ダンジョンに訳ありデビルハンターがいるのは間違っているだろうか   作:EGO

15 / 55
Mission12 巨獣襲来

 嘆きの声も、悲鳴も、断末の叫びも、全てが悪の嘲笑に飲み込まれていく。

 恐慌(パニック)に陥った男が、冒険者等の指示を無視して走り出した途端、物陰に潜んでいた悪魔達の毒牙にかかる。

 冒険者に助けを求め、顔を汗と涙でぐしゃぐしゃにしながら走っていた民衆を、闇派閥(イヴィルス)の自爆が纏めて焼き払う。

 その様を見せつけられたアリーゼ達【アストレア・ファミリア】は、それでも一人でも多くの人を救うべく奮闘する。

 事実彼女達が陣を敷く通りの一角。そこから先に悪魔も闇派閥(イヴィルス)も到達する事を許さず、奥で他の【ファミリア】が防衛線を敷いているだろう中央広場(セントラルパーク)には悪魔の魔の手も、火の手も届いてはいない。

 届いては、いないのだが。

 

「くそっ!これでは……!」

 

 リオンは苦渋に満ちた表情でそう告げ、飛びかかってきたライアットを木刀の一撃で頭蓋を粉砕。

 地面に頭蓋骨と脳みそをぶきまけながら即死したライアットの死体には一瞥もくれず、周囲の状況を確認。

 親を失った少女の声が、瓦礫に埋もれて助けを求めるか細い声が、どこからか聞こえる誰かの悲鳴が、次の瞬間には悪魔達の嗤い声や闇派閥(イヴィルス)の叫びによってかき消されていく。

 炎によってか、血によってか、紅に染まったオラリオで、今この瞬間にも命が失われていく。

 今すぐに助けに行きたい。いや、行くべきだとわかりきっている。だが余裕がない。誰か一人でも欠けてしまえば、この防衛戦は敗北してし、より多くの犠牲を出してしまう。

 リオンは唇を噛み、胸の内に響く己の『正義』が揺らぐ音を聞きながら、それでも成すべきを成すべく体を動かし続ける。

 だが迷いを孕んだその動きは精細を欠き、無駄な力みを生まれ、呼吸が乱れ、構えが整いきらず、本来ならない筈の隙を生じてしまう。

 心技体が揃わぬ動きは悪魔に容易く翻弄され、ライアットの爪がリオンの首に届かんとした間際、その爪ごとライアットの肉体が両断された。

 

「このポンコツ妖精が!集中しろ!!」

 

 そんな側から見ても動きが鈍いリオンに、返り血で頰を汚した輝夜の激昂の声が届く。

 

「木偶になっている暇などあるか!目の前のことだけ考えていろ!私達など、あそこに比べれば楽なもの(・・・・・・・・・・・・)ではないか!?」

 

「……っ!わかっている!言われずともわかっています!それでも……!」

 

 輝夜が柳眉を逆立て、どこか遠くを示しながら放った怒号の声に、リオンは普段のように喧嘩腰で返すこともできず、力なく項垂れた。

 一途に『正義』を信じる生娘に、この惨状は──悪魔と人類による大虐殺はあまりにも重く、受け入れ難い現実であった。

 いっそ悪夢ならとさえ思えてしまうほどに、惨すぎた。

 だが、それでも、どこからか聞こえる少年の鬨の声が、折れかけた彼女をギリギリで繋ぎ止める。

 

「あの居候が、悪魔と闇派閥(イヴィルス)の群れの只中で戦ってくれている!奴が抑えている間に、我々がすべきことがあるだろうが!!」

 

 俯いたリオンの胸倉を掴み、額と額が触れ合うほどに距離で、輝夜は『アストレア・ファミリア】の陣からも、中央広場(セントラルパーク)からも遥か遠い──救援など送れる筈もない場所で舞い散る灰色の魔力光を指差した。

 一人勝手に飛び出して行った居候の少年は、誰かの指示を受けることなく単独で(・・・)敵陣に攻め入った。その対処に戦力が回されているのか、はたまた別の理由か、少なくともこの防衛線に攻め入る悪魔と闇派閥(イヴィルス)の数はまだ対処できる数だ。

 だが、それが崩れれば相手の攻勢が更に強まる。そうなれば、逃げ遅れた人々を救う暇などなくなるだろう。

 

「動け!戦え!そしていちいち考えるな!目の前にある命を、一つでも多く救え!」

 

「くっ……!ああああああああああ!!!!」

 

 リオンは輝夜に言われるがまま思考を手放し、木刀の柄を力の限り握りしめ、迫る悪魔の群れと、それに混ざる闇派閥(イヴィルス)達を睥睨(へいがん)した。

 

 

 

 

 

「誰でもいい、こいつを止め──ぎゃあ!?」

 

「何なんだこいつ、速ッ──……!?」

 

「悪魔どもは何をして、いぎゃあ!?」

 

 どの【ファミリア】からの支援もなく、補給もなく、ただ一人で侵攻の最善線に馳せ参じたグレイは、文字通りの蹂躙を開始していた。

 己が持つ技の全てを駆使し、悪魔を斬り殺し、撃ち殺し、闇派閥(イヴィルス)は悪魔が憑かれても問題のないようにその肉体を過剰に破壊(オーバーキル)していく。

 その顔にいつもの笑みはなく、感情と呼べるものが消え失せた無表情のまま、機械的に、効率よく、相手の戦力を削り取る。

 双子の銃(アッシュ&ダスト)が火を噴く度に悪魔達の肉体に風穴が開き、長剣を振るう度に闇派閥(イヴィルス)の断末の叫びが轟く。

 止まらない。止められない。魔力の炸裂により生じた灰色の硝煙と、返り血で赤い軌跡を残すグレイの疾走を、彼らには止める術がない。

 

(どこだ?)

