんじゃない」

 

「いや、そうじゃなくてだな、、、」

 

「なんなの急に?」

 

「いや、、、お前ももうすぐ十五になるだろう? そろそろ外に出たい年頃かなと思ったんだ」

 

「、、外? 何言ってんの父さん。ボクはハーフエルフなんだよ。こっから出て忌み子がいったいどこへ行くっていうんだよ。ただのエルフでさえここに縛り付けられてるのに」

 

「そう、だよな、、」

 

「、、なに、父さんは外に出たいわけ? まぁ、父さんは人間だもんね、それもエルフと子供作っちゃうようなとびきりの冒険家。でもボクはそんなのどうでもいい。この森での不自由はボクを守るためのものだ。それを嘆いて守護を捨てて森を出て自由を得ようなんて面倒な考えはボクには全然ない」

 

「そうか、、いや、な。父さん、お前には幸せになって欲しいと思っていてな?」

 

「幸せだよ、何言ってんの」

 

「はは、そうか、幸せか」

 

「うん」

 

 幸せ、そう(うそぶ)く子供と青年の中間、およそ中学生ほどの背丈の少年。そんな少年の瞳は、その声音は、この明るく平穏な森の中の隠れ里の誰よりも、冷たく冷めていた。

 

「、、父さんが若い頃はな、色~んなところを旅してまわったんだ。西のカララギも行ったし、南のヴォラキアにも行って騒動に巻き込まれたりなんかしてな。いやぁ、あん時はやばかったなぁ、、」

 

「知ってるよ、旅して、冒険して、出会いと別れを繰り返して、それでも進み続けてここに辿り着いたんでしょ、もう何度も聞いたよ」

 

「ああ、そうだ。この秘境に辿り着いて、母さんに出会って、ああ、惚れこんじまってな。本に名を刻んだ冒険家の執着点が決まったってこった」

 

「本に名を刻むって、、自分で書いた書籍でしょ? わざわざ自分の経験を本なんかにして何がしたかったの? 金儲け?」

 

「かぁ、、お前ってばほんとオレに似ない奴だなぁ、どうしてそんなに捻くれちまったんだか」

 

「顔はそっくりだけどね」

 

「おう、んで髪色は母さん似な」

 

「別に嫌いじゃないけどさ、この銀髪。でも、父さんは銀髪のエルフって怖くなかったわけ? 大の冒険家はそんなとこまでリスキーを楽しみたいわけ?」

 

「いやいや、魔女がどうだなんて関係ねぇのさ、惚れるときは一瞬だ。だいたい嫉妬のやつが銀髪のハーフエルフったってオレぁ実物なんて見たことなかったからな、実際母さんを見てみればわかるだろ? ありゃあ魔性ってなもんだぜ、ティア」

 

「、、まぁ、母さんは美人だけど」

 

「だろーぉ? あいつぉ射止めたオレってばなかなかやるもんだろーが」

 

「はいはい、そうだね。父さんすごーい」

 

「ほんと、最近の母さんそっくりだな、冷たいったらありゃしないぜ、エルフの血ってのはここまで強いもんなのかね」

 

「んー、確かに。血にはマナが宿るっていうよね。この間読んだ本に書いてあった。エルフは魔力に富んだ種族っていうし優性遺伝に近いのかもね」

 

「んぉ? おいおい、おれぁ難しい話はわかんないぜティア、お前いったいどこでそんな知識仕入れてきてんだ?」

 

「、、村長の家に無駄にたくさん本があるんだよ。昔の、まだ魔女が現れる前の研究とか文献がさ」

 

「はっ!? おいまじかよ! なんでオレに行ってくれなかったんだ! そんなの読まないわけにはいかないだろうが!」

 

「、、父さんは読ませてもらえないでしょ、人間なんだから、というかそもそもエルフの字読めないでしょ」

 

「おいおい、そこでも区別されてんのかオレってば、、まじかよ、ちょっと心に来るぜ。あとあんまり父さんを舐めるなよ、父さんはカララギ訛りもヴォラキアの少数民族とさえも普通に話せるぐらいコミュ強なんだからな」

