Re:ゼロからオリ為す異世界生活   作:萎える伸える

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 時間が欲しい。
 ちゃんと書けばちゃんと書くほど時間が無くなっていく


『熱狂・後』

 

 

「──フェルト! 今すぐスバルを安全な所へ!」

 

「あ、安全、たって、もうその兄ちゃんはダメなんじゃ………」

 

「──傷は焼いて塞いだ。──いいから、早くしろ。エミリア! お前はスバルに治癒魔法を!」

 

「わ、わぁったよ! そこまで言うならやってやる! くっそ、重てーな! 無事でいろよ!」

 

 

 悪態をつきながらもホムラの指示に従ったフェルトは重体のスバルを引きずり後ろへ下がった。

 

 スバルのお腹の傷はほとんど致命傷だ。焼いて塞いだと言ったが、それは表面だけ。血液こそそれ以上流れないが、エルザに切断された腹はほとんど皮一枚で繋がっている状態であり、そもそも中身がずたぼろだ。

 

 このままではそう遠くないうちにスバルは死ぬ。

 はやく、はやく、何よりも早く、スバルを『青』と呼ばれる治癒士の元へ連れて行かなければならない。

 だから、

 

「あ、あぁ、すば、る………すばるが………」

 

 酷く動揺するまだ精神的に幼い少女に、厳しく言う他ない。

 

「──エミリア、スバルを治療しろ。今はそれだけを考えろ。後のことは私に任せればいい、だから、頼む………スバルを生かしてやってくれ。スバルは、目つきに寄らず酷いお人好しだ。こんなところで死なせたくない、死なせない」

 

「………ホムラ………っ」

 

 まだ絶望するときじゃない。まだ、スバルは生きている。だから、助けてやって欲しい。

 そう先ほどまで自分より大人びているように感じていた少女の紳士な願いに、エミリアはこの場の年長者として自分がしっかりしていなくてどうするのだと、自分を責めた。

 エミリアは恐慌を起こしていた自分に喝を入れるように頬を思い切り叩き、目を覚ます。

 

「──ッ! わかった、私がスバルを繋ぎとめてみせるわ。だから、お願いね、ホムラ」

 

 そうして

 

 

「──ああ、了解した」

 

 ──手を貸せ、『閻魔』。

 

『──承知シタ』

 

 

 その瞬間、ホムラの全身を天まで上る豪炎が包み込んだ。

 

 暗くなり始めていた世界を、太陽が如き炎熱が赤く照らす。

 

「────ッ」

 

 肉体に痛みが走る。

 身に纏う黒のローブを焼き尽くし、その柔肌を露わにする。その肌は不治の火傷に覆われていて、それをさらに炙るように、ホムラは紅蓮のドレスを身に纏う。肌が焼け、頬が焼け、髪が燃える。

 肌が焼け焦げ、ぽつぽつと黒点が生まれる。髪も先端から焦げていき、二本に結っていたリボンが焼け落ちる。纏っていたローブも、肌着も、装飾品も、すべてが焼け落ち、無に帰していく。

 ホムラは豪炎の中、ただ己が燃やされていく感触を味わっていた。

 

 

 もしやそのまま燃え尽きてしまうのではないかと疑い始めたその時、豪炎が徐々に収縮し始めた。

 

 

 そうして、 

 

 

「あら、服を変えたのね」

 

 

 豪炎の中から、収縮した業火をその身に纏った『ホムラ』が出現した。

 

 炎のドレス、炎の髪留め、緑銀の乙女の紅の瞳が標的を穿つ。

 

「──っ! すごい殺気。さっきまでとは別人みたい。まるで怒りの権化ね。──ぞくぞくしちゃう」

 

 ──認められない。私は許せない。

 

 許されざる悪は、滅ぼさねばならない。

 

 ──例えこの身が断罪の業火で燃え尽きようとも。

 

 

「──我が名は『ホムラ』──」

 

 

 私が私として私であるために、怒りのままに神判を下す。

 

 ──(くだ)れ、退(しりぞ)け、そうして()ね。

 

 我が名は『ホムラ』。

 

 

「──真意を見抜き神判を下す者なり」

 

 

 呪文はなく、されど確かな宣言をもって、炎の腕がエルザへと迫った。

 

 

◆◇◆

 

 

 この世に絶対的な悪などいないと知っているから。

 いつも、許せるようにと志す。

 己が正しいなどと思い上がってはいないから。

 

 でも、身近な誰かが傷つく度に、私の脳は痛いほどの熱を宿す。視界が赤く染まり、視界の全て、世界が敵に見える。罪を許すなと理性が囁く、悪を滅しろと本能が嘯く、せめてもの情けとして苦痛なく逝かせてやることがホムラにできる唯一の手向けだ。

 

 

「──『アルファイーラ』!」

 

「疾いッ」

 

「逃がさんッ!」

 

「シッ!」

 

 

 呪文がなくとも今ならば火を操れるが、唱えた方が威力は増す。だからホムラは限界を超える為の呪文を唱える。

 

