Re:ゼロからオリ為す異世界生活   作:萎える伸える

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 まぁ、妄想ってなぁこんな感じよネ

『マリステラ』


ゼロカラツグナウイセカイセイカツ

「馬鹿な馬鹿な馬鹿なぁぁぁぁ!!!!」

 

「終わりだ。ペテルギウス・ロマネコンティ」

 

 

 最後の別れの言葉を告げた。

 

 

「──おいおい、死ねるなんて………おい、なぁ………羨ましいなぁ? ──おい」

 

 

 確定された未来が、覆されたはずの運命が、更なる理不尽でもって反転す。

 

 

「は?」

 

「おぉ! おぉぉぉぉぉぉ!!! アナタはッ!」

 

「やぁペテルギウス司教、いい日だね。今まさに死にそうって感じ? おれっちってば危機一髪って感じ?」

 

 

 軽快な言葉。それは現状にあまりにそぐわず。幾数回もの死に戻りでも出会うことのなかった正真正銘赤の他人の戯言。それが、こうまでもスバルの危機感を煽る。

 スバルの本能が告げている。今、運命は確定したのだと、抗うことの出来ぬ『災厄』が剣臨したのだと。

 

 

「……あぁ、スバルんだ。そっかそっか、これが、へぇ……」

 

「………お前は」

 

「ぁぁぁぁああぁぁぁぁぁああああ、あなたあなたあなたあなたあなたァァァ! 何故にこの場所に、今、この時、この瞬間現れたのかッ、いえ、いえいえいいえッ! あなたがこの場にいることこそが何よりの証明ッ! それが、福音のお導きなのデスね! あぁ、勤勉なる同輩よ! 敬する大司教よ!」

 

「あぁ………福音、福音ね。大事だよね福音は。………でも、忘れたの? ここに僕を呼んだのは、君だろ? 言ってたじゃんか、相応しき器を見つけたから『試練』を行うんだって、ならさ、僕がいないとだめじゃんか、試練になによりも重要な僕がさ」

 

「あぁぁぁ、あなたは、あなたという方は、福音の導きならずとも己の意思でッ、勤勉にッ、寵愛に、魔女にッ、愛にィィィ報おうというの、デス、かッ! 実に実に実にィ、脳が、ふる、える………」 

 

「死にかけじゃねぇか、ほら、肩貸してあげるから、ちょっとはお休み勤勉坊や」

 

「あぁぁぁ、魔女………魔女ぉ………」

 

「………はぁ、これだから精霊は嫌なんだ」

 

 

 大司教と呼ばれた青年はぼろぼろのぼろ雑巾のようなペテルギウスの首を打ち気絶させた。

 

 

「なに、を………何、言ってやがる! おま、お前ッ! お前らッ!」

 

「──死ぬなんて、許さないんだから。俺だけが苦しむなんて許されないんだ。お前はまだ狂っていてもらわないと困る。愛する彼女に顔向けできなくなるまで、罪を『怠惰』を大罪を、積んで積んで積み続けろ、そしたらいつか、来るべき時に──俺がお前を治してやる、せいぜい踊れよ『道化師(ペテルギウス)』」

 

「──ッ! なんだ、これ………」

 

 

 一切、こちらを見ない名も知らぬ青年。

 ふと、スバルは違和感に気づいた。否、違和感なんてものではない。現実と理解の断絶だ。気づけば世界から音が消えていた。風はなく、熱はなく、命のない世界。

 

「───」

 

「オットー………」

 

 咄嗟に振り向けば、そこにはまるで凍りついたかのように固まって動かない、銅像と化したオットーの姿があった。

 

 

「ねぇ、スバルくん。スバルくん、あぁ、羨ましくも敬愛するスバルくん」

 

「な、あ………」

 

 

 気づけば、そいつは目と鼻の先にいて。

 

 

「僕はね、スバル。君が好きだ。でもこれは僕の意思じゃない。僕に憑りつく『嫉妬』の意思だ。ああ、忌々しい愛おしい妬ましいナツキスバル」

 

「あ、がっ………」

 

 

 知っている。スバルはこの感覚を知っている。それは、死に戻りを口に出し魔女に咎められる時と同じ気配、圧力。時が止まり、心臓を撫でられる恐怖体験。

 青年がスバルの喉元に手を掛ける。逃れることなどできない。あまりの理不尽に、理解の外にある現象に、もしこの後死んだスバルは、果たして立ち上がることができるだろうか。