 

 いいや、より正確に言うなれば止められないように動いていると言った方が正しい。

 こうして通常の戦力では止められない様を見せつけておけば、ヴァニタス本人か、あるいは先日の会議で存在が示唆された『最低でも都市最強と同格』の強者が釣れると思っていたのだが、どうやらその当ては外れたらしい。

 

(この場にいる連中を見捨てるか。あいつらしい、情の欠片もねぇ)

 

 ライアットの体を寸断し、デスシザーズの仮面を蹴り砕き、闇派閥(イヴィルス)の四肢を切り裂いてから首を刎ねる。こうしておけば、最悪悪魔が憑いたとしても地面を這い回る芋虫程度の危険度にしかなるまい。

 

「この魂、愛する者の元へぇぇえええええ!!」

 

『『『アリィィィィィィィ!!!』』』

 

『アハハハハハハ!!!』

 

「洒落臭え!!どこだ、ヴァニタァァァァアアアアアスッ!!!」

 

 自爆せんと迫る闇派閥(イヴィルス)の胴を散弾銃(コヨーテB)で撃ち抜き、誘爆させて数人を巻き込み、そのまま散弾銃をヌンチャクのように振り回(ファイヤーワークス)して全方位を一斉射撃。

 彼を囲い込み、息を合わせて一斉に飛びかかったライアットを纏めて肉塊に変え、脳天に向けて振り下ろされた鋏の刃を半身になるだけで避け、デスシザーズの仮面に散弾銃ゼロ距離射撃。

 後はついでのように動く死体達も散弾銃の連射でその肉体を撃ち崩し、長剣で雑に切り払っていく。

 それぞれが断末魔と共に崩れ落ちるのと、グレイが散弾銃を腰のホルスターに戻したのはほぼ同時。

 返り血で肌と灰色の髪を赤く染め、それに構わず周囲に目を向けたグレイは舌打ちを漏らす。

 予想できていたことだぎ生存者はなし。だが死体をこのままにしておけば、悪魔に憑かれて立ち上がってくる。

 

「死体蹴りなんざ、したくねえんだが」

 

 グレイは手足と首を失った闇派閥(イヴィルス)の死体を適当に放り、腹部にアッシュの弾丸を当てて自決装置を作動。

 爆発が更なる爆発を生み、辛うじて原型を留めていた死体さえも跡形もなく吹き飛ばしていく。

 飛び散る臓物と、生物の焼けるむせるような臭い。そして爆炎の熱と衝撃。

 それら全てを余すことなく浴びたグレイは不快そうに眉を寄せ、敏感すぎる鼻を摘んで嗅覚を誤魔化しながら息を吐き、手頃な尖塔の頂上に飛び乗り、耳を澄ませ、目を凝らす。

 ここの一団の対処は終えた。次に向かうべきは攻勢激しい北西か。立ち並ぶ歴史を感じさせる聖堂の辺りから、火の手が上がっている。

 だが何やら聖堂の塔から雷が放たれ、闇派閥(イヴィルス)を殲滅しているようだ。なら問題ないか。

 なら一度アリーゼ達と合流を──いや、自分が守備に回ってどうする。この状況だ、敵陣を掻き乱す遊撃手は必要だろう。

 ならば一旦東へ、いやもっと南に寄るか?てか、どこで、誰が、何と戦っているのか、今いちわからない。

 

「面倒だ。目に付いた奴から潰すか」

 

 ゴキゴキと首の骨を鳴らし、長剣を肩に担ぎながら目を細める。

 悪魔は大量。悪魔を利用する屑どもも大量。そして、悪魔に憑かれた死体も大量。

 やることは多く、明らかに人手も足りないが、やるしかないのが現状だ。

 

「これでタダ働きだぁ?ふざけんなよ、マジで」

 

 深々と溜め息を吐きながら、いつもの調子を取り戻すべく軽口を一つ。

 だが脳裏を過るのは忌々しいヴァニタスの顔と、彼が残した言葉。

 

『──すぐに次の試験が始まります。その傷、癒しておきなさい』

 

 次の試験。過去の経験からして、碌なことは起こらない。

 この惨状を前にしても、次の試験は始まっていないという直感があった。

 命を命と思わず、目的の為なら何でもする男だ。

 そして相手をとことん追い詰め、限界を迎えたその瞬間に更に追い詰め、止めを刺しにくる外道だ。この程度で終わるわけがない。

 額に手を当て、瞑目しながら息を吐く。

 どうにかそれに対処するべく体力を温存しておきたいが、そんな事したらオラリオ陣営に大打撃を入れられる可能性が高い。

 

