【】内の台詞はテレパシーで交信している設定です。
<カイ・シデンのレポート~salus教団の目的〜>
「……おいおい、何時の間にかホテルに戻ってるじゃないか」
宇宙世紀0088年、インタビューを終えて気が付けば滞在先のホテルの部屋にいたカイ・シデンは呆然と呟いた。
(どうやってホテルに帰ったのか記憶が曖昧だ。ニュータイプは催眠もできるのかよ……ジオン・ズム・ダイクンが提唱したニュータイプはエスパーじゃないはずなんだが)
自分の身に起きた超常現象に驚愕しつつも、カイはモーレスがインタビューの最後に話していた内容について考え込んでいた。
【シデンさん、貴方は信用できる人だと判断しました。特別に教えましょう】
【僕は神から啓示を受けて教団を立ち上げました。一年戦争のような悲劇を繰り返さないよう争いを未然に防ぎ、人々が平和に過ごすことができるように】
【地球に平和を、人々に安寧の未来を。それが神から与えられし僕の使命です。詳しくは話せませんがいずれわかるでしょう。本日はありがとうございました、気をつけてお帰りください】
(使命、ねぇ。彼は一体何をするつもりなんだ?勿体ぶらずに教えてほしかったが部外者の俺に詳しく話すわけがないか……気になるな)
「現在の教団は地球圏のスペースノイドの多くを味方に付けた。それにスペースノイドだけじゃない、アースノイドやティターンズの人間も信者になっているし、多分連邦政府内部にも潜んでるだろう」
「教団の力を使えば連邦政府の改革も可能なんじゃないか?いや、政治家と役人達が受け入れるわけがない。教団が連邦政府に従順だからこそ警戒していても手を出してこないが、もし自分達の害になると判断すれば即座に排除しようとするだろう。被害やその後の影響など考えずに……しかし設立されてまだ10年も経ってない新興宗教がここまで力を持つなんてなぁ。政治家や一部のアースノイドの間でニュータイプ脅威論が流行るわけだ」
「ならば今の教団の方針を維持しつつ地道な慈善活動や布教を続ける……まあこれが堅実で確実な方法か。教団の力と影響力、そして教祖のカリスマがあれば余計な事をせずとも世界平和は可能だ」
「……その後は?彼が卓越したニュータイプなのは確かだが人間には寿命がある。彼はまだ若いがいずれ年老いて亡くなるだろう。彼の死後教団はどうなる?あそこまで巨大化した宗教組織を纏められる人間なんて教祖以外に存在するのか?仮に後継者を指名していても混乱は避けられない」
「待てよ、彼はいずれわかると言っていた。ならば近い将来に何か起こすつもりなのか?……ダメだな、一人で考え込んでいても埒が明かない」
色々と予想してみたが、考えたところでわかるはずもないとカイは思考を打ち切る。
「よし、調べてみるか。彼が何をするつもりなのかを」
ジャーナリストとして好奇心が刺激されたカイはモーレスの目的について調査することにしたのであった。
宇宙世紀0089年、地球に降りたカイはとある宗教組織を率いる人物と出会いインタビューを行っていた。
「ホーリー・モーレス……奴は人類を誑し破滅に追いやる悪魔だ」
「は、はぁ」
随分と敵視しているなと思いつつもカイは相手の話を聞くことにする。
「そこまで彼を嫌う理由は一体?」
「奴を信仰し我々を裏切った人間が大勢いるからだ……我々だけではない、他の異教徒達も同じような被害を受けている。既存の宗教でsalus教団に好意を持つ人間は存在しないだろう」
それは気に食わないわけだと納得する。salus教団が急拡大する一方で既存の宗教に所属していた信者が大勢salus教団に改宗したというのは有名な話だった。
「あの偽預言者は同胞を誑かし、同胞達の力を利用した。財力、人材、コネクション……奴が好き勝手出来るのは元同胞の力があってこそだ」
「メラニー・ヒュー・カーバイン会長、アナハイム・エレクトロニクスのトップですか」
「そうだ。あの男が献身的に支えたおかげで今の教団がある。アナハイムの力があったからこそ教団はあそこまで拡大できたのだ」
「改宗したメラニー会長について思うところは?」
「……同胞達は彼を愚かな裏切り者だと断じているが、私は少し違う。裏切り者ではあるが、偽預言者の被害者だとも思っている」
メラニー会長について聞くと予想外の発言が出て驚く。
「被害者、ですか?」
「ああそうだ。奴はアナハイムの会長として多大な影響力を持っていた……偽預言者はそこに目を付けたのだろう、会長の力があれば勢力拡大に大いに役立つと。そして奴は洗脳され偽預言者の駒となった」
「いやいや洗脳って」
そんなことあり得ませんよ、そう言いかけたカイであったが……自分が体験した現象を思い出し言葉に詰まった。
