<カイ・シデンのレポート~木星船団の今(後編)〜>
宇宙世紀101年2月、ネオ・ジュピトリスは2ヶ月の航行を終えて木星に到着した。
「おぉ、あれが新型コロニーのユピテルですか」
「ああそうだ、連邦政府からネオ・ジュピトリスと一緒にプレゼントされたユピテルⅠさ」
カイ達が見ている大型モニターには宇宙世紀100年に木星船団に贈られた新型コロニーであるユピテルⅠが映っていた。
「最近の連邦政府は太っ腹だぜ。中古じゃないピカピカの新型コロニーを気前よくプレゼントしてくれるんだからよ」
「確かに昔では考えられませんね……あのユピテルⅠは居住用兼食料生産用コロニーだということですが」
「そうだぜ、あそこにドゥガチ様が住んでいらっしゃる。ドゥガチ様はあそこで木星船団の指揮を執っておられるのさ。シーマ様も同じくユピテルⅠで仕事をされてるだろうよ。まあ木星船団の連中が一番気になっているのは食料生産の方だろうけどな。なにせ木星じゃ生鮮食品なんか地球圏から送ってもらうしかなくて金を積まなきゃ食べられないものだ。食料生産が軌道に乗れば俺達下っ端にも新鮮な肉や野菜なんかが振る舞われるかもしれないと思ったら期待するさ」
「やはり食事の方が気になると?」
「そりゃそうさ、木星に来たばかりの時の飯は悲惨だったぞ。エネルギーバーとサプリメントだけで飲用水は貴重で決められた量しか与えられなかった……海賊生活の時よりも悲惨で木星に行ったことを少し後悔したくらいだ。でもアナハイムの援助のおかげで大幅に改善されたがよ」
カイはクルトと雑談しながらユピテルⅠに向かってシャトルで移動する。
「しかしコロニーにミノフスキードライブを外付けして木星に送り出すとはスゲエ力技だよな。なんでも火星でも同じようなやり口でコロニーを送り出すらしいが」
「そうですね、火星もマルスという新型コロニーを送るそうですよ。まあ新型コロニーについては既に完成しているユピテルⅡとⅢを木星に送ることを優先するようですね」
「火星には悪いがコロニーを一番必要としているのは木星だからな。火星と違ってガス惑星の木星はテラフォーミングなんか無理だしよ……噂じゃ火星のテラフォーミング計画が予定されてるらしいが本当なのか?」
「ええ、私達ジャーナリストの間では有名な話です。10年単位で進めていくらしいですよ」
「噂の天才様ならもっと早く出来そうだけどな。ミノフスキードライブなんてものを開発できるんだからよ」
「いやいや、彼だって出来ないことはありますよ」
シロッコの事を言及されカイは曖昧な表情を浮かべる。いくらシロッコでも火星のテラフォーミング化は難しいだろうと考えていた。
ユピテルⅠに到着したカイはクルトに案内してもらいつつクラックス・ドゥガチが住む木星船団本部に向かっていた。
「あれが学校だ。ガキ達は基本的に親元を離れてユピテルⅠで集団生活をしている」
「子供達は集団生活ですか?」
「ああ、木星の生活は過酷だからな。俺達大人は我慢できるが身体が未成熟なガキには厳しい。一番居住性のいいユピテルⅠで育てる方がいいだろ。それと病人や妊婦もユピテルⅠで養生しているぞ。今後ユピテルが増えればガキ達も親と一緒に過ごせるようになるだろうさ」
「なるほど。今後大学も建てられるかもしれませんね」
「ハハッ、ジュピター大学ってか?俺に言わせれば学校はともかく大学は地球圏に留学させればいいと思うけどな。2ヶ月で行けるんだしよ……よし、俺の方からシーマ様に聞いてみる。アンタはここで少し待っていてくれ」
30分ほど待たされたカイはクルトの口添えもあってインタビューの許可をもらう事が出来た。
「へぇ、まさかWBの英雄様がはるばる木星までいらっしゃるとはねぇ……私の正体はクルトの奴から聞いてるのかい?」
「ええ、シーマ・ガラハウさん。地球圏で消息を絶っていたシーマ艦隊が木星船団にいたと聞いた時は驚きましたよ」
「ああもうアイツは……だからおしゃべりな男は嫌いなのさ。帰郷できて浮かれるのはわかるが限度があるだろう」
眉根を寄せて愚痴るシーマ社長を見てカイは苦笑する。
「クルトがベラベラ喋ったならアタシらが木星に来た経緯は知ってるだろう?」
「ええ、大変な道のりであったことは聞きましたよ」
「ああそうさ、色々とあったが今じゃ木星が第2の故郷さ」