「タダ働きなんだよなぁ……」

 

 ヴァニタスへの対処。

 その他悪魔へと対処。

 そして闇派閥(イヴィルス)への対処。

 一つ取るだけでも一月は遊んで暮らせそうな仕事を、全部無償でやるとは。

 

「──いや、師匠ならやる」

 

 だが、それでもあの人ならやるだろう。迷うことなく、躊躇うことなく、手を差し伸べる。そして報酬を求めるフリして、受け取らずに帰ってしまう。あの人はそんな人だ。だから憧れた、あんな人になりたいと思った。

 なら、俺もやる。あの人の一番弟子を名乗るからには、やらねばならない。

 グレイは小さく溜め息を吐き、表情を引き締めると、燃えるオラリオに向けて飛び降りた。

 

 

 

 

 

 オラリオ中央広場(セントラルパーク)。天を突く白亜の巨塔、バベルの根本。

 一斉に始まった闇派閥(イヴィルス)の蜂起によってもたらされた混沌から逃げるように民衆が押し寄せ、冒険者達が彼らを守るべく奮起するその場所に、女神ロキの姿があった。

 本来なら【ロキ・ファミリア】の本拠(ホーム)である『黄昏の館』にいるべきところではあるが、闇派閥(イヴィルス)だけでなく悪魔の暴虐により混乱が広がるオラリオにおいて、より正確な情報を得るべく眷属と共に前線に出てきたのだが、

 

「なんか、妙やったな。悪魔とかいうモンスターはうちを見るなり逃げてくし……」

 

 闇派閥(イヴィルス)の自爆を前提とした戦略に苦い顔をしながら、それでも感じるのは違和感だった。

 本拠(ホーム)から中央広場(セントラルパーク)に来るまでの数分。無論闇派閥(イヴィルス)に襲われたし、その度に頼れる眷属(こども)が蹴散らしてくれたが、悪魔達は自分を見るなり怯えた様子で回れ右していく。その様は見ていて強烈な違和感を叩きつけてきた。

 いや、それに関しては後だ。今はとにかく、『盤面』を俯瞰しなければ。

 

「……やっぱし『嫌な予感』がしよる。なんや、他に何が起こるっちゅうんや」

 

 だが悪魔云々を抜きにしても『嫌な予感』が拭えない。割と最悪に近い状況にも関わらず、まだ何かが起こるような予感がする。

 ロキが頰に伝う汗を拭った瞬間、歓声にも似たどよめきと共に、冒険者の一団が中央広場(セントラルパーク)に到着した。

 

「ロキ!」

 

「フィン!待っとったで!!って、服ぼろぼろやん!?」

 

 悪魔のものか闇派閥(イヴィルス)のものか、幼い顔に返り血による戦化粧を施し、戦闘衣(バトル・クロス)にも僅かな損傷が見受けられるフィンが、手練れの冒険者達を率いて戻ってきたのだ。

 愛する眷属(こども)達と、そんな彼らを率いる団長の帰還に歓喜するロキは、すぐに情報の共有を開始。

 

「リヴェリアとガレスは?てか、裾凍っとらん?何やこれ」

 

「二人には部隊を預けて南の防衛に向かわせた。想定よりも厄介な悪魔がいる、情報を共有しないと」

 

「フィンに厄介とか言わせる悪魔がおるとか、マジかいな」

 

「残念ながらマジだ。どうにか倒したけどね」

 

 冒険者達の士気に考慮してか、声を潜めて行われたやり取りを終えると、フィンは周囲を見渡した。

 ギルド傘下の【ファミリア】の奮闘のおかげか、想定よりも多くの民衆がこの場に集まっており、難民キャンプさながらの様相となっている。

 無論、この中に闇派閥(イヴィルス)間者(スパイ)がいるだろうが、それに関しては対処しきれない。

 隣では片目を開いたロキが民衆の挙動に注意を向けており、会話の片手間で探しているのが見てとれた。

 後は主神の危機だとか何とか言って、【フレイヤ・ファミリア】に任せる他にない。女神至上主義の彼らのことだ、そう言えばやる気になってくれるだろう。

 

「──中央広場(セントラルパーク)の周囲に沿って防衛線を築く。こことギルド本部が砦だ。指揮は僕が執る!」

 

 陣の内外に敵の存在を感じつつ、フィンは【勇者(ブレイバー)】の二つ名に恥じない威風をもって冒険者達に指示を出す。

 その姿はまさに物語の英雄の如くだ。絶望に陥っていた民衆の表情にも、希望が灯り始まる。

 自派閥の冒険者を中心に所属もLv.も関係なく次々と指示を出し、瓦礫や酒場の樽などを積み重ね、即席の障害物(バリケード)を設置し、砦を築きあげていく。

 自爆兵への対処、悪魔への対処を伝達していく中、女性団員が駆け込む。

 

「団長!西の戦場から報告です!」

 

