ダンジョンに訳ありデビルハンターがいるのは間違っているだろうか   作:EGO

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Mission21言葉の刃

 グレイと冒険者達の奮闘で西門を確保したものの、他の門や市壁上を闇派閥(イヴィルス)に確保され、オラリオは冒険者と民衆を閉じ込める『檻』へと変えられていた。

 負傷者の看護に瓦礫の除去、食料の調達。問題も山積みの中、嫌がらせのように市壁の上から砲撃を行ってくる闇派閥(イヴィルス)達。

 冒険者達は碌に休む事もできずに都市中を奔走し、少しでも民衆を守らんと行動し続けていた。

 それは、主神を奪われた【アストレア・ファミリア】も同じ事だった。

 主神が『送還』され、【ステータス】を失う恐怖に苛まれつつも、それでも『正義』の女神の眷属たる彼女達が足を止める事はない。

 

「……とりあえず、これで終わりか?」

 

 酷く掠れた声を漏らしたのはライラだ。

 乾きに乾き、もはや痛みさえも感じ始めた喉から声を絞り出した彼女に、水筒代わりに精神力回復薬(マジック・ポーション)投げながら輝夜は肯定した。

 

「ああ、人の気配はない。いたとしても『黄泉がえり』の怪物くらいだ」

 

 彼女はそれ告げながら視線を横に向け、先程切り捨てた悪魔憑き達と、それらに襲われ、重症を負った民衆を運び終えた仲間達が戻ってくる姿を認めた。

『大抗争』からの夜通しでの人命救助。

 他派閥の冒険者達。ギルド職員。今日に至るまで都市を支えてきた全ての者が総動員で不眠不休で働く中、やはりと言うべきか彼女達の表情には濃い疲労の色が貼り付いていた。

 肉体的な疲労もある。だが今すり減らしているのは精神、いや人の原動力ともいえる『心』が限界まですり減っていた。

 数日前までは賑やかとは言わずとも秩序があった。だが、今はどうだ。英雄の街は荒れ果て、瓦礫の山と変わり、命ある者はいない。

 それを眺める少女達の口は、硬く閉ざされていた。

 女神を奪われ、守るべき者達も守れず、秩序の崩壊を赦した。自分達の無力を、惰弱を、叩きつけられる。

 全員が顔を俯け、その場に重い静寂に包まれる中、パン!と乾いた音が少女らの耳朶を撫でた。

 弾かれるように顔を上げた少女達が見つめる先にいるのは、両手を胸の前で合わせたアリーゼの姿だった。疲労困憊の少女達は、彼女が手を叩いたのだと理解するのにほんの僅かに時間を要した。

 

「もう、暗すぎるわよ!まずは顔を上げて、前を向く!話はそこからね!」

 

「腹に穴空いてた奴が無理すんなよ、ったく。超人じみた冒険者でも、過労で死ぬって」

 

「あら、ライラはもう限界なのかしら?私はまだまだ余裕よ」

 

「この体力馬鹿が」

 

 アリーゼの言葉にライラは苦笑し、頭の後ろで手を組んだ。

 

「シャワー浴びてぇ。あったけぇスープ飲みてぇ。そして、寝てぇ」

 

「残念だが、補給が済んだらすぐに巡回だ。寝るのは諦めろ」

 

 彼女の言葉に顔を見ることなく、隣を歩く輝夜が言葉を返す。

 廃墟同然の街並みの中を進む少女達の会話は少ないが、それでも黙り込む事はなかった。

 常にライラが悪態なりをこぼし、アリーゼと輝夜がツッコミを入れる。

 時にはアリーゼの方から話題を切り出し、あえての無視を選んだライラに対しても一方的にまくし立て、輝夜の折檻で黙らさられる。

 そんな派閥(ファミリア)古参三人組のやり取りに、他の団員は苛立つ事も、諌める事もなかった。

 いいや、むしろ感謝までしていた。塞ぎ込もうとしている『心』をこじ開けてくれる三人の声が、疲労し、今にも倒れそうな体を支えてくれている。

 今まで味わった事のない苦境と不安に押し潰される寸前で、三人が自分達を支えてくれているのだ。他ならない、最も傷ついている筈のアリーゼが率先して。

 いつもならライラが延々と喋り続けていただろう。それに皆が笑って返していただろう。だが、今は彼女の独り言に混ざるアリーゼと輝夜のいつも通りの声とやり取りが何よりもありがたい。

 

「……」

 

 しかし、リオンだけは違った。

 一人、誰よりも陰鬱とした表情で俯いたまま、口を開こうともしない。

 ヴァニタスに一矢報いる事もできずにアストレアを攫われ、グレイを止める事もできず、挙げ句の果てには『足手纏い』とまで言われてしまった。派閥内において、誰よりも未熟で純粋な彼女の心労(ストレス)は、他の団員のそれの比ではなかった。

 

「……リオン。下を向いてちゃダメよ。何か喋らなきゃ、駄目」

 

