今俺を見たな? これでお前ともエンゲージができた 作:三柱 努
「え? 何、なにかあったの?」
タロウのフェスティバル縁弩を受け、キョトンとした顔をしている少女。
邪竜ソンブルの娘であり、フィレネ王国やソルム王国を襲撃した組織の将。ブロディア王とイルシオン王を邪竜の贄とした張本人。
という人格をおそらく植え付けられていたであろう彼女、ヴェイルはフィレネ王国第一王子・アルフレッドをはじめとした被害国の人々に囲まれていた。
「タロウ。本当に彼女は元に戻ったのかい?」
「元が何かは知らん。だがセピアの洗脳術は解けた」
たしかにアルフレッドたちは聞いていた。フェスティバル縁弩の桃型の結界に閉じ込められたヴェイルが「神竜ごときに、この私が!」と叫んでいたのを。その時のヴェイルの剣幕は大教会で四狗を率いてアルフレッドたちを追い詰めた敵将ヴェイルのものに間違いなかった。
だが今のヴェイルはといえば、まるっきり毒気の無いあどけない少女だ。
これはもう、別人格が存在していたことが確定であろう。そうでなければ、あの別ヴェイルが今の言動の演技をしていることになる。不自然極まりない。
「ところでタロウ、もう一人の私が酷い事をしていたのって、本当なの?」
「本当だ。神竜王ルミエルを殺し、指輪を奪い、各国に異形兵を差し向けていた」
アルフレッドが油断しているうちにタロウの悪い癖が出た。
「た、タロウ。何も本当のことを言わなくてもいいじゃないか」
思わず口に出たアルフレッドの追撃に、彼自身「あっ」と気付いて口を押えた。
「そ…んな……わたし、わたしが…!?」
正確には自らのしたことではないのだが、ヴェイルは自分の悪行に絶望し、悲鳴を上げながら頭を抱えてうずくまった。
その光景は被害を受けてきたアルフレッドたちの胸にも刺さる悲痛な姿だった。誰もが同情し、アイビーやミスティラは思わずヴェイルに駆け寄ってしまうほどだった。
「神竜様、あんまりです」
「そうだよ。全部ヴェイルが悪いみたいに言ってさ」
「何を言っている? そいつは何も悪事を働いていない」
「でも私がやったようなものなんでしょ」
うつむきながら叫んだヴェイル。自分のせいでタロウが仲間を揉めている事が彼女にとっては辛いことだった。
板挟みの状況を作り出してしまったことをアイビーは悔やみ口を閉じた。だがタロウは一切気にする様子もなく平然とした態度のまま。その姿にオルテンシアは侮蔑の目を向けた。
異なる立場の者たちがそれぞれに針のむしろ。誰もが沈黙に入ってしまう。
そんな中で最初に口を開いたのはタロウだった。
「お前は異形兵を討伐していた」
いつものぶっきらぼうな言い方であったが、その一言に誰もが顔を上げた。
「俺は知っている。お前は誰かの幸せを守るため、たった一人で化け物に立ち向かっていた。自分の怪我を放置してもなお。それは立派な事だ」
タロウから出た新情報にアルフレッドたちは目を丸くした。
「それは本当なのかい?」
「フルル村で会った時。フィレネとブロディアの国境で会った時にな。そういえばお供たちはいなかったな」
そういうことは早く言ってくれ。誰もがそう心の中で訴えながら、タロウに向ける視線が穏やかになった。
我らが神竜様は、人の欠点もしっかり見抜く男であるが、同時に人の美点を見逃さない男なのだ。
「お前が他人の悪行を嘆く必要はない。お前は自分の生き方を誇ればいい」
タロウの言葉に背中を押され、ヴェイルは大粒の涙を流してアルフレッドたちに頭を下げた。
「ごめんなさい。わたし、みんなに酷いことを」
自分の心が楽になってすぐに謝ることができるこの少女の心の清らかさを、誰も責めることはできなかった。
「さて。これで敵将は陥落した。残る敵は四狗と邪竜ソンブルだけだ」
ヴェイルが落ち着いてきた頃、タロウはパンと手を叩いて状況整理に入った。
「それと紋章士が7人だね」
「敵もソルム王城から敗走したことでタロウの戦力を思い知っただろう。次はきっと油断なく総力戦で攻めてくるに違いない」
「いつまでも後手に回っているわけにはいかないわ。どこかでこちらが攻めに転じることができないかしら」
「そうだね。相手の油断を突きたいよね」
心を一つに、戦略会議を進めていくタロウと王族たち。
そこにしっかり落ち着きを取り戻したヴェイルが入ってきた。
「あの。私に提案があるの」
「どうしたんだいヴェイル?」
アルフレッドの優しい受け答えに、ヴェイルはニコリと微笑み返したが、直後にキリッとした目つきで5人と向き合った。
