今俺を見たな? これでお前ともエンゲージができた 作:三柱 努
何かよくわからないうちに正気に戻ったオルテンシア。
状況としては未だ敵国の王女であるが、姉であるアイビーの説得もあり『邪竜とヴェール、そして四狗からイルシオンを取り戻す』という目標のためタロウたちと戦うことを決意。導き手の指輪をタロウに献上した。
ソルム女王もまたオルテンシアに特赦を与え、ソルム王国に託されたもう1つの指輪『未来を選びし者の指輪』を献上することを宣言。
その隠し場所である北の城塞へ案内するようミスティラに命じた。
そしてたどり着いた北の城塞。地元民が誰も近づかないように心霊砦の演出が施されているらしい。
「まるで駄目だな。そんなもの、意味がない。10点」
「えー? どうして神竜様? 私が作ったわけじゃないけどさ」
先人の知恵に対するタロウの辛辣な物言いにガクッとうなだれるミスティラ。
「怖い場所だから誰も近づかない? そんなもの、怖いもの知らずの人間には全く通用しない。むしろ誰も近寄らない場所にこそ行きたがる人間などごまんといる。この程度の警備体制、フィレネ王国とどっこいどっこいだ!」
遠回しに古い傷を掘り返され、アルフレッドとユナカは胸を押さえた。
「うー。そこまで言わなくても」
「現に駄目駄目じゃないか」
そう言ってタロウが指さした先、砦には大量の異形兵が侵入していた。
さらには一般市民の姿も。踊り子の男性のようだ。どうやら紋章士の指輪を守ってくれているらしい。
「ほら見ろ」
ミスティラはぐうの音も出なかった。
その後、異形兵たちを待っていたのはパーティータイム。踊るように空を舞い、華々しく散っていく異形兵たち。宴会の幹事は勿論タロウ。
全軍が離脱する頃には砦はすっかり平穏を取り戻していた。
そんな砦に砂漠の向こうから駆け寄ってくる少女の姿があった。
「大丈夫ですか!? 化け物がここに入るのが見えて・・・」
それは邪竜の娘であり、イルシオンでタロウたちを罠にはめ、紋章士の指輪を奪っていった敵の大将・ヴェイルであった。
タロウを目の前に何やら嬉しそうに駆け寄ってきたヴェイルを、アルフレッドたちは警戒して武器を構えて立ち塞がった。
「それ以上神竜様に近づくな!」
「え?」
「お供ども、下がっていろ」
武器を構えられたことにヴェイルは困惑した様子を見せた。敵陣に堂々と向かい警戒されないとでも思ったのか。だがそんな素振りには見えない。むしろヴェイルは何も知らないように感じられた。
そんなヴェイルの様子を観察したタロウは、アルフレッドたちを制止した。そして静かに歩みを進め、ヴェイルと対峙した。
「タロウ。また会えたね。会うのはイルシオン以来かな」
「そうだな」
「あの時は驚いたよ。雪の中で迷ってるんだもん。教会には無事にたどり着けた?」
「たどり着いた後が無事ではなかったがな」
「そうなんだ。何かよくないことがあったの?」
タロウとの問答がどうも間が抜けている。アルフレッドたちは周りからこのやり取りを聞いて苛立ちと怒りを覚えた。
「ふざけるのもいい加減にしろ邪竜の娘!」
声を荒げ叫んだディアマンドにヴェイルは戸惑いを見せた。
「どうして、わたしが邪竜の娘だって・・・」
「お前を見ると父上を失った屈辱が蘇る」
「よくもイルシオンを乗っ取ってくれたわね。私たちから国を。お父様を奪って、それで満足?」
「ま、待って。私が?」
「とぼけるな!」
ディアマンドやアイビーから責め立てられ、ヴェイルは泣きそうな顔で困惑するしかなかった。
今すぐにでもヴェイルに斬りかからんとする彼らに、タロウはスッと手を出して制止を促した。
「待て、と言っているだろうお供ども」
「しかし神竜様」
タロウは眉をひそめた。
「ヴェイル。お前に質問がある」
「な、何? タロウ」
四面楚歌のこの状況で、ヴェイルはすがるようにタロウを見上げた。
「この紋章士の名前を言ってみろ」
そう言ってタロウは紋章士ルキナを顕現させた。
「え? マルスだよね。初めて会った時に見せてくれた」
タロウの問いもそうだが、ヴェイルの答えにアルフレッドたちはその意図を掴めなかった。
「タロウ、その質問はどういう意味なんだ?」
「こいつに初めて会ったのはフィレネ王国だ。その時にマルスを顕現して見せたことがある。ちなみにヴェイル、この紋章士はマルスではない。胸に詰め物をしているが、立派な女のルキナだ」
「え、そうなんだ。そっくりだね」
アルフレッドたちが見守る中、ルキナがものすごく落ち込んでいるようにも見えるが、タロウとヴェイルはお構いなしに会話を続けた。