 そんな彼女の様子に目敏く気づいていたアリーゼが歩み寄り、肩に手を置いた。

 

「貴方、あれからずっと塞ぎ込んでる。……そのまま溜め込むと、いつか爆発するわ」

 

「…………」

 

 彼女の言葉にリオンは返さない。

 

「もうすぐ仮説キャンプにつく。そこで一度──」

 

 無言した返せない彼女に、アリーゼがそう告げたその時だった。

 壁を築くように、オラリオの住民達が彼女らの前に立ちはだかったのは。

 

「なんだよ、お前ら……?」

 

 ライラが声を出すが、それには戸惑いの色が強かった。

 アリーゼがいう仮説キャンプから、幽鬼のようにぞろぞろとやってきた男女は、口を真一文字に噤んでいた。

 アリーゼ達を親の仇のように睨むその瞳には、悪魔憑き特有の魔力は感じない。キャンプが壊滅したという事ではなさそうだ。

 逆に正気なまま立ちはだかってくるこの状態の方が恐ろしいといえば恐ろしいが。

 困惑するアリーゼ達に、誰かの声が届いた。

 

「……【アストレア・ファミリア】は、正義の派閥じゃなかったのかよ?」

 

 耳を澄まさねば聞こえない囁き声。

 だが、その小さな声は大きな唸りの切っ掛けとなる。

 

「みんなを助けてくれるんじゃなかったの!?みんなを守ってくれるんじゃなかったの!?」

 

 絹を裂くような悲痛な声をあげたのは獣人の女性だった。

 肩を揺らし、涙を流し、行き場のない感情を爆発させる。

 

「嘘つき……っ!あの人を返して!!」

 

『っ!!』

 

 彼女の『糾弾』に、【アストレア・ファミリア】の面々は双眸を見開いた。

 次の瞬間、民衆の内に溜まっていた感情が一気に爆発し、言葉と共に腐るほどある小石を手に取り、投げ始めた。

 

「みんな、死んじまった!」

 

「ふざけんな!」

 

「冒険者だろう!?」

 

「何とかしてよ!」

 

「どうしてこんな目に遭わなきゃならねぇんだ!?」

 

「何が正義だ!」

 

「お前達のせいだ!」

 

 次から次へと投じられる礫に込められているのは、怒りと悲しみ。

 石の雨が降り注ぎ、罵詈雑言が【アストレア・ファミリア】を打ち据える。

 民衆の不満と絶望の爆発。冒険者と民衆の間に巻き起こる不和の火種。起こるべくして起きた『恐慌』。

 家族を、財産を、寄る辺を、生きる理由を失った人間は不安定になり、理不尽な発露によって感情が暴走させる。

 本来なら味方の──けれど彼らからすれば守ってくれなかった(・・・・・・・・・)冒険者に、恨みをぶつけてしまう程に。

【アストレア・ファミリア】の面々が各々が腕で防御する中、リオンは呆然と立ち尽くしていた。

 

「なんだ、それは……!なんだ、この仕打ちは……っ!」

 

 全身を激昂の炎で揺らし、アリーゼが危惧していた通り、抑え込んでいた感情が爆発させてしまう。

 

「これが戦った者に対する返礼か!?私達だって、多くのものを失ったのに……!」

 

 彼女らしからぬ激昂の叫びに対し、返ってくるのは礫と罵倒の言葉ばかり。

『悪』に敗れた『正義』へと無情な指弾。

 守られることしか知らない者達に、戦う者達の言葉は届かない。

 あまりの理不尽に『無償の正義』を忘れそうになる。

 

「貴様ら……!」

 

 そして、その理不尽に怒りを覚えたのは何もリオンだけではない。

 血の気の多い輝夜を始め、団員達もそれぞれの得物に手が伸びかけている。

 戦意を膨らませ、威嚇代わりに小石を切り払わんと輝夜が鯉口を切った瞬間、

 

「あんた達が連れてた男はどこに行ったのよ!?あの男、私の夫を殺したのよ!?」

 

「な……!?」

 

 ヒューマンの女性があげた金切り声に、輝夜は驚愕に目を見開いた。

 自分達が連れていた男など、一人しかいない。

【アストレア・ファミリア】の中に同じ感情が広がっていく中、その声を皮切りに民衆は叫んでいた。

 

「あいつ、俺の妻を……!俺の目の前で……!」

 

「息子を、あの子を返してよぉ……!」

 

「俺のダチだって、あの野郎に……っ!」

 

「何が正義の派閥よ。あんな人殺しを連れ歩いて、なに考えてんのよ……!!」

 

【アストレア・ファミリア】に向けられていた怒りの矛先が、一人の少年にも向けられ始めていた。無論、彼と交流の深かった彼女らにも向けられてはいるが、少年への罵倒の声は怒りを超えて殺意さえも滲ませていた。

 

「い、一体何が……?」

 

 先程の感情の爆発もその声の前では鳴りを潜め、困惑の表情のままに口を動かしていた。

 

「あ、ありえない……そんな事、ある筈が──っ!」

 

 リオンが困惑に目を泳がせ、舌をもつれさせながら声を荒げた。

 グレイが無辜の人々を殺した?いや、嘘だ。そんな事ありえない。

 自分達の『正義』の成果を笑ってくれた彼が、『大抗争』の戦いの中で誰よりも都市の為に献身した彼が、そんな『悪行』をする筈がない!