 

 勝てるのか、あるいは逃げられるのか、どうにかできるものなのか。

 考えても答えは出ず、少しずつ寒さが指先から心臓に向かっていく。

 血が止まり、呼吸が止まり、世界が終わる。

 

 ──………こわい。

 

 絶望。

 

 

『──スバルくんは、英雄なんです』

 

 

 

 

「だッ、れが、この程度の………お前みたいな頓珍漢相手に絶望するものかよッ! 俺はっ、レムに願われ、あの子を助ける、英雄に………っ!」

 

「………美しいね、強いね、羨ましいね」

 

 

 青年の手が引いてゆく。

 

 

「おめでとう、なつきくん。君は怠惰を打倒した英雄だ。この『怠惰』は君のものだ。………ああいや、これは元々君のものだったか。ま、どっちでもいい」

 

 

「ねぇ、スバル。──サテラを助けたいかい?」

 

 

「それは、エミリアさんを犠牲にしてもかい?」

 

 

「君は、選べるのかい? 君なら選べるのかい? おれっちには選べなかった命の選択を、君ならできるのかい?」

 

「………は、あ?」

 

「………また会おう。きっと今度はもっと楽しくなる。ラムを連れてくるといい、彼女の重荷は僕がきっと除いて見せる。君はおれっちの言うことを信じたりしない。信じたりはしないが、君は僕に頼らざるを得なくなる。愛しい愛しいお姫様を助ける為に、君は手段を選んではいられないのだから」

 

 

 ──ど、くん。

 

 

 痛い、苦しい、何かが心臓のさらに奥の最奥を侵している。穢し、満たし、染め上げる。そうしてまるで元からそこにあったかのように書き換える。それは儀式。試練とはまた違う。果たされなければいけない、過去から今に紡がれる奇跡。あるいは運命。

 

 四百年も想い人をほったらかした『怠惰』な少年の残滓。

 

 

「いつか、君は『これ』も取り返しに来るんだろう。ああ、『嫉妬』せずにはいられない。僕にはないその才能に、僕にはできぬその選択に、僕には得られぬ彼女らの愛に、ああ、アア、嗚呼、その強欲で、その色欲で、その怠惰で、その暴食で、その憤怒で、その傲慢で、いつか取り返しに来るがいい。君が授けた彼女の愛を」

 

 

 言ったっきり、青年を影が取り込み始める。足元から浮かび、死にかけのペテルギウスと青年を覆う。知らずともわかる、青年はこのままどこかへ消える。言いたいことを言うだけ言って立ち去ろうとしている。

 スバルの知らないことを延々と一方的に言って、一人満足して去ろうだなどと、それでは許せない。

 スバルは最後の意地で、青年に問うた。

 

「お前は………」

 

「僕?」

 

 

 

「僕は魔女教大罪司教『嫉妬』担当──『共贖(キョウショク)』のマリステラ」

 

 

 

(あい)してるよ、スバル」

 

 

 そう言って青年──マリステラとペテルギウスは影の中へと消え、後には入れ替わるように現れた二体の黒装束の亡骸が残った。

 

 

 その後、スバルは心臓の痛みと胸のつっかえを抱えたまま、エミリアとの仲直りと人生初めての告白を果たしたのであった。

 

 

◆◇◆

 

◆◇◆

 

◆◇◆

 

 

「お前、気づいてないのか?」

 

「は?」

 

 

 決着はついた。さんざん他者を冒涜し、その意思を凌辱し、あまつさえ己を正当化させ続けた狂人は久々に帰ってきた心臓に歯向かわ、致命打を負った。

 ついに彼の強欲を突き動かす根幹は砕け散り、癇癪と強情のままに暴れ続けた現代の魔人も結末へのカウントダウンを始めた。

 姫をさらったラスボスは姫を想う勇者の手によって倒される。

 それは抗いようのない『運命』。これは、この世界は、白雪の如き姫の勇者であり、眠れる姫の英雄である彼を主人公とした、物語なのだから。

 

 だが、そう。

 

 物語は、歴史は、経てして後世の者によって捻じ曲げられるものである。

 

 

「──あぁ負けたんだね、レグくん」 

 

「お、まえ、はァァァ!!」

 

「………マリステラ、だな」

 

