ダンジョンに訳ありデビルハンターがいるのは間違っているだろうか   作:EGO

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Mission13 鋼鉄の拳

悪魔、死すべし(Devil Must Die)ってな!!」

 

『オオオオオオオオ!!』

 

 グレイの挑発に、ゴリアテ・ファルレが物理的な圧力を伴う咆哮(ハウル)で返答した直後、グレイは地を蹴った。

 灰色の魔力の残滓を地面に残し、一歩踏み出す度に地面を抉り取る程の踏み込みでもって、一瞬でゴリアテ・ファルレの懐に。

 

「うぉら!!」

 

 刀身に灰色の魔力を滾らせ、バチバチと音を立てる長剣を薙ぎ払い、まずは具足ごと右脚を叩き斬らんとするが、直後に感じたのはあまりにも硬すぎる手応えだった。

 

「〜〜〜ッ!やっぱ無理か……!」

 

 両手に感じる痺れに思わず苦笑しながら、傷一つなく長剣を受け止めて見せた具足を睨みつける。

 ただの金属ではない。その表面を這い回り、明滅を繰り返す不気味な紋様からして、おそらく魔界金属(ギルガメス)

 液体にも個体にもなるという魔界産の金属は、やはりその強度は人智を超えているようだった。

 

『ウオオオ!!』

 

 足元に入り込み、何やら斬りつけてきた外敵に対し、ゴリアテ・ファルレが取った行動は単純(シンプル)だった。

 片足を思い切り持ち上げ、振り下ろす。人間が蟻にそうするように、グレイを踏み潰さんとしたのだ。

 しかも、それに合わせてギルガメスが変形。振り上げた足の具足が歪に肥大化し、足の裏に大量の(スパイク)が生え揃う。

 

「おっと!危ねぇな!」

 

 だが、どんなに凶悪な見た目になろうが、当たらなければどうということはない。

 グレイはひらりと身を躱し、振り下ろされた大木のような足を危なげもなく避け、ギルガメスに覆われていない顔面に向けて双銃を連射。

 並の悪魔ならすぐさま物言わぬ肉塊に変える、致命的な魔力が圧縮された灰色の弾丸は、僅かに表皮を焦がし、角に小さな傷をつける程度に止まってしまう。

 ゴリアテ・ファルレも顔の前を飛ぶ鬱陶しい蠅を払うように頭を揺するばかりで、痛痒を感じている様子はない。

 

(牽制にもならねえな、こりゃ)

 

 数十発の射撃を浴びてもまるで怯む様子さえも見せないゴリアテ・ファルレの様子にグレイは小さく舌を弾き、双銃をホルスターに押し込むと、魔力で背中に貼り付けていた長剣を抜き払う。

 

「だったら、ぶった斬る!!」

 

 歯を剥き出しにして不敵な笑みを浮かべ、再度の突撃。

 対するゴリアテ・ファルレは腰を捻って拳を引き絞り、同時にギルガメスが変形。肘に当たる部分にいくつもの魔力噴出口が姿を現し、ジェット噴射の如き勢いで大量の魔力を噴射。

 ゴリアテ・ファルレの咆哮と共に、ジェット噴射の勢いが乗った拳がグレイに向けて放たれるが、彼は真正面からそれに肉薄。

 それが彼の肉体に直撃する直前、跳躍。

 高速で迫る彼の身長を優に超える拳を軽く飛び越え、伸びきった下腕部を足蹴に更に跳躍。

 ゴリアテ・ファルレの巨体を飛び越えたグレイは空中で身を翻し、長剣を振り下ろすと共に垂直に急降下。

 

『ッ!?』

 

 咄嗟に両腕で受けようとしたゴリアテ・ファルレの防御行動よりも速く、重力なんてものを無視した兜割りが巨獣の脳天に叩き込まれ、その皮膚をごっそりと引きちぎる。

 だが頭蓋骨を砕くには至らず、脳にも損傷を与えられていない。

 グレイは相変わらず感じる手の痺れと、あまりにも硬い手応えに骨もギルガメスで補強されていると推察し、ゴリアテ・ファルレの腹を蹴って離脱しつつ、戦闘開始から二度目の舌打ち。

