クソデカ感情持ちの親友がTSしたら……そりゃあもう、ね……?   作:ドS美少女がタイプです

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やることは一つですよ

 

 

『女になった。家に来てくれ』

 

 

 朝七時、人々が朝の営みを始める時間。もしくは、起床する時間。または、まだ寝ている人もいるかも知れないような時間。男のスマートフォンにメッセージが届いた。

 

 男——都鞠 秀才(とまり しゅうさい)は学生服を着込む作業中に、横目で通知を確認する。メッセージは都鞠の親友、八王子からであった。

 

 女になってしまったという旨の知らせ。

 

 普通の人間であれば、『なんの冗談を……』とタチの悪い冗談と聞き流すだろうか。しかし、八王子がそのような冗談を言うような人種ではないことを、都鞠自身が一番理解していた。

 

 彼等は、付き合いこそ短いものの、確かに親友と呼べる関係を築いていたのだ。

 

 巷で噂の性転換症候群。Trans Sexual Syndrome——通称TSSと呼ばれるソレは、都市伝説などではない。事例こそ極めて少ないものの、テレビなどで見聞きすることは出来る。未だ原因不明の難病であると、都鞠は聞き及んでいた。

 

 八王子は、そのような仮にも被害者がいるような病気を使って、他人に冗談を言うような奴ではない。

 

 都鞠は朝の準備を早々に終えて、八王子の家へと向かうのだった。

 

 

 

***

 

 

「おはよう、親友くん」

 

 

 都鞠が何度も訪れた部屋のベッド。座り込む女が居た。

 

 スラリと伸びた長い脚、足を組んだ姿が様になっている。漆のような、オニキスのような艶のある黒く、長い髪は扇情的であった。

 女にしては少し低いだろうか。しかし、王子様然としたような透き通る声が、都鞠を親友と呼んだ。

 

 目の前の彼女こそが、都鞠の親友——八王子 菊代(はちおうじ きくよ)、その人であった。

 

 

「本当に、菊代なのか……?」

「その名前は嫌いだって言ってるじゃないか。女っぽいから苦手なんだ。大体キミねぇ……。知っているのに、人の嫌がっていることをやるなんて、デリカシーに欠けてるんじゃないか?」

「いや、すまない。今なら許されると思って……」

「……。」

 

 

 女になったなら構わないだろう、と言わんばかりの親友の発言に、八王子は押し黙る。我が親友ながら、つくづく配慮に欠けるものだと思ったのだ。

 

 お互い物も言わずに見つめ合う二人。別に恋に堕ちて目が離せないという訳ではない。双者探り合っているような様子であった。

 

 

「ちょっと待っててくれ。すぐに済ませる」

 

 

 最初に口を開いたのは、八王子。

 

 決して、空気に耐えかねて逃げ出した訳ではない。それよりも、何か用事でも出来たかのような顔だった。

 

 八王子が部屋を出て行き、暫くして部屋の扉をノックする音が響く。自分の部屋なのに律儀な奴だ、と思った都鞠は「いいぞ」と返事をした。

 

 

「どうかな?」

 

 

 部屋に入って来た八王子は、先程までと打って変わっていた。打って変わったと言えば、性別の変わった今の状況こそ、そうであるのだが、そうではない。

 

 先程と服装が変わっていたのだ。

 

 服装が変わっただけと侮ること無かれ。男用の野暮ったい寝巻きから、学校指定の黒セーラー服に変わっていたのだ。

 あまりにも様になりすぎている光景。都鞠は息を呑んだ。誰だってそうした。女になった八王子には、黒セーラーが似合い過ぎていたのだ。

 

 作家や評論家といった、言葉を司る専門家達が今の八王子を見れば、何と喩えただろうか。語彙力の無い都鞠では完全に言い表してしまうことが出来ないが、彼等であれば血眼になって最適解を見つけ出すことだろう。

 

