転生した。
そう思ったときにはリーファウス平原にいた。
おかしいよな。
俺は“今”転生した。そう自認しているのにだ。
俺はここがリーファウスなんたらだと
おかしな話だ。
そうだ。俺は何かを忘れている。
忘れてはいけない『何か』を――。
……ま、どうでもいっか!
俺は『原作』キャラと仲良くできれば、『ナツキ・スバル』と仲良くできればそれでいい。
なにせ俺は、彼らの大ファンなのだから。
◆◇◆
「どうなってんだよ、これは……」
ナツキスバルは困惑している。
それはそうだろう。
盗品蔵に入っていったナギサが戻ってこなくなった。もの音一つ立てずにだ。
それを不審に思い、スバルはエミリアと共に中へ入った。
そうして――そこに広がる血だまりを見た。
血だまりの真ん中に倒れているナギサ。
心臓がひっ迫し、出来の悪い頭に血が巡るのを感じた。
――逃げなきゃ――
そう考えてエミリアの手を取り、引っ張った。
すると、あるはずの抵抗がなかった。
好都合だ。エミリアも同じ方向に逃げようとしてるんだと思った。
違った。
あるはずの抵抗はなかった。
だが、別の方向に引っ張られた。――下だ。
びっくりして彼女を振り返った。
「……ばる……にげ、て……」
「えみり――」
突然、腹が凄まじい熱を持った。
咄嗟に触れれば、そこにはドロリとした不快感があって。
気づけば、彼の体も下に向けて引っ張られていた。
違う、彼が倒れたのだ。
立っていられなかった。
下半身に、いや、全身に力が入らない。
体から命の源が失われていく。
体の芯から凍えていく。
唯一残っていたのは彼女と繋がっていた手の感触だけ。
――絶対に、俺が――
――お前を、救ってみせる――
死にゆく間際、そんな悪あがきの覚悟を心に浮かべて……死んだ。――はずだった。
◆◇◆
「は?」
気づけば、目の前にはリンガ屋のおっちゃんがいて、時間は昼前。周囲には何気ない日常を過ごす人々がいる。
「冗談きついぜ……」
「あ? 何ぼーっとつったってんだよにーちゃん。なんか買いたいもんでもあんのか?」
「……はっ! そりゃ無理だな。なんせ俺は天下不滅の一文無し!」
「――ならとっとと失せろっ!」
そうしてナツキスバルは路上に突っ立っている権利さえ奪われた。
◆◇◆
そうして、ナツキスバルは過去の記憶を頼りに見覚えがあるようなないような路地裏へと無策で入っていった。
「ここを通りたければ」
「身銭を置いてきなってんだ」
「てんだ!」
「また、お前らかよ……いや、狙い通りか」
そう、この状況は彼の狙い通り、というより記憶通りというべきだろうか。
そうして、そうであればこの後……
「――そこまでよ」
「あぁ……」
やはり、彼女は来てくれた。
しかし、ということはやはり……彼女は覚えてはいないだろう。
――それでもいい。
たとえ、誰に覚えていてもらえなくても。
俺が君を救う。
いや、君と、あの怪しげな同郷人を。
だけど、なぜかナギサは来なかった。
まさか、この『死に戻り』もナギサが仕組んだ……?
……あり得る。
それを知るためにも、まずはあの場所に向かうべきだ。
「なぁ、エミリア!」
「……どうして、私の名前を知っているの?」
「あ……それは」
――やっぱ、やらかしてんなぁ、兄弟。
そんな試行錯誤ナウなスバルくんを、やはり建物の上から観察していた『原作』ファンことナギサであった。
◆◇◆
さて、どこでネタばらししようか。
この二週目で問題なくスバルを生き残らせるか。
あるいはもう一度くらい死んでもらうか。
正直、オレの立場ならどうとでもなる。
フェルトから徽章を取り返してもいい。
エルザをオレが止めてもいい。
あるいはそう、あのいけ好かない騎士様を呼んでもいい。
「どうしようか……ってか、オレがしたいことって、何?」
オレはどうして転生した。
――決まってる。
オレが『原作』ファンだからだ。
大好きな大好きな彼らの手助けがしたいからだ。
役に立ちたいからだ。
認められたいからだ。
知りたいからだ。
関わりたいからだ。
『原作』キャラが輝くところが見たい。
「その為なら、オレは身も心も、魂だって差し出せる」
さぁ、格好いいところを見せてくれ、
◆◇◆
「頼むフェルト! この通りだ!」
ナツキ・スバルは直角に頭を下げて懇願した。