 通常の斬撃で骨を断ち切れないとなると、魔力を込めて刀身や肉体を強化すればいけるだろうか。そして、その隙を生み出すには──、

 

「死ぬまで肉を削ぎ続けろって?死ぬほど痛いぜ、歯ぁ食い縛れ!」

 

 いくら悪魔とて、骨だけで生きていける程屈強ではない。骨を断ち切って即死を狙えないのなら、死ぬまで斬り続けるしかあるまい。

 先の一撃で脳を揺すられ、その巨体を無気力に揺らすゴリアテ・ファルレにそう告げて、再度肉薄。

 跳躍すると共に、ギルガメスによる防御の薄い腹部を袈裟斬りで一閃。

 凄まじいまでの密度を誇り、鉄のように固い腹筋を、技術もへったくれもない力任せの一撃で容易く斬り裂いた。

 

『オオ!?』

 

 途端に噴き出した鮮血を全身に浴び、突然の激痛に半歩下がったゴリアテ・ファルレの肉薄するように瞬間移動。

 痛みを無視し、追撃を警戒して素早く防御姿勢を整えんとした巨獣よりも速く、グレイは空中に対空したまま連撃(エリアルレイブ)を放つ。

 大の大人でも両手でやっと振れるかもわからない鉄の塊を、片手で、空中で、空間そのものを引きちぎらんばかりの力でもって、ぶん回す。

 一振り一振りが並の悪魔を絶命させるに足る必殺の剣技。それを数十と浴び、腹の肉を片っ端から削ぎ落とされながら、それでもなお巨獣は倒れない。

 絶え間なく与えられる激痛に悲鳴をあげ、大量の血を吐きながら、それでもなお命の炎が消えない。いや、より正確に言うならば断ちどころに傷が癒え始め、見た目と出血量の割にはダメージになっていない。

 

「随分とタフな野郎だな、筋肉だるま!」

 

 ある程度の重力を無視できるとはいえ、人の身で二十秒も滞空はできないグレイは流石に攻撃をやめて着地すると、顔にへばりつく肉片を乱暴に剥がしながら流石に吠えた。

 今のでそのまま心臓か、どこか臓器に致命的な傷をつける筈だったのだが、存外にゴリアテ・ファルレの自己修復能力も高いようだ。

 何度もふらつきながらもグレイから距離を取るべく後退した巨獣は膝をつき、地を吐きながら呼吸を整え、傷を癒していく。

 現に何十という剣撃を浴びせられ、傷だらけになった腹部は少しずつ再生を始めており、特徴というべき体中にある瞳や、巨大すぎる第二の口が元の形を取り戻していった。

 そしてその再生も終わるのを待つこともなく、巨獣は腹部の第二の口を開き、手頃な瓦礫を掴んで次々とそこに放り込み、何度も咀嚼。

 ゴリゴリと固いものを力に任せて噛み砕く異音と共に、腹部で煮えたがる炎が勢いを増していく。

 

「またそれかよ」

 

 グレイが小さく肩を竦めながら肩を竦めた瞬間、腹部の口が開いて巨大な火球が放たれた。

 避けるのは容易い。だが避けてしまえば、街に余計な被害が出てしまう。

 彼は面倒くさそうに溜め息を吐くと、火球が当たる瞬間に防御姿勢に入った。

 直後周囲にばら撒かれたのは、凄まじい魔力がぶつかり合う衝突音と灰色の魔力の閃光。

 超高温、超高密度の火球は都市を揺るがす大爆発を起こすが、爆炎を灰色の魔力が飲み込み、切り裂く。

 爆炎を斬り裂いたグレイは、火球を受け止めて大火傷を負った左腕には一瞥もくれず、余裕の表情を浮かべたまま魔力を帯びた長剣を肩に担いで巨獣を睨む。

 僅かに付けられた火傷の痛みを払うように軽く手を振るとその流れのまま巨獣に手の甲を向け、くいくいと手招き。

 