 そう、言わしめるだけの魅力が今の八王子にはあった。

 

 そもそも、黒髪ロングに黒セーラー。似合わない訳が無いのだ。それを際立たせるのが彼……嫌、彼女の真紅の双眸だ。

 

 都鞠は言葉を失った。

 

 

「おやおやおやおやぁ〜?秀才くん、キミ見惚れちゃったんじゃないのかい?」

 

 

 悪戯っ子みたいな笑みを提げた八王子が、都鞠を揶揄う。

 

 都鞠からしてみれば、図星であり、何も言い返すことが出来ない。大体、八王子の今の容姿は都鞠の好みドンピシャだったのだ。黒セーラーは性癖だ。憧れの黒髪ロング美少女が、大好きな黒セーラーを身に纏っている。それだけでご飯三杯はいけるような人間だったのだ。

 そんな憧れの存在が、自分の目の前に居る。夢のような情景。——尤も、相手は女体化した親友であったが。

 

 

「そんな顔もするんだな……」

 

 

 八王子が小さく呟く。

 

 都鞠は、その言葉を受けてハッとする。一体自分はどの様な顔をしていたのか。彼自身には知る由も無いが、目の前の八王子は見ていたのだ。

 

 何だか気まずくなって、都鞠は目を逸らした。彼女の下半身にまで視線を下げる。ストッキングなんて履いて、綺麗な脚をより魅力的に武装している。

 

 脚をジロジロ眺めつつ、目線を上げていくと、ある一点に目が止まった。

 

 元男にしては、様になり過ぎているスカート。その股関節が明らかに盛り上がり過ぎている。女性のそれではない。これは——。

 

 

「あ、あるのか……?付いてるのか!?」

 

 

 都鞠は思わず声を張り上げた。

 

それはもう、今までの重苦しい青春みたいな空気なんて掻き消してしまう程の発言。

 

 

「そんなに知りたいのなら、確かめて見ればいいじゃないか」

 

 

 「ほら」と腰を突き出す八王子。怒張した何かが、都鞠に近づく。何かと言うよりは、ナニ……だったかも知れない。

 

 それでも都鞠は止まらない。好奇心に駆られてしまった躰が止まってはくれない。

 八王子のスカートに手を掛けると、バッと捲ってみせたのだ。それはもう、好きな子に悪戯をするスカート捲りの小学生の要領で——。

 

 

「——は?」

「いやぁ〜ん❤︎秀才くんはエッチだな」

 

 

 現れたのは、ナニだった。ナニと言うより、ナニを模したシリコン製のナニだった。

 

 つまり、張形。——ディルド、ペニバンだった。

 

 

「えぇ……」

 

 

——なんとも言い表し難い絶望感に満ちた表情をする都鞠秀才くん、現十七歳。

 

——なんとも言い表し難い恍惚感に満ちた表情をする八王子菊代ちゃん、現十七歳。

 

 

「悪いな、秀才。もう気持ちが抑え切れない。秀才、キミのことが男の頃からずっと好きだ。もうダメなんだ。許してくれとは言わない。許して貰おうとも思わない。だけど、だけど秀才——俺は"コレ"でお前をブチ犯す❤︎」

「えぇ———!?」

 

 

 迫る八王子の迫力で、動けずにいる都鞠。そのままベッドに押し倒されてしまう。女の子になった、この細い腕にどうしてこれ程の力があるのかとか関係ないことばかりが頭を巡った。

 

 

「ま、待て八王子。俺もこれで理解はある方だ。もう少し段階を踏んでも……」

「男の俺に掘られるのと、女の俺に掘られるの、どっちが好みだ?」

「そりゃ、女だけど……」

 

 

 都鞠は異性愛者だ。同性愛にとやかく言うつもりは無いが、自分は異性愛者なのだ。相手は女性が良かったのだ。

 

 

