【スレまとめ】ワンピホラーSS   作:葛篭

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一応完結したので投稿
特に加筆も修正もしてないけどそれはまた後日

前作が気に食わなすぎて書き直したくて仕方なくなったのでセルフリメイクです
まあ全てはダイスの女神に寄るし、ホンゴウライムのキャラ全然分からねぇのでまたグダって納得できる話にならない可能性はあるけれども…まあなんとかなるでしょう


ウタが廃村に攫われる話

「あ、あれ…?ライム…?ホンゴウ、さん…?」

 

見回した先に彼らの姿はどこにもなかった

 

 

「ホンゴウさーん!ライムー!はーやーくー!」

「ウタぁ!あんま先々行くんじゃねぇ!」

「はは、崖と獣に気をつけろよー」

 

今、赤髪海賊団はとある春島に停泊していた

小さくも栄えた港街を有し、気候も穏やか。ログが溜まるまで一ヶ月と少々長いが、それをしばらくの休暇としてしまえるほどの長閑な島だった

 

そんな中、街から少し離れた小さな山へと薬草を探しに入ったホンゴウとそれに手伝いを申し出たウタ、あとは護衛として着いてきたライム・ジュースの三名は山向こうへと下る道を進んでいた

山の中腹付近でこちらの方に白い塊が見えたのでそこを目指している途中だ

 

「あ、開けた。…わーすごーい!見て見て!すごい桜!」

「おお、綺麗なもんだな」

「ねー、街の方はまだ全然咲いてなかったのに」

 

開けた道の先にあったのは大きな桜の木が何本も植わっている、周囲の山に囲まれ谷間になっている場所

 

「村を囲むように植えてたんだな。手入れもされてねぇのによく咲いてるもんだ」

 

桜の木の向こうには家の残骸や田畑の名残が見える。獣道から続いた足元の道もほとんど草で覆われていた。随分と前に廃れた村なのだろう

 

 

「……村、無くなっちゃったの…?」

「ん?…ああ、移動が面倒になったのかもなぁ。港の街からそう離れちゃいないが山を超えるより山の裾野の方が移動が楽だからな。田んぼも畑も向こうの方で十分だったんだろ」

 

少し顔色を悪くしたウタにホンゴウは明るく答えてやる

……なにも人が居なくなるのは災害や人死が原因だけではないのだ。至極平和な理由で村ごと移転した可能性だってある

 

「しっかし見事に満開だなぁ。明日辺りみんな連れてきてここで花見ってのもいいかもしれねぇな」

「お花見!わたし初めて!戻ったらルゥにごちそうお願いしなきゃ!」

 

キャッキャとはしゃいだウタがライム・ジュースを連れてベストな花見場所を探しに行くと駆けて行ったのを見送り、ホンゴウはのんびりと川に沿って進む

浅く川幅も狭いがその分澄んでいて、いくつか水生の薬草なども見つかった。そのまま近くの畑跡に分け入ってみる。そこには一面に漏斗状の白い花が咲き誇っていた

 

「ん…?この花って……」

「ウターーー!!!!どこだーーーー!!!返事しろーーーー!!!ウターーーーー!!!!!」

 

突然聞こえたライム・ジュースの絶叫にホンゴウは一も二もなくそちらへと駆け出した

 

 

「どうした!?ウタは!?」

「分からねぇ!ちょっと目を離した隙に消えちまった!」

「なにやってんだバカ!!ウターーー!!」

 

一発ライム・ジュースをどついた後ホンゴウもウタを探して回る

開けた村だ。道はなだらかで高低差も然程ではない。一番低い村の入口から一番高い屋敷まで続く中央の道から村の左右ほとんどが見渡せる。建物の多くは木製で既に潰れてしまっており、数少ないまだ形を残している家屋の中も探すがウタの姿はない

浅い川に落ちた場合、頭を打ってしまい溺れる可能性が高いのでそれを危惧して川も見て回ったが居なかった

空から探していたライム・ジュースにもウタの姿は捉えられなかったようで苛立ちながら降りてきた

 

「攫われたか!?」

「どうやってだよ!? 一応見聞色使いっぱなしだったぜ!? 確かにウタ以外の気配はなかったしウタの気配も突然消えたんだよ!なんの前触れもなく!」

 

たった一瞬、桜の幹を一周りする。ただそれだけの瞬きの間にウタの姿も気配もライム・ジュースの認識の外へと消えてしまった

こんなこと、普通ではありえない

 

 

「……ライム、急いでお頭に知らせてこい」

 

ならば“普通”のことではないのだ

この海の不可思議は悪魔の実だけではない

長く海賊をやってきたホンゴウたちはそれを知っている

 

「こういうのに一番強いのはお頭だ。なるべく早くお頭を連れてこい」

「お前は」

「おれは出来る限りウタを探してみる」

 

四皇幹部に気づかれないように攫うことが出来るモノだ。このまま乗り込んで探して見つけられる確率は五分だろう

だが娘を攫われたんだ。必ず落とし前を付けさせる

そう拳を握るホンゴウに頷いてから、ライム・ジュースは目前の大木を見上げて武器を構える

 

「気ッに食わねぇなぁ…ッ!」

 

眩い閃光。重い轟音。晴天から落ちた火が美しかった桜を無残に焼き焦がす

 

「あっっっぶねぇな!?こんな近距離で断りもなく雷落とすんじゃねぇよ!鼓膜が破れたらどうすんだ!」

「悪ぃ悪ぃ、ムカついたからよぉ」

 

間一髪木から距離を取ったホンゴウがライム・ジュースを怒鳴りつけるが、彼は飄々と返しながら空へと駆け上がる

 

「ミイラになんなよ!」

「誰に言ってやがる!」

 

港の方向へ駆けて行くライム・ジュースに背を向けて、ホンゴウは改めて周囲を見渡す

ライム・ジュースの雷霆によってべろりとその本性を表した、かつて村と呼ばれたものを

若草が揺れていた田畑は泥濘みに沈み、陽光を受け輝いてた小川は枯れ果てて、それでいてなお悠然と咲き誇る桜たちが道を作る

散った花弁がカーペットのように地面を覆い、薄く白いそれは真っ直ぐに一番奥の屋敷を指し示していた

 

 

──誘われている

 

は、と一つ息を吐く。あからさまな挑発。いいだろう、乗ってやる

うちの娘に手ェ出して、更地にされる覚悟はあるんだろうなァ?