「私がタロウに助けてもらったことを知ってるのはここにいる皆だけ。セピアたちは私の事をまだ洗脳できてるって思ってるでしょ? だからそこが付け入る隙だと思うんだ」
「それは・・・まさかスパイをするということかい?」
意図を察したアルフレッドの言葉に、ヴェイルは静かに頷いた。
「だがそれはあまりにも危険だ」
「せめてもの償いだよ。それに私にしかできないし、千載一遇のチャンスでしょ?」
あのあどけない少女から出たとは思えない大胆な作戦だが、その危険性にディアマンドたちは反対意見を出した。
だがそこにタロウが剣を挟んで割って入った。
「おもしろい! ヴェイル、やってみろ!」
タロウの鶴の一声に誰も反論はできない。だがヴェイルの「うん!」という覚悟を決めた返事に、アルフレッドたちも彼女を信じてみようと心に決めた。
その後、ヴェイル潜入の機会はすぐに訪れた。
ソルム兵からもたらされた急報。イルシオンの軍艦の大艦隊がフィレネ王国に向かっているという情報にタロウたちは急いで国境へと走った。
国境の海岸にさしかかった時に事態は大きく動いた。
イルシオンの軍艦から逃亡兵が出ていたのだ。
それはオルテンシアの家臣であるロサードとゴルドマリー。2人はオルテンシアを見殺しにした四狗に反旗を示し、『蒼き風空の指輪』を奪取して逃げていた。
オルテンシアの無事を知り、タロウと合流した2人。その2人を追ってきた四狗のモーヴとマロンと、タロウたちは交戦することになった。
「タロウ、じゃあ行ってくるね」
「ああ。武運を祈る」
モーヴとマロンとの交戦の中、ヴェイルはタロウたちの元を離れ、イルシオン軍へと走った。
「え? ヴェイル様?」
「いかがされたのですか、このような場所に。グリと一緒ではなかったのですか?」
「あの人たちに捕まってたの。私が邪竜だからって。2人が戦ってくれてたから、隙が出来て逃げれたの」
ヴェイルが素の状態であることを確認するや、モーヴとマロンは彼女の身を案じて撤退することを決め、軍は一斉撤退に転じた。
「よしお供ども、奴らの背を追うぞ!」
「ああ。どうやら奴らはフィレネ王国に攻め込もうとしている。何としても止めなければ」
「ヴェイルとの作戦を成功させるためにも」
「今度は私たちが奇襲をかける番」
「あいつらに酷い目に遭わされてきた人たちのためにも!」
紋章士の指輪の数も6対6の同数。
ヴェイルという切り札を手札にしたタロウたちの反撃が、今始まろうとしていた。
じか~い じかい
「ああ。神竜様も私みたいに美しいお姿で戦われるのですね」
「カワイイ目でそのご勇姿をしっかり見ておきますね」
「ですが少しは演技もできるようになったほうがいいと思いますよ」
エン17話「砕かれた平和」というお話
アンタは原作展開を無視した流れについてどう思う?
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無視していいと思う
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タロウの好きにさせていい
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タロウが好き勝手やるから作者が困ってる?
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そんなの知らない
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タロウのやりたいようにやらせろ
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整合性を考えるのがあなたの仕事
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ハチャメチャにやろう
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完璧なら読む気まんまん
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わやくちゃ って何?
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最終回まで駆け抜けろ