おいおい(Hey,hey)どうした(What's up?)!その筋肉は飾りか?」

 

 両腕を曲げながらぐっと力を入れ、上腕に作った力瘤を見せつけながら更に煽る。

 ゴリアテ・ファルレは牙を剥き出しにしながら歯軋りすると、咆哮と共に拳を地面に叩きつけ、重心を落として突撃態勢に。

 様々な生物の要素が入り混じる角をグレイに向け、四肢を包むギルガメスが宿主の興奮と憤怒を表すように噴出口から大量の魔力を噴き出し、周囲の瓦礫や死体を焼いていく。

 噴出口が絞られ、炎の勢いが鋭くなると共に、炎が揺れるだけだった音も甲高いものへと変わる。

 そして、巨獣がぐっと踵を地面にめり込ませた瞬間、

 

『オオオオオオオオ!!』

 

 再び、都市を揺るがす大咆哮。そして、全力突撃(チャージ)

 物理的な衝撃を生み出す声量と走るのみで発生する地響きに次々と建物が倒壊し、オラリオが震える中、グレイは一切怯まない。

 ゆっくりと息を吐きながら長剣の鋒を巨獣に向け、矢を引き絞るような独特な構えを取った。

 返り血を浴びながら、それでも鏡のようにグレイの横顔を映し出す刀身に灰色の魔力が宿り、鋒に集中していく。

 迫る巨獣。迫る死の気配。自分を轢殺し、そのまま防衛線諸ともに中央広場(セントラルパーク)とバベルを破壊せんとする、暴力の化身。

 そんな怪物を前にしても、グレイの余裕は消えない。むしろ昂ったように凄絶な笑みを浮かべた。

 腰を捻って長剣を引き絞り、刀身に限界まで魔力を込め、それが刀身が耐えうる限界を迎えた瞬間──、

 

「『スティンガー』!!」

 

 グレイもまた巨獣の咆哮に負けじと雄叫びをあげ、長剣を突き出す勢いのままに突貫。

 放たれた矢の如く飛び出したグレイは全身を灰色の鏃と化し、魔力の残滓の尾を引きなぎら、地を走る流星となった。

 そして、次の瞬間に迫る巨獣と正面衝突。

 長剣と角が激突する甲高い金属音が南区画に響き渡り、衝撃波が都市を駆け抜けた。

 グレイとゴリアテ・ファルレはそれぞれ長剣と角に凄まじい重量と衝撃に唸り、弾かれそうになる体を地面に踵をめり込ませて無理やり踏みとどまり、渾身の力を込めて競り合う。

 だが、拮抗は一瞬だった。

 

「うぉらぁぁぁぁああああああああ!!!」

 

 グレイが気合い一閃の雄叫びと共に長剣を突き出し、ゴリアテ・ファルレの巨体を押し返したのだ。

 直後鳴り響く、角が砕け散る破砕音と巨獣の悲鳴。巨体が大きくのけ反り、尻餅をついた。

 グレイは勝ち誇るように笑みを浮かべ、突き出した長剣を引き戻しながら尻餅をついた巨獣の腹に向けて跳躍し、長剣を突き立てる。

 鉄の如き硬さを誇る筋肉を容易く突き破り、臓器に致命的な傷を与えながら、根本まで一気に押し込む。

 同時に刀身に大量の魔力を込めた瞬間、灰色の魔力の刃が巨獣の背中から飛び出した。

 顔についている口だけでなく、腹の口からも悲鳴をあげ、大量の血を吐き出すゴリアテ・ファルレに向け、グレイは叫ぶ。

 

「自慢のパワーで負けてちゃ、世話ねえな!」

 

 勝利宣言と共に下腹部から頭に向けて一気に駆け上がり、彼の走った軌跡に合わせて巨獣の肉体は両断されていく。

 ギルガメスで補強された肋骨を、背骨も、関係ない。臓器も、骨も、膨大な魔力量による強化のゴリ押しで切り裂き、そして、

 

