【】内の台詞はテレパシーで交信している設定です。
<ティターンズ長官の憂鬱>
宇宙世紀0090年1月1日、一年戦争終結から10年となる節目の年である。ティターンズ長官のジャミトフ・ハイマンは私邸にてテレビ中継を見つつ険しい表情を浮かべていた。
―皆さん、あの未曾有の大戦が終結してから今年で10年となりました……―
テレビでは
(まさか新興宗教が短期間でここまで力を持つとは。警戒はしていたがここまでの拡大速度は予想外だった。排除しようにも経済界や政府内部にも数多くの信徒がいる)
教団が地球連邦に深く浸透している現状を憂いつつもジャミトフは思考を続ける。
(ニュータイプである教祖の暗殺は困難、それに死後神格化されたら更に面倒なことになる。スパイを送り込んでも教祖に誑かされる。ならば時間を掛けて勢力の切り崩しを図ろうにもむしろ政府が切り崩されている状況だ。何らかの口実を作り教祖を拘束し教団を解体する……論外だ、最悪の場合第二の一年戦争だぞ)
「なんということだ、暴力に訴えることしかできなかったジオンやその残党達よりも遥かに厄介ではないか」
現状打開策がないと再確認し苦い表情を浮かべたのだった。
「どうしてこうなるまで教団を放置したのだ!ティターンズは何をしていた!」
(それを今言うのですか)
数日後、連邦政府の要人達が集められた極秘の会合に呼ばれたジャミトフは、首相から怒鳴られ内心ウンザリしつつも表向きは神妙な表情を浮かべていた。
「落ち着いてください首相。長官殿を責めるのは酷ですよ」
見かねたゴップ連邦議員(今年中に連邦議長になることが内定している)が首相を落ち着かせようとする。
「ティターンズは本来ジオン残党の対処を目的とした組織です。ティターンズ設立当初は地球に潜伏したジオン残党のゲリラや、暗礁宙域で略奪行為をする元ジオンの海賊、そしてアクシズといった優先して対処すべき問題が数多くありました。教団への対応が二の次になるのは仕方ないかと」
「そういう問題ではないだろう!」
ゴップ議員の説得に首相は納得していない様子だが、会合に参加している他のメンバー達もゴップ議員に続いて首相を宥めるように発言をする。
「しかしですねぇ首相……教団は表向きは連邦政府に従い合法的な活動をしているのですから。幾度か立ち入り捜査もしたようですが白でしたし、法律に違反していない以上彼らの排除はできませんよ」
「教団は世界平和を訴えジオン残党やゲリラ達を説得し武装解除させています。現在の地球圏の治安が安定しているのはティターンズや連邦軍の働きのおかげですが、教団の尽力があったのも認めるべきかと」
「その通り、彼らはジオンと違い地球連邦にとって有益な存在です。教団を恐れるばかりではなく連邦政府の統治にうまく利用すべきです」
「ジオン残党達が壊滅しジオン再興の芽はなくなったとはいえ地球環境再生や各サイドの復興、連邦軍再建など課題は幾らでもあります。わざわざ刺激して余計な混乱を引き起こすのは避けるべきですな」
首相を説得しようとする面々を見つつジャミトフは内心でため息をつく。
(役人達はそんなに教団と事を構えたくないのか……いや当然だな。下手に触れたら大火傷、いや最悪の場合地球連邦にとって致命傷になりかねん)
「なぜお前達はそうも楽観的なのだ。あのミュータントは連邦政府を脅かす明確な脅威なのだぞ。何としてでも排除せねばならんのに何故それがわからんのだ……」
目を瞑った首相の呟きは誰にも聞かれることなく虚空に消えた。
「いやあ首相には困ったものだ、新年早々呼び集めるとは我々老人を労わってほしいよ」
会合が終わり要人達が解散した後もジャミトフはゴップ議員と部屋に残り会話をしていた。ジャミトフとしては仕事が残っているのでさっさと私邸に戻りたかったが、ゴップ議員から話があると言われ何か伝えたいことがあるのだと察したジャミトフは部屋に残ったのだった。