「おやおや、目が据わっているねぇ~ナツキスバルきゅ~ん、浮気はよくないぞ~? あれ、違ったか! お嫁さん公認の愛人だったか! あっはっは! なっさけないねぇ、スバルくん!」

 

「お前ッ!」

 

「──ラム、連れてきてくれたんだろう? ふふっ、ラムちーに言われたんだろう? レムを助けられる手立てがあるのなら私に遠慮するのはやめなさいって、信じなさいって! それで、ぷぷっ、それに、くくっ、甘えて! 甘えて! 恋人のお姉ちゃんに甘えてぇ! 連れてきちゃったんだ! あっはっはっはっは! 超ウケル! 愛おしいほどに愚かしいねぇ!」

 

「なにを、僕の前で、僕という存在がありながら、お前はァ、いつもいつもいつもいつもいつもッ、はやく僕を助けろ! いつまで下らない戯言を続けるつもりだッ! 僕は──!」

 

「ふーん、レグくんは変わらないね、もう百年も経つのに昔のまんまだ。ハッ──まだ幼馴染に執着してるの? 幼馴染もハーフエルフだったものねぇ! 君に迷惑だからって自殺しちゃったもんねぇ! 彼女を迫害する親縁まで殺してあげたのにねぇ! くはっ、あははっ! 殺しなんて好きじゃないのに、たくさん殺して! 妻なんて求めてないのに、ハーレム気取って! 求めた彼女は君を想って自分勝手に死んでった! あっははははは! 流石は魔女に哀れまれただけはある! 哀れまれるのが何よりも嫌いなくせに! ぷっ、ああ違うか! だからこそ哀れまるのが君は嫌いなんだ! だって、君の手に入れた力は、権利は、魔女因子は! 嫉妬の魔女が同情で与えたものだ! 君は余計なお世話でこんな目に遭っているんだから! ウケル! これがウケないで何がウケルってんだよ! 怖かったんだろ? 彼女以外の女を好きになるのが! 怖かったんだろ! 彼女たちに惚れられるのが! だから横暴に振舞った! だから女を遠ざけた! 求めちゃいない強欲に突き動かされて彼女の残滓をかき集めた! 君の権能『小さな王』は箱庭の王ではなく子供の王様。求めるすべてを過去に置き去りにした愚鈍で幼稚な裸の王様だ! 下らない! 実にくだらない!」

 

「なっ、あっ、おま──」

 

「君はまったく羨ましくない。故に一切の恨みはない。健やかに死ねよ、臆病者の、くくっ、レグルス・コルニアス。おれっちに殺されといた方が君は幸せだろう? これは温情だ、レグくん、元親友としてのささやかな介錯さ、さようなら、そしてお疲れさまでした、『アルバの英雄』」

 

「ぼく、は………………ある、ば………──」

 

 

 レグルス・コルニアスは、災厄たりうる狂人は、スバルとエミリアの前に立ち塞がった大悪は、ひどく不快な煽り声の前に息絶えた。

 スバルには見えなかった。あいつは何もしていないように見えたのに、気づけばレグルスの眼前に迫っていて、そして額に触れた。それだけで、あれだけ醜く騒ぎ立てていた癇癪者が言葉を失った。

 気づけば、ぼろぼろだったレグルスの肉体は綺麗に整えられていて。あいつの言っていた介錯というのもあながち嘘ではないのかもしれない。親友とも言っていたように思う。

 

 この前とは違う、時間は止まっていない。

 だから、

 

 

「あなたは、何?」

 

「誰ではなく何、とは、なかなかどうして察しがいいですねエミリア様。やはり世界に愛されるお方、精霊が教えてくれますか」

 

「あなたは、あなたは………言葉にしにくいけど、普通じゃない。まるであなただけ空間から切り取られているみたいにマナから弾かれている………あなたは、何なの?」

 

「………ほんと、勘のいいガキは~ってやつ? 助け助けられるあなた方はほんに僕は妬ましい。妬ましくて羨ましくて頭がどうにかしそうだよ、だから」

 

「お前と雑談する気はない、何しに来たマリステラ」

 

「ふふっ、だから、僕は君が好きなんだ。これは僕の意思。僕をまっとうに憎んでくれる、その嫌悪と厭悪が心地いい………そうだねスバル、まずはおめでとうと、そういうべきかな? あなたは怠惰を打ち、強欲を下した真なる英雄だ──! 素晴らしい! おめでとう! どこぞの日和見主義の『奴隷』とは大違いだ! ねぇ? 『簒奪』の剣聖、ラインハルト・ヴァン・アストレア」