 だがそんな彼の戦いを知らない民衆からすれば、リオンの言葉など聞くに値しない戯言に他ならなかった。

 彼らの罵倒は止まらない。放たれる礫も止むことがない。

【アストレア・ファミリア】の少女達もまた、彼らの言葉に面をくらい言葉を無くしていた。

 

「あの男はどこにいるの!」

 

「ふざけんじゃねぇよ!何が正義の派閥だ!」

 

「娘を返して!」

 

 民衆の怒りは止まる事を知らず、彼らの激憤に晒される【アストレア・ファミリア】も顔を庇うばかりで返せる言葉もない。

 そんな『無抵抗に怒りをぶつけられる相手』を前に、民衆の声が更に強く、大きくなっていく中、がらりと音を立てて瓦礫の山が崩れた。

 何だと慌てる民衆と、敵襲を警戒して身構えた【アストレア・ファミリア】の視線を独り占めしたのは、その山の上に腰を下ろした灰髪の少年──グレイだ。

 罅割れた長剣を肩に担ぎ、頬杖をつきながら貧乏揺りをする様は、側から見ても苛立っている事が見てとれた。

 そんな不遜な態度を変える様子もない彼の姿に、本当の意味で怨嗟の念を向けるべき相手を前に、民衆は鎮まりかえった。

 潰されな左眼の死角を補うべく見開かれた右眼は血走り、肩に担いだ長剣からは血が滴り落ち、四肢を包む漆黒の籠手と具足にも乾いた血がこびり着き、不気味な光沢を放っていた。

 まさに一戦交えてきた直後という姿の彼は殺気立ち、無意識に滲ませた魔力が周囲の空間を歪ませている程だ。

 体のあちこちを覆う鱗や不気味な眼光も合わさり、その姿はさながら怪物(モンスター)か悪魔のよう。

 そんな相手に、石を投げられる勇気を持つものはいなかった。

 

「グレイ……」

 

「アッシュウォルドさん!彼らの話は本当なんですか!?」

 

 アリーゼが彼の名を呟き、リオンが彼の所業に言及する中、グレイは溜め息を吐いて瓦礫の山から飛び降り、民衆と【アストレア・ファミリア】の丁度中間に着地した。

 

「こいつらの話ってのは?」

 

「貴方が彼らの家族を殺したというものです!本当なんですか!?答えてください!?」

 

 声を荒げて詰め寄る彼女の詰問に、グレイは民衆の方に顔を向けた。

 殺意混じりに睨んでくる彼らの顔を一人一人確認しながら、何かを考えるように天を仰ぎ、そして告げた。

 

「ああ、殺した」

 

「……っ!!」

 

 長剣を背負い、腕を組みながら何の感慨もなさそうに告げた言葉に、リオンは眦を裂いた。

 ずかずかと湧き出た激情のままに彼に近寄るが、グレイはそんな彼女を手で制す。

 立ち止まりはしたものの殺気混じりに睨みつけてくる空色の瞳に何の感情もなく見つめ返したグレイは、腰に手を当てながら溜め息を吐いた。

 

「人の話は最後まで聞けよ。ポンコツ妖精」

 

「私はポンコツではない……ッ!早く説明しろ、なぜ無辜の民を殺した……!!」

 

 グレイの煽りの言葉にリオンは額に青筋を浮かばせ、更に顔を赤くしながら声を張り上げた。

 対するグレイは冷めた視線を彼女に向け、嘆息混じりに言う。

 

「悪魔に憑かれていたからだ。あのまま放っておけば、被害が広がっていた」

 

「……っ」

 

 彼の言葉にリオンはハッとし、同時に先程の彼への配慮のない行為を恥じるように俯いた。

 

「話は終わりだ。後でアーディに会ってやれ、心配してたぜ」

 

 だが、そんな彼女を糾弾するわけでも、馬鹿にするわけでもなくそう告げた彼は、踵を返して歩き出す。

 アーディの頼みだからと律儀にリオン達に会いにきたが、元気そうで(・・・・・)なによりだ(・・・・・)。この分なら問題あるまい。

 仮にも居候先であり、それなりに付き合いのある友人達に石が投げられるという異常な光景を見ておきながら問題なしと判断した彼が考えているのは、次の目的地に関してだった。