 

そうしてホンゴウは、一見してただの廃れた家に見える、得体の知れないモノの領域へと踏み込んだ

 

 

ワノ国風の背の高い木製の門をガラも悪く蹴り開ける

途端、炎のような赤色が視界に飛び込んできた

真っ赤な花が庭一面を埋め尽くすように咲き誇っており、真っ赤なそれは炎のようでも血のようでもあった

不気味なそれを見下ろして、ホンゴウは先ほど村の畑で見た漏斗状の白い花を思い出した

 

(畑に植わってた花も、これも……どういう関係がある?)

 

視線を上げれば正面、3mも無い先に母屋らしき大きな建物の玄関がある

左には赤い花を貫いて木と石が見えるのでおそらくは庭園なのだろう。それと母屋から続く縁側もある

右に見える建物は母屋ほどしっかりしていない。おそらくは納屋か作業場か何かだろう

さて、どこからカチ込むか……

 

コッ…ズ ズズ……

 

小さな音──戸を引くようなそんな音が納屋の方向から聞こえたので、ホンゴウは足をそちらに向けた

真っ赤な蜘蛛のような花を躊躇なく踏み潰して、ホンゴウは納屋の扉に手をかけた

 

 

==【ライムside】==

 

おれよりも僅かばかり見聞色が得意なホンゴウにウタの捜索を任せ、機動力のあるおれがお頭たちを呼びに行くのは当然の役割分担だった

山道を越えるのは面倒だが樹上を飛び越えて駆ければ元の半分ほどの時間で港まで帰れるはずだ──はずだった

森に入り込んだ瞬間に発生した霧。伸ばした手の先すら掠れるような濃霧に大きく舌打ちする

方向感覚が狂わされる。一度止まって少しだけ戻れば村の方向は明るかった

 

(港へ行かせねぇつもりか…それとも村へ戻してぇのか…)

 

まあ、どちらにしたって構わねぇ

武器を真っ直ぐと真白になった空へと向ける

 

「しゃらくせぇ!おれを誰だと思ってやがる!!」

 

世界が割れるような音と共に縦横無尽に雷火が霧の中を駆け抜けた

 

 

==【ホンゴウside】==

 

木製の引き戸を開けば少しばかりホコリが舞った

部屋の半分は奥まで土間が続いており、壁際には釜が乗ったままの竈に水瓶だろうかいくつか大小の壺が並んでいる

残りの半分は小上がりから続く板間で奥に箪笥や棚、階段が見える。床の上には布や裁縫道具、それらが入っていたらしき箱が散乱していた

 

(人の気配は無し、か。足跡もねぇな…)

 

釜の蓋を開けてみれば中には萎れた草が詰まっている。スンと一摘み匂いを嗅いでみれば知った匂い

隣の壺の中にも色々な草が水に付けられていた形跡があった

 

(エンジェルトランペット、スパイダーリリィ、煙草の葉、これは…トリカブトか?)

 

全て、毒素を含む草花だ

エンジェルトランペットは容量を間違えなければ麻酔として使うことも出来るが、悪寒や幻覚を見るため覚醒剤として使われることもある

スパイダーリリィは鱗茎(球根)が生薬となるが同時に強い毒性を有し、吐き気や下痢を起こし、重度の中毒になれば中枢神経に麻痺を起こし最悪死に至る場合もある

タバコは嗜好品として広く親しまれているが、実はそれに含まれるニコチンの毒性は強い。煙草の葉を直接食べたりタバコを浸した水などを飲めば容易く中毒を起こし死に至ることは少なくない

トリカブトはとりわけ有名な有毒植物のひとつだろう。嘔吐、呼吸困難、臓器不全などを起こし、しかもその毒は即効性。経口摂取後数十秒で死亡したという報告もある。素手で触っただけでも中毒を起こすこともあるというだけでその強さは分かるだろう

 

 

小さな村だ。一見して穏やかに見えたそこにこれだけ有毒の植物を好んで植える理由はなんだ?

 

板間に上がり込み作り付けの百味箪笥を適当に開ける

予想通り何らかの植物──枯れていて分からないが恐らくこれにも毒性があるのだろう──が収められている

他に幾つか開けてみてが似たようなものでこれ以上情報となるものはなさそうだった

一応、床に投げ出されていた布や裁縫道具も見聞してみたが布は黄ばみ虫食いだらけでボロボロ、裁縫道具もハサミは錆つき針も殆ど折れていた。特にこれといった収穫は無さそうだ

 

(て、ことは上だな)

 

殆ど垂直のような急な階段を警戒しながら登る。厚みのある板は古いにも関わらずホンゴウの体重を受け止めて多少軋んだだけで割ることはなく、それに少しだけ安堵する

二階は随分と荒れていた

「捨て置かれてそのまま」といった風情だった一階と打って変わり、床には引きちぎられた布や切り刻まれた紙が積み重なり、刃物や壺か何かをぶつけられ傷ついた壁、一部床板や天井の板も壊れている

そして他に何の家具もない部屋の中、ただ一つポツンと階段から見て一番奥に設置された、納屋には不釣合いな綺麗な意匠のワノ国風のドレッサーの鏡も無惨に割られている

刻まれた紙には何かが書いてあったようだが劣化のせいもあり解読は不可能。引きちぎられた布は元は白かったことと、恐らくはこれもワノ国風の服であっただろうということが辛うじて分かるだけだった

ドレッサーの引き出しには500B硬貨ほどのサイズの繊細な刺繍がされた白い鞠のような者が一つ入っているだけだった

 

(おれをここに呼んで、これを見せて…それでどういう目的を果たせる?)

 

犯人の思考がさっぱりと理解できなかった

 

 

==【ライムside】==

 

散らしても散らしてもすぐに復活する濃霧を雷で切り裂きながら先を急ぐ

自覚は薄いが迷わされている。体感であるが、村へ向かっていた時と同じ程度の時間をかけてようやっと山林を抜けた

途端に開けた視界に眉を寄せて振り返れば、先程までの濃霧が嘘のように春の新緑が青々と茂る山の風景が広がっている

その光景に舌打ちを一つ残してライム・ジュースはもう一走り港へと駆けた

 

 

「お頭ぁぁーー!!」

 

港の酒場で昼間から呑んでいたシャンクスは、ひどく焦った様子で空から降りてきたライム・ジュースに緩んでいた気を引き締める

あいつは今日はホンゴウに付いて山へ行ったウタに護衛として同行していたはずだ

それがあいつだけがひどく慌てて戻ってくるということは…

 

「ウタに何かあったのか!?」

「すまねぇお頭!おれが付いてながら…ウタが浚われちまった!ホンゴウは残って探してっけど、お頭を連れてこいって!」

「ウタが拐われた!?」

「どこのどいつだ!」

「赤髪海賊団に喧嘩を売るとはいい度胸じゃねぇか!」

 