闇派閥(イヴィルス)が仕掛けてきたか。今そちらに回せる戦力は──」

 

「い、いいえ。その、例のグレイという少年が闇派閥(イヴィルス)の部隊三つを殲滅。そのまま敵を追撃しつつ、南に向かったそうです!」

 

 そして告げられたのは、良くも悪くも冒険者達の間で注目の的になっているグレイの戦況報告だった。

 戦闘が始まってあまり時間は経っていない。それなのに三つの部隊を殲滅とは、随分と動きが早い。

 

「……あいつ、ほんまに何なん?」

 

「正体も所属も不明の少年だよ。南に向かってくれたのなら、そのままリヴェリア達と合流させてくれ」

 

「いえ、それが、誰も追いつけない為指示の出しようがないと【象神の杖(アンクーシャ)】が」

 

「……彼が上手く合流することを祈ろう。僕はここからの指示に集中する」

 

「了解しました!」

 

「あ、ぶん投げおった」

 

 フィンは速すぎて誰も着いて行けないという事態に苦笑しつつ、頼れる副団長に南の防衛とグレイへの指示を一任する事にした。

 良い言い方をすれば『信頼』。悪く言えばロキの言う通り『丸投げ』だ。

 大規模かつ熾烈な戦争の盤面、少しでも作業裏(タスク)を減らして思考の回転させる必要がある。ので、グレイという爆弾の扱いをぶん投げたのだ。

 

 

 

 

 

 哀れにも事実上指揮を放棄されたグレイの奮闘は続いていた。

 塹壕戦もかくやという様相となっているとある戦場。橋を挟んで瓦礫の影から魔法や魔剣を撃ち合う闇派閥(イヴィルス)ととある【ファミリア】の睨み合いは、まさに拮抗状態であった。

 飛び交う魔法の弾幕に悪魔達も攻めあぐねているが、逆に言えばこの弾幕が途切れた時、冒険者達は窮地に陥る事を意味していた。

 そして、相手もそれを承知しているのだろう。動く死体という文字通り使い捨ての駒を最大限に利用し、魔法や魔剣の無駄撃ちを誘うことで物資的に、まだ助かるかもしれない人を殺させることで精神的に、冒険者達に消耗を強いてくる。

 

「『魔剣』をもらってきたわ!」

 

 だが、そんな冒険者達に朗報が舞い込む。補給のために離脱していた団員が、大量の魔剣が詰められた袋を抱えて戻ってきたのだ。

 砂塵と煤に塗れながら、彼女の帰還を待っていた【ファミリア】は歓喜しながら、反撃するべく魔剣を分配していく。

 そんな中、震える手で短杖(ワンド)を握る一人の妖精(エルフ)に、団長である男性冒険者が声をかけた。

 

フィルヴィス(・・・・・・)、お前は休んでいろ!さっき精神疲労(マインドダウン)を起こしかけただろう!?」

 

「っ……いいえ!私も戦います!戦って、みせます!」

 

 まだ年若い、少女と呼んで差し支えないエルフ。

 瑞々しい濡れ羽色の髪に、宝石の如く緋色の瞳は穢れを知る事なく美しい。このまま成長していけば、美しさと誇り高さを両立させる、高潔なエルフになることは間違いない。

 けれど、それは来るかもわからない未来の話。

 彼女の名はフィルヴィス・シャリア。

 所属派閥の名は【ディオニュソス・ファミリア】。

 心優しき主神を崇拝し、オラリオの秩序のために戦う、まさに正義の【ファミリア】だ。

 

「……いいわ。行きましょう、フィルヴィス」

 

 ポンと肩に手を置き、微笑と共に告げられた副団長の言葉にフィルヴィスが表情を明るくする中、団長が苦笑混じりに溜め息を吐く。

 

「仕方ない。足を引っ張るなよ、フィルヴィス!」

 

「はいっ!」

 

 団長の言葉にフィルヴィスが頷いた瞬間、突如として対岸から悲鳴があがった。

 

「なんだ!?」

 

 まだ反撃は開始していない。だが闇派閥(イヴィルス)の陣地の方から悲鳴が聞こえ、悪魔達の断末魔もこちらに届き始める。

 警戒しながら瓦礫の影から顔を覗かせたフィルヴィスは、確かに見た。

 街を焼く紅蓮の炎を背に舞い踊る剣士の姿を。

 長剣を棒切れのように軽々と振るい、その一太刀一太刀は容易く相手の命を奪う必殺のもの。

 至近距離から放たれる魔剣の雷を危なげもなく躱し、背後から飛びかかる悪魔を振り向きもせず一閃し、双子の短筒が火を噴く度に闇派閥(イヴィルス)の命が塵のように消えていく。

 まさに蹂躙。たった一人で、数十人と数十体いた闇派閥(イヴィルス)と悪魔を蹴散らし、戦況をひっくり返す。

 いいや。ひっくり返すに留まらず、この場における戦闘をそのままの勢いで終わらせた。

 

「すごい」

 