(あり得ない……本当にそうか?彼のテレパシー能力、いや超能力については自分の身で経験したじゃないか)
「心当たりがあるようだな」
「い、いやそういうわけでは。それに彼がそんな事をするとは」
「正義の為、大義の為なら非道は許される、人類の歴史ではよく聞く話だ。君もジオンのスペースノイド虐殺とコロニー落としを知っているだろう。彼らも自分達の信じる大義の為にあそこまでやった……あの偽預言者も同じように自分の目的の為なら多少の非道は目を瞑るだろうさ」
「……」
インタビューを終えたカイはホテルに戻り考え込んでいた。
(相手が教団に敵意を持っていることを差し引いても妄想だと断じることはできないか。シオニストだったメラニー会長を改宗させアナハイムの庇護を得たことで教団は急成長した。いくら何でも教団に都合が良すぎる……それに彼が超能力を使えるのは身をもって知っている。不可能ではないんだよな)
「しかし一方の意見だけを聞いて判断するのはよくない。調査を続けるか」
宇宙世紀0091年、地道に調査を続けていたカイはとある人物にインタビューすることができた。
「へぇ~、まさかあのWBのクルーが取材に来るなんてなぁ。態々サイド6の学園都市コロニーに来るなんて暇なんだねアンタも」
飄々とした態度を取る男はゾルタン・アッカネンと言い、ジオン共和国にあるニュータイプ研究所に拉致され実験体だった人物であった。
「でもよく俺の居場所がわかったな、誰にも教えたつもりはないんだけど」
「いや私も偶然知ったんですよ。サイド6へは別の目的で取材してたんですが、とあるコロニーでニュータイプ研究所の被害者が住んでいると噂を聞きましてね」
「ああ、顔と名前がそのままだからバレたのか。やっぱ他の奴みたいに整形して名前も変えるべきだったかねぇ」
あちゃあと手で顔を覆った彼は特に気にした様子はなくインタビューを受けていた。
「今は売店の店員をしているんですね」
「そうだな。ジオン共和国から補償金はたんまりもらってるから働く必要はないんだが……何もせずボーっとしてるのも嫌でね、この小さな売店の店番をしてるのさ」
「サイド6に住んでいる理由は?」
「深い理由はないぞ。ジオン共和国から解放された後は故郷に戻ったりしたんだが居づらくてな、金はあるからと色々と観光に行ったがそれも飽きてここにいる」
「故郷が居づらいと?」
「あー、いや、悪く言ってるわけじゃないんだぜ?色々と親切にしてもらったよ……でもさぁ、初対面の人間に同情されたり憐れまれたら鬱陶しく感じるだろ?それが何度もあったらウンザリするさ」
「ああなるほど」
ゾルタンのようなニュータイプ研究所の被害者達については地球圏で大々的に報道されており、被害者の顔や名前などは民衆にもよく知られていた。当時の各サイドではサイド3に対する悪感情が高まったがモーレスとsalus教団が奔走して説得し事態を収拾していた。当時のカイはスケジュールの再調整を依頼されたが事情が事情なので仕方ないと納得したのを思い出す。
「まぁ整形すればいい話なんだが、研究所で散々体を弄られたしそういうのは抵抗があるんだ。たとえ顔を変えるだけだとしてもな」
「それは……」
「ああ、アンタが気にしなくてもいい。俺のしょうもない我儘だ」
その後もインタビューは続きゾルタンは楽しそうに話をしていた。
「そういうわけで首謀者であるモナハンさんは志半ばで処分され、じゃなくて事故死したわけだ!俺達をモルモット扱いして使い捨てようとしてた奴が無様に死んだと聞いた時は無茶苦茶スカッとしたよ」
「……表向きはモナハン・バハロ氏はニュータイプ研究所の件とは無関係だということですが」
「おいおい、アンタだってそんな言い分信じてないだろ?あのタイミングで事故死だなんてあり得るかよ!どう考えても始末されたんだろうよ、死人に口なしってな!」
「ノーコメントで。本人は死亡しているからそれ以上の追及はできませんからね……個人的にはモナハン・バハロ氏は限りなく黒だったとは思いますが」
だよな!とケラケラ笑うゾルタンを見てカイは今までの被害者達と随分違うなと感じる。
「ああそうだシデンさん、アンタは俺以外にも他の被害者達にインタビューをしているらしいじゃないか。なら俺達が見たビジョンについて教えてもらったか?」
「ビジョンですか?」
「あれ、聞いてないのか?……まぁ無理もないかぁ。オカルトだし、信じてもらえるか怪しいし内容がアレだから話したくないよな」
「いや、一人で納得しないでくださいよ」
思わぬ情報に興味を持ったカイはゾルタンに詳細を聞きたいと懇願した。
「……いいぜ、アンタは信頼できる人間だと思うし特別に教えてやるよ。俺達が見たビジョンをな」