「お前、今の俺みたいな女好きだろ?ドSの美少女に犯されるんだ。満更でもないはずだ」

「それはそう……いや、違う。ダメだ、八王子。俺たち親友じゃないか。話せば何とかなる。まずは落ち着いて茶でもしばこう。——あっ、おい!ズボンを脱がすな!パンツを剥くな!おい、待て待て待て待て!そんなの入らないだろ!あ、ああああああ……あっ」

 

 

 暫しの絶叫の後、静寂だけが部屋を支配した。

 

 

***

 

 

「やっぱり入らないか……」

「うぅ……」

 

 

 ベッドに蹲る都鞠と、ボンクラの玩具を放り投げる八王子。

 

 何があったかは語らない。強いて言えば、『……なにも!!な゛かった……!!』のだ。

 

 

「まぁ、いいや。俺は許すよ八王子」

「は?」

 

 

 今度拍子を抜かれたのは八王子の方であった。あの様な行いをしておいて許される筈がないのだ。強姦紛いの行為だ。良くて絶縁、悪くて通報まであり得た。それでも、八王子は覚悟して実行に至ったのだ。重過ぎる恋心が暴走した結果だったのだ。

 

 それを許す?甘過ぎるにも程があると八王子は嘆いた。

 

 

「学校どうするんだ?」

 

 

 もはや先程の事など何も気にしていないと言わんばかりに話題を変える。

 

 

「流石に今日は無理だろ……。病院とか行かなきゃいけないし」

「それもそうか」

 

 いつものペースで雑談に入る二人。

 いつものような会話。いつものような距離感。

 いつもと違うのは、八王子の性別だけ。それももう、大して気にされていない。

 

 いつもの仲良しの二人に戻れた……のかも知れない。

 

 

「と言うか、お前と戯れあってたら喉渇いたわ。何か飲ませてくれ」

「図々しい奴だな……。わかったよ、何か取ってくる」

 

 

 眉を顰めて部屋を退室した八王子。その背中が去るのを確認して、都鞠は小さく独りごちた。

 

 

「危なかった。危うく恋に堕ちかけた。相手は親友、元男だぞ?どう考えても、おかしいだろ……。そうか、八王子は男の頃から俺のことを……」

 

 

 小さな独り言は、誰の耳に届くことも無く、部屋の静寂と混ざり、消えてしまった。

 

 

 

***

 

 

 あれから、いつものように他愛無い会話を続けて、都鞠を家に帰した。

 結局、アイツを俺の事情に付き合わせて二人で学校をサボってしまったのだ。

 

 今日は本当に失敗した。ずっと隠しておくべきだったんだ。アイツに言うべきじゃなかったんだ。困らせるだけだったんだ。

 

 それは本意では無かった。

 

 想い人を困らせる、それだけはしてはいけないことだった。たとえ実ることが無かろうと、アイツが幸せならそれで良かったのだ。

 

 それなのに……それなのに……。

 

 舞い上がってしまった。女になったからって暴走してしまった。

 

 

「うぅ……」

 

 

 涙が止めどなく溢れ出した。

 

 水分を帯びた髪の毛が、頬に張り付く。泣いたからか、喉は変に枯れてるし、目が痒くて仕方ない。姉のお古のセーラー服は皺だらけで見窄らしかった。

 

 全身鏡に近寄り、今の自分の姿を見る。

 

 想像するのは、女の自分と秀才の姿。

 

 楽しげに話す二人を妄想すると、自然と頬が綻んだ。

 

 次に浮かんだのは、自分から離れていく秀才の姿。

 

 嫌だ。嫌だ。絶対に嫌だ。自分が今日、最低な行為をしたことのは分かっている。それでも俺は、彼の側に居たいのだ。

 

 

「絶対に渡さない。秀才は俺のものだ」

 

 

 彼に愛されるためならば、女の姿でも構わない。

 

 八王子菊代は、ただ都鞠秀才のことだけを愛して病まなかった。

 

 

 

 




 好評だったら続きます。
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