 

「──君は危険だ」

 

「そんな前置きしなくたっていいよ、かかってきなよ、観覧者の便利な玩具」

 

「『剣聖の家系』ラインハルト・ヴァン・アストレア」

 

「はいはい、『王族の家系』フェリシア・フォン・ルグニカ」

 

「っ!」

 

「ばーか」

 

「──っは? んだこれ──え?」

 

「──ッ! フェルト様ッ!!!?」

 

「これだから力だけ持った馬鹿は嫌いなんだ、人を舐め腐ってる。僕が何の手も持たずに君の前に立つとでも? それとも君の『予測の加護』には写らなかったかい? 加護に頼りすぎなんだよ。『剣聖の加護』がなければ剣を振る理由もわからない愚か者が」

 

「ああっ、そんなっ」

 

「………僕を前に主君の心配、かっこいいね、かっこいいし情けないよ。ほんと意志薄弱、こんなちっちゃな少女に頼らないと何にも決断できない」

 

「フェルト!?」

「フェルトちゃんっ!」

 

「はいはい、剣聖さんはさっさとお離れくださーい、あなたがいると治癒魔法が使えないんですー、でてけー、でていけー、──ほら、出てけよ」

 

「────」

 

「──っラインハルト!」

 

 

 一瞬にしてラインハルトが消失し、ラインハルトがいた場所にはどこからともなく水が現れ、ばしゃばしゃと床を濡らし水たまりを作った。

 何がどうなっているのか、原理が全く分からない。

 レグルスの時とは違い、あいつの名前は星ではない。大罪司教は全員星の名前を冠していた。魔女たちは衛星の名を冠していた。されど、そう、マリステラという星はなければ、衛星でもない。それは奇しくも『嫉妬の魔女』サテラと同じ、他とは何かが違う名前。

 あいつが名前を偽っている可能性もあるが、スバルには諦念を秘めた瞳と共に名乗ったその名前が、嘘偽りだとは思えなかった。

 

 

「ほら、エミリア、僕はスバルと話があるから、君はあっちでフェリシアちゃんの治療をしておいで、同じ世界に愛された仲間だろう?」

 

「っ、あなたはっ」

 

「………エミリアたん、俺は大丈夫だから、今はフェルトの治療を優先して欲しい」

 

「あ、ちなみにあの優男は大瀑布に飛ばしたからしばらくは来れないはずだよ、安心して治療に集中してね」

 

「………スバルに何かしたら、許さないんだから」

 

 

 

「ったく、愛されすぎだろ。やるね、あんな綺麗な子落とすなんて、はぁ、おれっちじゃ逆立ちしたってできはしないよ、妬ましい」

 

「ふざけんな、エミリアたんに指一本でも触れてみろ、俺は絶対にお前を許さない」

 

「あっそ、君の脅しに何の価値があるのさ、あ、死に戻りでどうにかしようとしてる? 言っとくけど僕が干渉した時点で君の死に戻りは上手くいかない」

 

「………………は?」

 

「あー死に戻りをおれっちに話せるのが意外? ま、話せるのなんてエキドナくらいだったろうし、試す機会もなかっただろうけど、君、一回ペテさんの前で死に戻りの話したろ? あれと一緒、魔女因子をもった者同士なら君はそれを話せるんだよ、まぁ、他に誰も聞いていないことが前提だけど、あそうだ! 試しにエミリアに『嫉妬』を宿してみるかい? きっと有意義な会話ができるよ! ざっと四百年分くらいね?」

 

「っ、お前と話てると頭がどうにかなりそうだ。なんもかんも知ったかぶって偉そうにご高説垂れやがって、コミュ障もいいところだ、さすがの俺でも知らない相手にゃ言葉を選ぶぜ?」

 

「赤の他人である彼女に粋って協力を申し出た君が言うと説得力がないね、あ、これもう龍歴石から削除されてるんだっけ? ………あぁごめんて、ふざけないから、ごめんよ、人と話すの、ていうか君たちを馬鹿にするのが僕の生きがいなんだ、君たちがそうやって憤慨して、苦痛に顔をゆがめて、爆発する寸前まで煽るのが楽しくて仕方がないんだ、ああ、そうだよ、僕は君に苦しんで欲しい、悩んで欲しい、後悔して欲しい、苦しんで欲しい、死んで死んで死んで、死んでその末に、君に覚えていて欲しい、これは僕なりの愛情表現さ」