「ならば次だ。今からショーを見せてやる」
そう言ってタロウはスタルークを呼びつけた。
ショーと言われてヴェイルは期待半分、不安半分でタロウの動向を見守る。他の面々もそうだ。打ち合わせてもいないことを突然始めたタロウの動向に困惑するしかない。スタルークもそうだろう。
そんな周りの様子に構うことなく、タロウはスタルークに弓矢を持たせ、自らは20歩ほど離れた位置に立ち、頭の上にリンゴを乗せた。
「今からこの男がリンゴを射抜く」
「「え、えええええ!?」」
この突拍子もない発言にヴェイルだけでなくアルフレッドたちも、当のスタルークも驚き悲鳴を上げた。
「さあ、さっさとしろ」
「いやいやいや。危ないよタロウ! お願いだから止めて!」
「何をしているんだタロウ。そんな、え?」
「神竜様。何をお考えですか?」
トンデモない命令にヴェイルはアルフレッドたち以上の勢いでタロウを止めた。
だがアルフレッドやディアマンドは考えた。スタルークの弓の腕前であればリンゴを射抜くことは容易いだろう。タロウの身に危険が及ぶことはない。
しかもヴェイルは飛び出し、スタルークの前に立ち塞がった。両手を広げてタロウを守るように。
「これで分かったかお供たち」
タロウはしずかにリンゴを置いて、ヴェイルの頭に手を置いた。
「分かったかと言われても・・・」
今起きたことはヴェイルがタロウの身を案じていること。それとマルスとルキナを間違えたこと。アルフレッドたちの目にはそれだけに見えた。
「オルテンシアの件をもう忘れたのか? セピアには洗脳術があることを」
「あっ」
タロウの指摘にアイビーはオルテンシアと顔を合わせた。
「俺たちから指輪を奪った敵将であればルキナを顕現している。そして俺が射られることは好都合。ルキナを知らず、マルスを知り、俺を守ろうとしたヴェイル。この2つの人格が別人である可能性は高い」
「ということは、僕らの敵だったのはセピアに操られたヴェイル?」
「私が・・・セピアに操られて? そんなはず・・・でも、確かに気付いたら急に別の場所にいることがよくあるの」
「あと何か命令されたか? 神竜を殺せ、とか。王族を襲え、だとか」
「うん。せっかくパパが目覚めたのに。親子で過ごせるって思ったのに。ひどい事ばかりさせようとするの」
まるで他人事のように。というより他人だとしたら合点がいくように、今まで敵のヴェイルが行ってきた悪行を語る今のヴェイル。
「セピアの立場なら簡単な話。ソンブルの命令を聞かないヴェイルは邪魔でしかない」
「だ、だけどタロウ。これも敵の罠だという可能性は? このヴェイルがセピアに操られた人格とも考えられないか?」
「あの女ならもっとマシな性格にする。それとも趣味でこの人格にしたとでも言うのか? 余計に気持ち悪いだろう」
タロウの言う通り。操られたオルテンシアが殺意マシマシの人格だったことを考えると、この目の前のあどけなさ全開のヴェイルはセピア作であることは考えにくかった。
それにしても地味にディスられたことに全く気付いていないヴェイル。そんな彼女を見て、アイビーやオルテンシアは『可愛い』と思ってしまった。
「話が長くなった。だが確かめてみれば分かる事だ」
そう言ってタロウはアイクとエンゲージした。黄金に輝く鎧が夜の砂漠を照らし出す。
「さあ、パーティータイムだ」
じか~い じかい
「それにしても光栄だな。次回予告の機会を与えてくれるなんて」
「本編的にはここからだいぶ脱線するみたいだから、分岐点ってことなんだよ」
「でもこれは原作を知らない人にも、知ってる人にも『あれ?』って思われたりしないのかな?」
エン16話「海岸線を越えて」というお話
アンタはどういうパワーアップが好きだ?
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主役だけがパワーアップ
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1人分の汎用アイテムでパワーアップ
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全員が一律にパワーアップ
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追加戦士だけがパワーアップ
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パワーアップ無しで勝負!