 原初の炎が一筋の光線となってエルザへと襲い掛かる。

 速い、それはおよそ音速に近い一撃、弾丸よりも速いそれを、だがしかし、エルザは紙一重で避けて見せた。緊急回避の横っ飛び、しかし体勢は崩した。

 

 ホムラの双炎腕がエルザへ直行する。

 

 それに対してエルザは更に鋭い一閃を放って見せた。

 

 体勢すら不安定な状態で、名だたる猛者すら屠れる一撃を放つ、まさしく獣の剣。すべての攻撃が本気、我流の一閃。

 

 だが、

 

「無駄だ」

 

「くっ!」

 

 振るった刃は、炎腕の前に溶け堕ちる。ジュジュ、と音を立てて刃が液体と化した。それもそのはず、その炎腕に込められた『熱』は『炎蛇』の比ではないのだから。

 豪炎を閉じ込めたそれにもはや斬撃は通用せず、触れることすらできずに焼け落ちることを余儀なくされる。

 

「ふっ!」

 

「──無駄だと言っているだろうに」

 

「………そう、ただの飾りじゃないというわけね」

 

 ひるむ間もなく攻撃を掻い潜ったエルザだったが、ホムラの身に纏う『炎』もまた同じ。

 攻撃が当たる前に、その刃を焼き尽くす。

 およそ刀剣に対する絶対防御とも言える。

 

「──先ほど治癒魔法と言っていたわね。でも、もう助からないと思うのだけれど。酷いのね、きっと今頃あの子は地獄を見ているのではないかしら」

 

「───」

 

「ああ、でもそうね。同じお腹を開く機会というのは滅多にないもの。もし奇跡的に助かったら、今度こそ必ずあの子の腸を可愛がってあげるわ。ふふふ、何度も何度も何度も、腸を切り裂く感触を味わえるなんて、これ以上に素敵なことはないわね」

 

 そう残虐なセリフを平然と話すエルザ。

 エルザの言葉は半分正しい。スバルの傷は確かに普通であれば助からない。

 

 肉体はともかく、なによりもスバルの精神がついてこれない。エミリアに頼んだ応急処置は、言うなれば、生き死にの境に無理やり繋ぎ止めるようなもの。そんなことをすれば当然、気絶していようともスバルに相当な苦しみを与える。地獄だろう。起き上がることもできず、かと言って死ぬこともできず、ただただ苦しみを与えられるというのは、それはきっと何度も何度も死ぬようなもので、到底あの平凡な少年に堪えられるようなものではない。

 

 

 だが、この世に絶対などない。

 

 

 ならば、ホムラが諦める理由はない。

 

 

「──私は、あの少年の強さを信じる」

 

 

 会ったばかりの少年に、今日初めて会った少年に、ホムラはそう言い切って見せた。 

 

 

「共にした時間が少なくとも、私は知っている。 

 自らを犠牲にしてでも私を逃がそうとしたその勇気を。

 自らの恥を忍んで感謝を告げたあの者の誠実さを。

 何より、自らの身を挺して私を守ってくれたその男気を。

 ──故に私は信じている。ナツキスバルはここで死ぬような男じゃないと」

 

 

 熱い、熱い、滾りだった。

 

 確かに噴出していた激しい怒りを、猛き憤怒を、少年への敬意が打ち消していく。

 言葉にすればそれだけのもの。

 しかし、今ホムラの感じているこの滾りこそがナツキスバルとの短い時間で得られた信頼の証だ。

 

 

「信頼しているのね、妬けちゃうわ」

 

「私を動揺させ魔法を乱そうとしても無駄だ。過去の私とは、違う。今の私の『信念()』は何物にも揺らがない。──『ベータ』」

 

「──っ」

 

 

 更に熱量が跳ね上がる。

 先ほどより太く、速い、炎熱線。

 まるで少しずつ調子を温めているように、威力が増していっている。

 

「『ガンマ』『デルタ』『イプシロン』」

 

「くっ、このっ!」

 

「『ジータ』『イータ』『シータ』」

 

「っ! 調子に──ッ!」

 

「──捕まえた」

 

「────!」

 

「『シグマ』──ッ!」

 

 

 ──極太の熱戦が黒装束の中心を穿った。

 

 

「………ご、ふっ」

 

 エルザの口から血が溢れ出る。

 そのお腹には細い胴体がギリギリ繋がっているほどまでの大きな風穴があいている。

 致命的な一撃。六回の砲撃で退路を塞がれ、炎腕でその身の動きを封じられた。

 

 

「──貴様、『腸狩り』と言ったな。

 自分が狩られた気持ちはどうだ?」

 

 

 お腹に手を当て、地に手を突いた女に、蛇のような瞳をしたホムラが告げた。

 

 

「ふ、ふふっ、ふふふふふっ」

 

「何が可笑しい」

 

「可笑しいわ、可笑しいのっ、ふふっ、あ、あははははっ!」

 

「──ッ!『カッ──」

 

「──今、とても心地がいいの!」

 

「ぐっ!」

 