 

「ずい、っぶんと傍迷惑な話だな、あぁ?」

 

「………ふぅ、それで、ああそう、レムの話、だよね? あ、もう説明するの面倒くさいから先に言っとくけど、僕には『権能』が効かないから、暴食の忘却は僕には適応されないよ、もしかして彼女の思い出話でも久しぶりに語りたいかい? そうだね、あれは彼女が村にいた頃、両親に愛されていながらも姉と比較されることに嫌気が差し一緒にされるのが嫌で髪をハゲにしようと画策したことが………」

 

「そんなのはどうでもっ! よくねぇが! 今はいい! お前は、お前は──レムを治せるのか?」

 

「うん、ラムの重荷を取るおまけ付きでね」

 

「っ」

 

 

 あまりに軽く言う眼前の青年に、スバルは図らずしも動揺する。緊迫し、手に汗を握り、心臓がうるさくもなり始める、それは、興奮と期待、切願の成就に対し逸らずにはいられない。

 しかし、こいつの言葉は信用に値しない。値するはずがないのだ。するはずが、ないのにっ

 

 

「れむ………」

 

「ほら、泣かないで?」

 

「泣いてねぇよ」

 

「君の心が泣いている」

 

「──ッお前」

 

 近づき、その頬に触れる。

 

「サテラには、もうあったかい?」

 

「………ぁ?」

 

「記憶から消えたかな、でも心では分かっているはずだ。わかるだろう? 彼女が君に架した禁忌は、彼女なりの愛情表現だということに。彼女は君の優しさに、君の存在に甘えている。君が愛しくて大切で何よりも特別だからだ。彼女は君に構われたい。君に好まれたい。君に愛されたい。そして君に殺されたがっているんだ」

 

「………さて、ら」

 

「僕の中の彼女の欠片が、君を泣かせたくないと泣き叫んでいる。君に幸せになってほしいと心から願っている。君の隣に立ちたいと、君と共にいる彼女の()()に嫉妬している。君に会いたいと、君に力をあげられる少女を妬んでいる。彼女は日に日に力を取り戻しかけている。僕が抑え込んではいるが、いつか、彼女は解き放たれるだろう、他ならぬ君の手で」

 

「………おれが、絶対、おまえを………」

 

「そうさ、救ってみせろ、『サテラの英雄』。夢見る少女にひとときの夢を見せた異世界の大罪人よ。大いなる『大賢者(オロカモノ)』よ。僕という犠牲の果てに、君の手で、少女と世界は救われる。だから、せめて………」

 

「──フェルト様ッ!!」

 

「………戻ってきたか、お早いことだ。汚らわしい簒奪者め」

 

「スバル! フェルト様は!?」

 

「………はっ!? ──くっ、フェルトはそっちだ! ていうか、お前ここにいて大丈夫なのか!」 

 

「………心苦しいが、精霊たちとのつながりを断ち切った。魔法に影響はないはずだ」

 

「ははー、主君たる少女の為に世界を裏切るか、さすがは偽りの英雄。世界最強のラスボス、嫉妬の魔女(ヒロイン)を殺す主人公の大悪──の役割を捨てた傲慢なる奴隷、たかが一キャラクターの癖に、世界の意思に抗って! 自由意志なんてもって! ああ! 忌々しい! もうわかってるだろう!? お前が能動的に行動する度! お前の身近な大切が被害を被る! お前の欲は誰も救えないんだよ! 聖人になりたかった、賢者に嫉妬する英雄! 救いたいものを救えず、救うべきものを見捨て! 救う命を選び、他者を巻き込み、世界を乱し、果たすべき『役割(傲慢)』を捨てた背神者がっ! 誰のせいで僕が! おれっちが! このワタシがッ! こんな目に遭っていると思っていやがる! お前がッ、お前さえ本来の役目を果たしていれば! ワタシがこんな、こんな………!」

 

「君は、いったい………」

 

「僕は魔女教! 大罪が大司教! 『共贖』のマリステラ! 見ず知らずの、世界に厭悪される少女の罪を共に贖う者! そうして『災厄』に至る者! 覚えておけ、世界最強の愚図! お前が剣を振るう度! 世界には代償が要される! お前という特異点がいる限り! 世界の誰かがお前の力の代償を肩代わりする! お前の選択が! ついには異世界にまで肩代わりさせた! その結果がこれだ! ナツキスバルの異世界生活だ! よかったな………? お前はお望み通りの英雄だ! お前はもう、英雄にしかなれない」