 物影から様子を伺っていたフィルヴィスが感嘆の声を漏らすと、対岸の敵を殲滅した人影は長剣を肩に担ぎ、血で赤く染まった前髪をかきあげてオールバックで固めながら、息を吐いた。

 そのままようやく冒険者達の存在に気づいてか、不意に彼らに目を向けると、不敵な微笑混じりに敬礼するように右手を振り、そのまま屋根の上に飛び乗って何処かに行ってしまう。

 

「っ……周囲を探せ!まだ生存者がいるかもしれない!」

 

 助けられた挙句に礼も言えなかった団長はほんの一瞬歯噛みするが、すぐに頭を切り替えてすべき事を団員に伝達。

 礼なら生きてさえいればいつでも言える。なら、今するべきはどこかにいるかもしれない生存者の捜索と救助だ。

 

「……」

 

 フィルヴィスは一人、彼が消えていった屋根の方向を見つめるが、副団長に肩を叩かれたのを合図に意識をこちらに戻す。

 名前さえも聞けなかった事を多少後悔しつつも、崇拝する主神の為、頭を切り替えるのだった。

 

 

 

 

 

「いい加減、くたばれ!!」

 

 左頬に刻まれた『牙』を思わせる青い刺青を憤怒歪めながら、狼人の少年は咆哮をあげ、猛烈な勢いを込めた蹴りを悪魔に放った。

 

『……ッ!』

 

 それを正面から受け止めたのは、体長3M(メドル)程の大型の悪魔。

 どことなく猿やゴリラを思わせるその悪魔は『オラングエラ』。本来ならその見た目通りに熱帯の地方を好んで出没する筈の、大型悪魔である。

 そんな悪魔の相手とっているのは、最近になって台頭してきた中規模派閥──【ヴィーザル・ファミリア】。

 その団長である狼人の少年、ベート・ローガは岩を蹴ったような硬すぎる手応えに舌を弾き、その場を退避。

 

「──今よ!」

 

 ベートの退避に合わせて飛んだ副団長の少女、セレニアの指示に合わせ、魔剣と魔法の斉射が行われるが、

 

『ッ!』

 

 オラングエラはその巨大に見合わぬ身軽さでもってそれを避け、跳躍。

 

「避けろ、お前ら!!」

 

 ベートの怒鳴るような指示に団員達は一二もなく応じ、その場から蜘蛛の子を散らすように退避すると、彼らが布陣していた場所にオラングエラが落下。純粋な質量のみで地面を抉り取るボディプレスが炸裂し、地響きを周囲に響かせ、建物を倒壊させていく。

 

「チッ!勝てねえ相手じゃねえ!」

 

「けど、決定打が足りない!」

 

 ベートが振動に耐えながら牙を剥き、セレニアが頰を伝う汗を拭う。

 彼女の背には先ほど助けた栗色の髪の小人族(パルゥム)の少女がおり、彼女を気遣いながらの戦闘はセレニアに不要な消耗を強いる。

 だが、彼らに少女を見捨てるという選択肢はない。強者として、弱者を守ることは当然の義務なのだ。

 だが、目の前の悪魔を打ち倒さねば移動もままならない。セレニアだけを離脱させたいが、周囲の瓦礫に悪魔が潜んでいるのは臭いがわかる。一人でも派閥(群れ)からはぐれれば、間違いなく殺しにくる。

 

「クソが……ッ!」

 

 弱き者が淘汰される光景を──いいや、弱き者ばかりを狙う闇派閥(イヴィルス)と悪魔達の悪辣さに不快感を隠そうともせず、怒りを『牙』に変えてベートは姿勢を低くして突撃姿勢に入る。

 対するオラングエラも構える──かと思いきや、何かに気づいて倒壊を免れた建物の屋根の上に目を向けた。

 

「余所見してんじゃ──」

 

 明らかにこちらを見下し、なめ腐っている悪魔にベートが憤りを露わにすると、念のためオラングエラの視線を追っていた団員が「あ……」と声を漏らした。

 

「だ、団長、あの人って……!」

 

「あ!?情けねえ声出してんじゃねえ!」

 

 震える手で屋根の上を指差した団員を乱暴な言葉で鼓舞しながら、ベートはオラングエラから意識を逸らさずにちらりと件の屋根の上に目を向けた。

 そこにいたのは、返り血で全身を赤く染め、灰色の髪を本来の色から遠くかけ離れた色にしてしまったグレイだ。

 血によって固め、オールバックにした髪を撫でながら、長剣の鋒をオラングエラに向け、くいくいと手招きするように動かして挑発。

 オラングエラは威嚇するように胸を叩き、吠えるのと同時にグレイは屋根から飛び出し、放たれた矢の如く突撃。

 

『……ッ!!』

 

 正面きっての突撃にオラングエラは迎撃の為に拳を放つ。

 

「馬鹿野郎が!」

 

 抵抗も碌にできない空中。迫る拳。

 ベートは悪態をまじりに援護の為に動き出すが、グレイは慌てた様子もなく空中で身を捩ると、魔力で足場を作り、それを足掛かりに跳躍。

 迫る拳を飛び越え、腕を踏んで更に加速。

 

失せろ(Be gone)!!」

 