「あれはニュータイプ研究所にいた頃、解放される1ヶ月程前だな。俺達はモルモットとして実験に従事していたんだが、とある噂が広まっていたのさ。研究所の連中が噂の教祖様のようなニュータイプを作ろうとしてるってね」
「まぁ作りたい気持ちはわからなくもないぜ?地球圏に住むスペースノイドの半数近くを掌握したスーパーニュータイプ様を作ることができたらジオン再興も夢じゃないって思ったんだろ」
「多分極秘の計画だったんだろう。でも人の口に戸は立てられなくて噂になっていた。研究者達が噂を放置していたのは俺達モルモットが聞いても問題ないと考えてたんだろうな。いざとなれば処分すればいいと……そんないい加減な考えだからバレて摘発されたんだろうに。まぁクソ野郎達は犯罪者として死ぬまで牢屋行きになったしざまあみろって感じだ」
「話が逸れたな。まぁ噂については俺には関係のない話だとその時は気にしてなかった。だがある日部屋で待機していたら研究所の警報が鳴ってな」
「最初は誰かが脱走しようとしたのかと思ったけど、どうも研究者達の様子がおかしい。被検体がどうだとか言って慌てふためく様を見るのを楽しんでいたら……いきなり見えちまったんだ」
「何を見たのかって?クソみたいな未来さ。クソみたいな連中に利用されて自棄になった挙句、コロニーの連中を虐殺したりして暴れた結果ビームサーベルで串刺しにされるクソみたいな末路だったよ……いやホントクソだな」
「あの時何が起きてたのか詳しくはわからないが、研究者の話を盗み聞きしたら被検体が暴走したらしい。感応能力を強化し過ぎたとか言ってたっけ」
「ビジョンが見えたのは俺のような曲がりなりにもニュータイプの素養があった人間だけだ。他にも見えた奴に聞いてみたけど、どいつもこいつも悲惨な結末だったようでなぁ。実験に耐えられず廃人になって解剖されたり、失敗作として廃棄処分されたり、赤い彗星の再来になったりだ。え?何で赤い彗星が出てくるんだって?そんなの俺にわかるわけないだろ、というか本人も困惑してたしよ」
「まぁそういうわけで俺達モルモットには碌でもない未来が待ち受けているのが見えちまったのさ、アッハッハッハッハ!…………ハァ、今だからこうやって笑って話せるけど、あの時は結構心にくるものがあったな。そりゃあ研究所のモルモットに輝かしい未来があるなんて思ってなかったけど、お前はこんな感じで悲惨な死を迎えるよ!って具体的に見えちゃったらさぁ、かなりキツイぜ。モルモット仲間のジェイクやアンナは絶望して自殺してたが無理もない」
「俺もかなり精神をやられちまってた。あんな死に方するくらいなら研究所の連中を道連れにしてやろうかと自棄になってたが、そしたら研究所が摘発されて俺達は解放されたのさ……あの2人ももう少し我慢してたら助かったのによ」
「これで俺の話はお終いだ。研究所が摘発されたのはsalus教団の信者達が協力してくれたおかげらしいな。俺は信者になるつもりはないけど、あの地獄から助けてくれたのには他のモルモット仲間と同じように感謝しているよ。マジでな」
「……貴重な話を聞かせてくれてありがとうございます」
真剣な表情で話を締めくくったゾルタンに対しカイは感謝の言葉を伝える。
「へぇ、信じてくれるんだ?自分で言うのもなんだけど、こんな胡散臭いオカルト話を真に受けるなんて詐欺に引っかからないか心配になるなぁ」
「これでも人を見る目はあると思っています。貴方が本当の事を話してくれたと信じますよ」
そうかよ、と照れくさそうに笑うゾルタンを見つつカイはインタビューを終了することにした。
「本日はありがとうございましたアッカネンさん。貴方は今後どうする予定ですか?」
「んー、まぁ特に考えてはないけど……とりあえず自由を満喫するさ。今後どうなるかはわからないが、あのクソを超えたクソな末路よりは絶対にマシだと断言できるぜ」
ゾルタンと別れたカイは教団と教祖について思いをはせる。
(教団や教祖が最終的に何をするつもりなのかは未だにわからない、だが世界平和や人を助けようとする思いは本当だと信じたい。……でも良かれと思ってとんでもないことをしでかさないとは言い切れないよな。引き続き調査することにしよう)
カイは教団の目的が何であれ引き続き調べていこうと決意したのであった。
未来のビジョン「君に未来の光景を見せてあげるよ。ただしクソみたいな未来をじっくりとね!」
被験者「い や あ あ あ あ あ あ」(PC書き文字)
被検者は無理な強化手術とドーピングでモーレスに迫るレベルのニュータイプ能力を獲得していました。
(なお無茶な強化のせいで残された寿命は短い上に、クソみたいな未来を見て発狂し処分された模様)
更新速度は遅くなりますが頑張って投稿していこうと思います。
感想くれると嬉しいです。