自分より幼いだろう少女に平身低頭でお願いした。
彼にはこれしかできないから。
これが、力も知恵も持たない今の彼にできる精一杯だから。
「なぁにがこの通りだ、だよ! アタシは金払いのいい方につく、そんだけだ」
だが、そう上手くはいかない。
思った通りに現実が進むのは物語の中だけなのだから。
そうして、思い通りにいかない世の中を変えるのはいつだって暴力……もとい筋肉である。
「やっぱりダメよ。私の徽章の為にあなたの持ち物と交換するなんて、すごーく不公平だわ。やっぱり、力づくで……」
「ちょーい! そこ、人がせっかく荒事なしで解決しようとしてるのに不穏なこと言わない! エミリアたんってば意外と脳筋族だよね!? そこんとこ親猫としてはどうなんですかねパックさん!?」
「んにゃー、こういうポンコツなところも愛おしく思っちゃうのが親心ってもんでしょー?」
「ポンコツって、すごーく心外」
「でも、ボクも今回は
「パックまで……」
そう、この場にはスバルとフェルトの他にエミリアとパックもいた。
この場で起こるであろう惨劇を知っているスバルは慎重に、荒事を避けて交渉を進めようとしていた。
その対価はスバルの持つミーティア、もとい携帯電話だ。
今のところ賛成2反対1暴力1だ。
エミリアって意外と脳筋だよね。嫌いじゃないぜ。
ちなみにオレも暴力賛成なので賛成2反対1暴力2だ。
……ま、オレはその場にいないから勘定には含まれないけどねぇ。
オレは盗品蔵の陰に隠れて彼らの観察を続けた。
「おいおい、そっちが荒事を望むってんなら、ウチにだって考えがあるんだぜ。なぁ、ロム爺?」
「むぅ、ワシを巻き込むでないフェルト。あれはダメじゃ、いくらなんでもこの場で精霊術師とやり合うのは得策ではない。諦めてそのミーティアで手を打たんか」
当然、この場にはロム爺ことバルガ・クロムウェル爺さんもいる。
彼ほどの戦略家がミーティアで手を打てと言っている。
これで賛成3で過半数だ。
さぁ、フェルトちゃんはどう出る?
「ロム爺まで何言ってんだよ! ……アタシは受け入れねーぞ。依頼人の話も聞く、その後でより金を出す方に徽章を渡す」
ダメか。何が彼女を意固地にさせているのか。
まぁアレでしょ。過去に騙されたとかなんとか。
『アタシは騙されない(キリッ)』そんなセリフを『原作』で聞いた覚えがある。
うーん、アナスタシアと相性悪そう。
いや、疑ってかかるから逆にいいのかな?
いんやぁ手玉に取られそう。と、思考が逸れた。
このままいっても埒が明かなそうだ。
――ここだろ、オレの出番は。
「――盗人猛々しいとはこのことだね、フェルトちゃん」
さて、この堂々巡りの状況で登場するのが最善。そうだろ、
「て、てめーは……! アタシの狙った獲物を毎回横からかっさらうネコババ野郎じゃねぇか!」
「……ん? それオレのこと? 人違いじゃね?」
「人違いなわけあるか!」
えー、記憶が戻る前のオレ何やってんだよぉ。
フェルトの盗品を横からかっさらうなんて、そんな喧嘩を売るようなこと……おぉん、『原作キャラ』と関わるのが待ち切れな過ぎて簡単に関われそうなフェルトに手を出した?
あ~、あり得る~!
じゃねぇよ!
っておいおい。
「ナギサ……? どうしてここに、このタイミングで……」
見ろよこのスバルの不信感満載の目を!
てめぇどっち側だってフェルトの目を!
なーんでオレってばこんな場面ばっかり?
上手くいかねぇ、思った通りにいかねぇ。
だぁもう面倒くせぇ、さっさと多勢に無勢でフェルトから徽章を取り返すか――いや、あるいは、
――来た。
お前なら気づくだろ、スバル。
「おい、ナギサ。お前は――」
ちょーい、気づかないんかーい!
だぁもう!
秘儀! 瞬間鬼化!
ガギン、と金属同士の衝突で刃が欠ける音が轟く。
「――あら、防がれてしまったわ」
「えっ?」
「ちょーっと、見込みが甘いんと違う? 『腸狩り』殿」
ひゅー、オレかっくいー!
けど、そうじゃねぇだろ。
オレはオレが格好つけたいんじゃねぇんだよ。
「こいつが……!」
そう言ったのはスバル。
「なぁスバル、いいや
「は? お前、まさか……」
「
「っ!」
だぁ、何秒稼げるよ!
『腸狩り』相手に、エルザ相手に!
本気出すか? 出しちまうか?
輝いちまうかァ!?
オレって異分子がさァ!
――