<キャスバル首相シロッコに招かれる>
「ここに彼がいるのか?」
「はい首相、パプテマス様はここで研究開発をしておられます」
宇宙世紀0098年、地球連邦政府首相として活動していたキャスバルはアナハイムから接触があった。人類の今後について話があると言われたキャスバルは半信半疑に思いつつも会談に応じたのであった。
シロッコの副官と名乗る女性に案内され月にあるアナハイム本社の極秘研究所内を進むキャスバルはやがて目的の人物に出会う事が出来た。
「初めまして、キャスバル・レム・ダイクン首相殿。この世界では初めて会うことになりますな」
「君がパプテマス・シロッコか。しかしその言い方は……もしや君もアムロと同じように未来のビジョンを見ていたのか?」
「おや、まさかあの未来を知っていたとは。なるほどアムロ・レイもあのビジョンを見ていたのか……ならば貴方がアクシズを落とそうとした事もご存知でしょうか?」
「ああ、その件はアムロから聞いた。それに後世で私のクローンまで創られたらしいではないか。事実なのだろうが正直困惑しているよ」
「無理もありませんな。まあでもその程度は序の口なのですがね」
シロッコから未来のビジョンについて言及されたキャスバルは少しだけ興味を持った。
「ほう、あれより悲惨な事になるのか。アムロからは私のとある未来での行いについてしか聞いてなかったが興味があるな。詳しく聞かせてほしいのだが」
「構いませんよ。ではあの空間でご説明しましょう」
話を聞きたがったキャスバルはシロッコにNT空間へ案内されるのであった。
「…………いや、なぜそうなるのだ」
「貴方のお気持ちは理解できますよ。私もモーレス殿から見せてもらった時は失望と同時に困惑しましたからな」
数分後NT空間から戻ってきたキャスバルはとある未来での悲惨な宇宙世紀の様子をシロッコから見せてもらった結果思わず頭を抱えていた。
「地球連邦は力を失い、そしてスペースノイド同士で争う事になるとは。しかも技術が衰退し最終的には食人を行うまで追い詰められるだと?……度し難いな!」
「宇宙に進出しても人の愚かさは変わらなかったということでしょう。もちろん賢明な人々もいましたがそれは極少数でしかなく大勢を変える事は出来なかった」
「モーレス殿は、アレを見て人類に叡智を与えようと決意されたのか?」
「ええ、強引な手段でしたがそれしかないと彼は考えたのでしょう。あの未来を見たら悠長に進めていく余裕などないとわかりますからな」
「なんということだ」
人類の愚かさにキャスバルは愕然とする。
「さて、モーレス殿が防いだ碌でもない未来については我々にはもう関係のない事です。私が今回貴方を招いた理由をお話ししましょう」
「あ、ああ。そう言えばそうだったな。それで私を招いた理由は一体?」
「私が開発を進めている案件について連邦政府に共有しておきたいからです。人類の発展に役立つ素晴らしい発明だと自負していますよ」
気を取り直したキャスバルはシロッコに研究所を案内されるのであった。
「あれはミノフスキードライブです。未来のビジョンから見よう見まねで再現したので本来の性能と比較すれば大幅に劣りますが、それでも性能は驚異的です。試算では木星まで片道2ヶ月で行けるようになるでしょうな」
「それは凄いな、既に実用化も済んでいるとは」
「私がアナハイムに身を寄せた当初から研究を進めていました。アナハイムから提供された最高の開発環境がなければ実用化は難しかったでしょうな。これがあれば木星への支援も楽になる」
「そして木星の困窮が解消されればあの御仁も落ち着くだろうと?」
「ええ、ビジョンを見た貴方なら杞憂だと笑い飛ばす事は出来ないでしょう。既にアナハイムから支援されているとはいえ木星への支援は十分ではありません。人類の繁栄の為にも政府に力添えしてほしいのです」
「……私の方から関係者に話を通してみよう」
「よろしくお願いしますよキャスバル首相殿」
「こちらは小型化したMS用核融合炉です。今はまだ一年戦争の旧式ザク程度の出力しかありませんがいずれ高出力化できるでしょう」
「確かにあの未来でもMSの小型化が進んでいたな、その後衰退して旧式MSを引っ張り出したりしていたが」
「MSが大型化すればそれだけ負担が大きいのは貴方もご存知のはずだ。今後は調達の容易な小型MSが主流となるでしょうな」
「なるほど、現在の地球圏は平和だがMSの研究は続けさせるべきか。巨大複合企業のアナハイムは何とかなるだろうが問題はサナリィなどの中小企業だな。政府の方から資金援助すべきか」
「そうですな、競争相手がいた方が技術が発展するのは確かです。アナハイムの独占状態というのは避けるべきでしょう」
「あの少年は?」
「彼はモーレス殿と同じ治癒能力を持った少年です。他にも数名ほど同じ異能者がおりますが、あの未来のビジョンを見る限り氷山の一角でしょうな」
「ああ、あのエンジェル・ハイロゥとかいう……いや待てよ、よく考えたら今後最低でも2万人の超能力者が出てくるのか!?」
「ハハハ、宇宙に出てたった100年程度で異能者があそこまで増えるとは私も驚きましたよ」
「ええい頭が痛いな。政府の見解としてはモーレス殿の力に触れた結果覚醒したという事にしておくか」
「まあそれが無難でしょうな。モーレス殿が奇跡を起こした事実がある以上民衆も素直に受け入れるでしょう」
