Re:ゼロからオリ為す異世界生活   作:萎える伸える

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 心の赴くままに書いているとたびたび話が分裂する


『熱狂・前』

 

 

 いつも、抑えようと試みる。

 

 感情のままに動いて状況が好転した試しがないから。

 

 しかし、ダメなのだ。

 

 私にはダメだった。堪えるなど一瞬たりともできはしなかった。

 私はきっと短気で短絡的で破滅志向の人間なのだろう。きっと、私の生みの親は禄でもない奴だ。私をこの世に生んで、それっきりだった母親。母親の顔なんて知りもしなければ、名前も性格も種族さえも知り得ない。

 

 人を人たらしめる性質は遺伝する。私はそう考えている。

 容姿が遺伝するように、視力が遺伝するように、少なからず私という個人は、両親の複製としてその情報を受け継いでいる。だからと己が不徳を知りもしない母体に押し付けるようなことはしない。してはいけない。

 

 なぜなら私は一人で生きてきたわけではなく、私を拾い育ててくれた人がいるのだから。

 

 私を拾ってくれたのは心優しいご老人だった。彼はその穏やかさとは裏腹に正義に熱い人だった。赤子の時点で親に捨てられたらしい私を育ててくれたのは他でもない彼、私の父親とも、師匠とも言える、心から尊敬できる人だ。

 

 師匠は口を酸っぱくして言った。

 

『この世に正義なんてものはねぇ、あるのは信念だけだ』

 

 正義に熱い師匠は、されど正義を否定した。それもくどいほどに何度も何度も、まるで自分に言い聞かせるように繰り返した。

 

 その言葉に私は一定の理解を示した。師匠が言いたいのはつまり、誰もが認める正義なんてものは存在せず、私たちは正義を語ることも他者にその正義を押し付けることもできない、しかし私たちは各々共感も反発もできる信念という行動原理を持つことができる、ということ。

 

 正しさとは私個人のものであり、それは即ち信念である。

 

 悪く言えば自己満足だとも言えるかもしれない。しかし、私はそれを志した。

 師匠が、そして私が暮らしていた村は魔獣の群生地帯に面していて、野生動物が冬眠の時期に入るとよく獲物を探しに魔獣が森から出てくることがあった。

 

 師匠は、そのすべてを駆逐した。

 

 頼まれてなどいない。褒賞などない。もちろん力を持っているのだから手の届く範囲で助けるのが当然の倫理であるとは言える。

 

 しかし、違う。

 違うのだ。

 

 師匠が守るのは、人々の笑顔だ。命を守るのなんてまるで当然だと言うように、師匠はその更に上を掴み取る。それは、確かに正しさと言えるものとは違った。ただ正しいだけであれば、戦い守るだけでいい。それが力を持つ者の責任だ。だが、師匠はそれでは満足できないのだと言う。

 

『生き物を殺して讃えられてりゃあ、いつの日か殺すことそのものに快感を覚えるようになる。それじゃあいけねぇのよ。わしゃあな、生き物を殺したことより笑顔を生んだことを誇りてぇのよ』

 

 その言葉を聞いたとき、いいや、その言葉を聞く遥か昔から、物心ついた時から、私は師匠のようになりたいと心の底から望むようになった。

 

 十二になった時、師匠が師匠になった。

 護身術を教わり、簡単な火属性の魔法を教わった。

 

『ほら、唱えてみ』

 

 そう言われ『ゴーア』と唱えた時のことを、自分の手のひらの上にほのかに熱い『火球(いのち)』が産まれた時のことを、その時の感動を、今でも覚えている。

 

 

 

『──なぁホムラや。そこまで火の魔法が大事なら名前を付けてみちゃあどうだい』

 

『名前………? ゴーアじゃないのか?』

 

『あァ~あんなのはただの呪文だ、名前じゃあねぇ。呪文を唱えずとも魔法はちゃあんと顕現する。大事なのは心意気ってこったよ。お前さんが真に『火』を想ったなら、それは応えてくれるじゃろうよ』

 

『………でも、なんてつけるの?』

 

『なんでもいい。別に意味がなくたっていい。お前さんがしっくりくる名前を、そいつにつけてやり』

 

『………わかった』

 

 

 その日、『火』は私の家族となった。

 

 

 『火』は私であり、私は『火』だった。

 

 私の起伏と共に『火』は形を変え、色を変え、その命を燃やした。

 

 護身術もほどほどに、私は家族と共に多くの時間を過ごした。

 

 『火』が()()()()()()()()()のは村を出たその日のことだった。

 あるいは、私が『火』の声を聞こえるようになったのかもしれない。

 ともかく私は嬉しくて、その子に新たに名前を付けた。

 

 

 ──『閻魔』と。

 

 

 『閻魔』とは死にゆくものの罪を審判するものだと師匠は言った。

 

 それは私の『信念』そのものだった。

 

 罪は、許されない。悪は倒さねばならない。危険は力でもって排除しなければならない。

 しかし、私は師匠のようにより多くにとっての正しさを選べるとはとても思えなかった。自信がなかった。

 私は、村のいじめっ子相手に少し、ほんの少しだけやりすぎてしまうような子供だったから。

 

 私が何かされるならともかく、何も悪いことをしていない普通の子がちょっと力の強い子供の不平不満のはけ口になっていることが許せなかった。何より、それを見て見ぬふりをするような自分を赦せるはずもなかったから。

 

 私の『信念』は真意を悟ること。正しきを見つめること。間違わぬことではなく、信念を貫くこと。それを何よりも大切にしている。

 

 大切にしていた。大事に思っていた。大切に思っていた。

 師匠との生活を、親が叱らず何が悪いのかわからなかっただけのガキ大将や他にもこんな私と仲良くしてくれた村の子たちとの日々も、楽しかった。私が守るべき宝物だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう、師匠が村人に裏切られ、私を人質に取られて殺されたあの日を越えても、その日々は、その『信念』は、未だ私の胸の中で熱く燃え続けていた。

 

 ………そう、そうなのだ。わたしは、あの日から、あの時から、何も変わっていない。何も、成長していない。変われていない。

 

 二度と過つものかと心に誓ったのに。

 二度と『信念』を違わないと約束したのに。

 

 

 ダメだった。

 

 

 不条理が、正しきを胸に秘める無辜の善人が不埒な悪人に食い物にされるこの不浄の世の中が、──私は受け入れられない。

 

 

「──ぐあああぁぁぁああ!」

 

 

 その叫び声を聞いて、あまつさえ私が庇われて、視界を鮮血が覆って。

 

 耐えられるはずがないのだ。

 

 

「──『神判』──ギルティ」

 

 

 口を突いて出るは断罪の言。

 

 

「罪業重ねし不徳な悪人を焼き尽くす断罪の業火よ、世情の浄火よ──今こそ悟れ、我が身に宿れ、『閻魔』」

 

 

 悪を滅ぼさねばならない。

 たとえ、この身が断罪の業火に燃え尽きようとも。

 力を貸せ、閻魔。

 

 

 

『──承知シタ』

 

 

 

◆◇◆

 






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