 すれ違い様、冒険者達でさえも視認不可の一閃がオラングエラの首を捉え、その醜悪な頭を刎ね飛ばす。

 断面から噴水のように大量の血を噴きながら膝をついたオラングエラの亡骸には一瞥もくれず、華麗に着地を決めたグレイはフッと短く息を吐き、ベート達【ヴィーザル・ファミリア】に目を向けた。

 大量の返り血で全身を赤く染めながらも、唯一色褪せた灰色の瞳が彼らを見つめ、そしてセレニアが背負う小人族(パルゥム)の少女と視線が交わった。

 だがそれも一瞬のこと。すぐに彼らから視線を外したグレイは、長剣に血払いくれると共に肩に担ぎ、周囲の瓦礫を見渡す。

 オラングエラという群れの長を失ったからか、悪魔達は一旦この場を放棄して次々と逃げ出しており、四方八方に散っていく。

 面倒くさそうに溜め息を吐いたグレイは、冒険者達に何も告げることなく走り出した。

 

「っ……!

 

 そんな自分達を歯牙にもかけない態度が気に入らず、ベートは牙を剥き出しにして追いかけようとするが、セレニアがそんな彼を制す。

 

「ベート、今はそれどころじゃない!早くこの子を連れて行かないと!」

 

「わかってんだよ、そんな事!あんな野郎がいたなんて、俺は知らねえぞ……っ!」

 

 誰よりも強さを求め、強さに餓える若き狼には、グレイの姿は鮮烈に映った。

 自分達では殺しきれなかった怪物を一撃で殺しきったあの少年の姿が、自分が求める強さに一番近い存在であると直感したのだろう。

 だが、追いかけられない。追いつかない。

 自分は【ファミリア】という群れを統べる団長だ。やるべきことがある。

 何より、今から走り出したところでグレイに追いつけない。そんな天性の狩人たる狼人失格な自分が腹立たしい。

 

「くそがッ!いくぞ、テメェら!!」

 

 そんな怒りを『(ちから)』に変え、団員達と共に生存者を探し、時には担ぎ上げながら、中央広場(セントラルパーク)を目指す傍らで闇派閥(イヴィルス)と悪魔達を蹴散らしていった。

 

 

 

 

 

 そうして、多くの冒険者を助けながらアリーゼ達から遠く離れた南地区にたどり着いたグレイは、戦況を探るべく尖塔の頂にいた。

 悪魔も闇派閥(イヴィルス)も動く死体も片っ端から殺してきた。それでも戦況をひっくり返すには至らない辺り、敵の数は想定以上ということだろう。

 あちこちで冒険者達も戦ってくれているが、やはり動く死体を前にした瞬間に動きが鈍り、その隙を突かれてしまっている。

 やはり目についた奴を片っ端から殺るかと方針を決め、尖塔から飛び降りようとした瞬間、

 

「グレイ!やっと見つけた!!」

 

 その根本から、声をかけられた。

 なんだと身を乗り出して見下ろしてみれば、そこには周囲を警戒しながらもこちらに向けて手を振っているアーディの姿があった。

 血と汚れで可憐な顔を汚し、自爆に巻き込まれてボロボロになった青い戦闘衣(バトル・クロス)もそのままに、ここまで走ってきたのだろう。息を乱れ、熱気に当てられていることも相まって汗だくだ。

 グレイはマジかよと呆れ顔になりながら身を投げ、彼女の目の前に着地。

 

「シャクティ達はどうした。まさか、一人でここまで来たのか?」

 

「そんなわけないでしょ。君に指示が出たから、その伝令に何人かで探してたの。私が見つけたのは偶然」

 

 グレイが周囲に味方がいないかを確認しながらの問いかけに、アーディは真剣な声音でそう返し、「見つけられて良かった」と胸を撫で下ろした。

 

「とにかく、その指示ってのは?」

 

「このままこの地区で戦ってる【ロキ・ファミリア】と合流してくれだって!リヴェリア様と、ガレスさんの所!」

 

「……で、その二人はどこにいるんだ?」

 

「……えっと、あっち?」

 

くそ(Fuck)……」

 

 折角の伝令なのにもっとも肝心な部分がわからないという状況に悪態をついたグレイは、ならその二人を探すかと尖塔の外壁を駆け上がろうとすると、

 

「ようやく見つけましたよ、八号」

 

「ッ!」

 

 忌々しい男の声が耳朶を撫で、彼は反射的に声のした方向にアッシュを向け、弾丸を放つ。

 濃密な魔力が濃縮され、爆ぜる勢いのままに突き進んだ灰色の礫は、通りの中央で仁王立ちしていた声の主、ヴァニタスが適当に振るった大剣によって阻まれる。

 

「今までどこにいやがった、くそ野郎……っ!」

 

「やっと見つけた!皆の、街の人たちの仇……ッ!」

 

 グレイが長剣の鋒を向け、アーディもらしくない怒りを滲ませながらヴァニタスに向けて構えを取った。

 二人から刺し違えてでも殺すという猛烈な殺意を浴びながら、ヴァニタスは心地良さそうに目を細めた。

 