 

 ジュゥ、と肉の焼ける音が響く。

 剣を捨てたエルザの抜き手がホムラの鳩尾に刺さった。

 

 ──速い。先ほどまでとは、桁違いに。

 

 何が、起きた。

 

「離れろッ!」

 

「連れないわね、悲しいわ。悲しくて、──とっても素敵」

 

「異常者めッ!」

 

 

 目にも止まらぬ応酬が始まった。

 

 右、左、後ろ、高速で女の影が有働する。それは既に黒い線としか傍からは見えず、ホムラの目でもってしても捉えることが出来ない。

 

「がっ、ぐっ、あぐぁッ!」

 

「もっと、もっと、もっと!」

 

「なッ、くッ、このッ!」

 

 焼けているはずなのに、指が溶け、癒着しまともに手を開くこともできなくなっているはずなのに。これだけ何度も近づけば汗腺すらも焼け落ち発汗すらできなくなるはずだ。これだけの熱を含んだ大気を吸えば、喉が焼ける。鼻孔が焼ける。目の水分だって蒸発する。地獄であるはずだ。かなり耐性があるはずのホムラですら焼き焦がす爆炎だ。

 

 狂人と言えど、ただの人が耐えられるレベルを超えている。

 

 なのに、なぜ、

 

 

「牙が亡くなれば爪で

 爪が亡くなれば骨で」

 骨が亡くなれば命で」

 

 

 ここに来て更にスピードが上がるのか。

 

 

「それが腸狩りのやり方。だから、もっと楽しませてほしいのだけれ、どっ!」

 

「──あ゛ァァァアアアああああああ!!!」

 

「あら」

 

 

 集約した豪炎を再び解き放つ。

 炎柱が天を衝き、辺り一帯を焼け野原にする。

 さしものエルザでも近づけるものではない。

 

 当然、ホムラの肉体も無事では済まない。

 

「くっ、がっ………」

 

 ジュゥゥ………と音を立ててホムラの両腕が垂れさがる。左腕は完全に焼き焦げ、真っ黒に炭化し、右腕も大概だ。もはや両腕を動かすことも叶わない。

 

 

 満身創痍、その言葉が相応しい惨状だった。

 

 

「………はぁぁ………もう、長くはもたない、これで決める。だから、──全部寄越せ、『閻魔』」

 

『……ォォォ!』

 

「まだ、上があるのかしら」

 

 

 ホムラの身を包んでいた炎が剥がれ、ホムラの身を覆うのは双炎腕だけになった。代わりに、ホムラの胸の中心へと莫大な魔力が流れていくのをエルザは感じていた。

 

 凄まじい魔力量。

 それはエルザが今まで見たものの中でも最大。

 きっと、これが最後の攻撃だ。エルザはそう察した。

 

 だから、

 

 

「『腸狩り』エルザ・グランヒルテ」

 

 

 エルザはそれを真正面から受け止めると言わんばかりに構え、名乗りを上げた。

 

 

「私は『正義の味方』ホムラだっ!」

 

 

 本来なら悪党になど名乗らないホムラも口上を上げた。

 

 

 次の瞬間、エルザの動きが加速する。

 それは彼女の人生で最も俊敏な動きだった。

 迫り来る紅蓮の腕を掻い潜り、力の集中するあまり不安定な炎を一刀でもって両断する。

 

 刃が溶ければ次の刃を、刃がなくなったなら爪で、爪が無くなったなら骨で、全身全霊で持って狩りにいく。それが腑狩りのやり方なのだから。

 

 

 気づけば、ホムラの目前に彼女はいた。

 

 

 目と目が合い、互いにその綺麗な顔は黒く焼け爛れているが、未だその美しさに変わりはない。

 この距離、空気を吸えば喉が焼け、声を発することは叶わない。されど、互いの意思は伝わった。

 

 

 ──燃やし尽くす。

 

 ──首を噛み千切る。

 

 

 エルザの歯が、ホムラの肩へと突き刺さる。

 同時、もはや力の入らぬ両腕がエルザの首へとかかり、ホムラは抱き寄せるようになけなしの力を入れる。

 

 側から見れば、抱きしめ合う良人のように思われたかもしれない。エルザもまた彼女を両手で捕まえていたから。当然、二人を覆う死の抱擁さえなければの話だが。果たして、今度こそ彼女を捕まえたホムラは肩に噛み付く彼女の耳元で、小さく囁いた。

 

 

 

 ──オメガ……イーラ……!

 

 

 

 ゼロ距離で、終焉の焔が炸裂する。

 今度は脅しじゃない。

 本気の本気、最強の一撃。

 

 ホムラの胸が紅く光り、終わりの輝きが両者を白く染め上げる。ホムラの眼光がエルザを穿ち、エルザは魅惑的な笑みで受け止めた。

 

 

 刹那の静寂。

 

 

 その後、最初の一撃とは桁違いの衝撃が貧民街に響き渡った。

 

 

 

 ドッ、ガァァアアアアンッ!

 

 

 

◆◇◆

 






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