死んだ。
何もない人生だった。
大切な人はできず、守りたい人もおらず、唯一守りたいと思えた子供たちを想えばロリコンと貶される人生だった。
子供を守りたいと思うことの何が間違いなのだろうか。
子供は守るべき宝だ。
それが自分の子だろうと他人の子だろうと関係ない。
いいや、分かっている。
僕がおっさんだからいけないのだ。
おっさんが年端もいかぬ子供を守りたいと思うことは対外的に許されないのだ。
それは、当たり前のことだ。
世の中には本当に危険な大人もいる。
だから、僕は外から子供を見守ることしかできない。
それを不審だと言われようと、近づいちゃダメなどと危険視されても、それでも、何かあってからでは遅いのだと僕は言いたい。
何かあった時、その場にいてすぐに動ける大人が必要なのだ。
その日、僕は過ちを犯した。
いつものように散歩をしていた。
子供が遊んでいた。
車が公園へと突入してきた。
車の先には砂場で遊ぶ一人の男の子がいた。
──守らなければ。
僕の身体はすぐさま動いた。
多少合気道の心得はあったから、それが役に立ったのだろう。
飛び出した僕の身体が少年に辿り着き、しかし──すぐそこには車がいた。
──間に合わない。
僕はせめてものできることとして子供を庇うように抱きしめた。
──衝撃が身体を突き抜けた。
呼吸ができず、脳がはじけ飛んだような衝撃が伝わった。
腕がなく、足がなく、全身の感覚がない。
視覚もぼやけ、脳がマヒしている。
その中で、ただ、聴覚だけが効力を発揮していた。
──音が、聞こえない。
聞こえなかった。
──子供の、心音が──
ドクドクと、この胸はうるさく鳴っているのに。
腕の中にある子供の心音が止まる。
まだ、まだ生きているはずだ。助かるはずだ。
誰か、誰でもいい、この子を──誰か。
◆◇◆
ベッドに眠る自分を眺めていた。
心拍計がピ――と無情な音を鳴らしている。
僕は死んだのだ。
もう今にも魂が昇りそうというか、自我を保てなくなってきている。
──結局、子供は助けられなかった。
こうしてスケスケな体になって、子供が病院に運ばれる途中で亡くなったことを知った。
その後来た母親が激しく泣いているのをこの目で見た。
心が痛かった。
ない心臓が壊れそうなほど鳴っていた。
どうすればよかった。もっとできることがあったはずだ。日頃から見守っていたのに、こうして大事な時に守れないのなら、僕はいったい何の為に日々を過ごしてきたのだろう。
何の価値もない。何もない人生だった。
体が消えていく。心が消えていく。
時間も心も無に帰そうとしている。
その間際、僕は一つの想いを魂に刻み込んだ。
──もし、来世があったなら──
絶対の祝詞を心に。
──目の届く子供すべてを見守ろう──
そうして、誓いを立てる。
──もう二度と、僕の前で子供を死なせない──
来世のそのまた来世まで紡ぐ決意を。
──今度こそ、絶対に、救ってみせる──
「──ぁ」
何年、何分、何時間の時が経っただろう。
僕は無から有限の世界に帰ってきた。
一瞬だったような、永遠に近しい時間だったような、しかし確かに僕は戻ってきた。
自分の身体に触れて、熱を感じて、確かに肉体があることを実感する。
まだ朧げな感覚が、この身が布で覆われていることを知覚している。
「……───?……────」
声、だろうか。
上から降りかかってくる音は日本語ではなく、何か別の言語のようだった。
英語でもドイツ語でもない。感じからして中国や韓国でもないだろう。
あるとすれば、ラテン語とかそこら辺に近い気がする。
まぁ、ラテン語で話したことなんてないので確証はないのだが……。
しかしまさか、これはもしかして──転生という奴だろうか?
人生初めからやり直せと言うお天道様の思し召しだろうか。
「──……──……」
何を言っているのかわからないが安心してくれ、お母さん。
僕には確かな大人としての知識があるのだ。
迷惑をかけるようなことはしない。
必ずや地域で評判のいい子として過ごしてみせる!
そうして目に入る子供たち皆を同じ子供として合法的に見守るのだ!
もう絶対に、後悔しない為に!
あんな思いをしない為に!
この命を子供たちの為に使う!
そう決意を新たに、美しい銀髪と品やかな長い耳、そうして万物を魅了する紫紺の瞳をもった
……え?