「しゃおらッ!!」

 

 首元の筋肉を足蹴に後ろに飛び、離脱の勢いのままに弧を描いた灰色の剣閃がゴリアテ・ファルレの頭を両断。

 上半身を左右に両断され、体を花のように開いたゴリアテ・ファルレに断末魔はない。噴水のように大量の血を噴き出しながら、ビクビクと痙攣を繰り返す。

 返り血で全身を赤く染め、空中で身を翻しながらゴリアテ・ファルレを冷たく見下ろし、噴き出した血で血の海となった地面に着地。

 

「──俺の、勝ちだ」

 

 長剣に血払いをくれ、ずぅぅん!と重い音を立てて倒れた巨体を鼻で笑う。

 直後、あまりに強烈な血の臭いに鼻を押さえ、顔の前で手を振って臭いを飛ばしながら数度咳き込む。

 

「死んでも迷惑な奴だな、ったく。ヴァニタスはどこ行った?」

 

 そして、既に死んだ悪魔から興味をなくしたグレイは周囲を見渡し、改めて広がる惨状に肩を落とした。

 あちこちの地面が爆撃でもされたように抉られ、血に染まり、無事な建物が一つとしてない。

 南区画の片隅は、文字通り壊滅したといっても過言ではないだろう。

 

「……これ、後で怒られねぇよな?」

 

 頬を伝う嫌な汗と返り血を拭いながら、流石に魔力を消耗しすぎたのか両膝に手をついて肩を揺らした。

 だが、それもほんの数秒だ。すぐに呼吸は落ち着きを取り戻し、汗も引っ込んでいく。

 

「とりあえず、【ロキ・ファミリア】の連中と合流──」

 

「グレイ!

 

 長剣を魔力で背中に貼り付け、返り血を拭いながら次の行動を思慮していたグレイの耳に、嫌に溌剌な声が届いた。

 弾かれるようにそちらに目を向けてみれば、そこにいたのは悪魔を相手どっていたのだろう。返り血や汗、そして何かもわからない液体で体を汚したアーディが駆け寄ってきていた。

 見た目は全身血塗れのグレイと、その背後で斃れるゴリアテ・ファルレ。どちらが勝ったかなど、もはや聞くまでもないことだ。

 

「アーディ!?なんで戻ってきた!?」

 

「そろそろ終わったかなってね!【ロキ・ファミリア】を見つけたから、呼びにきたの!」

 

 事が終わっていたからまだいいが、もし戦闘中に合流でもしていれば大惨事になっていた可能性もある。

 状況に反してどこか能天気な彼女に頭を抱えながら、グレイは溜め息を吐いた。

 だが同時に、師匠は自分を見る時、こんな事を思っていたのだろうかと今更ながらに思う。

 だとしたら、迷惑かけまくったなと肩を竦めた彼を他所に、アーディは彼の背後のゴリアテ・ファルレの死体に目を向け、ふと気づく。

 ゴリアテ・ファルレの巨体がギルガメスを巻き込みながら少しずつ溶けるように形を崩していき、周囲に強烈な腐敗臭を撒き散らし始めたのだ。

 

「グ、グレイ!あれ平気なの!?」

 

「ん?ああ、大丈夫だ」

 

 アーディが慌てて得物を構え、毒の噴射やガス爆発への警戒を強める中、グレイはそんなもの気にする素振りも見せずに血の海を進んでいき、巨大な死体に近づいていく。

 

「……どうしたの?」

 

 背後から聞こえるアーディの声を無視し、グレイはゴリアテ・ファルレの死体に手を伸ばした。

 溶けていく死体の中から炎を帯びた光球が飛び出し、グレイの手に吸い込まれていき、朽ちかけたギルガメスが彼の四肢に巻き付き、同化していく。

 直後、放たれた閃光がアーディの視界を白く塗り潰し、ほんの数秒の空白を産んだ。

 閃光が止み、視界が回復した瞬間に飛び込んできたのは、四肢を黒い籠手と具足で包んだグレイの姿だ。

 手の甲のスパイクに獣の爪を思わせる意匠がある籠手。

 肉食獣の足をそのまま無機質にしたように見える具足。

 黒い板金を重ね合わせたように見え、見た目の割に重装甲に思えるその下には、ギルガメスを思わせる光沢と、光輝く不気味な紋様が浮かび上がっていた。

 拳の開閉を繰り返し具合を確かめていたグレイの耳に、闇派閥(イヴィルス)の鬨の声と、悪魔達の咆哮が届いた。

 