周囲にいた赤髪幹部達も集まってきて騒ぎ始める

 

「人じゃねぇモンっぽいが詳しくは分からねぇ!おれの雷はいくらか効いたが決定打にはならなかった。そこそこ強いやつらしい」

「分かった。直ぐに向かう。案内しろ」

「おう!」

 

すっかり酔いの覚めた頭で、グリフォンを携えシャンクスたちは山へと向かった

 

 

==【ホンゴウside】==

 

 

薄く思考を沈ませていたホンゴウの気を引くようにコツコツと窓が叩かれる

古ぼけた曇りガラスの窓を一息に開ければ、白い塊が飛び込んできた。咄嗟に手に持っていた棒で叩き落とす

 

「蝶…?いや、蛾か…?」

 

もったりとした白い毛で全身が覆われた手のひらほどもある白い蛾

カイコガによく似ているがあの種の成虫は飛べなかったはずだ

……そういえば、この村に踏み込んでからこれが初めて見る『生き物』だと思い至る

 

「蛾って…結構な確率で毒持ってるよな…」

 

毒草に蛾。こうなれば桜が多い理由も見目ではなく、毛虫が付き易いという特性からではないかと思えてくる

意図的な収集。これで百足なんかが出てきたら蠱毒も疑ったほうがいいだろう

幸い、ホンゴウは自分の身を使って薬の実験などを行うので多少の毒耐性は持っている

 

「無事でいろよ、ウタ」

 

いつの間にか音もなく開けられていた母屋の玄関を見下ろして、ホンゴウは窓から一気に飛び降りた

床に打ち捨てられた蛾が、ナニに変じたか見ることもなく

 

 

玄関の敷居を跨いだ瞬間、ぐにゃりともう一段階世界が歪んだ

延々と続く薄暗い廊下。天井からは丸い竹製のランプシェードが吊り下がっているが火は入っていない。背後は既に壁になっていて戻ることは出来なくなっている

白木の廊下に足を乗せればギシリと大きく音が鳴った。同時に廊下の奥からも同じように木の軋む音がする

左右には扉もない漆喰の白壁が続き、時折くり抜かれた中に溶けた蝋燭の残骸が置かれていた

しばらく進むと唐突に観音開きの扉が現れた。これも廊下と同じく白木で出来ており、丸いステンドグラスのような透かし彫りが施されているが向こう側は真っ暗で様子を伺うことも出来なかった

少し深呼吸をして、一気にその扉を蹴り開ける

 

「…………は?」

 

ぱちくり、とその向こうに見えた思いがけない光景にホンゴウは思わず少しばかり仰け反った

 

“火の海”

 

一瞬表のスパイダーリリィの庭を幻視するほどによく似た、一面の赤

決して狭くはない、それこそ一つの家の敷地内ほどもあるだろう空間が真っ赤に燃え盛っていた

廊下は途切れ土に変わっており、壁もゴツゴツとした岩になっている。天井は真っ暗でどれだけ高さがあるのかも分からない

 

「ここにバケモンは、虫や植物由来じゃねぇのか…?」

 

これまでの情報からてっきりそうだと思っていたのでホンゴウは少し以上に驚いたのだ

廃村や屋敷を根城にしているから、人間由来か人間が変じたものであるだろうとは思っていた。そしてその理由や能力に毒や植物、虫が関わっているのだろうと

それが正面から裏切られた気分だ。“火”なんて、そのどちらにも天敵となるものがこうも煌々と燃え盛っている

不思議と熱くもない火の間を通り抜けて次の扉を目指しながらホンゴウは一つ認識を改めた

これは、思っていたより厄介な相手かも知れないな

 

 

入ったものと同じ透かし彫りの扉を開くと先ほどとはまた違った廊下に出た

三人ほどなら伸び伸びと並んで歩けるだろう広さ。全体がボロボロの木製で剥げた床板や崩れた天井、厚い窓の向こうは何も見えない闇で満ちていた

一応、窓を壊せるかと殴ってみたが特に手応えもない

少し進むと分かれ道にブチ当たった。

 

右からは掠れた声のようなものと物音がする

左からは何も…痛くなるような静寂だけがあった

 

ホンゴウは迷うことなく右へ進んだ

何がいるかは分からないが、何が居ようと何かしらの手がかりはあるだろうと

前の部屋のものと同じような透かし彫りの扉をまた同じく蹴り開けて──瞬間、目に向けて正確に鈍く光るものが突き出された

 

==【“想地”の部屋】==

 

 

間一髪、ホンゴウはそれをしゃがんで回避し右手の武器を犯人がいるだろうという場所へ突き出した

ギャッという低い叫び声と共に犯人の身体が吹っ飛ぶ

 

「…猿?」

 

キィキィ ギャアギャ

かわいくもない声を上げながらしわくちゃな顔をした小型の猿たちが一斉にホンゴウを見て、隙あらば飛びかからんとしていた。手に手にハサミや包丁、ナイフやフォーク果ては先の割れたスプーンなどを持っている

 

「モンスターの方がいくらか可愛げが、ある、な!」

 

次々と襲いかかってくる猿たちを適度に殴り飛ばし蹴り飛ばしながら、ホンゴウは部屋の中を見聞する

台所らしい。竈には鍋がかけられ、まな板の上には何かの肉の塊がグチャグチャに切られた状態で放置されている。天井から吊るされているのも肉の塊。端の方に積み上げられているのも肉と肉を削ぎ落とした後なのだろう骨の山

ざっと見た限りで肉以外の食材が見当たらない。まあ怪異の台所ならこんなもんなのか?