 

「対話力に自信があるのは結構だけど、それと読解力はまったく別のものだからね。それにエルフ語の中でも古代エルフ語に近いから長老でもほとんど読めないって言ってたよ」

 

「、、それをお前は読めるってのか?」

 

「、、まぁ」

 

「、、、吉報、オレらの息子天才だった件」

 

 

 ガチャ

 

 

「あら、今更気づいたの?」

 

「お、おかえり」

 

「おかえりなさい」

 

「ん、ただいまっ、今日は何してたの?」

 

「親子団欒して仲良くしてたぜ、ほめちくりぃ」

 

「そう、偉いわね、あとでおっぱい触らせたげる」

 

「まじ!? よっしゃーッ!!」

 

「、、悲報、思春期の息子の前でセクハラ発言をかますハラスメント親子が両親だった件」

 

「なによ、あんたもいつか好きな子出来たらおっぱい揉むでしょうが、もういい歳なんだから彼女の一人でも作って私に紹介しなさいよね、そしたらあんたより先にその子の胸揉んで大きさ確かめてあげるから」

 

「うん、好きなことかいないし作るつもりも毛頭ない、ないけれど、例え万が一いたとして絶対に紹介しない。絶対に」

 

「あらそう? 残念、でも私もうエミリアちゃんのおっぱい揉んじゃったのよね」

 

「おう、こらクソババァ村の御神童になにしてやがる」

 

「あらあら、うふふ、語気が荒くなってるわよティア、そんなにあの子のことが大切なのかしら?」

 

「大切も何もこの村で一番尊い存在だろうが、あんな天使ほかのどこを探してもいねぇよ」

 

「森の外に、というか村の外にすら出たことない癖によく言うわね」

 

「ふんっ、父さん、言ってやってくれよ、今まで見てきた中で一番尊かったのはエミリア様だってさ」

 

「もう、それは、、、」

 

「はっはっは! 一番尊い子が誰かって?! そりゃお前」

 

「あなたに決まってるじゃない」「お前に決まってるじゃねえか」

 

「、、、っんだよ、バカ両親、恥ずかしいこと言ってんじゃねぇ、バカじゃねぇの、バカだよ、バカすぎるでしょ、何言ってんだか、ったく」

 

「照れちゃってまぁ」

 

「ははっ、もう十五だってのにいつまでも変わんねぇなぁオレらの息子は」

 

「もう十五ったって、エルフ的に言えば赤ん坊もいいところだろうが」

 

「、、あぁ、そうだったな、そうだよなぁ」

 

「、、あなた」

 

「んいや、わかってるよ、寿命の差なんて、わかってて結婚したんだ、子作りに関してもそうさ、だいたい親は子供よりも先になくなっちまうもんだからな、わかってるぜ、わかってる、、泣きゃしないさ」

 

「世界中を冒険した偉大な冒険家の最後が、家で布団の上で息子と語り合うことだなんてね」

 

「おいバカ、勝手に殺すんじゃねぇ、、、長老の言ってたのはもっと先だ、もっとも治らないって確約はもらったがな、はっは」

 

「、、、」

 

 

 父さんの体は黒い斑紋に覆われていた。もうまともに歩けはしないし、よほどのことがない限り家からも出ない。この家にはエルフの封印が施されていて疫病を外に出さないようになっている。

 それは子供と奥さんに呪いを移さないようにという村の計らいである。父さんは大冒険の末、とある事件に巻き込まれた。とある魔獣と出会ってしまったのだ。そうして、仲間に救われて父さんは生き延びた。生き延び、仲間の為にも生きながらえねばならないと呪いを説く方法を探した。

 

 そうして、エルフの秘薬という眉唾物に縋って求め探して、この村にたどり着いたのだ。

 