「いたぞ!ヴァニタス様の指示通り、今のうちに潰せ!!」

 

『キシャァァァァ!!』

 

『ウィリィィィィィィ!!』

 

 グレイは面倒くさそうにそちらに目を向けると、拳をぶつけ合わせて甲高い金属音を響かせ、不敵な笑みと共に走り出す。

 一歩進むだけで地面を砕き、踵の噴射口から魔力を噴射させて普段以上の速度を叩き出すグレイはすぐさま敵の一団と接敵。

 加速の勢いのままに振るわれた拳は、肘の噴射口から魔力が噴射したかと思えば超加速。音を置き去りにするストレートからのラッシュが、次々と闇派閥(イヴィルス)や悪魔を殴り殺し、自爆する暇を与えずに血の海に沈めていく。

 

「魔剣でも魔法でもいい!ありったけを放て!!」

 

 接近戦は危険と察した部隊長の指示に、闇派閥(イヴィルス)がローブの下に潜ませていた魔剣を取り出し、それを振るった。

 炎が、氷が、雷が、様々な属性が混ざり合いながら、ちょうど悪魔を蹴り殺したグレイに向かっていくが、彼は無造作に左手をそれらに向けた。

 手のひらにあった口を思わせる意匠が本物さながらに口を開き、魔力吸入口が露出。小規模ながら横向きの竜巻が発生する程の勢いをもって、殺到する魔力と周囲の瓦礫を纏めて吸い込んでいく。

 

「な!?」

 

『More!!』

 

 闇派閥(イヴィルス)の驚倒の声をかき消したのは、籠手から鳴り響いた禍々しいまでの催促の声だった。

 

「喋れんなら最初からしろっての。ったく、無口な野郎だと思ってた俺が馬鹿みたいじゃねぇか」

 

 コンコンと籠手を叩きながら鼻を鳴らしたグレイは、狼狽える闇派閥(イヴィルス)に目を向けて左手を向けた。

 

「まだ食い足りないみたいだが、生憎と時間がなくてな。満腹にするのは次の機会だ!」

 

『Fire!!』

 

 次に籠手から鳴り響いたのは、無慈悲な死刑宣告だった。

 魔力吸入口の奥。吸い込んだ大量の魔力が純粋な炎に変換され、それが圧縮された火球となって吐き出される。

 その速度たるや、まさに豪速球。その威力、まさに砲撃。

 反動を肩だけで受け止め、その衝撃に口笛を吹いたグレイは、火球の行方を目であった。

 掠めただけで炭化するような超高温の火球は距離をとっていた闇派閥(イヴィルス)の一団に一直線に向かっていくと、隊列の最前列の一人に直撃すると共に炸裂。

 自決装置による誘爆も合わさり、区画を震わせる大爆発となり、衝撃波と爆炎がグレイとアーディに迫ってくるが、グレイはそれに対しても左手を向けた。

 手のひらの魔力吸入口が開くと共に音を立てて爆炎を啜っていき、周囲に振り撒かれた殺人的な高温と衝撃波さえも飲み込んでいく。

 

『More!!』

 

 そして、それを飲みきると共に次を催促してくるが、そんな籠手を黙らせるように籠手を小突く。

 

「ま、たまに喋るだけなら見逃してやるか」

 

 だが、何か喋るにしても文字通り四六時中喋りかけてくるあの双子の剣よりはマシかと笑った彼は、完全な無言にならなくていいむねを口にする。

 そのまま諸々の機能が仕込まれた左手の籠手を見つめ、拳と魔力吸入口の開閉を繰り返して具合を確かめ、具足を見下ろしながら笑った。

 