一つ二つ、呼びかけ問いかけてみたがわめき声以外の答えは返ってこなかった。話せないのだろうか?ならばここでこれ以上の収穫はなさそうだ

最後の猿を蹴り飛ばし、ホンゴウは次へ向かうべく扉へと手をかけた

 

 

また同じような木製の廊下へ出た

 

今回は窓はなく、引き裂かれたり塗りつぶされたりしている絵画が壁に掛けてあったり床に放り投げられたりしている。中身がなく額だけが壁に飾られているものもある

 

家具を打ち壊した跡のような木材の山を真ん中にまた分かれ道に突き当たる

 

 

右はシンとした、痛くなるような静寂の部屋

 

左はザワリとした、小さな虫が這い回っているような部屋

 

 

今度は少し考え込んで、ホンゴウは右の静かな部屋を選んだ

 

先ほどは物音を頼りに騒がしい方の部屋を選んだが特別収穫はなかった。なので次は逆に静かな方を選んでみようと考えたのだ

 

また少し違う意匠の扉を開いた

 

 

==【“御寮”の部屋】==

 

 

ワノ国式の大広間だ

毛羽立った畳の上に空っぽの食器が乗った朱塗りのお膳が並び、豪華な刺繍を施された元は白かったのだろう座布団もその前に並べられている

また妙なのはその座布団の上にきっちりと畳まれた一人分の衣服がそれぞれ並べられていることだ。男物、女物、子供のもの、着物、洋服、それぞれだ

そして一番奥、上座にはワノ国の婚礼衣装を纏った木乃伊が鎮座していた

 

「結婚式?に、しては妙だな」

 

花嫁しかいない

上座の真ん中に木乃伊がおり、対となるはずの花婿の席が無い

こういう怪異にありがちな「花婿はお前だーー!!」という感じでもない

ただ、そこにあるだけだ

そうっと気をつけながら木乃伊に歩み寄り、警戒をしながらもそれを見聞する

 

年の頃は十代から二十代…もう少し上かも知れない

手は…縛られたりはしていない

重たい着物のせいで骨格が歪んでいる

着物の上から触って見た限り、どこかがひどく破損・欠損している訳ではなさそうだ

…つまり、木乃伊になってからこの格好をさせられた訳ではなく、死後すぐ…あるいは生前から、この格好であるということ

 

……さて、どうするか

脱がせてみればもっと詳しく分かるだろうが、果たしてそれが欲しい情報に繋がるのか…

あと単純にあんまり触りたくないんだよなぁ…死者の尊厳云々もあるけど生理的に

 

 

……とりあえず脱がさないことにして、そのままもう一度周囲含め見聞することにした

白いたっぷりとした布地に色合いの違う白い糸で豪奢な刺繍のされた婚礼衣装。全部絹で出来ている。ここが怪異の中でなけりゃ戦利品として持って帰りたいくらいの出来だ。いい値段になっただろう

正面に置かれたお膳は他と同じく空っぽかと思っていたが飯碗には糸クズ、汁椀には白い粉、高皿には針、平椀には先ほど納屋の二階で見つけたものと同じような鞠と白い糸…いや、これは髪の毛だ。長い白髪がそれぞれ盛られていた

左右は“フスマ”と呼ばれる紙製の引き戸だが開けることは出来なかった。そこに描かれていたのは人が死んで腐って骨になるまでの経過の連続絵で、絵としては上手いのだろうが見ていて気分がいいものではない

天井からは最初の廊下にあったものと同じような竹製の丸いランプシェードが吊り下げられている。一つ二つ叩き落として中を割って見たがランプシェードの癖に蝋燭も油皿もなく空っぽだった。そもそも開閉できる構造でもないからただの飾りなのか?

それから、木乃伊の後ろに小さな靴が片方落ちていた

白と灰色ばかりのこの空間で鮮烈な程に鮮やかな、薄い桜色の布地に赤い刺繍がされた、小さな小さな子供の靴

 

…………子供の靴? ほんとうに?

 

どこか、とてつもない違和感を感じる

全体が布で出来ていて、恐らくこれも絹製だ。底は硬いフェルト製。お頭の髪に劣らないほど鮮やかな赤糸で花が描かれている

ぎゅうとしばらく注視してみても違和感の正体は掴めず、ホンゴウはひとつため息を吐いて靴を置く

まあいい。次へ進もう

 

靴に描かれていた花とよく似た彫りの扉を開けた

 

 

──ミシリ…足元の板が低い音を立てる

先の二つより更に劣化が進んだ廊下

左壁際には大小様々な陶器の壺が並び、無事なものと割れているものとは半々といった所だ

右壁際には中身の枯れた鉢植えが並んでいる。全部同じ形をしているのが怪異製だということを強調している気がする

そのそれぞれ真ん中あたりに一つずつ扉がある。正面の突き当たりにもひとつあるから、今回は三択から選ぶようだ

 

左の扉は、これまで花のような模様が多かったのに対して壺を円形に並べた形を取っている

右の扉は、これまで円形の花のような模様が多かったのに対して直線が多用されて枡のような形を取っている

正面の扉は、これまでと同じような巨大な花のような、渦のような、空のような、どこか不安になるようなものだ

 

さてどれへ進むか…と思案しはじめたホンゴウの目の前で正面の扉がゆっくりと口を開けた

その向こうから、小さく子供の啜り泣くような声が聞こえる

──誘われている

──呼び込まれている

もしかして、とは思っていたが……

 

「狙いは、ウタじゃなくて、おれか?」

 

男を喰らう女郎蜘蛛でも居るのだろうか

深呼吸をして、武器を握り直して、ホンゴウは先の見えない闇の中へと足を踏み出した

わぁ、という子供の泣き声がひどく耳についた

 

==【“懐古”の部屋】==

 

 

突然、視界が白く染まって反射的に目を閉じてしまう

ザァッと、ぬくい風が緑の匂いを運んでくる

水の流れる音とうるさいほどの蝉の鳴き声

光に焼かれた目を何とか開けてみれば、そこには陽光の下に輝く村の光景が広がっていた

まさか外?出てしまったのか?追い出された?

 

……いや、違う。ホンゴウたちが訪れた村は随分前に潰れて、田畑は沈み家々は瓦礫になっていた

それに季節は春先だ。まだ桜もろくに咲いていない、先触れの春

目前の【村】は、真夏。田んぼには青草が茂り川はせせらぎ家々はしっかりと建っている

──相も変わらず、生き物の気配だけは微塵もしない

これだけうるさく蝉が鳴き叫んでいるくせにその気配は微塵もしない

在りし日の村を再現しているだけなのだろう

空間に、あるいは怪異そのものに、焼き付いた光景。忘れられない、場所と時間

ならば、この部屋──部屋と表現していいものか──を詳しく調べてみればもっと情報が手に入るだろうか

 

 

とりあえず、近くにあった家へと向かう

左右の畑には白い漏斗状の大ぶりな花──エンジェルトランペットが笑うように風に揺られていた

木と紙で出来た戸を引けば、薄い色の土間が目に入る。最初に入った納屋と造りはよく似ていた

鍋の中には同じく乾燥した煙草の葉。水瓶には澄んだ水が満ちており、底には幾つか白い石が沈めてあった

板間の中央には囲炉裏があってうっすらと赤い炭が燃え、その上には黒い鉄瓶が吊られている

壁には雨具や農具などがかけてあり、ごくごく自然な農村の民家という風だった

奥に襖が二つ。とりあえず入り口側のものを開く

 