 この後はどこを探すべきか。ほぼ倒壊したとはいえ最初に出会った商館辺りを探れば、何か見つかるだろうか。

 喋れる悪魔がいれば手っ取り早くていいのだが、この街に来てからそんな上位の悪魔とはほぼ出会っていない。

 ヴァニタスの腹心の悪魔が──それこそマルコシアスとかいう女悪魔を見つけられればそれで済むのだが。

 

「待ちなさいよ……!」

 

 そうして黙考しながらその場を去ろうとしたグレイの背中に、涙と恐怖を堪え、震えながら放たれた声が届いた。

 胡乱げに振り向いた彼の視線の先にいたのは、ヒューマンの女性だった。

 おぼつかない足取りで群衆の中から歩み出てきた彼女は、憔悴に、灰と煤に汚れた顔を怒りで歪めた。

 

「貴方が、あの子を……!」

 

 その女性に、アリーゼとリオンは見覚えがあった。そしてグレイも僅かに遅れて記憶の中から女性を引っ張り出し、僅かに瞠目する。

 

「あの子は、まだ生きてた……っ!」

 

 おぼつかず、今にも転びそうな危うさを孕んだ足取りで、彼女はグレイに近づていく。

 

「お母さんって、お父さんって私達を呼んで……!必死に私達に手を伸ばしていたのに……!!」

 

 そんな気力もないだろうに。体力さえも残っていないだろうに。怒りのみに突き動かされた女性は、ついにグレイの下へとたどり着く。

 

「まだ、あんなにも小さかったのに、あの子は、リア(・・)はぁ……!」

 

「「……っ!」」

 

 彼女が呼んだ、あまりにも聞き馴染みのあった名前にリオンとアリーゼは悲痛な表情を浮かべた。

 リア。グレイと共に巡回(パトロール)中に出会った、熊の縫い包み(テディベア)を抱えた女の子。

 かつて【アストレア・ファミリア】に救われ、笑顔を振りまいていた少女の名前だ。

 

「貴方が、あの子を殺したぁ!!」

 

 そして感情のままに叫んだ母親は手を振りあげ、彼の頬に向けて平手を放つが、グレイからすればあまりにも遅いそれは簡単に掴み止められる。

 

「──っ!」

 

 まさか止められると思っていなかったのかリアの母親は驚きを露わにし、グレイの顔を睨みつけた。

 だがその瞬間に飛び込んできたのは感情の欠片もない色褪せた瞳と、『なぜ殴られなきゃならない』と言わんばかりに不満そうにへの字に曲がったがさつきひび割れた口だった。

 

「放して!放しなさいよ、この人殺し!!」

 

 母親が手を振り回すものの、手首を掴む彼の手は微動だにせず、動くのは母親の体ばかり。

 そして数秒して気が済んだのか、グレイは母親から手を離し、そのまま背を向けて歩き出す。

 

「何とか言いなさいよ!何であの子が死ななきゃならなかったのよ!何で、あの子を……!リアを、返してよぉ……!」

 

「や、やめないか!冒険者様にそんな……っ」

 

 その場に膝をつき、行き場のない怒りをぶつけるように地面を叩く母親に彼女の夫が止めに入るが、グレイの背中に向けられる視線には彼女と同じように怒りと、憎悪が滲んでいた。

 そんな強烈な負の感情を浴びせられたグレイは足を止め、溜め息混じりに頭を掻いた。

 

「あんたの──いや、あんたらの家族が死んだ理由、ね」

 

 家族が悪魔憑きとなった挙句、グレイの手で一掃された遺族を前に、彼は残酷なまでの事実を告げた。

 

お前らが守ってやれなかったからだろ(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 その言葉は【アストレア・ファミリア】を弾劾するものではなかった。彼が責めているのは、彼女らに石を投げた力のない群衆(・・・・・・)だ。

「え……?」と声を漏らしたのが誰だったのか、それを知るよりも前に、グレイは言葉を続けた。

 

「俺は死体を壊した(・・・・・・)だけで、別にお前らの家族を殺したわけじゃない」

 

 人の心などないかのように、群衆の心に刻まれた深い傷(トラウマ)を遠慮なしに抉り、彼らが【アストレア・ファミリア】にやったように、『罵倒』の言葉を投げつける。

 

「家族だったんだろう。恋人だったんだろう。かけがえの無い、大切な人だったんだろう。誰かを頼る前に、自分の手で守ってやろうとは思わなかったのか」

 

「どこかの【ファミリア】に入る事も、金をかけて護身用の道具を揃える事もできただろうにそれもしないで、何かあれば他人を責めて、さぞや気は楽になっただろうな」

 

「お前らの半分も生きてない奴らに命張らせて何にもしないで、ボロボロになりながら戦った奴らに石を投げる。随分といいご身分じゃねぇか」

 

「あの日、自分は最善を尽くしたか?転んだ恋人に手を伸ばしたか?はぐれた子供を探しに火の中に飛び込んだのか?してないだろうな、していたら五体満足でいられるわけがない」

 

