今俺を見たな? これでお前ともエンゲージができた 作:三柱 努
ルミエルの死は深い悲しみを避けられないものだった。
皆で彼女を弔い、彼女の死に涙を流した。
タロウだけは涙を流すことができなかった。それが感情の崩壊なのか、それとも周りの悲しみへの困惑なのか、自身の感情への整理がつかないためなのか。
それは外から見て誰にも察することはできなかった。
「ところでアルフレッド。お前達はどうしてこんな夜中にこの城に来た?」
唐突にも聞こえるタロウの問いに困惑するアルフレッド。まるで襲撃と同じタイミングに救援に現れたアルフレッドたちを疑うような言葉にも聞こえてくる。
空気を読まない発言だが、たしかに説明は必要だ。そう考え、アルフレッドは話しにくそうに口を開いた。
「実は母上、フィレネ女王の使いで神竜王様に救援を求めに来たんだ。少し前からフィレネ王国に化け物が現れるようになってね」
異形兵はミトスの地だけでなくフィレネ王国にも現れていた。
「こんな時にすまないが神竜様。我が国に手を貸してくれないか? 共に来てほしいんだ。フィレネ王国に」
「そうか。わかった」
タロウの即答にアルフレッドは困惑した。タロウがルミエルの死に動揺していないように感じたことに違和感と小さな嫌悪感を覚えたからだ。
「いいのかい? 自分で言っておきながらも、少し強引なように思えたんだが」
「問題ない。ルミエルは奴らから邪竜の力を感じたと言っていた。異形兵はかつて邪竜に与した化け物なのだろう? ならば敵の手掛かりを探る絶好の機会だ」
「そ・・・そうか。すまない」
吐き捨てるように言ったタロウの言葉に、アルフレッドは心の中で深く謝罪した。タロウは無関心ではないのだ。しっかりとルミエルの死への怒りを燃やしながら、冷静に状況と向き合っていたのだ、と。
「それにお前の国にも紋章士の指輪が託されているのだろう? その回収も俺の役目だ。道中の道案内、任せたぞアルフレッド王子」
「ありがとう神竜様。それによければアルフレッドと呼んでくれ。君には幼い頃からよく会いに来ていたから。なんだか“友”のように思えるんだ」
「そうか。俺もお前のことを“お供”だと思っている」
こうしてフィレネ王国への救援要請を正式に受けたタロウたち。
一行はリトスの地を出て海を越え南西へと進み、フィレネ城を目指した。
実り豊かで平和を愛するフィレネ王国はのどかで美しい草原が広がっていた。
だがその道中、平和を害する者たちが現れた。王城のすぐ隣に位置するフルルの風車村が、異形兵たちに囲まれていたのだ。
「なんということだ! ここは平和な村だったのに。一刻も早く討伐しないと。手を貸してくれるかい!?」
村を襲う異形兵たちを前に、アルフレッドはタロウに手を差しだした。
が、そこにタロウの姿は既になかった。
「タロウ?」
「神竜様でしたら、さきほど紋章士の指輪を付けられてエンゲージされました。聖戦の紋章士の指輪を」
苦笑いしながら答えたのはヴァンドレ。そして彼の指さす先に“それ”はあった。
「ハーハッハッハッハ!」
高笑いが聞こえてくる。それになにか赤い馬車のようなものも。
いや、アルフレッドとしては見たことがない物だったため、思わずそう思ってしまっただけだ。
屋根が無いから馬車と言うよりか牛車だろう。車輪が2つしかない。そんなものも見たことが無い。そもそも牛にも馬にも引かれていない。
そんな見たこともない物にまたがって乗っているのは間違いなくタロウ。
「やあやあやあ! 祭りだ祭りだ! 踊れ! 歌え!」
タロウのインパクトに気圧されて気付かなかったが、そう言えばタロウの周りでクランとフラン、エーティエとブシュロンが舞い踊っている。何かよく分からない長い布をはためかせながら。困惑しながら。
「袖振り合うも他生の縁。
躓く石も縁の端くれ。
共に踊れば繋がる縁。
この世は楽園!
悩みなんざ吹っ飛ばせ!」
吹っ飛んだ。たしかに緊迫した空気が吹っ飛んだ。
あと、タロウがよく分からない乗り物を発進させた。すごいスピードで。早すぎる。
で、それに轢かれて異形兵たちが吹っ飛んだ。
「お兄様!」
その時、村の方から一人の少女が走ってきた。ひどく怯え、慌てた様子で。
「セリーヌ! どうしてここに? 母上と城にいるんじゃなかったのか!?」
それはアルフレッドの妹であるフィレネ王国第一王女セリーヌだった。
「大変なの! お城にイルシオン軍が進軍してきているわ! お兄様にそのことを伝えるために。でも港に向かう途中で囲まれて。わたしを逃がすためにルイとクロエが残って戦っているわ! お願い、二人を助けて!」
セリーヌの必死の懇願に兄として落ち着いて答えたいアルフレッドだったが。
まずはセリーヌがタロウに轢かれなかったことに安堵する自分がいた。
次にルイとクロエも轢かれずにいてほしいと切に願う自分がいた。
そして、なんかおそらくイルシオンの敵将らしき人影が吹き飛ばされていることに驚く自分がいた。
「うん・・・どうやらめでたしめでたし、みたいだね」
その後、遅れながらも村に到着したアルフレッドたち。
ルイやクロエもそうだが、村人たちにもケガはないようだ。
「タロウ! 無事・・・というか、ケガは無・・・いようだね」
本心としてはタロウ以外の身を気にかけていた手前、本人に何と言って声をかけていいかわからないアルフレッド。
タロウは戦い前のテンションがどこに消えたのか、少し困惑した様子で周りを見回していた。
「おい。今ここに来るまでに女を見なかったか? 小柄で、長い髪で」
アルフレッドにはよく分からなかったが、タロウは人探しをしているようだった。
他人に深く入れ込むタイプには見えないタロウにしては珍しい様子だ。
『ナンパかな? いや、それは絶対にないな』
アルフレッドはコンマ秒だけ浮かんだ自分の考えをコンマ秒で否定して首を横に振った。
じか~い じかい
『神竜様、微力ながら私もお力添えをさせていただきます』
『兄上、神竜様はこのような御方でしたのね』
『・・・兄上よりも蛮族寄りの思考?』
エン5話「王城奪還」というお話
アンタの好きな色は何だ?
-
赤
-
青
-
黄色
-
黒
-
ピンク
-
金
-
銀
-
紫
-
赤と青
-
黒いピンク