寝室か。畳まれた二組の布団と足の短い机、小さな箪笥。服がかけてあるハンガー

それと、どうにも家に似合わない風体のドレッサー。これも納屋で見たのとよく似ている

まず机の上にあった古い作りのノートを手に取る

 

【天国へ行く方法】

 

真っ赤なそれは、子どもみたいな丸い字で書かれていた

 

【材料】

【・髪の毛(長く長く真っ直ぐに)

・両手の爪(新月に一枚)

・歯(乳歯ではいけない)

・猫(尾だけを飼う)

・朱を溶かした墨(親子ふたりの)

・朱を溶かして作った紙(月のもの)

・鏡の台(白い鉛で作ったもの)

・娘】

 

 

「……は?」

 

明らかな呪術の内容。嫌悪を催す邪法の儀式

けれど、ホンゴウが驚いたのはそこではない

 

「なんでここで、ここまで来て、こんな関係のない内容が提示される?」

 

毒も、草も、虫も、花も、関係ない

この空間、この怪異に一見してなんの関係もないと思われる呪術の儀式

儀式の内容を読み進めても、毒草も虫も出てこない。必要なのは母親と娘、それだけ

いっそホンゴウが女ならば条件を満たしたかもしれないが、現実にホンゴウは男でこの儀式にはどうしたって当てはまらない

 

「おかしい……ここは、なんだ?……お前は、なんだ?」

 

そうだ。ずっとおかしかった

これだけ毒草を前面に押し出しておきながら、燃え盛る炎を内包していた

これだけあからさまに誘ってきておきながら、害意を持って襲ってきたのは猿だけだった

…………廃村から始まり、火の海の洞窟、猿の台所、木乃伊の披露宴、そして在りし日の村の情景

 

どうして こんなに チグハグ なんだ?

 

ウタを拐ったのは、何故だ?

おれを“呼んでいる”のは、何故だ?

 

お前は──誰だ?

 

 

──沈んでいた思考を無理やり起こす

 

どれだけアレコレ考えたって、栓のないことだ

そもそも情報も少ないし、これだって情報らしい情報にはならない

よく考えてみればここに「虫が関係してるんじゃないか」というのもホンゴウの推測からで、別に確定でもなんでもなかった

思考と私情を切り離して、思い込みを排除して、もう少しフラットに考えたほうが良さそうだ

こうして一度気になると深く考え込んでしまうのはホンゴウの悪いところだと、副船長にも言われているというのに。やはり性質というものは中々矯正出来ないものだ

 

「…………うし。取り敢えずまっすぐ進む。で、ウタを見つけて連れ帰る。他のことは全部後回し!」

 

頬を叩き、気合を入れ直す

単純に、シンプルに、それだけを決めてホンゴウは家を出る

さて、次の部屋に向かう扉があるのか。それとももう一度屋敷に向かえばいいのか

周囲を見回しながら一応屋敷方面に向かって歩いていれば、最初ライム・ジュースが焼いた桜の大木の幹に扉が埋め込まれているのが見えた

今までとは随分と雰囲気の違う、桜モチーフの図形が描き込まれた扉を蹴り開ける

ワァ…という子供の泣き声が風に混じって消えた

 

 

廊下を進む

今までよりも長い廊下は、進むにつれてその様相を変えていっている

黒ずんで割れたボロボロの板が、埃の積もったささくれた茶色へ、そして最後は磨かれた白木にどんどんと“新しく”…否、本来の姿を表しているのだろう

だが、その全てを無視してホンゴウは真っ直ぐと廊下を進む

長く、長く、歩いた気がするし瞬きの間だった気もする

唐突に現れた墨絵の大襖

花の咲いた木々、霧のかかった山々、小川と田園、小さな家々──白黒で描かれたそれは表の村の風景のようで、少し違う気もした

──まあ、いい

もういい。全部気にしないことにした

美しい、清廉なその絵画のような扉を前に足を振り上げる

 

「迎えに来たぞウタ!一緒に!帰るぞ!!」

 

==斜陽の部屋==

 

 

……出鼻をくじかれた気分だ

 

柔らかな赤が満ちた部屋だった

擦れのない真新しい畳。その上に転がった素朴な子供の玩具。飾りのついた雪洞。錦の座布団とその上に鎮座する子供靴の片方

破れも日焼けも見当たらない柄押しの障子から透ける夕日が、その全てを赤く染め上げていた

 

「子供部屋…?」

 

細長い部屋は上記の物しか物がなく、ひどく殺風景で寂しかった

次の部屋へ向かうために部屋に踏み込んでいく。通り過ぎる時にチラリと見下ろした子供の靴にやっぱり何か違和感を覚えて少しだけ足を止める

桜色の布地に赤い刺繍。前のものと違いつま先が黒ずんでいる──血の跡だ

何だろう?この違和感は

子供の靴?本当に?

 

「あ゛ー!分からん!もう知らねぇ!」

 

頭を振って疑問を振り払う

どうでもいいだろう。“ウタのものじゃない”。それだけは確かなんだから

目を奥の襖に向ける。入り口と寸分違わぬ水墨画

それを走った勢いで蹴破って、飛び込んで、

 

ホンゴウの目の前に白いものが散った

 

 

火花のような、陽光のような、火のような、雷のような、雪のような、星のような──瞬き

 

 ──いっばん はじめや いちのうた

 

着地したのは柔らかな布地の上。絹を重ねた艶やかなクッション性の床

天井から吊るされたランプシェードの中身がゆらゆらと羽を動かして揺らめく

柔らかな色合いの雪洞が道を作る

 

 ──にぃは にがみの きぃのはな

 

広いような、狭いような、真白に溢れた部屋の一番奥

 

 ──さんは さかさま かさのかご

 

しゃっしゃ、と小さなお手玉の音

 

 ──よんは よどみの かわのふち

 

真白な布に埋もれるように真っ白な女が小さく、小さく座っていた

 

 ──いぃつつ いずれにいたるは かみのくに

 

拙い歌声が否応なしにホンゴウの耳に入り、脳へと入り込んでくる

 

 ──むっつ むつみむすんだ たまのおを

 

何もかもが真っ白な女だ

長い髪も。滑らかな肌も。見えてはいないだろう、眼も

 

 ──ななつ とつきよ めでたきと

 

無意識に、足が進む

意図せず、腕が下がる

 

 ──やっつ ややこを ことほいで

 

大した距離はなかった。もう女は目の前にいた

 

 ──ここのつ ここに うまれおつ

 

見下ろした彼女は、ホンゴウを見上げやわく微笑んだ

 

 ──とおで とうとう おさまった

 

身体が、重い

思考が、乖離する

おかしい、という思いが脳裏へと追いやられる

おかしい、と感じる心が麻痺していく

こいつは、こいつが、これが、これが、ちがう、ちがう、ちがう、ちがう、この子、は──?