「お前らがしなかったそれをした冒険者に石を投げて、自分を責めたりはしねぇ。その癖して、何かあればまた冒険者を頼るんだろ?」

 

 ただ淡々と、相手の心情など欠片も考慮せず、自分が思う事をそのまま口にした彼は、反論はないかと言わんばかりに数秒間沈黙し、溜め息混じりに告げた。

 

「──悪魔よりタチ悪いな」

 

「……!アッシュウォルドさん!」

 

 一瞥もくれず、民衆を悪魔以下だと吐き捨てた彼にリオンが声を荒げた。

 確かに彼らの怒りは理不尽に感じたし、憤りを感じなかったといえばそれは嘘だ。だが、大切な者を──家族を亡くした人々に追い討ちをかけるなど、それこそ悪魔の所業ではないか。

 だが、その思慮と同時に思い至る。彼はその家族が敵にいる事に。そして何よりも彼は──。

 

「……何も無いなら俺は行くぞ」

 

 リオンが言葉を詰まらせ、その間にグレイが言葉の通りにその場を去ろうとすると、

 

「悪魔より酷いのは貴方の方よ……!」

 

 リアの母親の悲痛な叫びが木霊した。夫が「やめなさい!」と余計に慌てる中、それでも彼女は止まらない。

 

「あの子を殺しておいて、お前は何をしていたじゃないわよ!」

 

 血でも吐きそうな程の迫力と共に体の底から発せられたその声には、怒りと悲しみと、何よりも後悔が宿っていた。

 

「私達だって必死にやったわよ!それでもリアは──」

 

「なら、何でアリーゼ達に石を投げた」

 

 そんな母親の悲痛な叫びさえも、グレイには届かない。

 彼は相変わらず振り向きもせず、問いかけた。

 

「必死にやっても助けられなかった気持ちを知っているんだろう?なら、なんで、あんな事ができた」

 

 それは純粋な疑問だった。

 家族を失う痛みを知っておきながら、その痛みに耐える者に石を投げる者の気持ちが、学のない彼には分からなかったからだ。

 

「そんなだから、家族は死んだんじゃないのか」

 

 それは断言とも言える残酷な言葉であった。

 師匠からは悪魔には人間にはない『強さ』があると教わった。事実、その『強さ』を持つ人間を何人か知っている。

 魔力もなく、膂力も劣るただの人間でありながら、時には強大な悪魔を屠る『強さ』を持つ悪魔狩人(デビルハンター)達を。

 だが民衆からはどうにもその『強さ』を感じられなかった。同じ人間であるにも関わらず、だ。

 もっとも、グレイはその『強さ』の正体を知らない。師匠からも、同業者からもそのうち分かるとはぐらかされた彼は、その『強さ』が何なのかを知らない。

 だが、その『強さ』こそが『人間である証』であると、殻を破るには必要な物だと言われた事は覚えている。

 だからこそ、彼はその『強さ』を求め、今日という日まで生きてきた。人間と触れ合えば、その『強さ』がわかると思っていたからだ。

 だが、見せられたのは悪魔の如き鬼畜の所業。赦す事は大切ではあるが、今回のあれは流石に目に余る。

 そして、それと全く同じ事をしている自分もまた、度し難い畜生と同じなのだ。

 あれだけ自分は人間であると豪語しておいて、あっさりとそれを覆す。自分の拘りなど、目的の為なら余りにも些細な問題だ。ヴァニタスが言った通り、自分は空っぽなのかもしれない。

 同時に人間に守る価値があるのかどうか、それさえをわからなくなり始めていた。

 彼らを守りながらではヴァニタスに勝てない。師匠を教えを無視する事になるが、この際見捨ててしまうのも仕方がない(・・・・・)のではないか。そう思えてしょうがない。

 この街の状況で民衆の安全よりヴァニタスを始めとした悪魔殲滅を優先するのは、間違ってもいないだろう。悪魔を殲滅さえできれば、後は冒険者が何とかする筈だ。

【アストレア・ファミリア】と民衆に背を向けたまま、そんな馬鹿で愚かな自分を自嘲するように笑みを浮かべた彼は、「じゃあな」と告げて今度こそこの場を後にしようとする。

 時間を無駄にした。アーディの頼みだからと馬鹿正直に来るべきではなかった。時間は有限だというのに、人の頼みを聞くのが癖になってしまっているようだ。

 こんな事では駄目だ。一刻も早く力をつけ、ヴァニタスを探し出さねばならない。

 

「貴方は、悪魔よ……っ」

 