「まぁ焦る気持ちはわからないでもないがね。今の教団の規模は一宗教法人とは思えないほど巨大化している……10年、アナハイムの庇護があったとはいえたった10年であそこまで拡大するとは。そしてそれを成し遂げたのがまだ20代の若者とは我々オールドタイプには想像できなかったよ。終戦直後の私に現在の状況を教えても鼻で笑うだろうな」
ゴップ議員の呟きに頷きながら同意する。一年戦争終結直後のジャミトフや連邦政府は当初
「私にとっても想定外でした。私は最初アナハイムが自社の利益の為に教団を利用するつもりだと考えていましたが、実際は教団を庇護し勢力拡大に大きく貢献した」
「うむ、アナハイムが資金面で献身的に支えた結果が教団の急拡大だ。あの会長が新興宗教にあそこまで入れ込むとは。シオニストだったはずの会長を心変わりさせるなんて一体どんな手品を使ったのやら」
アナハイムの庇護を受けた教団は急速に勢力を拡大し、その勢いを見たジャミトフや一部の政府の人間は教団を警戒するようになった。しかしながら当時の彼らには教団よりも警戒すべき存在があった。
「早い段階で教団に対処できていれば」
「無理だろう、当時はジオン残党を優先せざるを得ないよ。デラーズ紛争でのソロモンの核攻撃やコロニー落としといった所業を見れば残党を無視できるわけがないのは確かだからね」
宇宙世紀0080年代前半はデラーズ・フリートといったジオン残党の存在があったからである。纏まりがないくせに行動力だけは無駄にあるため放置できなかったのだ。
「過ぎたことを悔やんでも仕方ない。現在の教団を排除するのは非常に難しいと言わざるを得ない……強引な手段を使えば出来なくもないだろうがね」
「最悪の愚行ですな。排除はできるでしょうがその後の影響は計り知れない」
「ああ、スペースノイドとアナハイムが敵に回るだろう。教団を排除すれば連鎖的にアナハイムも影響が出る。最悪の場合アナハイムが壊滅するだろうな。地球圏のインフラを支えているアナハイムを失うことになれば経済界への影響など考えたくもないよ」
ゴップ議員は苦い表情を浮かべながら仮定の話をする。
「それにジオンと違って教団は連邦政府や連邦軍に深く浸食し信者も数多くいる。戦争になれば組織よりも信仰を優先する人間が出てくるのは人類の歴史を見ればわかる。誰が裏切り者かもわからず後ろを気にしながら戦う泥沼の内戦……いや、ただの内戦じゃない、宗教戦争でもあるのか。ううむ、一年で終わる気がしないな。仮に勝っても地球圏が荒廃するのは確実だ」
「最悪の想定だとそうなるでしょうな」
「まあ救いとしては向こうは争うつもりはないし信仰を許す限りは連邦政府に従順な態度をとるだろう。彼らから過激な行動を起こすことはないだろうね。そんなことしなくても教団は盤石なのだから」
その後暫く雑談したジャミトフは話を切り出すことにした。
「そろそろ本題に入ってほしいのですが」
「おっとすまない、年寄りは話が長くなってしまうな。自覚はあるんだがついやってしまう」
ゴップ議員は自嘲した後本題を話し始めた。
「ビスト財団のある人物から連絡があった、ラプラスの箱についてね」
「ビスト財団が?……それにラプラスの箱と?」
アナハイムの盟友であるビスト財団が所有するラプラスの箱……その正体は連邦政府でもごく一部の人間しか知らないというトップシークレットである。ジャミトフも存在自体は知っていたが詳細については把握していなかった。
「おや、その反応だと君も箱の正体については知らないのか。まあ私も同じく知らないのだが」
「噂では箱には連邦政府を転覆させる力があるということですが、到底信じられません」
「私もそう思うよ。連邦政府を揺るがす危険な代物だなんて政府が長い間放置するわけがない。噂が独り歩きしているのだろう……しかし過去にサイアム・ビストに便宜を図ったように連邦政府にとって何らかの弱味なのは確かだ。その箱について近いうちに動きがあると聞いたのさ」
(この人の情報網はどうなっているのだ?)