 

「あのね、おとうさん」

 

少女は、無邪気にホンゴウへと両手広げて抱っこをせがんだ

 

 

「つれてって」

          「つれだして」

     「でたいの」

 「ねぇ」

         「ねぇ」

    「ねぇ」

   「かなえて くれるよね?」

 

「だって わたしのおとうさん だもん ね?」

 

 

 

 

手を──伸ばす

おれ達の小さな娘

かわいくて、愛しくて、大切なおれ達の宝物

一人、置いてきてしまった娘

あの火の海に一人、置いてきてしまったかわいそうな子

掛け違って、すれ違って、沢山のものを背負い込んで背負い込ませて、罪を犯させてしまったけれど、今はまた一緒に居れる。一緒に居たいと言ってくれた、おれ達の大切な娘

もうにどとと、おいては、いかないから──

白い手に触れようとしたその瞬間、

 

 

「だめだよ」

 

極彩色の歌声が真っ白の世界を押し流した

 

 

==ウタside==

 

「おっきー…これどれくらいの樹齢なんだろ?……あれ?ライム?」

 

あれ?さっきまでそこに居たのに…どこ行っちゃったんだろ?

 

「ライムー?なにー?突然かくれんぼー?」

 

軽く見渡しても影も形も見当たらない

そりゃライムは空飛べるし、一瞬で姿を隠すくらいは出来るだろうけど…突然そんなことしなくても良くない?…………大丈夫

 

「ねー!意地の悪いことしないでよー!悪趣味だよー!!」

 

声を上げながら村の入り口まで戻ってみるけれど、ホンゴウさんの姿も見えない…………大丈夫

…………大丈夫。違う。違う。これは、ちょっとした意地悪。ライムの悪趣味な、私に仕掛けたちょっとした、ドッキリみたいなもの。大丈夫、後でベックマンとスネイクに言いつけてやるんだ。ライムとホンゴウさんに意地悪されたって。叱られちゃえばいいんだ。バーカバーカ、ライムのバーカ。そんなんだから女の子にモテないんだよーだ…………大丈夫、だいじょうぶ…わたしは、また、おいていかれた わけ じゃ

 

 

「どうしたんじゃ?迷子かね?」

 

突然声をかけられて、びっくりしながら顔を上げたらおばあちゃんが心配そうに私を見ていた

 

「あっ、えっと…だ、大丈夫、です」

「そがぁな顔して、なぁんが大丈夫なもんかね。ほれ、ババアに話してみぃ」

 

しわくちゃな手が優しく私の手を包む

あったかくて、優しくて、私は一緒に来てた仲間に置いていかれちゃったのかもしれないって、それを正直に話してしまった

 

「ほうけ、ほうけ。悪い父ちゃんらぁじゃの。村のもんで探しちゃるし、見つかったらババアも叱っちゃるけぇ泣き止みんさい」

 

いつの間にか他のおばあちゃん達も集まってきていた

涙を拭かれて、優しい言葉をかけられて、蜜柑なんかも貰っちゃって…なんだか余計に泣けてきた

 

「余計泣いてしもうた…よぅしよぅし、泣かんでええ泣かんでええ」

「お屋敷ん連れてっちゃろうや。シュリ様ん話し相手んなってもろうとけば待つん間寂しゅうなかろ」

「それがええ。若い娘っ子は今居らんけぇ、シュリ様も楽しかろ」

 

片手に蜜柑を持ったまま、おばあちゃんの一人に手を引かれて私は丘の上のお屋敷へ向かった

 

 

「だぁれ?」

「私、ウタ。あなたは?」

「シュリ」

 

お屋敷に居たのは真っ白な女の子だった

服も髪も肌も眼も全部が真っ白!すっごく綺麗!まるで雪の妖精みたい!

 

「村に父ちゃんと来たらしいんじゃが、逸れてしもうたらしいんじゃ。今村のモンで探しとるけぇ、見つかるまでシュリ様のトコに置いてもらえんかのぉ?」

「いいよ。ね、遊ぼ」

 

クッションに座ったまま、シュリちゃんは近くの箱をひっくり返す

入っていたのは子供の玩具。お手玉とかけん玉とかダルマ落としとかおはじきとかお人形とか

 

「どれがいい?」

「うーん…」

 

あ、トランプがある

 

「トランプは?二人で出来るものって限られちゃうけど」

「いいよ。……ねえ、村の外のお話してよ」

「いいけど…私もあんまり詳しくないっていうか、限定的っていうか…」

「じゃあお父さんたちの話でもいいよ」

「うーん…うん、いいよ」

 

海賊…ってことは話さないほうがいいよね?

うーん…何の話なら楽しいかなぁ……

 

 

「うちの船長が酔っ払って着てたシャツビリビリにしちゃって、船医さんに怒られてた時の話なんだけど…」

 

「コックさんがジャングルで見つけたおいしそうな木の実を食べたら味覚がハチャメチャになっちゃって、しばらくご飯が凄いことになっちゃったことがあってね…」

 

「狙撃手さんに狙撃を習ったことがあるんだけど全然当たらなくって…」

 

「航海士さんと夜の見張りしてた時に流れ星が見れてね…」

 

「すごく大きい人がいてね、ちっちゃい頃は船医さんから逃げる時に隠してもらったりしてて…」

 

「うん、私も音楽家だけどもう二人いてね。一人はお猿さんなんだけど楽器が弾けるんだよ!」

 

「でね、ライムったらベックマンの真似してカッコつけたんだけどぜーんぜんかっこよくなくて!バッチーンてすごい音がして、頬っぺた真っ赤にして帰ってきたんだよ!」

 

 

「ふふ、楽しそう。いいなぁ、わたしも会いたいなぁ」

「それは……ちょっと、ムズかしい…か、なぁ?」

 

ほとんど私が一方的に話す赤髪海賊団の、当たり障りのない思い出話をシュリちゃんはとても楽しそうに聞いてくれていた

ニコニコした、とてもかわいい女の子

きっととても大事にされている。シャンクスたちに大事に守られてた、幼い頃の私みたいに

……お友達になれたら良かったのに

でも、私はシャンクスの、海賊の娘だから…ちゃんとお礼だけしてバイバイしないといけない

 

