熱は冷めて………
「──ホムラっ!! 酷い火傷………水の微精霊さん、お願い……」
エミリアは水の微精霊の力を借りて治癒を開始する。
だが、
「いたっ……」
まるでマナの侵食が拒まれたかのようににエミリアの翳した手が弾かれた。
エミリアの手のひらに軽度の火傷が生まれる。
「……どうして、こんなの、どうすれば………」
エミリアは静かに思考を取り乱す。
彼女は然程治癒魔術に明るいわけではないからだ。
ベアトリスとは違い、彼女の魔法の腕は半端にすぎない。
「パック………」
いつもならこんな時、冷静にやるべきことを教えてくれる最愛のパートナーはいない。
オドを使って呼ぶという手段はあるが、それではここら一帯が崩壊する。
それでは本末転倒。
「ううん、私がしっかりしないと………」
エミリアは自分の弱音を封じて、ならばと、無理矢理にでも侵食しようと力を解放する。
青い光の波動が強まり、出力が増していく。
同時、彼女の手にかかる抵抗も強くなっていく。
「──っ」
段々とエミリアの火傷が悪化していくが、その甲斐あってか応急処置程度の治療はできた。
一段落、だが一件落着とはいかない。
これ以上はエミリアの腕では不可能。今すぐにでも腕のいい治癒士に見せなければスバルともどもこのまま目覚めないということになりかねない。
しかし、今からそんな腕を持った人と約束を取り付けるなんて、
「そんなことわたしには……」
最悪の結末を予想して、青ざめるエミリア。
ルグニカ王都から辺境伯邸まで最低でも三日。
それまで二人が持つ可能性は、極めて低い。
「どう、すれば………」
エミリアの心に黒が差す。
この状況、頼れるものは居らず、エミリアは一人だ。
今までなら、パックさえいてくれたらよかった。
パックがいてくれて、それでできる限りの人を助けられたら、そうして少しでも種族関係なく、嫌な特別扱いをされずに誰かと過ごせたら、そう夢を見て過ごしてきた。
でも、
「助けたい………二人を助けたい」
思い出されるのは今日の出来事。
『私は正義の味方だからな、善良な者の味方だ。そしてお前は、ちょっと心配なくらいに善良だ。だからだ』
どうして、私に手を貸してくれるのか。
その疑問の答えがそれだった。
いつも、人助けをすると笑顔が返ってくる。私はその笑った顔が好きだった。
でも、ハーフエルフであると分かると、途端に怪奇の目で彼らは私を見る。
『銀髪』に『紫紺の瞳』、極めつけには『ハーフエルフ』。
それはこの国に、ひいてはこの世界にとって忌み嫌われる禁忌の象徴に瓜二つであり、忌避せざるを得ないものである以上、仕方のないことだ。
仕方のないこと。それでも、私はそんなの御免だった。
私は、きっと欲張りなのだと思う。
パックがいて、私なんかがこの国の王様候補にまで選ばれている。
それはとても恵まれたことで、『普通』に扱って欲しいなんて、それこそおかしな話だ。
でも、
『──エミリア』
そう私を呼ぶ声には、突き放すような距離がなかった。
ただ、一人の人としてホムラは私を見てくれている。
ホムラは幼いわりに居丈高な言葉が多いけど、その目はちゃんと相手を見ている。見下すでも、見上げるでもなく、真正面から相手を見ている。
それが、不思議と言葉の強さとはまだ違った印象を与えるのだ。
ここの人たちを叱った時もそう、
あの時は見知らぬ人に対しての失礼な発言を咎め、その後少し口論になったが。
私は戦場からスバルを連れ出す時に見た。
──早く逃げろ! こっちだ!
ホムラに叱られた人たちが、積極的に人助けをしているところを。
ホムラの言葉が、彼らに再び熱を灯したのだ。
ホムラの言葉には熱がある。
それは彼女が誠実で、彼女の一言一言が本気で相手を想った言葉だからだ。
『──エミリア』
その縋るような目を見た。
スバルの重傷に、庇われたホムラが責任を感じていないはずがないのだ。
だからこそ、ホムラはここまで無理をしたのだろう。
ホムラは、いい子だ。それもすごーく。
「………死なないで、ホムラ」
生きていて欲しい。死なないで欲しい。死なせたくない。
手が痛い。それはまるで生身の火に手を突っ込んでいるかのようで。
けれど、それ以上に心が痛いから。助けたいから。
「──ッ」
火傷を厭わず、エミリアは治癒を施す。
助けたい子は、もう一人いる。
今はホムラに手いっぱいだが、あの子も──スバルも、治癒し続けなければ危ない状況。
手が足りない。
どうしても、エミリア一人では二人を治すことが出来ない。
当然、治癒魔法を使い続ければ、マナの量にも限界が来る。
それは、その事実は、どうしようもない現実を示していた。
──絶望、それが脳裏をよぎる。
諦められないのに、道がない。手がない。あるいは、どちらか一人なら助けられたかもしれない。しかし、どちらをも救う選択肢は、エミリアには存在しない。
手の痛み、脳の疲労、マナの枯渇、精神的にも苦しい状況。
それでも、エミリアは必死に治癒を掛け続ける。
苦しい、辛い、それでも、一縷の望みに賭けて、少女は叫んだ。
「誰か………助けて………っ!」
「──お助けします」
「らいん、はると………っ!」
ラムを伴ったラインハルトがそこにいた。
◆◇◆
どんどんどんどん細かくなる………
そしてラインハルトえ………