ゴップ議員のコネクションの強さにジャミトフは舌を巻いていた。
「しかし何故今になって動きが?ビスト財団としてはそのまま秘匿すればいいでしょうに……いや、まさか」
「ああ、君の予想通りさ。ラプラスの箱がよりによって教団に引き渡されるらしい。箱の正体が何であれ教団は切り札が増え、連邦政府は更に手を出しづらくなるだろうな」
ジャミトフは思わずため息をついた。教団がラプラスの箱を手に入れるなど連邦政府にとって悪夢以外の何物でもないからだ。
「私としては正直見なかったことにしたいよ、だが連邦政府の一員として座視するわけにもいかん。だから君に知らせる必要があると思ってね」
「ご協力感謝します……まずは箱の正体を把握する必要がありますな」
「うむ、正体を知っているとすればローナン・マーセナス議員だろう。君の方から問いただせば話してくれるだろうさ」
「……ところで長官殿、君はニュータイプについてどう考えているかね?」
会談も終わり私邸に戻ろうとすると最後にゴップ議員から質問があった。
「ニュータイプですか、ジオン・ズム・ダイクンが国民を鼓舞する為にでっち上げたプロパガンダに過ぎない、と言いたいところですが」
「そうだね、連邦軍のスーパーエースであるアムロ・レイや、ソロモンの亡霊やプルシリーズといったジオンのニュータイプ部隊、そしてホーリー・モーレスという特異な存在が出てきた以上プロパガンダと断じることはできない……そして老人達にとってニュータイプは恐怖の存在だ」
「ニュータイプ脅威論ですか」
ジャミトフは首相の顔を思い浮かべる。首相以外にも連邦政府にはニュータイプを警戒する人間が少なからずいることを知っていた。
「老人達は怖いのさ、地球圏の人類を掌握しつつある教祖がね。もしホーリー・モーレス並のニュータイプが政界に進出したら自分達が追い出されるかもしれないと」
「馬鹿馬鹿しい、宇宙世紀になって黄禍論の焼き直しとは。そもそも宗教と政治では勝手が違うでしょうに」
「だねぇ、政治の世界は資金とコネクションがものを言い新参者には厳しい世界だ。それに既得権益層や老人達が全力で妨害するからまず上手くいかないだろう……それでも人は未知の存在を恐れるのさ、理解できない物を排除しようとするのは人の性だ。君の所にも老人達から話が何度か来ているんだろう?」
ニュータイプへの対抗策としてニタ研への資金援助などを何度か打診された件を思い出しジャミトフは苦い顔を浮かべる。
「情けない、味方の暴走を警戒する必要があるとは」
「それを言うなら君達ティターンズは大丈夫なのかね?側近や部下の統制を緩めないでくれよ」
「む……」
自分の組織が疑われていることに少し不愉快な気分になったが、実際30バンチでやらかしている以上疑われるのは仕方ないと諦めた。
「心配する気持ちはわかりますが問題ありません。あの男も30バンチの件で懲りたのかあれ以来独断専行を行っていませんよ。昔よりもずっと扱いやすくなりました」
「そうか、まぁ教団とアナハイムに嵌められた挙句査問会議行きになれば流石に改めるか……私からは以上だ。長話に付き合わせて悪かったね」
ゴップ議員と別れたジャミトフは今後の地球圏について思いをはせる。
(あの若造が本気で世界平和を望んでいるのかはわからん。地球圏の安定に少なからず貢献しているのは認めるが対抗策を考えねばならないのは確かだ。老人達が主張していた対ニュータイプ兵器の開発……本当に役に立つかは疑わしいが研究を進めさせよう)
やるべき事が山積みだがジャミトフは臆することなく仕事に邁進することを決意したのだった。
<ラプラスの箱の正体を知った時の反応>
バスク「え、何ですかそれは?ラプラス事件の真相はともかく、そんな好きなように解釈できる曖昧な条文をわざわざ追加した理由は一体……?」(困惑)
ローナン・マーセナス「わ、私にそれを言われても」
ジャミトフ「(無言で溜息をつく)」
→マーセナス議員を説得()した結果ラプラスの箱の正体が判明。バスク大佐は怒りより先に困惑した模様。
ジャミトフ長官の閑話はまた書く予定です。更新速度は遅くなりますが頑張って投稿していこうと思います。
感想くれると嬉しいです。