「いいなぁ…ウタちゃん、いいなぁ」

「シュリちゃん…?」

 

白い手が私の手を掴んだ

白い目に私の顔が写りこんだ

 

「いいなぁ、自由にお外に出られて」

「いいなぁ、おいしいご飯を作ってくれる人がいて」

「いいなぁ、一緒に遊んでくれる人がいて」

「いいなぁ、心配してくれるお父さんがいて」

「いいなぁ、愛してくれる家族がいて」

「いいなぁ、いいなぁ」

 

「なにっ?シュリちゃん?どうしたの──」

 

「ねえ、代わってよ」

 

小さな手が私の手を握り締める

火傷してしまいそうなほど熱い、爪の先まで真っ白な手が

 

「お外に出たいよ」

「おいしいものが食べたいよ」

「遊んで欲しいの」

「お父さんってどんなもの?」

「わたしにも、かぞくがほしい」

 

白い、白い、濁った目が、私を見詰めて離さない

 

「ねえ、代わってよ、《神様》」

 

ぐるり、と世界が、廻った

 

 

薄く、薄く、意識が引き伸ばされる

なんにも分からなくなる

絡め取られる。細い糸が手足を縛って動けなくする

ゆらり、ゆらゆら…揺れる思考。夢の中みたいな、暖かくて、柔らかい、夢見心地

私は、誰で、ここは、どこで──

 

『お前のせいだ!』

 

息が 止まる

 

『お前のせいだ』『あんたのせいだ』『返せよ』『どうして』『私たちの国を返して』『お前のせいよ』『おれ達の命を返せ』『私たちの人生を返して』『どうして』『なのに』『どうしてあんたは生きてるの』

 

四方八方から突き刺さる言葉

私を責める言葉。私の罪を突きつける言葉

全部、全部、私が悪かった

「しょうがなかった」「ウタは悪くない」

そう何度シャンクスたちが慰めてくれたって、私の心にこびり着いた罪の意識は消えなかった

確かに一番最初にトット・ムジカを歌ったことは私のせいじゃないかもしれない

でも、それを知らなかったのは罪じゃないの?

無知は罪。って言うじゃない。私が目覚めさせたトット・ムジカがエレジアを滅ぼしたんだということを知らずに、12年間シャンクスたちを恨んでいた時間は何なの?

私に事実を隠したことはシャンクスたちの優しさだ。それは分かってる

知っていて、何を変えられたかは分からない。でも、きっと私は知っていなくちゃいけなかった

ウタウタの実〈わたし〉のせいで死んだ人たちのことを私は考えなくちゃいけない。受け止めなきゃいけない。忘れちゃいけない

 

だから、目覚めなくちゃいけない

 

 

目を開ける。白い糸がたくさん私の体に絡まっていた

歌が聞こえる。とても拙い子供の声が数え歌を歌ってる

 

「シュリちゃん…!」

 

揺らめく脳裏に彼女の記憶が流れ込んでくる

閉じ込められていた。縛り付けられていた

産まれた時から《神様》として扱われて、ただそう育てられて、いつの日にか皆のために死ぬことを望まれた──ただの女の子

崇められて、讃えられて、願われて、望まれて──そこに彼女の意思はひとかけらだって介入出来なかった

ただ、外へ出てみたかった。遊びたかった。自分の足で歩きたかった。決められたもの以外のものが食べてみたかった──死にたくなかった

ただそれだけの、普通の女の子だったのに!

熱い、熱い、熱い、熱い!全身が熱い!突き落とされたんだ!動けないように縛られて!叫ばないように布を噛まされて!熱湯の中に落とされた!そうやって、殺された!!

悪意じゃない!害意でもない!あの優しいおばあちゃん達は!当たり前みたいな〈善意〉と〈信仰〉で、シュリちゃんを焼き殺した!!

 

──まるで、私みたいじゃないか

善意が人を殺すことがあると

慈愛が人を害することがあると

それを一番分かってるのは私、私が一度やろうとしたこと

だからこそ!私はこの村を否定する!

人の命は、別の誰かが簡単に、身勝手に、奪っていいものじゃないんだって!

この大海賊時代において、あっさりと踏みにじられる人の命を。そういう世界を。私は間違いだって主張する!

私は一度方法を間違えたけれど。私みたいな小娘の力で変えられるほど世界は簡単じゃないけれど

それでも!誰かが声をあげ続けないといけないことだもの!!

 

 

糸の壁を引きちぎりながら前へと進む

少しづつ歌声が大きくなる

もう少し、あと数枚という所で歌が終わった

 

「あのね、おとうさん」

 

シュリちゃんの無邪気な声

 

「つれてって」「つれだして」「でたいの」「ねぇ」「ねぇ」「ねぇ」「かなえて くれるよね?」「だって わたしのおとうさん だもん ね?」

 

無邪気に見せかけた必死の懇願の言葉

そう言えば意識を失う前「代わってよ」と言われたな

そっか…私と代わりたかったんだ

自由に外に出られて、好きに歌を歌って、星を見て、海で遊んで、おいしいごはんを皆と食べられる──そんな私に

……ごめんね

 

「だめだよ」

 

ごめんね、代わってあげられない

私は赤髪海賊団皆が大好きだから。その娘という場所を代わってあげることはできない

…でもね

喉を開く。声を上げる。この忌まわしい箱の全てを吹き飛ばすように──私は歌う

代わってあげることは出来ないけど、一緒に行こう!

こんな牢獄に一人ぼっちだなんて、そんな悲しいことはもうおしまい!

驚いた顔のホンゴウさんをちょっと今は置いておいて、泣きそうな絶望の表情をしているシュリちゃんへと手を伸ばす

 

大丈夫、置いていかないよ!

ねえ!ここから出よう!!

私があなたを連れて行くから!!

 

 

ウタの歌が、真白の世界を吹き飛ばす

元よりあの世とこの世の堺のような場所。夢と現の境目のような場所

ウタワールドでなくともウタの歌は、ウタの意思は強い力となって振るわれる

唖然とした顔のホンゴウの腕を掴んで、呆然としたシュリの手を取って、ウタは高らかに歌い上げる

 

──歌唄えば 霧も晴れる

──見事なまでに 私は最強

 

追いすがる腕も、巻き付いてくる糸も、埋め尽くす布も、囲い込む屋敷も、その全てを歌にしてしまえ!

