<ゾルタンが行く聖地巡礼の旅>
「うわぁ、めっちゃ混んでるじゃねえか」
宇宙世紀0095年、サイド2にある
「いやまあわかってたけどさぁ、地球圏にいる人類の半数近くが教団の信者になってるんだからそれだけ巡礼者も大勢いるわな。でもこれでも去年に比べたら少ないってマジかよ……婆さん達大丈夫なのか?」
巡礼者の多さに愚痴も言いつつゾルタンは信者でもないのに聖地巡礼の旅に出る事になった経緯を思い返していた。
―現在サイド3、ジオン共和国のズムシティから中継を行っています。ご覧ください!連邦政府が全スペースノイドの参政権を認める発表を出したことを受けてズムシティ公王庁前ではお祭り騒ぎとなっています!集まった人達の反応は……―
―今日は人生で最高の日だ!参政権だけじゃなくサイド3の自治権についても宇宙世紀100年までの期限が撤廃されるって言うんだからな!―
―救世主モーレス様万歳!そしてモーレス様の到来を予言した預言者ジオン・ズム・ダイクン様万歳!ニュータイプばんざーいっ!―
「いやジオン・ズム・ダイクンさんと教祖様は無関係じゃねぇかな?」
宇宙世紀0094年8月、ホーリー・モーレスが起こした現象を見た民衆の興奮が収まりつつあったが、今度は地球連邦政府がスペースノイドの参政権を認める発表を出したことで地球圏はまた騒がしくなっていた。興奮する民衆の様子をテレビで見ていたゾルタンは思わずツッコミを入れる。
「んで、婆さん達は聖地巡礼の旅に行きたいって?」
「ええ、私が死ぬ前に一度行っておきたいのよ。最近治安がいいとは言え私と孫娘だけだと不安だから貴方にもついて来てほしくて」
「ゾルタンさん、お願いできますでしょうか?」
サイド6の学園都市コロニーにある小さな売店の店員をしているゾルタンは店主である老婦人と孫娘の2人を見る。ちなみにゾルタンが売店の店員をすることになった経緯は悪質なナンパにあっていた孫娘を助けた縁からである。
「もちろんタダとは言わないわ。その間の給料はキチンと出すわよ」
「別に金に困っているわけじゃないけど……まあ雇い主がそう言うなら従うさ。でも店を暫く休業しても大丈夫なのか?」
「こんな小さな店が閉まっていたところで誰も困らないわ」
「いや店主がそれ言っていいのかよ」
老婦人の言葉に呆れつつもゾルタンは彼女達の巡礼の旅に付き合うことにしたのであった。
「お待たせして悪かったわね」
「おう、お二人ともお疲れさん。この後あそこにいる聖人様へお祈りに行くんだっけか?」
「ええ、そのつもりだけど、その前に顔見知りの人達と再会できたから少しお話がしたいの。2人はちょっとカフェで待っててくれる?」
老婦人の指さす先を見るとそこには婦人達が集まっており会話に花を咲かせていた。
「はいはいごゆっくり……でも婆さんがサイド2出身だとは聞いてたけど本当だったんだな」
「はい、おばあちゃんも久しぶりに帰郷できて喜んでます」
暇になったゾルタンと孫娘はカフェにて雑談をする。
「おばあちゃんは一年戦争のあの日、まだ3歳だった私を必死に助けてくれたそうです。当時の記憶は曖昧だけどとても大変だったのは覚えています。あの日家族で生き残ったのはおばあちゃんと私だけでした。遺産があったから生きていくのには困らなかったけど、サイド6に移住したのはサイド2には辛い記憶があるから住みたくないとおばあちゃんが」
「……トラウマになっちゃったかあ」
「はい、でもよくある話です。おばあちゃんは寝ている時によく魘されていました。教祖様が奇跡を起こしたあの日以来魘されることはなくなったんですけどね」
老婦人の過去を聞いたゾルタンは神妙な表情を浮かべる。孫娘の言う通り老婦人の境遇は一年戦争の生き残りとしてはありふれた話ではあった。
「戦後サイド6で店を開いたおばあちゃんはたった一人で私を育ててくれました。その後サイド6に布教にいらしたモーレス様と出会い教団の信者になったんです」
「ああ、婆さんが熱心な信者なのは知ってるよ。でも聖地巡礼とかは今まで一度もしなかったらしいが。金に余裕はあったんだろ?」
「ええと、お金は大丈夫だったんですけど……信者の方にはサイド3の人もいるじゃないですか。それに教団本部がある月には元ジオン兵の人達も多いと言うし。モーレス様は許すように仰っていましたがおばあちゃんはどうしてもできないと。今は大丈夫みたいですけど」
「そりゃそうだ、人間だものな」
老婦人が今まで巡礼に出なかった理由をゾルタンは納得した。人間である以上遺恨を忘れることができなくても無理はないと。
老婦人と合流したゾルタン達はサイド2にある教団の新たな聖地……モーレスの救済計画に協力し今はサイコフレームの一部となった教団幹部がいる子機の前で祈りを捧げていた。周囲では同じように祈りを捧げる信者が大勢存在していた。
「聖人様達はモーレス様と共に人類を見守ってくださっているわ。さあシェリー、私達も祈りましょう」
「うん、おばあちゃん」
(俺の勘じゃあもう意識なんてないと思うけど、今はただの機械なんじゃないか?まっ、一応祈っておきますか……ナンマンダブ~)
ゾルタンは信者ではないが空気を読んで祈ることにした。
(しかし人間を辞めてまで人類を救おうとするだなんてよ。そこまでしなきゃ救えないのか?……救えないんだろうなぁ)
祈っている間ゾルタンはモーレス達がここまでやった理由についてふと考える。