「最後はニュータイプとサイコフレームの研究についてです」
「サイコフレームか。モーレス殿がサイコフレームを使って奇跡を起こしたのは知っているが」
「正直に言えばサイコフレームについては未だに手探り状態ですよ。モーレス殿はニュータイプとしての直感を使い問題なく扱えていましたが、科学的に解明しておいた方が人類の発展に繋がるでしょう」
「確かにそうだな。サイコフレームは人の意思の力をサイコフィールドに変換できるという事だが」
「ええ、ですがそれだけではありません。モーレス殿に協力してもらった実験では空間転移も確認できましたよ」
「えっ」
「それに死者との交信も可能です。ひょっとすれば死者蘇生も出来るかもしれませんな」
「は?」
「そしてモーレス殿が行ったようにサイコフレームと一体化すれば脆弱な肉体から解放され強靭なサイコフレームの身体を手に入れられる!近いうちに私も実行するつもりですよ」
「い、いや待ってくれ。流石にそれはオカルトなのでは……」
「これは異なことを仰る。未来のビジョンではサイコフレームの力でアクシズを押し返していたのです。サイコフレームは物理法則を完全に無視した挙動も可能なのは貴方もわかるはずだ」
「それは、そうなのだが」
「……とりあえず君の研究成果についてはよく分かった。政府として今後の君の活動を支援することを約束しよう」
「感謝しますよキャスバル首相殿」
「だがサイコフレームの取り扱いについては細心の注意を払ってくれ。あれは正直言って今の人類には手に余る代物だ」
シロッコの成果を聞き終えたキャスバルは疲れた表情でシロッコへの支援を約束していた。
「ああそうだ、最後に確認しておきたい事がある」
「ほう、なんでしょうか?」
「サイコフレームを悪用し地球圏の平和を乱そうとする輩についてだ」
最後にキャスバルはシロッコへ確認しておきたい話があった。
「サイコフレームをニュータイプが使えば超常の力を発揮できる……モーレス殿が人類に叡智を授けたようにな。だがいずれ私欲の為にサイコフレームの力を使う人間も出てくるだろう」
「なるほど、悪用する輩への対抗策が欲しいと?」
「ああ、モーレス殿のように世のため人のために自分の力を捧げる殊勝なニュータイプばかりではないはずだ。地球連邦政府首相として今後あり得るかもしれない状況への対策が必要だと考えている」
それはキャスバルの本心であった。いかに人類がモーレスのサイコフィールドで理知的になったとしても、どうしても影響から外れた人間が出てくると考えていたのだ。
「ふむ、貴方の危惧はわからなくもないが……ご安心ください、モーレス殿のサイコフィールドを突破できる人間は存在しませんよ。良からぬ思いを抱いた人間はサイコフィールドに触れたら即洗脳、いや改心するでしょうな」
「それは楽観的過ぎるのではないか?」
「事実ですよ。モーレス殿は人類繫栄の礎として今もなおサイコフィールドを発している。地球圏に住む何十億もの人類の祈りを一身に受けたモーレス殿から発せられるサイコフィールドは規格外の出力です。生半可なサイコフィールドでは打ち消されるのがオチだ。悪用する輩が同じニュータイプならそもそも勝負にならないことぐらい理解できるでしょう」
「ううむ」
自信満々に言い切るシロッコに対してキャスバルは微妙な表情を浮かべる。
「ならば地球圏外で力を蓄えたうえで……」
「フフッ、そこまでの熱意をもって地球圏外で活動すると言うのなら大したものですな。自分の力だけで生きていくというならモーレス殿もきっと応援するでしょう」
「いや、もし悪意を持って地球圏に戻ってきた場合はどうするのだ?」
「先程も言いましたがモーレス殿のサイコフィールドは規格外です。あのエンジェル・ハイロゥ以上にね。それを上回るほどのサイコフィールドを用意しようとすればどれだけ時間が掛かることやら。一から用意するとなれば100年では無理ですな。貴方が生きている間、いやその後数百年は地球圏は安泰だと断言しますよ」
「ああそうか、サイコフレームは人の意思を力に変えるが、モーレス殿のサイコフィールドを突破しようとするなら最低でも同じくらい人を集める必要があるのか……普通に考えて無理だな」
salus教団並の宗教組織でもなければモーレスと同じような事は出来ないとキャスバルは理解した。
「その通りです。貴方の考えは杞憂ですよ。まあ私としては仮にそのような状況になってたとしても、それはそれで面白いと思いますがね。歴史の立会人としてはとても興味深い状況ですし」
「地球連邦政府としてはそんな状況になってほしくないのだが」
「仮定の話ですよ。それに貴方が生きている限りではそんな事にはならないと思いますのでご安心ください」
「いや安心できないが……はぁ」
余裕綽々な様子のシロッコを見てキャスバルは溜息をついていた。その後キャスバルは25年後に後進に道を譲ると首相を辞任するまで地球圏の発展と並行し火星、木星の開発事業に力を入れる事になる。そしてキャスバルは後世ではジオン・ズム・ダイクンの遺児としてだけではなく、地球連邦を発展させた偉大な首相として高い評価を受ける事になるのであった。
シロッコ「サイコフレームを改良したいのですが」
キャスバル「どう考えても人類の手に余るからやめてくれ」
番外編を後数話ほど予定しております。更新速度は遅くなりますが頑張って投稿していこうと思います。
感想くれると嬉しいです。