最低最悪のクズ肉野郎、大罪司教になるってよ
「あ、思い出した」
そう思った時にはもう手遅れだった。
俺は鬼族として生まれ、ご近所さんには鬼族の神童とその双子の妹がいた。
「……いや、まじかぁ」
「?」
「ああ、ごめんね。なんでもないよ、レム」
「♪」
俺は彼女らと同い年だが、少し早く生まれたためお兄ちゃんだ。
俺も彼女らを妹のように思っている。
何故か、彼女らに対して
おかしいな。生まれ変わる前は普通に好きなヒロインの一人だったんだけど、如何せん幼すぎるせいかもしれない。俺も、彼女らも。
俺の名前はナギサ。今世でも前世でも同じ名前だ。
今は生まれて五年。つまり五歳だ。
レムも五歳、彼女の姉も五歳。
まだ子供も子供。
だけど……
「「「おお……!!」」」
「――」
目の前で彼女の姉が滝つぼの水を操って畑にまく光景を見る。
なるほど。これは天才だ。
というか、もうすでに大人顔負けな思考力をしている。
「おつかれ」
「ん、ありがとう」
俺は一仕事終えて帰ってきた返ってきたラムに労った。
すると、隣に座っていたレムが立ち上がって、ラムに抱きついた。
「おねえちゃん!」
「……! ――レム」
「えへへ♪」
「……ふふ」
「レムは甘えん坊さんだね」
見ての通り、今のところ双子仲は良好だ。
特段、レムがラムに嫉妬している様子はない。
いいことだ。
スバルでさえ見ることができない、幼い彼女らの尊いやり取りに俺は胸を温かくさせた。
◆◇◆
鬼族の隠れ里での生活は平穏だ。
唯一の不満は森の外に出させてくれないことか。
『ならん。ここは鬼族最後の隠れ里。万が一でも”外の敵”に見つかることはまかりならん』
里長はそう言っていた。
――だが、じゃあどうするというのだろう。
まさか、鬼族だけでこのまま隠れてこの森で過ごすとでも言うのだろうか。
それはあまりに荒唐無稽だ。
この広い世界で、自分達から閉じこもって過ごすなんて。
「……そんな風に思うのは俺だけなんだろうか」
「私もそう思うわ」
「え、」
「なに、その顔は? ラムがここにいちゃダメなの?」
「いや、べつに構わないけど……」
ラムが水をばらまいた滝つぼの上、そこに俺はいた。
そして、いつの間にかラムもいたようだ。
いつから?
まだあまり日は動いていない。
来たばっかりだろうか?
それは何とも、ピンポイントな。
独り言を聞かれてしまったようだ。
返ってくるとは思ってなかった返事に少し動揺してしまった。
「そう思ってるって……」
「……ここは、レムにとってあまりいい場所じゃないもの」
「そう、だね」
そうだ。それはその通りだ。
でも、それは――。
「ここには、
「………」
一つ、風が吹いた。
靡く彼女の桜色の髪は綺麗だった。
彼女の桜色の瞳がこちらを向く。
「私たちを連れ出してくれない?」
「――なん、で」
なんで俺に?
なんで突然?
なんで、そんな………心細そうな顔をして?
俺が知ってる姉様はもっと強くて、傲岸不遜で、堂々とした……。
違うのだろうか。
俺が知っている姉様と、目の前にいる少女は。
ここがリゼロの世界ではない?
――いいや、それはない。
じゃあ、目の前にいるか弱い一人の少女は?
俺が知っている彼女は、何?
「……いえ、いいわ。気の迷いだった」
「え、」
「……はぁ、私も焼きが回ったわね。もう戻るわ、それじゃ」
「……」
ラムはふらりと滝つぼから飛び降りて……遥か下の地面をなんでもないかのように歩いて進んでいった。向かっている先は家だろうか。
「……はぁ、そんなこと急に言われたって……」
彼女が発言を撤回したのはきっと正解だったのだろう。
俺は、彼女が発言を撤回したことに、確かに安堵してしまっていたのだから。
俺は、いくじなしだ。
◆◇◆
俺は、何をしていたのか。
俺は、なんで、何もしなかったのか。
鍛えることも、逃がすこともなく、漫然と日々を過ごしてた。
知っていたのに。
ちゃんと、知っていたのに。
こうして、隠れ里がめちゃくちゃになるまで――俺は何をしていた。
「キャァアァアアァアアア!!!!!??」
甲高い悲鳴が聞こえる。
「ゥ! ぉ、っ」
断末魔の声さえ上げられず絶命する男たちを見る。
「っ! ッ!」
そうして、無表情で黒ローブの男たちを――否、“魔女教徒”を斬り刻むラムを見る。
まだ、ラム以外にも戦っている男衆がいる。家に隠れて生き残っている女衆がいる。
なら、俺は何をしている。
「ぁ……」
動け。何してる。動け。動けよ。
なに、震えてんだよ。
なに、やってんだよ。おいっ!?
そんなこと、思ってる場合じゃないだろ!?
――ビビってんじゃねぇぞ!?
なに、やって。おい、なんで動かない!
動けって!
おい、おいって!? ――もう一人の俺!
「ぇ、いや、だって……こんなの、俺にはどうしようも……」
戦えよ! いや、ああ、わかってる!
お前はまだ十四歳の子供だって!
でも、わかるだろ!? 今止めなきゃ、――ラムは『角』を失う!
今止めなきゃ、手遅れになる……!
角が生える。
二本の白く光り輝く角だ。
鬼族の証。
鬼族の誇り。
それが――。
「うわぁぁぁああぁぁぁぁぁああああ!!??」
――逃げ出す為に使われていた。
おい!? 馬鹿野郎!
どこ行く気だ!
どこに、おい!? ――逃げる気か!?
お前、十四年も一緒に過ごした幼馴染を見捨てて、逃げるのか!?
――怖い、怖い、怖い、怖い、怖い。怖い。怖い。怖い。
こんのッ、馬鹿が!
お前の命なんてどうでもいいだろうが!
救えよ! 今すぐに戻ってラムを救え!
ラムが角を失うくらいなら、お前が死ね!
お前が代わりに切られろ!
何の力もないお前でもそれくらいできるだろ!
なぁ!? おい!!
「いやだっ、いやだぁぁぁぁあああ!! しにたくなぁぁぁああああぁぁぁぁああい!!!」
このッ……………真性の、クズ野郎。
「もし、貴方はもしかして――『傲慢』ではありませんか?」
斯くして、俺は生き残った。
俺だけが、何も失わずに、生き残った。
『俺』なんて、死ねばいい。
生まれたことを後悔して、死ね。
最低最悪のクズ野郎。
◆◇◆