 そうして先を急ごうとした彼の耳に届いたのは、やはり悲痛な声だった。

 グレイの足が止まり、僅かに振り向いて彼女の言葉に耳を傾ける素振りを見せた。

 そして、そんな彼の意外な反応に気付ける余裕もない母親の胸中にあるのは、彼の言葉に対する肯定だった。

 彼のいう言葉は確かにその通りだ。

 (リア)が死んだのは自分達のせいだ。あの子を守ってやれなかった自分達が、きっとあの子が最も望まない事をするなど、親失格だろう。

 だが彼の言葉が正しいと理解していても、それを受け入れられるかはまた別の問題だ。

 頭では理解できても、心ではそれを否定する。自分のせいだ、いいや彼が殺したと、終わることのない論争が頭の中で繰り返される。

 頭の中で響く自分の叫びから逃げるように耳を塞いだ母親は、それでもグレイの背中を睨みつけた。

 母親は目から大粒の涙を流し、石を投げる気力さえも削がれながら、それでも叫ばずにはいられない後悔と激憤を孕んだ声で、叫ぶ。

 

「貴方は、血も涙もない悪魔よ……!」

 

 その声に、グレイはようやく足を止めた。

 アリーゼとリオンは彼の地雷が踏み抜かれた事に顔を青くし、彼が『人外』扱いされる事を忌避する事を知る【アストレア・ファミリア】もやばいと言いたげに額に冷や汗を流す。

 流石の彼でも民衆に手を出す事はないだろうが、万が一にもここで暴れられたら、自分達では抑えようがない。

 彼は僅かに考える素振りを見せると肩越しに振り返り、青ざめるアリーゼとリオンに目を向け、ついで二人とは違う反応を見せる【アストレア・ファミリア】の面々を見つめた。

 そして額を押さえながら告げた。

 

「まだ言ってなかったのか。……いや、俺に気を遣ってくれたんだろう、こんな状況でもお優しい事だ」

 

 僅かに目を伏せ、はぁと溜め息を吐いたかと思えば、ゆっくりと民衆と【アストレア・ファミリア】を見渡した。

 同時に魔力が解き放たれ、鱗の隙間から溢れ出す灰色の魔力光が背後の瓦礫の山に、彼の影を浮かび上がらせる。

 色褪せた右の瞳が紅の魔力に染め上げられ、瞳孔が縦に裂け、飢えた獣の如き眼光が民衆を貫いた。

 

「お前らに言ってなかった事がある」

 

 彼はそう口にしながら、背負っていた長剣を地面に突き立て、ギチギチと音を立てて指先に力を込める。

【アストレア・ファミリア】と民衆の視線を独り占めにした瞬間、彼は何の前触れもなく、目一杯広げた右手で自分の頬と喉を引き裂いた。

 鮮血が噴き出し、彼の足元にびしゃりと音を立てて血の塊と肉片、そして鱗がこぼれ落ちる。

 誰かの悲鳴が聞こえた。アリーゼ達も言葉を失い、瞠目した。

 突然の自傷。いや、もはや冒険者だろうが間違いなく致命傷であろう大量の血を噴き出す様は自殺に他ならない。だがグレイは一切気にする素振りを見せず、ただ鬱陶しそうに目を細めるだけだ。

 グレイは民衆の困惑など知らないと言わんばかりに、よく見ろと左の頬を見せつけた。

 民衆はあまりの光景に目を背けているが、次の瞬間には灰色の魔力の粒子と共に蒸気が噴き出し、出来立ての傷が時間を巻き戻すように瞬く間に修復し、更なる負傷を防ぐべく硬質な鱗で覆われる。

 魔法にしても、【スキル】にしてもあまりにも異質なそれは、彼が何者であるかを説明するには十分なもの。

 

「──俺は悪魔だ(・・・・・)

 

 より正確には人間の血も混ざってはいるんだがと胸中でぼやきながら、その説明は不要だと匙を投げる。

 だが、そんな適当な説明だけでも民衆に与えた衝撃は凄まじい。彼らの中ではどよめきが起き、激憤を抱いた瞳には明確な恐怖が宿り、困惑に目が泳ぐ。

 悪魔はモンスターの一種ではなかったのか。

 彼の話が本当だとしたら、この群衆の中にも人間に化けた(・・・・・・)悪魔が紛れているのではないか。

 いや、そもそもとして彼が悪魔だと言うのなら敵ではないのか。

 そんな答えのない疑問が次々と湧き上がるが、口にはできない。出したところで答えが返ってこない事がわかるからだ。

 

「血も涙もない?当たり前だ。悪魔には心だの涙だの、そんな無駄なもの(・・・・・・・・)はない。おかげさまでお前らに何を言われたところで何も感じない。悪魔ってのはそういうもんだ」

 

 頬にへばりついた血を拭いながらそう告げた彼は、ざわつく民衆に向けて更に口を動かした。

 

「苦情は受け付けるが、こんな怪物には関わりたくないだろう。お前らも、アリーゼ達も」

 

 困惑する民衆と【アストレア・ファミリア】を見つめた彼は、「じゃあな」とただ一方的に告げ、瓦礫の山を足蹴に大跳躍。

 瓦礫の山が崩れる音と、残像代わりに灰色の軌跡を残していった彼は、そのまま崩れかけの建物を飛び越えてどこかへと行ってしまう。

 