(もしかして俺があのクソみたいな未来を視たように教祖様達はもっとクソな未来を視ちゃったのかね?研究所のスーパーニュータイプ擬きでも出来るんだからウルトラニュータイプ様なら出来て当然か……あんな姿になってでも変えようとした未来かぁ。絶対碌なもんじゃないな)
考えても仕方ないと思い直したゾルタンはとりあえず周囲に合わせて真摯に祈る振りをするのであった。
その後各サイドを巡ったゾルタン達月のフォン・ブラウンにある教団本部を訪れ、そして最終目的地であるホーリー・モーレスの乗った大型MAが今なお緑の光を輝かせている聖地に到着したのであった。
「いやー、予想してたけど人多過ぎだろ。あの2人は信者だから耐えられるだろうけど何時間待ちだこれ」
聖地にて並ぶ大行列を見たゾルタンは行列に並ぶのを諦め近くにある休憩所にて待機していた。
「あの行列では6時間ほど待つでしょうね。これでも去年に比べたら大幅に改善されてますよ」
「うへぇ、マジかよ。去年はどうだったんだ?」
「去年は入場制限もなかったから大変でしたよ。私は去年実際に並びましたが……あの時は3日かかりましたね」
「うわぁ、アンタも大変だったな」
「ええ、並んだ甲斐はありましたがもう一度やれと言われたら遠慮しますよ」
ゾルダンの隣で話す男はセバスチャン・モースと名乗り、元ジオン兵で戦後は元の職場である大学で教鞭をとっておりニュータイプについて研究している学者の一人だという。
「へー、じゃあ何でここにいて俺に話し掛けてきたんだ?俺が元研究所のモルモットだったのは知ってるだろうけど、アンタがここにいる理由がわからないな」
「まあ貴方が有名人だから話し掛けたのは事実ですね。でもここにいるのはそれだけじゃないです。あそこで臨床試験をしていて私はその責任者なのでここにいるわけですよ」
セバスチャンが指さす先にはベッドに寝かされた人々がおり、大型MAから発せられる緑の光を浴びていた。
「なんだアレ、日光浴でもしてるのか?」
「まあやってる事は似たようなものですね。モーレス様から発せられる御光が病気や怪我をしている人達にどう影響するのか確認しているのですよ」
「へぇー、教祖様の御力で快癒するかもってか?」
「ええ、この臨床試験は2回目ですが前回では実際に病気や怪我が治った事例が幾つも確認できていますよ」
「えっ」
セバスチャンの言葉にゾルタンは一瞬唖然とする。
「この臨床試験を行う事になった切っ掛けはモーレス様へ祈りを捧げていた人達の間でとある噂が広まっていたからです。救世主様の御前で祈ると病気や怪我を治してくれると」
「信者の思い込みじゃないのか?」
「私も最初はプラシーボ効果だと思いましたが、教祖様が人々の病気や怪我を治していたのは有名な話でした。そのため実際に確認してみたのですが……驚きましたよ。通常よりも明らかに怪我の治りが早いですし、とある患者では末期の癌が綺麗さっぱり消滅していたんですよ」
「……プラシーボ効果で癌が消えるわけないか。スゲェなウルトラニュータイプ様」
ニュータイプの出鱈目さにゾルタンは思わず乾いた笑みを浮かべる。
「もうここに病院建てればいいんじゃねぇの?」
「ええ、来年からここに病院を建設することになりました。無論教団の許可は下りています」
「マジかよ」
「……いやアンタの言う事はわかるよ。教祖様が偉大なニュータイプ様だっていうのは否定しないさ。でもジオン・ズム・ダイクンさんが提唱したニュータイプとは微妙に違うんじゃないかなって俺は思うわけよ」
「ハハハ、私の所属する学会でもアッカネンさんと同じような意見を持つ人達が少なからずいますよ。彼らの主張ではジオン・ズム・ダイクンの提唱したニュータイプと、教祖様達のような超常の力を持つ人間は分けるべきだと」
「ああ、やっぱり学者さん達にも俺と同じ考えを持つ人がいるわけね……まあニュータイプの定義はさておき教祖様には助けられた恩があるし感謝しているよ」
「私もモーレス様には感謝しています。それまで戦争の道具としてしか見られていなかったニュータイプの新たな可能性を見せてもらえましたからね」
その後暇を持て余したゾルタンはセバスチャンとニュータイプの定義について議論していた。
「お、2人が帰ってきたな。じゃあ俺は婆さん達と合流するわ」
「ええ、私もそろそろ責任者として戻らなければ……有意義な会話が出来てよかったです。ではまた機会がありましたらお会いしましょう」
セバスチャンと別れたゾルタンは老婦人と孫娘に合流する。
「どうよ婆さん、満足したか?」
「大満足だわ、もう思い残すことはない……ああでも曾孫の顔を見れたらこれ以上言う事はないわね」
「おい何で俺を見るんだ婆さん、孫娘を俺みたいな奴にあげちゃダメだろ。孫をもっと大事に……えっ、シェリーも顔赤くしてるけど。えっ、マジで?えぇ?……いやまぁ可愛い顔立ちしてるし嫌じゃないけどよ」
数年後ゾルタンは結婚し老婦人に曾孫の顔を見せる事になった。そして更に20年後に老婦人は玄孫の顔を見る事ができたのだがそれはまた別の話である。
<ニュータイプ研究学会にて>
学者A「確かに教祖様の御力は凄い……でもこれジオン・ズム・ダイクンが提唱したニュータイプなのかな?ん?あれこれニュータイプなのか?」
学者B「んーまあ厳密には違うかもしれんな」
学者C「この件については慎重に議論を進めるべきですね」
番外編を後数話ほど予定しております。更新速度は遅くなりますが頑張って投稿していこうと思います。
感想くれると嬉しいです。