 しかし、現実はファンタジーでも偉大な英雄譚でもなかった。男はそこで寿命と不治を伝えられただけだった。それでも、男はそれを不幸とも悲劇とも思わなかった。絶望なんてしていなかった。

 

『ここに秘薬がないのなら、おれが自力で作ってやらぁ』

 

 男は得意のコミュ力で交渉しここに居着いた。他種族を歓迎していなかったエルフたちを説得し、仲良くなり、ついには結婚まで果たし、子供を産むことさえ可能にした。とんでもない生命力である。

 

 その生命力も、息子を作ってから徐々に影が差してきていた。満足、してしまったのかもしれない。あまりに尊いその存在に。尊死してしまったのかもしれない。

 

 

「、、そんなの、認められるわけがない」

 

 

 ボクのせいで父さんが死ぬ? 尊死? 幸せな最期? だめだね、全然だめだ、ボクはそんな最後赦さない。そんなの、嫌だ。

 

 だから、必死に努力する。文献を漁って、魔法の勉強をして、本を読んで、父さんの容態を調べて、情報をかき集める。

 

 そうして、わかったのは、それが『黒蛇』の呪いであること、それだけだった。

 

「母さんも帰ってきたことだし、ボクは出かけてくるよ」

 

「、、そう、気を付けてね、あんまりエミリアちゃんを困らせちゃだめよ?」

 

「いやエミリア様に会いに行くわけじゃないから」

 

「うそ~? もう、思春期の子供を持つと大変だわ」

 

「余計な世話を焼く母親をもつと大変だね」

 

「、、あなたは私たちの子供だもの、余計なお世話はお互い様じゃないかしら?」

 

「、、察しのいい母親は嫌いだよ」

 

「おう、オレの傷が治る秘薬ができるの楽しみにしてるな~、あんまり遅いとおっちんじまうからなぁ~、できるだけ早くしてくれよ~優秀な息子~」

 

「、、前言撤回、察しのいい両親とか虫唾が走るよ、、いってきます」

 

「いってら~」

「気を付けて~」

 

 

 ガチャン

 

 

「行ったな」

「行ったわね」

 

「そんじゃ、準備するか」

「そうね」

 

 

 一方、扉を閉めたティア。

 

 

「何が、何が余計なお世話だ。余計なわけ、あるもんか、、長老が言ったからなんだ、偉大な治癒術師である母さんにも直せなかったからなんだってんだっ、ボクは、僕はっ」

 

 胸が苦しい。心臓が鳴る。

 

 それは、高まりさ。

 

 興奮さ、まだ見ぬ栄光に脳を焼かれて熱くなって燃え上がるのさ。

 

 

「オレはっ! 偉大なる冒険家、ロイ・アルファドラスの息子だッ! これっぽっちの絶望も諦念も相手にとって不足ありってなもんなんだよ! 父さんから受け継がれたこの血がっ! 『挑め』『挑戦しろ』『お前なら、できる』って、そうオレを焚きつけてくれてんだよ! 諦めてたまるかっ!」

 

 

 走る、走る、その顔に不敵な笑みを浮かべて走るのだ。

 

 俺ならできると心が叫んでいる。

 俺ならできると信じている。

 

 父さんを苦しみから救い。

 母さんを孤独から救い。

 

 エミリアのことも、ジュースのことも、エルフ差別だってどうとでもしてみせるんだ!

 

 だって、オレは、、、

 

 

「、、この村のみんなが大好きだからッ!!」

 

 

 全身で全力で叫ぶのだ。

 未だ来ぬ希望を追い求めて走り続けるのだ。

 

 希望は、いまだ見えない。

 

 走り、走り、その影はだんだん小さくなっていく。

 

 その背後に、とびきりの絶望が迫っていることを、まだ、誰も知らない。

 

 

◆◇◆

 

 

 さあて来週のティア・アルファドラスくんは?

 

 次■『イタダ■■ス』

 

 ■々回『来■る■■のペット』

 

 その次■日『生き残った男の子』

 

 

 でゅえるすたんばい!

 

◆◇◆

 

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