なんとかスバルの疑念を騙くらかして数時間。
オレたちはフェルトとロム爺のアジト的な盗品蔵のドア前にいた。
なんと、オレらが不毛な時間を過ごしていたせいで時刻は既に夕暮れ時。
……てか、鬼族的なセンサーがビンビンしてらぁ。
これはアレだな。
もうおっぱじまった後で、とっくにおっちんじまってるな。
好都合と言えば好都合だが……はてさて、――スバルくんは正しく死に戻ることができるかな?
「たのも―! よぉフェルト。お客さん連れてきてやったぜぇ」
「「……」」
「って、あーこりゃ……っぶねーな」
「――あら、防がれてしまったわ」
キン、と金属のつんざく音がする。
研ぎ澄まされた刃と刃が触れ合う音。
オレの護身用の小刀と
オレの鬼族ゆえの視力の良さでギリギリ見えるほどの鋭い斬撃。
こりゃ無理だな。オレでも勝てん。
いや、厳密にはこいつの上限がこの程度なら勝てるけど、そうじゃねぇだろって話だ。
こいつってアレじゃん?
相手が強いほど強くなるタイプのバトルジャンキーじゃん?
そんなん転生して間もないオレには荷が重すぎるって話じゃーん。
てなわけでここは……――。
「でも、次は外さないわ」
「ですよ――ねー、って」
「嗚呼、思った通り――アナタの『ナカ』、キレイね」
お褒めに預かり恐悦至極……ぐへー。
……鬼族的には『鬼化』すれば全然直せるけど、ここは死んだふり!
ってか、このまま傷放置したら出血多量で本当に死ぬけど、モーマンタイ!
おそらく、ここまで来れた時点でスバルは死ぬ。
絶対死ぬ。
あ。
「すば、る……にげ……」
「――あら、まだいるのね」
よしよし。
これでスバルの存在を教えて確実に殺してもらえる。
と、それはいいとして。
あーもう、瞼が重い!
って、まぁいいか。
どうせ、もうスバルが死に戻る。
そう、スバルが死ぬ。
それをオレが見ることができる。
この時点でオレの目論見は成功していると言っていい。
何故なら、もしオレが死に戻りを認知できないのなら、今という時間軸がそもそも存在しないはず。
もし、スバルしか死に戻りを認識できないのなら、オレが認識できるのは
だって、外から見てスバルは一度たりとも死んではいないのだから。
つまり、今、スバルの死ぬ世界線を認識できるオレは確かに死に戻りのご相伴に預かれる立場であって……違い、ない……。
いや、待てよ。待て待て。
もし、たとえスバルが死に戻ったとして。
その先にいるオレが
オレがその先でこの記憶を相続していなかったら!?
っべー!
オレってば能無し!? 頭ごなし!? 低能!?
どーしよ。
……とりま、起きんべ。
「っつー、いてて……」
「……貴方、どうして生きているのかしら」
「っと」
起きた途端、オレの首筋に鋭利なナイフが当てられた。
エルザだ。
あ……まだいなくなってなかったのね。
時間間隔がわからなくなってたや。
チラ、と周りを見渡してみる。
「お連れの子たちならとっくにおねんねしているわよ」
「ありゃりゃ、そら好都合だこと。え、スバル死んでんやん。巻き戻らんの?」
「貴方……何を言って」
いるの、とエルザが言い切る前だった。
ドクン、と世界が鼓動した。
その音の発生源は、スバルの死体。
その腹の奥の奥底――ゲートのその先から。
「あはは、おいでませ。嫉妬の魔女様ってか?」
「何が……」
「逃げた方がいいぜ。ま、どこに逃げたって結果は変わんねぇけどな」
『――愛して』
「お代官様のご登場だ!」
「――……」
「あら、」
気づけば、隣にいたエルザの頭が潰れた。
まるで
再生する様子は……ない。
「あー、オレってば見えざる手見えないのね、ってぇ……ぐげっ」
突然、体が握りつぶされるような圧迫感に覆われる。
ような、というか多分おそらくメイビー百パーセント、掴まれてますわ。
見えざる手が見えないおかげで、オレにはスバルの死体の様子がよく見える。
繰り糸に操られる人形のごとく立ち上がり、その窪んだ目の先には何も写さない。
まるで、ペテルギウスような形相。
死体なんだから当然だろと言われればそうだが……こんな死体を弄ぶようなことをして、『嫉妬の魔女』様は本当にスバルのことを好きなのかねぇ?
それとも、大事なのは器じゃなくて、
いやでも、墓所では明確にスバルを愛してい、た……痛い痛い、イタイイタイ痛い!??
痛覚切ってるのに痛い!?
『――煩い』
あ、はい……すません……。
『――あの人に纏わりつく害虫。あの人に、あの人は私のモノなのに。私の、私だけの、私だけに、あの人はいるのに、なのに。』
あの人。あの人ね。あちゃぁ、メンヘラだぁ!?
スバル逃げてー!?
『――いい、あの人に一言でも要らないことを言ったら、貴方の心臓を潰す。――こんな風に』
「ごぶっ……おえ゛ぇ」
あばー、死んだぁ。
『――努々忘れないこと。
あの人の邪魔をしたら――ゼッタイニユルサナイ』
……肝に銘じます。
奥方様。
『……』
意識が遠のいて、遡って、世界が終わるような――。
◆◇◆
――そんな感じがした。
と思ったら、オレはリーファウスなんたらに一人つったっていた。
「んまぁ、とりあえず