「よい殺意です。それに関しては合格点をあげましょう」

 

 そんな二人を褒め称えるように拍手をしたヴァニタスに対し、グレイが切り掛かろうとすると、不意に彼は大剣を地面に突き立てた。

 大剣の柄頭に仕込まれた水晶と、そこに封じ込まれた何かの欠片が光輝き、石畳の筈の地面が水面のように波紋が広がっていく。

 同時に解き放放たれる強烈な悪臭──闇と退廃と背徳に満ちた、魔界の臭いが通りに充満し、グレイは表情を顰め、アーディは空気が変わった事を察知して頰に汗を垂らしながら身構える。

 既に魔界の空気に対する対策をしている──魔力で全身を保護している──グレイはとにかく、何の備えもないアーディがただの悪寒で済んでいる方に違和感を覚えつつも、グレイは舌を弾いた。

 

「テメェ、何をするつもりだ!?」

 

「次の試験を始めるだけですよ。『抜き打ちテスト』が好きなのは知っているでしょう?」

 

 狼狽え、困惑するグレイに対し、ヴァニタスは淡々とした様子を崩さずにそう告げ、更にもう一度大剣の鋒で地面を叩く。

 波紋が更に広がり、大量に魔界の大気を流入させながら、地面から大木のような巨大な腕が生えてきた。

 黒い鱗と羽毛。それを覆う金属的光沢を放つ大型の籠手。

 ぎょっと目を見開くアーディを守るように前に出たグレイは、ヴァニタスが何かを召喚しようとしている事を理解し、それを阻止すべく駆け出すが、ヴァニタスが更に地面を叩くと共に発生した衝撃波に吹き飛ばされ、再びアーディの隣へと押し戻される。

 無様に地面を転がり、それでもすぐに体勢を整えて立ち上がった彼の視界に飛び込んできたのは、巨大な獣であった。

 体長は10M(メドル)はあるだろう。大木のような両腕には相変わらず籠手に包まれ、体中に獣の目と鼻が乱雑に配置され、天を突く巨大な角はあらゆる生物の特徴を併せ持つ。

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!』

 

 グレイとアーディがその巨獣を見上げていると、それはオラリオ全体に響き渡る大咆哮を放ち、大気を震わせた。

 間近でそれを浴びたグレイとアーディは慌てて耳を庇うが、物理的圧力を伴う圧倒的な声量に耐えきれず、二人揃って吹き飛ばされ、尖塔の壁に叩きつけられた。

 かはっ!と肺の空気を吐き出しながら地面に転がった二人に向け、ヴァニタスは言う。

 

「『ゴリアテ』という悪魔はご存知でしょうか?最近になって力を付けてきた悪魔なのですが、なかなかどうして面白い方でして」

 

 ペタペタと腕だけでなく両脚を包む具足を撫でながら、ヴァニタスは言葉を続けた。

 

「交渉して、彼の因子を少し分けていただきました。それを培養し、複製したのがこの個体。彼のように言葉を話すことはできませんし、肉体の末端は安定せずに不完全な状態で覚醒してしまったのです」

 

「私も我が主のように無から命を生み出せれば楽なのですが、生憎とその域に達するにはもう2000年必要そうでして。妥協に妥協を重ねた結果ですが、たまには無駄と分かっていてもやってみるものですね」

 

「こうして補助具(ギブス)代わりに調整した魔界金属(ギルガメス)を利用してみたところ、まさに大当たり!崩れかけた肉体をこうして見事に支え、本物(オリジナル)を超える膂力を発揮できるようになりました!」

 

 興奮した様子で早口でそう言い切ったヴァニタスは、ふらつきながら立ち上がる二人に向けて「聞いていますか?」と問いかけるが、二人は殺意混じりに睨むばかりで返事をしない。

 残念そうに溜め息を吐いたヴァニタスは、グレイに向けて告げる。

 

「ある意味では貴方の弟のようなものです。名前は『ゴリアテ・ファルレ』、仲良くなさい」

 

 親が子に向けるような穏やかな微笑みを浮かべ、その場に後にした。

 

「ヴァニタス!くそったれが!今なんて言った、あの野郎!?」

 

「わかんない!もう、頭痛いし耳も痛い!!」

 

 だが、その言葉のほとんどが二人には届いていない。ゴリアテ・ファルレの咆哮で一時的に聴力を封じられた二人に、ヴァニタスの言葉の殆どが届いていない。

 だが、目の前の怪物をどうにかしなければならないことは理解できた。

 

『オオオオ!!』

 

 ゴリアテ・ファルレは雄叫びと共に突撃し、拳を振り上げる。

 瞬間、拳を包む籠手が変形し、大量の魔力噴出口を生成。そこから魔力を噴射し、凄まじい勢いで拳を振り下ろした。

 

「ッ!?」

 

 その速度たるや、グレイが目を見張って驚倒する程。

 彼はアーディを横抱きに抱えてその場を飛び退くと、ゴリアテ・ファルレの拳が地面に叩きつけられ、オラリオを揺るがした。

 同時に放たれた衝撃波が空中のグレイと、彼が抱えるアーディの肉体を突き抜け、近くの建物や尖塔が倒壊させ、周辺が瓦礫の山へと変わっていく。

 

