今俺を見たな? これでお前ともエンゲージができた 作:三柱 努
タロウたちの逃亡劇は続いていた。
敗北の喪失感がアルフレッドたちの心を締め付ける。
周りの景色も移り変わる。雪の寂しさから鬱蒼とした樹海の圧迫感へと。
一行の心は一層、暗いものへと染まる一方だった。
そこに追い打ちをかけるのがヴェイルと異形兵の追手。
さらに四狗と呼ばれるヴェイルの腹心たちも、マルスたち紋章士の力を顕現させてタロウたちの背を追った。
「あら、神竜様。この間のようにおしゃべりに付き合っていただけないのですか?」
四狗の一人、フィレネ城を襲った女将セピアが勝ち誇った顔でタロウを誘う。
そんな敵に言い返すこともできない状況に、タロウは眉をひそめていた。
「くっ、このままでは。ならばせめて神竜様だけでも」
殿を務めるディアマンドが剣を振り上げて味方を鼓舞する。
タロウだけを逃がすため、自らが犠牲になるつもりなのだ。
「何を馬鹿なことを・・・」
「神竜様! 今はお耐えください!」
背の中でタロウが抗おうとしていることを感じながら、ヴァンドレは歯を食いしばって抑え込んだ。
その後方でディアマンドたちに異形兵が襲い掛かる。このまま交戦に入れば後続のヴェイルたちに追いつかれ全滅するのは確実だろう。
「神竜様。どうか我々の仇を・・・」
覚悟を決めたディアマンドが剣を構える。
その時、横から立ち上った炎が異形兵を薙ぎ払った。
「見つけたわ、神竜様の軍。良かったわ。間に合ったみたいね」
それは国境での戦いでタロウたちが見逃したイルシオン王国第一王女アイビー。
彼女の放った魔法・エルファイアーの横撃に、異形兵たちの無防備な横腹が喰われたのだ。
この不意の一撃に異形兵の足は完全に止まり、ディアマンドたちは逃げるチャンスを得た。
「アイビー王女!?」
「話は後よ。早く神竜様の元へ」
燃え上がる炎の壁に阻まれ、ヴェイルたちは足を止めた。
その隙にどうにか逃げ切ったタロウたち。
安全地帯に逃げのび、タロウたちは窮地を救ったアイビーを迎え入れた。
「アイビー王女。先程は助けてくれたことに感謝する」
アイビーに向けて手を合わせて感謝を示すアルフレッド。
だが仲間たちの反応は歓迎と警戒が複雑に入り混じっていた。
特にディアマンドとスタルークは父を殺されたばかり。邪竜ソンブルの陰謀とはいえ、イルシオン軍はその悪行に加担し、アイビーもまたその片棒を担いだことに違いない。
「あなたは、今度は何を企んでいるんです?」
「待つんだスタルーク王子」
顔をこわばらせながらスタルークはアイビーに詰め寄った。アルフレッドはその間に入って制止したが、スタルークの剣幕はいつもの彼を忘れさせるほど激しかった。
「だって。僕らに儀式のことを教えたのはこいつだ。そのせいで僕らは邪竜の王女に騙されて、大教会で指輪を全部奪われた。今だって、神竜様の命を狙うつもりなんだろ!」
「落ち着けスタルーク」
スタルークの指摘はもっともだった。アイビーとヴェイルの情報でタロウたちは大教会に向かった形になる。全てが罠だったと思うのが自然だろう。だとすれば今のアイビーがスパイだという疑いも出てくるもの。
だが、そのスタルークの推理に待ったをかけたのはディアマンドだった。
「だとしたら、何故アイビー王女は神竜様の元に指輪を持ってきた?」
ディアマンドの指摘の通り。アイビーはタロウたちを助けたと同時に、大教会から2つの紋章士の指輪を盗んできていた。『草原の公女の指輪』と『聖王女の指輪』を。
「それは・・・指輪を手土産にして僕らに取り入るために・・・」
「敵の策略だとしても、それなら指輪は1つでいい。それにあの状況、敵にはこちらを討つのに十分な余力があった。わざわざ指輪を失うリスクを作る必要はない」
自身も辛い状況でありながら、ディアマンドは冷静の状況を分析していた。