 

──いつかの夢が 私の心臓

──何度でも 何度でも 言うわ

──「私は最強」

 

──「アナタと最強」

 

まるでその歌詞に添うように一太刀、空間が切り裂かれる

 

「ウタ!無事か!?」

「シャンクス!」

 

切り裂かれ燃える炎の向こうの“父親”の腕の中へとウタは走る

勿論、両手に掴んだ手を離さないままに

 

 

飛び出した先は夕暮れの村で、村の中心にある大きな桜の木の根元だった

ウタ達が飛び出した穴はその木の幹にあって、シャンクスの攻撃で絶賛炎上中だ

当のウタはシャンクスを筆頭に皆んなに心配され、身体に異常がないか気持ちは悪くないかとしつこいほどに心配された

ホンゴウは異界で認識操作を受けていた影響か、気持ち悪そうに石垣に座って項垂れている

 

「本当に怪我とかしてないんだな?気持ち悪くもないんだな?」

「もー!大丈夫だってば!私よりホンゴウさんの方が重症だよ。だよね?」

「それならいいんだが……所でその抱えてる塊は…」

「シュリちゃんだよ。私たちを攫った張本人。あ!待って待って武器構えないで!悪い子じゃないんだよ!ほんと!ほんとに!寂しくて苦しくて、私に代わってほしかったんだって。閉じ込められてて、何にも悪ことしてないのに殺されちゃって、更に化け物になっちゃって…ねえ、シャンクス、お願い。シュリちゃんを船に乗せてあげて!」

 

ウタが両手に抱えて余るくらいの白い塊

もふもふとした白い毛に覆われた躰にあまり大きくない翅、クリーム色の触覚に大きな複眼

ぬいぐるみみたいなその虫は険しい顔で己を見下ろすシャンクスを見上げ、きゅるんとかわいらしい声を上げた

 

『しゃん、くすぅ?』

「そうだよシュリちゃん。この人が私のお父さんで、船長のシャンk」

『おさけのんではだかでねておこられたひと!』

 

何人かの幹部がたまらず吹き出した

 

「シュリちゃーん?」

『うたちゃんいってた!』

「うん…そういう話もした、ね?」

「ウタ!?」

「いや…海賊ってことを話さずに皆んなのこと話すとなると大半が失敗談とか馬鹿やってる話になるというか…」

 

そう言えばシュリちゃんと遊んでる時にそんな話したなぁ…と眉を下げながら笑うウタの腕の中でシュリはきゃらきゃらと笑っている

娘に醜態が知られていた上にそれを他人に話されていたシャンクスは、がっくりと落ち込みながら大きくため息を吐いた

ああもう駄目だ。真面目な空気が吹き飛んでしまった

これから改めてお説教するならちょっと時間を置かないと難しいだろう

 

「はぁ~~~……ちゃんと面倒見るんだぞ?」

「はぁい!やったねシュリちゃん!船に乗せてくれるって!」

『おふねぇ?』

「そう!これからシュリちゃんは海に出るの!どこへでも!行けるよ!」

 

目の前で嬉しそうにぬいぐるみみたいな虫を持ち上げてくるくると回っている娘の笑顔を見ながら、シャンクスは幹部たちと頷き合う

怪異の主はあの虫だとして、異界の残穢はまだそこかしこにある。それを始末してしまわなければ

そして、嬉しそうなウタには悪いが万一あの虫がウタに危害を加えるようなら、ウタに恨まれることも覚悟で始末しなければいけない

それを幹部間で共有して、シャンクスはもう一度ウタへと目を向ける

 

「ありがとう!シャンクス!」

『ありがと、しゃんくす!』

 

………けれどまあ、一旦良しとするか

ウタもホンゴウも無事帰ってきたのだし、ウタも嬉しそうだし

そう結論を出し、シャンクスは「船に戻ったらお説教だ」と言いながらウタの頭を撫でた

 

【ウタが廃村に攫われる話 完】




・【村】
“偉大なる航路”とある春島の山間にあるもう既に滅んだ村
雑に言って血生臭いタイプの因習村。桃源郷を模していた
【蚕信仰】+【白信仰】+【毒娘】+【蠱毒/金蚕蠱】+【桃源郷】のごった煮まぜ合わせ
養蚕で栄えた村だがその裏にやばい量の死体が詰み上がってるやつ
基本的に女性しかいない

・【猿】
村の住人が変化した姿
知性と理性の大半を喪失している

・【部屋】
“火の海”の部屋 文字通り一面が火の海の洞窟。地獄の顕現
“想地”の部屋 猿たちの台所。地獄の顕現
“御寮”の部屋 大広間。不快の御膳と花嫁のミイラが鎮座する部屋。路
“青磁”の部屋 一面に青磁の壺が所狭しと置かれた部屋。広場
“萌木”の部屋 一面に毒性植物が生えた庭と玩具が転がっている縁側。門
“懐古”の部屋 かつての村の面影。桃源郷の模造
“斜陽”の部屋 三間の続き部屋に西日が差し込んでいる部屋。隠世
“白”の部屋 “彼女”の位室。神域
地獄から現世へ。あるいは地獄から極楽へ登る坂道
桃源郷/楽園/極楽を造ろうとした結果、地獄が溢れた

・【シュリ/珠履】
肌も髪も眼も全てが真っ白な女の子
アルビノではなく白変種に近い(突然変異ではなく遺伝によるもの)
産まれた日が満月で、混じりのない白い髪をしていたために村で《神様》として育てられた
足は必要ないので小さく小さく縛られて。食事には常に毒草が混じっていて。遊び相手が居ないので一人遊びばかり上手くなり。周囲は《神様》と崇め接してくるので家族もいなかった
成人する年齢に達した時、釜で煮られて殺された
その時偶然、村に溜まりに溜まっていた呪が成就し、彼女は村をまるごと飲み込んで正真正銘の《神様/呪い》と成った
それからは村を縄張りとして村に誘われた人間を食らって存在していた
それでもずっとずっと外へ出たかったので、島を訪れたウタに目をつけて代わってもらおうとした。ウタを殺すつもりもホンゴウたちを害するつもりもなかった。ただ道理を知らなかったしこういう方法しか分からなかった
だが、神域をウタに滅茶苦茶にされ、縄張りを赤髪海賊団に焼き払われたことでようやく村から解き放たれた
もっふもふのデカいカイコガになって、ウタと一緒に海に出られて考えうる限り最高のハッピーエンドを迎えた
ただウタにも赤髪海賊団にも害意なんて微塵もないけど、道理の違う化け物なので不意にヤバイ事する可能性はめっちゃある。ウタ頑張れ
名前の意味は『玉で装飾を施した立派な履物』
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