「へえ。なかなかやるな」

 

 全身を衝撃波で殴りつけられ、体勢を崩されながらも無難に着地した彼が不敵な笑みを崩さずにそう言うと、彼に抱えられた状態で同じく衝撃波に襲われ、髪がぼさぼさになったアーディは全身を襲う鈍い痛みと、怪物のあまりある膂力に表情を強張らせた。

 冒険者として大型のモンスターと対峙した経験は何度もある。だが、自分が知るモンスターの何よりも、あの怪物の力は強い。

 一撃でも当たればそれが致命傷。いいや、掠めただけでも致命傷になり得る。今の衝撃波はグレイが庇ってくれたことと、彼の離脱が速かったから辛うじて気絶もせずに済んだだけだ。自分の身一つでは耐えられない。

 

「アーディ、お前は離れてろ。あいつは俺がなんとかする」

 

 一切の油断なく相手を睨みながら告げたグレイの進言にアーディが言い返そうとすると、ゴリアテ・ファルレは再び動き出す。

 近くの瓦礫の山を適当に鷲掴むと、それを腹部に開いた巨大な口に押し込み始めたのだ。

 次々と瓦礫を飲み込み、腹の中で圧縮させていく様は不気味の一言であり、事実グレイも何をしでかすつもりかと警戒を強めるほど。

 そして瓦礫の山を5つほど飲み込み、それを限界まで圧縮した瞬間、ゴリアテ・ファルレは体を仰け反らせて腹の口を限界まで開くと、そこから特大の火球を放った。

 再びの驚倒と共にその場を飛び退いた瞬間、彼のいた場所で火球が着弾。そして爆裂。

 闇派閥(イヴィルス)の自爆など比にならない熱量と衝撃、轟音が解き放たれ、再びオラリオを揺るがした。

 

「ただの脳筋ってわけじゃなさそうだな。次の手品はなんだ?」

 

 周囲に立ち込める爆煙の中、けほけほとむせるアーディを抱えたまま、グレイは不敵に鼻を鳴らしてゴリアテ・ファルレを嘲り笑う。

 そのままアーディを下ろした彼は長剣を肩に担ぎながらゴリアテ・ファルレの前に出ると、背中越しにアーディに言う。

 

「誰も近づけるなよ。巻き込まれたら、命の補償はできねぇ」

 

「まさか、あれを一人で相手するの!?近くに【ロキ・ファミリア】や先輩達(ガネーシャ・ファミリア)だっているんだよ!?」

 

「だからだ。そいつらに怪我させられねぇし、こんな奴、俺一人で十分」

 

 アーディの増援の進言を断り、一人で相手をするむねを伝えたグレイは、腹から溢れる炎を振り払い、咆哮をあげたゴリアテ・ファルレを睨んだ。

 

「ただですら手が足りてねぇってのに、こいつの相手なんざさせられるかっての」

 

 現状では、ギルド傘下の【ファミリア】と闇派閥(イヴィルス)の戦力はおよそ五分。悪魔の事を含めれば、闇派閥(イヴィルス)がやや優勢。ギルド傘下の冒険者や民間人に関しては、死ねば死ぬだけ悪魔側の戦力が増える分、やはり秩序(こちら)側が不利だろう。

 そんな中で、推定上級悪魔の相手に人員を割かせるわけにはいかない。自分一人で、手早く仕留めて他の戦場に向かわねばならない。

 

「ヴァニタス。テメェもどっかで見てるんだろ?やってやるよ、屑野郎!せいぜい偉そうに踏ん反り返ってな!」

 

 両腕を大きく広げ、周囲を見渡しながらどこかで見ているだろうヴァニタスに己の存在を主張すると、アーディに向けて叫ぶ。

 

「さっさと行け!お前なら誰かを助けられる!一人でも多く、救ってこい!」

 

 離脱を躊躇するアーディの背を押すべくグレイが言うと、彼女は酷く不安そうに俯き、けれどすぐに顔を上げた。

 自分がここにいても足手纏いだ。そして、別行動したところで自分に何ができるのかもわからない。

 だが、走り出せば救える命のあるのなら……!

 

「死んじゃ駄目だからね!」

 

「誰に言ってやがる」

 

 アーディはグレイに背を向けて走り出し、彼は彼女の言葉に不敵に笑んだ。

 

「さて。待たせたな、筋肉だるま。始めようぜ!」

 

『オオオオオオオオオオオ!!!!』

 

 くいくいと手招きしてゴリアテ・ファルレを挑発し、構えを取った瞬間、悪魔はそれに釣られる形で咆哮を上げた。

 物理的圧力を伴うそれを一身に浴びながら、グレイの笑みは崩れない。

 ここは任されろと格好つけたのだ、情けない姿は見せられない。無様は晒せない。さあ、やるぞ。

 

悪魔、死すべし(Devil Must Die)ってな!!」

 

 

 

 

 

 

 




感想等ありましたら、よろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。