 

「………だが、君を止めない理由にはならない」

 

「そういうとこだぜ、ラインハルト」

 

「──スバル! 終わったわ!」

 

「っ、やっちまえ! ラインハルト!」

 

「身勝手な僕に今一度力を貸して欲しい。──『剣聖』ラインハルト、参る」

 

「ここは女ったらしめっていうべき? それとも世界たらしかな? はぁ、僕はいつだってこんな役目だ。『共贖者』マリステラ」

 

 

 覚醒した少女の絶対零度が、力のない少年少女を覆い護る。

 そうして世界を切り裂く一撃が、現世に轟く『龍剣』の咆哮でもって放たれた。

 世界が点に収束し解放される。その一撃は、星々を開闢する一撃。一見ただの大振りの一閃が、プリステラの誇る管理塔と、その先の遥か海岸線までを崩壊させた。

 

 

◆◇◆

 

 

 桁違いの一撃、盗品蔵とは格の違う正真正銘本気の一撃、世界すら壊せると思えるほどの一撃は、確かに新工場を跡形もなく消し去り水平線を齎したが、スバルにはあいつがこれで終わったようには思えなかった。

 

 その証拠は、大切な少女の目覚めでもって知らされた。

 

 少女は目覚め、その姉は『重荷』を失った。

 

 また、少年は面持ちならない心持ちで最高の瞬間を過ごす羽目になった。しかし、それでもいいと思えるほどに、彼女の目覚めはスバルの心に安寧を、その瞳に涙を、その喉に号哭を齎した。

 

 感謝など、する相手などいないが、それでも祈らずにはいられなかった。

 

 抱きしめ、泣き喚き、

 

「──もう、スバルくんは泣き虫ですね」

 

 ようやく目覚めたはずの少女に逆に慰められ、

 

「姉様ですら忘れてしまった私を、あなただけは覚えていてくれる。正直、好きという気持ちが胸で溢れて止まりません」

 

 ああ、好きだ。何度でも、何度でも言いたい。言えなかった分、話せなかった分、失った分、これから取り戻そう。

 

「さすが、レムの英雄は世界一ですっ!」

 

「………ああ、お前の英雄は、お前さえいてくれれば誰にも負けたりなんかしない、絶対だ」 

 

「もう、そんなことエミリア様の前で言っていいんですか?」

 

「………ちゃんと、話すよ。もう逃げない。お前の前で、格好悪い姿を見せるわけにはいかねぇからな」

 

「レムが眠っている間に、とっても格好良くなったみたいですね。私が眠っていた間のこと、教えてくれますか?」

 

「ああ、もちろんだ。そうだな、まずは──」

 

 

 

 今までの出来事を話すスバルと、補足するエミリア、スバルを褒めるベアトリスに、黙って話を聞く姉様、そうして、楽しそうに、嬉しそうに、喜びをかみしめるように、目じりに涙を浮かべて相槌を打つレムの姿があったのだった。

 

 ようやっと、日常が戻ってきたのだ。

 

 

 

 

 

 そうして、姉様から外された『ソレ』は、確かにスバルへと受け継がれたのだった。

 

 

 

◆◇◆

 




 マリステラ、星と結婚する? みたいな意味。
 
 マリスステラなんて言葉もあったりする。

 その身に神様を宿すもの~、その身は正しく嫉妬の器なりぃ~

 彼はまじで生贄の為だけに用意された使い捨ての共贖者、他者の罪を贖う者。

 あわれあわれ、彼の犠牲をもってして、世界は平和に成転せりぃ~

 ああしかし、ならば少しくらい嫌がらせをして死のうじゃないか。道連れは要らない、ただ、平和に生きる妬ましい人間どもに災厄と言う名の不幸(わざわい)があらんことを。

勇気! それは美徳! ならラインハルトは希望か!? 節制か!? 博愛か、信仰か、知恵か、正義か! 全部だよ! そうでもなきゃ世界に愛されてるなんて言えないね!

 本当だったら竜の巫女たちが持ってるものなんだけど、ね?

 てことはラムが巫女に? ないね、ないない。妄想乙

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