Re:ゼロからオリ為す異世界生活   作:萎える伸える

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 短いのも乙なもの

 あ、ホムラたんの続きね


『熱烈の弐』

 

 

 斬って、斬って、斬り刻む。

 

 飛び交う火炎に不溶の氷杭、そのすべてを両手に持った曲刀で叩き落す黒装束の女がいた。

 いったいどういう原理なのか、ただの斬撃が魔法を断ち切り、その軌跡の力を打ち消す。

 まるで世界の祝福を断ち切るような太刀筋はスバルが放る廃材などものともせずに真っ二つに叩き切り、さらにスバルの態勢が整うまでの一瞬の間隙に反撃さえもしてのける。

 

 スバルに向かって小型のナイフが高速で飛来する 

 

 態勢の整っていないスバルは完全に避けることはできず、吸い込まれるようにしてスバルの右肩へとナイフは直進し──スバルが痛みを覚悟して目を閉じたその瞬間に横から弾かれた。

 

 

「──!」

 

「おい、兄ちゃん気をつけな! 弱えーんだから大人しくじっとしてろ! 毎度アタシが助けられるわけじゃねーんだ!」

 

「……す、すまん! 助かった!」

 

「まったくもって情けないな、ナツキスバル。──アルイーラ!」

 

「────」

 

 

 自分より年下の少女たちの辛辣な言葉に、しかしスバルが返す言葉はない。

 それは確かな事実で、現にスバルには眼前の少女のように『炎で形作った蛇』を操ることなど逆立ちしたってできはしない。少女らはきっとスバルよりも遥かに荒事に慣れている。

 スバルのようにかすり傷ですらひるんでしまうような軟弱な精神を養う生活はしてこなかったのだろう。

 

 スバルがこの戦いにおいて貢献できることは少ない。

 フェルトが遊撃と前衛をこなし、エミリアが氷盾と氷杭で防衛と援護をこなし、そしてホムラが強大な一撃でもって細身に見合わぬ大立ち回りをする襲撃者を打倒せんとしている。

 

 生半可な相手であれば、この布陣を崩すことなどできないと安心していたことだろう。

 そんな相手であれば、スバルは大人しく戦いを見守っていられただろう。きっと。

 だが、そんなきっとは今のスバルにはありえない。

 

 なぜなら、  

 

 

「素敵、素敵だわ。火で象られた蛇なんて初めて見た。さぞや高尚な魔法なのでしょうね。私の趣味ではないけれど、あなたの殺意、その熱、──とっても滾るわ」

 

「イカレ女め。私の炎をそんな間近で避け続ければ、皮膚が爛れてまともに発汗すらできなくなるだろうに、どういう絡繰りだ」

 

「素晴らしいわ。本当に熱くて、熱くて、興奮しちゃう。死んじゃうかもって思わされるほど」

 

「ちっ、まだ悟れんのか、閻魔っ」

 

 

 戦いが続く。

 ここは屋外、道行く人のいない貧民街。戦場は、その火花はだんだんと範囲を広げ、周囲の建造物を巻き込んでいる。未だ人的被害はあらねど、それも時間の問題だと思わざるをえない。

 

 それほどに、スバルの直感はその女を危険だと言っていた。 

 

「どうすれば………俺に何が、何ができる………」

 

 思考する。愚考する。熟考する。

 

 しかし、答えは出ないまま時間が過ぎていく。

 一分、二分、三分、次第に攻撃の威力が増し、女の動きが理解の範疇を超え、ホムラの生み出す強力な炎蛇さえも切り裂いた。

 

「──っ!」

 

「──焦ってはダメよ、魔法が乱れてるわ」

 

 一瞬の動揺、重心の偏った体勢、エミリアは女との間にホムラを挟んでいる為、援護が出来ない。フェルトはもはや人外の動きをする女についてこれていない。

 

 その結果、後衛であり女を仕留める頼みの綱であるホムラの眼前に、エルザが切迫した。

 

「あなたの魔法はとても魅力的だったけれど、ごめんなさいね。──私にはあなたの腸の方がもっと魅力的なの」

 

「────」

 

 ホムラは、この一撃を、その凶刃を、避けること叶わず。

 その横薙ぎの一閃は、あどけなき少女の柔らかく、引き締まったお腹をプリンのように切り裂く。

 そう簡単に予想できた。

 

 その時、その光景が見えていたスバルの頭の中に何があったのか。スバルは覚えていない。

 

 ただ、世界がゆっくりに見えていた気がする。

 

 恐怖で頭がどうにかしそうだった気がする。

 

 怖かった。

 

 胸を絶望が満たしていた。

 

 それほどまでに怖かった。

 

 ──ホムラを助けられないということが──

 

 だから、

 

「──ッぐ、あ゛ぁぁぁあああ!!!」

 

「へぇ、あなた……」

 

「──なに、を………何をしているっ! ナツキスバルッ!!」

 

 ホムラの前に出ることに、一切の恐怖はなかった。

 

 どぼどぼと、液体が血を濡らした。

 桶の水でも零したように、だくだくと地面が水を吸う。

 雄大なる大地は吸血鬼のように、与えられる豊穣を蓄える。

 赤き命の水が、ホムラの視界を染め上げた。

 

「あぁ……やっぱり、あなたの『(なかみ)』も綺麗だわ」

 

 そんな光景を見て、女は、狂人は熱に浮かされたような笑みを浮かべた。

 

「────」

 

 何か言ってやろうと思った。

 

 残念だったな、お前は役に立たない俺しか切れなかった、お前は負ける、言いたいことがたくさんあった。

 

 頭の中に浮かんでは消えて、浮かんでは消えていく。

 

 ふと、冷静になった。

 

 冷静になって、

 

 ──あぁ何やってんだ俺は……

 

 気づいた。

 

 こちらを見つめるホムラの瞳に。

 

「────!」

 

 その目じりに涙を浮かべて、もはや機能せぬスバルの耳に、必死に語り掛けているまだ幼い少女に。

 

 ダメだ、何やってんだ。本当に、俺は役に立たないダメな奴だ。きっと、エミリアも悲痛な顔をしている。きっと、フェルトだって苦渋を噛み締めている。どうしてか、今はそんな陳腐な自己肯定が俺のネガティブな自己否定を覆した。

 

 それは熱だった。

 

 喉を突いて出る血塊に熱がこもる。

 

「──っ」

 

 体を焼き尽くすような熱が、全身を支配していた。それは、腹から生まれる痛烈な熱すらも覆い尽くして、平常では耐えられぬ劇痛をそよ風のように受け流させた。

 

 ゆっくりと、ゆっくりと、瞼が閉じようとしていた。

 

 まだ起きていなければ、まだ、役に立てていないと、そう抵抗するも解決には至らず。

 

 

 ナツキスバルは、瞳を閉じた。

 

 

「────ぁぁぁぁあああああああ!!!」

 

 

 最後に、誰かの泣き叫ぶ、いいや、彼女の憤怒に燃える声がした。

 

 

◆◇◆

 

 





 次回『熱狂』
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