「いいね。ちょうど靴も欲しかったんだ」

 

「え?……え!?な、何が起きたの!?」

 

 具足の履き心地を確かめるように爪先で地面で叩き、蹴りの素振りを繰り返していると、アーディの狼狽の叫びがグレイの鼓膜を貫いた。

 

「さっきのモンスターの死体から何かが出てきたと思ったら、それがそのまま籠手になっちゃった……?え?物語に出てくる精霊みたいに!?え?うそ、え!?」

 

「うるせぇなぁ。いちいち叫ぶんじゃねぇよ」

 

「叫ぶに決まってるでしょ!何が起きたのか説明してよ!?」

 

 キンキンと喧しい耳鳴りに耳をほじりつつ、グレイは溜め息を吐いた。

 倒した悪魔が『魔具』になるなど、別に説明する必要もないと思っていたし、何より何と説明すればいいのかよくわからないのだが。

 

「まあ、あれだ。一部の悪魔は殺すと武器になるってことだ」

 

「…………ッ!!!」

 

 グレイの肩を掴み、ぐわんぐわんと前後に振り回しながら『そんな話聞いていません!』と言わんばかりに睨んでくるアーディの視線を意図して無視し、グレイは視線を籠手に向けた。

 

「そうだ。こいつの名前なんて言ったっけな?ヴァニタスはゴリ……ゴリラ?ゴリアン?とか言ってたが……」

 

「『ゴリアテ』じゃないかな?迷宮の主(モンスター・レックス)の一体にゴライアスというモンスターがいるんだけど、古い資料には名前の候補の一つにそんな名前があったし」

 

「ああ。じゃあ、それでいいか」

 

 グレイの疑問に同じく頭を捻ったアーディがそう言うと、彼は小さく頷きながら籠手と具足を見下ろした。

 魔具『ゴリアテ』。衝撃鋼ギルガメスを中心に、ゴリアテ・ファルレの魔力で作られた外装が施された、彼のいた世界を含めて二つとない珍品。

 闇派閥(イヴィルス)や悪魔の返り血で赤く染まったそれを、グレイは雑に扱ってもいい数打ちの量産品のように乱暴に振り、適当に血を飛ばす。

 ついでにアーディの手を払った彼は、改めて彼女が持ち込んだ情報を確認する。

 

「──で、【ロキ・ファミリア】がどこにいるかわかるか」

 

「うん。あっちの通りで悪魔と戦ってる。なんか、仮面をつけた気持ち悪い奴と、氷の騎士みたいな奴もいたよ」

 

「ノーバディとフロストか。わかった、すぐに──」

 

 そうしてこの場を離脱しようとした瞬間だった。グレイは持ち前の、アーディは『神の恩恵(ファルナ)』で強化されたそれぞれの聴覚が、どこからか聞こえてくる狼の遠吠えを拾い上げた。

 

「北の方からか?そっちはどこの【ファミリア】が固めてる」

 

「【フレイヤ・ファミリア】の予備隊。Lv.5の人たちもいるし、とっても強い強靭な戦士(エインヘリアル)もたくさんいるから、きっと大丈夫」

 

「……だと、いいんだが」

 

 二人は声がした方角──つまりは都市の北部に目を向けながら言葉を交わし、【ロキ・ファミリア】と合流すべく行動を開始。

 

「ヴァニタスはどこ行った。くそ、嫌な予感がしやがる」

 

 だが、妙な悪寒がする。嫌な予感がして堪らない。

 ヴァニタスのことだ。仮称ゴリアテを倒した瞬間に背中を刺しにくると思っていたのだが、来たのはその指示を受けた闇派閥(イヴィルス)と雑魚悪魔ばかり。

 

「何を考えてやがる、あの野郎」

 

 気配も感じず、魔力さえも感じないヴァニタスの姿と意図を探りながら、グレイはアーディの背中を追いかけるのだった。

 

 

 

 

 

 




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