「今はドゥガチ最高責任者の片腕として活躍されているとか」
「そうさね、あの御仁は大した傑物だよ。アタシらのような破落戸でも迎え入れてくれた。もう少し若ければ惚れていたかもねぇ」
「木星での生活はどうですか?」
「住めば都だね。まあ過酷な部分はあるのは否定しないが……当てのない海賊暮らしに比べれば天国さね」
和やかな雰囲気でインタビューは進んでいたが、カイがとある質問をすると空気が変わる。
「ガラハウ社長はハマーン・カーンの行方をご存じですか?」
「……どうして私がアクシズの小娘の行方を知ってると思うんだい?アタシらはアクシズに受け入れを拒否されたのは知ってるだろう?」
「ええ、それはクルトさんから聞きました。ですがアクシズが討伐する前には数回ほど物資の受け渡しを行っていたそうですね」
「あんのバカ、そこまでベラベラと喋っていたのかい」
盛大に溜息を吐くシーマ社長を見てカイはハマーン・カーンが生存している事を確信する。
「その反応を見るに、やはりハマーン・カーンは生きていたのですね?」
「……ああそうだよ。彼女は今はウチの会社の副社長さね」
「彼女は本当に生きていたんですか。地球圏で流れていた噂が本当だったとは」
ハマーン・カーン生存説……それはアクシズ討伐後から密かに地球圏で噂されていたものであった。ハマーン・カーンの乗った専用MSはティターンズ艦隊に特攻し原形をとどめないほど破壊されていた。連邦政府は彼女が死亡したと判断していたが、遺体が発見されていなかったため実は彼女は生きていると地球圏のスペースノイドは噂していたのだ。
「しかしアクシズの宰相が海兵隊と一緒に木星にいたとは……」
「あのお嬢さんがアタシらと一緒になったのは偶々さ。お嬢さんの騎士様からお願いされたからだよ」
「騎士、ですか?」
「あー、そうだね、あの強化人間は一応軍人だったんだが、強化され過ぎてもはや軍人の振る舞いはできてなかったのさ。階級も気にせずタメ口だったし……でも主人の事を第一に考えていた騎士様だったよ」
当時の事を思い返すシーマ社長の表情を見てその騎士は忠臣だったのだろうとカイは察する。
「騎士様たっての願いを受けて彼女を引き取ったのさ。悪名高い海兵隊に託そうだなんて余程追い詰められてたんだねぇ。騎士様はあの白いMSに乗って玉砕したよ」
「そうですか……ハマーン・カーンは、彼女は元気にしているのですか?」
「元気も元気さ、今は産休を取ってるよ」
「えっ」
予想外の言葉を聞いてカイは一瞬呆けてしまう。
「引き取った直後は見てられないぐらい憔悴していたんだがねぇ……木星に向かう直前に年下の彼氏をゲットしてからは無事復活したのさ。彼氏に甲斐甲斐しく尽くしているね」
「は、はぁ。そうですか」
「でもしょっちゅう産休取るのは勘弁してほしいねぇ。その内旦那が枯れて死ぬんじゃないか?リィナのお嬢ちゃんも心配していたよ」
「え、ええと……とりあえず元気そうで何よりです」
思わぬ話を聞き微妙な空気になったがカイはインタビューを再開したのであった。
「ガラハウ社長はサイド3に帰郷するつもりはないと?」
「そうだね、クルトが無事帰ってきたからアタシらが戦犯として裁かれる事はないとわかったし、部下が行くのは別に構わないが……私としてはサイド3には複雑な思いがあるのさ。まあ死ぬ前に一度行くくらいは考えてるがねぇ」
インタビューを終えたカイはシーマ社長に感謝の言葉を伝えた。
「本日はインタビューに応じて頂きありがとうございました」
「ちょっといいかい?アンタこの後予定はあるかね?」
「いえ、特にはありませんが」
「それはよかった、ドゥガチ様がアンタに会いたいと仰っているのさ。このままドゥガチ様の所まで案内してあげるよ」
「えっ?」
木星船団のトップであるクラックス・ドゥガチが自分に会いたいと聞きカイは困惑するが、あれよあれよという間にドゥガチ最高責任者の下へ案内されるのであった。
「初めましてだな、カイ・シデン殿。私が木星船団の最高責任者であるクラックス・ドゥガチだ」
「は、初めまして。本日は貴重なお時間を頂きましてありがとうございます……ご多忙だとお聞きしていたのですが大丈夫なのですか?」
「急遽予定を変更したが問題ない。後で十分挽回できるレベルだ」
(わざわざ俺の為に時間を作ったって?一体何が目的なんだ?)