「……いや、待て。どうすりゃいいんだよ、この空気」

 

 静寂に包まれるどころか空気は凍り付き、何なら罵倒されていた方が楽まであった状況にライラが愚痴をこぼすと、輝夜は「どうにもならん」と切り返した。

 何だあいつは。言うだけ言って消えるとか、愉悦と娯楽を求める神か何かか、いや悪魔だったなクソが。

 一人でボケとツッコミを行った輝夜は溜め息を吐き、ある程度の事情は知っていただろうアリーゼとリオンに同情の視線を向けた。

 女神攫われた挙句にあんな爆弾抱えていたとか、そら口数も減るわと、むしろよくアリーゼは普段通りに立ち振る舞えたなといっそ関心さえしてしまう。

 民衆も言葉を無くし、振り上げた拳を降ろす相手を完全に見失っていた。

 感情を爆発させたとはいえ、直後にグレイに正論で殴られた挙句、『俺悪魔なんで何言われても気にしないぜ』発言で反論さえもできない。彼らは不完全燃焼もいいところだろう。

 いや、静かになったという意味ではグレイに感謝できなくもないし、何より【アストレア・ファミリア】に向いていた憎悪(ヘイト)の大半がグレイという『家族を奪った怪物』に向けられた事も、感謝せねばならないかもしれない。彼の自己犠牲に目を瞑れば、だが。

 

「アッシュウォルドさんは悪魔。けれど、彼の『正義』は私と似ていた……いや、むしろ私よりも『正義』をよく理解していた」

 

 そんな嫌な静寂に包まれる中、リオンの呟きが『神の恩恵』により強化された冒険者達の聴覚が確かに捉えた。

 

「リオン?」

 

 アリーゼが心配そうに声をかける中、リオンは顔を上げた。

 

「私は彼を追いかけます。先程の無礼を謝らなければ」

 

 彼が残した灰色の魔力の残滓を見つめながら、彼女は胸に手を当てた。

 彼に謝罪したいというのも確かに理由の一つであるが、他にも理由はある。

足手纏い(デッドウェイト)』とまで言われたが、それでもアストレアを見探す手伝いならできる筈だ。

 だが、最も大きい理由は。

 

「彼を放ってはおけません。彼は私達の切り札だ、このままにしておくわけにはいかない」

 

 都市最強達の敗北は、この都市に生きる者全ての希望を砕いた。

 だが、それでも【勇者(ブレイバー)】が何かしらの策を練っている筈だ。そして、そのいつかの為にはグレイの力は必要不可欠なのは間違いない。

 このまま彼の独断専行を許してしまえば、確実に致命的な問題が起きる。リオンにはそんな予感があった。

 

「なので、彼を探しにいきます!」

 

 そしてそんな直感に突き動かされるまま、リオンは走り出した。

 

「ちょっと、リオン!?」

 

「おい!あいつ、どこまでポンコツになれば気が済む……!」

 

「あーあ。ま、いいんじゃね?あいつの監視って事で」

 

 神々より授けられた【疾風】の二つ名が如く、風となって通りの向こうに消えていったリオンを呼び止める事も、追いかける事もできず、アリーゼは思わず彼女の名を叫び、輝夜は悪態をつき、ライラは溜め息を吐く。

 確かにグレイを一人にしておくのは怖いが、本音はリオンを着けるのもまた怖い。だが、自分でやると言ったのだ、彼女の意志は尊重せねば。

 

「それに、あいつの後ろが一番安全だろ」

 

 ライラはぼそりと本音を漏らし、【アストレア・ファミリア】の面々もまたその言葉に首肯せざるを得なかった。

 彼と一緒にいたのはほぼ十日ほど。彼の人となりをある程度把握している少女達にとって、彼が何であろうと大丈夫だろうというある種の信頼がある。

 考えてみれば、悪魔だと言われた方が納得がいく光景の方が多かった。馬鹿みたいに強いし、それなのにアストレアの前では怯えた猫みたいになるし、こちらの物差しでは測れないものを多く持っていた。

 

「あたしとしては、心配なのはあいつらだけどな」

 

 ライラが顎をしゃくった先にいるのは、グレイの衝撃発言(カミングアウト)のせいでいまだにざわついている民衆だ。

 家族を殺したのと同じ悪魔。

 けれど誰よりも街を守らんとした功労者。

 あの戦いは自分達の信用を得るための演技だったのか、あるいは家族を虐殺したあの姿こそが本性なのか。

 彼の事を何一つとして知らない民衆にとって、グレイという爆弾はあまりにも扱い難い代物のようだ。

 彼に対して殺意を向ける者。

 行き場のない怒りに泣き出す者。

 そして、何もできずに俯く者。

 

「…………」

 

 そんな民衆に、アリーゼは無言で歩み出した。

 彼女の接近に気づいた民衆は慌てて身構えるが、そんな彼らに対するアリーゼの行動はただ頭を下げる事だった。

 