「たしかに私たちはのこのこと敵の本陣に出向いた形になるかもしれない。だが私たちが行かなければ、父上の亡骸は今も弄ばれたままだった。そうだろ、スタルーク」
「・・・そうです。でも」
「アイビー王女も父君を失っているのだぞ」
全てを冷静に見極めたディアマンドの説得に、スタルークはそれ以上何も言う事はできなかった。ただ割り切れない気持ちを抱えたまま、黙ってうつむいていた。
「アイビー王女。弟の非礼を許してくれ」
「いえ。こちらこそ父を止められなかったこと、謝罪するわ。それに私は誓うわ。神竜様のお力になることを。忠誠を」
そう言ってタロウの元に跪いたアイビー。その所作から気品が溢れていたが、この流れではあまりにも不自然に映った。思わずアルフレッドはツッコんだ。
「邪竜信仰の国の王女が神竜様に? アイビー王女、言っては悪いがそれはかなり無理があるというか・・・余計に怪しいというか」
「たしかにイルシオン王国は邪竜信仰の国よ。でも私は幼い頃から周りの大人と折り合いが悪くて、反抗する気持ちで一人だけで神竜様を信仰していたの」
そう言われてみれば他の敵陣営と違い、アイビーは初対面の頃からタロウに対して礼節があった。誰に対しても礼儀正しいというより、タロウに対して敬う姿勢を見せていた。
「私の事なんてどうでもいいわ。神竜様の御加減が悪いのに、どうしてあなたたちは悠長にしているの!」
不調のタロウを心配し声を荒げるアイビー。タロウは「問題ない」と言いながらヴァンドレの背中で問題ありそうな顔を見せていた。
「そうだな。早く神竜様に療養していただかねば」
「ソルム王国に救助を求めよう。タロウが動けない今、戦うどころではない」
ディアマンド、アルフレッドが全軍に指示を出す中、アイビーはタロウに寄り添って尋ねた。
「神竜様を戦わせる事自体がナンセンスよ。神竜様、もうしばらく辛抱ください。何か食べたいものでもありませんか?」
するとタロウは静かに口を開いた。
「きびだんご・・・300個」
「きびだんご?」
聞き慣れない食べ物に首をかしげるアイビー。すると彼女の家臣であるカゲツという青年が顔をのぞかせた。
彼はアイビーの部下でありながらソルム王国の秘境の生まれで、タロウのエンゲージ姿にも似た異国衣装を身にまとっていた。
「神竜様はきびだんごをご所望か?」
アイビーが「知ってるの?」と尋ねるとカゲツはドンと胸を叩いた。
「無論じゃアイビー様。ここには無いが、近くの村で材料を調達してこよう。杵と臼も誰かその辺りの者に作らせればよい。余に任せ、しばし待たれよ!」
そう言って腕まくりをして、近くの村へと走っていったカゲツ。
しばらくして戻ってきた彼は、大量の白い塊を持って現れた。
「文字通り昔取った杵柄じゃ。ささ、アイビー王女」
アイビーを経由してタロウにきびだんごを献上するカゲツ。アイビーは「やわらかい。これが食べ物なの?」と恐る恐るきびだんごを手に取りタロウの口に運んだ。
1つ。また1つ。タロウの口に運ばれるきびだんご。
「さあ、そろそろ出発だ」
アルフレッドとディアマンドが出発の準備を終えた頃。その大声が辺り一帯に轟いた。
懐かしく感じられるほどに誰もが待ち望んだその声に、アルフレッドやヴァンドレは顔を見合わせて拳を掲げた。
「ハーハッハッハッハ!! 待たせたな、お供ども!」
じか~い じかい
『余の出番じゃ! 我が世の春が来た!』
『次回からついに神竜殿が活躍されるのじゃ。WRYYYYYYYY』
『何? 余とゼルコバにはもう出番が無い? お前にゃまだこのステージは早すぎる、ということか?』
エン12話「砂漠の自警団」というお話
アンタは名乗るなら、どういう名乗りがいい?
-
個人名と団体名だけを名乗れば十分
-
個々のアピールポイントは語りたい
-
団体の特徴だけは長く語りたい
-
個々人、団体ともしっかり語りたい
-
名乗りはしたくない