最高責任者がわざわざ自分に会うために予定を変更したと聞きカイはますます困惑していた。
「そう警戒しなくてもいい、君を害するつもりはない。むしろ歓迎しようと思っているのだ」
「しかし、ここまでしてもらう理由がわかりません」
「……単刀直入に言おう。君はあの男、パプテマス・シロッコに依頼されて木星に来たのだろう?」
「ッ!?」
自分が木星に来た理由を察していたドゥガチにカイは驚愕した。
「やはりか。君とあの男が個人的な親交があることは聞いていた。そしてあの男は私の事を妙に警戒していたからジャーナリストの君を使って様子を見てくるかもしれんと予想していたのだ」
「……なるほど」
流石は木星船団をここまで成長させた傑物だとカイは感心する。
「あの男は私を警戒していたが、私個人としては評価している。自分を天才と称するだけあって才能は抜きんでていたからな、評価していなければあの若さでジュピトリスの責任者に任命せんよ」
「職務を放棄して地球圏に残った件については?」
「アナハイムという木星船団より遥かに恵まれた環境へ移ろうとする。現状に不満を持った人間が転職するなどよく聞く話だ……まあ何も知らせず飛び出た件について思うところがあるのは確かだがね」
「はぁ」
シロッコの出奔に対してほとんど怒りを見せていないドゥガチの様子にカイは不思議に思う。
「貴方は彼の裏切りに怒らないのですか?」
「あの男はアナハイムにてミノフスキードライブを開発した。それだけでも奴が木星船団に齎した恩恵は凄まじい。失点を補って余りあるものだよ」
「なるほど」
ミノフスキードライブによって地球圏から木星まで片道2ヶ月で行けるようになったのを思い出しカイは納得する。
「それにあの日教祖が起こした現象、民衆がいう奇跡が起きて以来地球圏は変わった。連邦政府は火星や木星に対して支援を約束し実際に支援してくれた。連邦政府の一員として自治権を保証し、議会に席を用意するとまで言った……都合が良くて少々気味が悪いが木星にとっては良い事なのは確かだ」
「かの教祖が起こした奇跡についてはどう思いますか?」
「そうだな、あの日以来地球圏の人間は随分真面になったとは思う。それが地球圏外の人間にとってプラスになっているのは良い事だ……あまりに物分かりが良すぎて少々不気味だと思う時もあるが、それは私がオールドタイプだからだろうな」
インタビューは穏やかな雰囲気で進み最後にカイはシロッコに伝言はないか確認することにした。
「本日はありがとうございました。彼に伝言などはありますか?」
「これからも人類の為に働いてくれればそれでいい。それが地球圏、ひいては地球圏外の我々の利益に繋がるのだからな」
その後カイは客人として木星船団から誠意をもってもてなされたのだが、それはまた別の話である。
「そうか、ドゥガチ殿は息災だったか」
「ああ、あの調子なら木星帝国建国なんて事にはならないだろうさ……ちなみに未来のビジョンについて彼に少し教える事になったが」
「ほう、あの御仁はどんな反応を見せたのだ?」
「心底困惑していたよ」
「ククッ、やはりあの御仁でもそうなるか。まあ無理もないな」
木星から地球圏に戻ったカイはとある喫茶店にてシロッコに報告していた。ちなみに以前からシロッコが贔屓している喫茶店である。
「うむ、木星は平穏そのもので木星帝国が建国される可能性は皆無。クロスボーン・バンガードとザンスカール帝国はモーレス殿のサイコフィールドが存在する限り彼らは決起するどころか結成すらされないだろう……フフフ、人類の未来は明るいな」
「そういえば最近アンタは精力的だな。研究者として活動するのはわかるが木星の様子を確認してほしいと依頼をするのは珍しい。アンタは歴史の立会人じゃなかったのか?」
カイはふと気になっていた疑問をシロッコに尋ねる事にした。
「ああそれか。私は歴史の立会人として人類を見守るつもりなのは変わらんよ。だが今回私が動いたのは将来起きるであろう歴史的瞬間の為さ」
「人類の外宇宙進出か」
「その通りだ。人類が太陽系から外宇宙に進出する歴史的瞬間……人類が星の海に漕ぎ出し本当の宇宙世紀が始まる人類史の転換期となるだろう。それを見るためなら私もある程度行動するさ。地球圏でのしょうもない小競り合いなど今の私には心底どうでもいいのだから」
「はぁ、さいですか……この紅茶美味いな」
「そうだろう、私も気に入っているよ。3ヶ月に1回はサラと一緒に来ているのさ」
カイはシロッコの熱意に満ちた目を見て彼の行動理由に納得しつつ美味い紅茶を味わって飲むのであった。
ドゥガチ「なるほど、教祖が見た未来のビジョンでは私が何かやらかしていたのか。しかし未来予知とはニュータイプは凄いな……その未来では一体私は何を?」
カイ「木星帝国を建国し総統となっていました」
ドゥガチ「は?」
カイ「そして木星帝国を率いて地球圏に侵攻しました」
ドゥガチ「はぁ?」
カイ「地球圏に侵攻した目的は地球を滅ぼし死の星に変えようとしたようですね」
ドゥガチ「いや何故そうなるのだ……?」(困惑)
番外編を後数話ほど予定しております。更新速度は遅くなりますが頑張って投稿していこうと思います。
感想くれると嬉しいです。