「ごめんなさい」

 

 彼らの家族を守れなかった謝罪もある。

 そして、彼のことについて黙っていたことへの謝罪でもある。

 正義の派閥である自分達が悪魔を囲っていたなど、どう説明しても非難されて当然の事をした謝罪でもある。

 けれど、なにより伝えたい事は。

 

「どうか、彼を信じてください」

 

 悪魔であったとしても、彼はこの都市と民衆を守らんとしてくれた。

 ただ偶然立ち寄っただけの街の為に、冒険者達以上の行動をもって戦ってくれた。それは曲げようのない事実だ。

 民衆もそれは理解していた。それでも、混乱の方が大きい。

 悪魔=モンスターの図式が完成している彼らにとって、いきなり目の前に『対話可能のモンスター』が現れたようなものだ。

 彼に家族を──正確には家族の遺体を利用した悪魔憑きを殺された者は数多い。だが彼に救われた者もまた多いのだ。

 民衆は怒りの矛先を失い、【アストレア・ファミリア】の少女達もまた静寂を孕んだままその場を後にする。

 ただ誰かの啜り泣く声だけが、彼女らの耳に届いていた。

 

 

 

 

 

 仮説キャンプから離れた、とある通り。

 左右を見渡してもあるのは瓦礫ばかりで、生物がいる気配もしない。

 そんな誰もいない通りを進むのは、再びアリーゼ達と別れて行動しているグレイだ。

 俯き、前髪の影で目元を隠しながら、考えるのはやはり先程の事だ。

 

『あ!【アストレア・ファミリア】だぁ!』

 

「そうよ、正義の味方【アストレア・ファミリア】よ!そういう貴方は前の事件で逃げ遅れた女の声、リアちゃんね!」

 

『うん!おねえちゃんが助けてくれた、リアだよ!』

 

『おねえちゃんたち、仲がいいんだね!』

 

 リア。リアか。やはりあの時の子供はあの子だったのか。

 思い出すのは『大抗争』での一幕。片っ端から悪魔を屠っていく中で、見知った顔(・・・・・)の悪魔憑きを撃滅した事も記憶していた。

 できれば気のせいであって欲しかった。見間違いであって欲しかった。だが現実はあの子は死に、遺体さえも残されていない。双銃の連射に、彼女の体はバラバラに弾け飛んだのだから。

 

「…………」

 

 言葉もなく、ただあの時弾いた引鉄の重さを思い出すように指だけを動かす中、不意にがたりと瓦礫の山が揺れた。

 グレイが足を止め、背負っていた長剣に手をかける。

 それを合図に姿を現したのは、数体のライアット。喉を鳴らし、瞳を細め、一人呑気に歩き回っていた獲物に舌舐めずりしている。

 一体が空に向けて吼えれば、返事の遠吠えが周囲から響き渡り、獣が駆け回る不快な音が耳朶を撫でた。

 

「ちょうどいい」

 

 グレイは唇の端を吊り上げ、長剣を抜いた。

 これからやるのは狩りではない。単なるストレス発散──八つ当たりだ。

 

さあ、遊ぼうぜ(Let's rock)……っ!」

 

 己を鼓舞するようにぼそりと呟き、次の瞬間には思考を止めたような叫びと共にライアットの群れに突貫。

 ライアット達も雄叫びをあげて彼を迎撃せんと構えるが、その頃にはグレイは既に彼らを間合いに捉えていた。

 灰色の豪閃が駆け抜け、その数だけライアットは紅い花を咲かせて肉体を四散させていく。

 

「もっと……」

 

 グレイは止まらない。十数の悪魔を瞬く間に葬り、騒ぎを聞きつけて現れた次の群れも、便乗してきた闇派閥(イヴィルス)さえも、彼らが知覚するよりも早くその肢体を叩き斬り、通りに血の花を咲かせ続ける。

 

「もっと……!」

 

 返り血を全身に浴び、頬を伝う雫の正体も曖昧なまま、彼は屍の山を築きながらなおも叫ぶ。

 

「もっと……!!」

 

 力だ。もっと力がいる。悪魔を殺し尽くす為に、ヴァニタスを殺す為に、ステラを──妹を殺す為に。

 ライアットに飛びかかると喉笛を噛みちぎり、抉り出した心臓を喰らいながら叫ぶ。

 

「もっと、寄越せ……ッ!!」

 

 悪魔の悲鳴を肴にその血肉を喰らい、口元血糊でをべったり汚しながら、彼は叫んでいた。

 魔力が漲るのを感じる。全身に活力が満ちる。それでも、この程度ではヴァニタス達に届かない事を理解してしまう。

 足りない。もっと。もっと、もっと!もっともっともっと!!!

 

「──力を寄越せ!!!」

 

 一人孤独な悪魔の慟哭が、屍山血河の果てに残った悪魔の勝ち鬨が、戦火に包まれるオラリオに響き渡った。

 

 

 

 

 




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