ダンジョンに訳ありデビルハンターがいるのは間違っているだろうか 作:EGO
オラリオが、静寂に包まれていた。
人々の営みも、喜びや悲しみの喧騒も、子供達の声さえも、全てが消えていた。
あるのは乾いた冷たい風の音だけ。世界の中心たる迷宮都市は、今は
無論、それにも理由がある。フィンの指示の元に動き出した冒険者達とギルド職員の手で、全ての住民が避難場所に指定された建物──ギルド本部、闘技場、大
地上にて
他にも作戦の要となる事柄は多いが、第二級以下の冒険者達が考えるべきはそれのみ。
そして民衆の避難が終わり、冒険者達が最後の
「
背中から雷を纏う翼を広げ、文字通り上空から都市を俯瞰していたマルコシアスが、その変化にいち早く気づく。
彼女が見下ろす先にあるのは、バベルの根元に広がる
獲物が潜む場所に目星をつける途中ではあったが、あの中に何かがあるのは明白だ。ここから火球なり雷槍なりを放り込めば相手の策も割れるし、そのまま砕く事も可能だろうが。
「それはつまらん。ああ、つまらんな」
腕を組み、左の掌に頬杖をつきながら指先で
あれは結界でも防壁でもない。何かしらの目隠しだ。中に何があるのか、何が起きるのか、それは定かではないが、どちらにせよ愉快な事になるのは間違いない。
「楽しみだ。ここまで心躍るのはいつぶりだろうな」
緩く口角を吊り上げ、肩を揺らしながらただただ愉快そうに笑う彼女は、不意に感じた視線に顔を上げた。
そのままゆっくりとバベルを見上げ、迷宮都市最大派閥の神が住むという最上階の辺りをじっと見つめる。
「こういう時、なんと言うのだったか」
自らを見ているのは神だ、間違いない。
興味が引かれているのか、こちらを測るように無遠慮でいながら軽蔑を隠そうともしない何とも独特な視線は、人間では生み出せない。
彼女はじっと自らを見下ろす神を見上げながら笑みを浮かべ、両腕を広げた。
「神々よ、御照覧あれ。これより始まるは神と人、そして悪魔が入り乱れる新時代。その幕開けを告げる大一番」
「途中退席などと下らない真似はしてくれるなよ、女王よ」
「言われなくとも、ここで見届けるわよ」
そんな彼女の声に、女神は心底鬱陶しそうに嘆息した。
悪魔というほとんどが視界に入るだけで不快感を覚える種族の中でも、自らの
ただですら先日のグレイの覚醒という一大イベントを目撃し、その穢れた魂の奥底に隠されていた目を焼かんばかりの輝きに魅せられ、それを見抜けなかった過去の自分を割と本気で呪っていたというのに。
そして、何より彼女を苛立たせるのは、こちらを見上げるマルコシアスの魂もまた彼に似ている事か。
「フレイヤ様」
そこまで思慮していた女神──フレイヤの背後から、
ありったけの武器と鎧。武骨なまでのそれは、【
肩を覆う黄金色の
「それは何のための
「己の意志を遂げるためです」
「その意志とは?」
「打ち勝つ事」
重ねられる問いに澱みなく、戸惑う事なく、眷属は答えた。
あの日の敗北から、オッタル達【フレイヤ・ファミリア】は文字通り殺し合う事で己の身を鍛えあげた。
幹部も、下級の団員も関係ない。全員があの日被った泥を雪ぐべく、女神の栄光を取り戻すべく、熾烈を極める殺し合いを続けていた。
そんな事をしている内に都市の希望となったのは、新たな英雄としてその名を轟かせたのはグレイだった。フレイヤが忌み嫌う悪魔にして、人のために剣を掲げた異端の剣士。
【ロキ・ファミリア】でも、
殻を破り、ヴァニタスという『覇者』を超越し、都市を覆う絶望を祓った
彼の成した偉業と彼の強さの一端は、冒険者や民衆達が交わす雑談から断片的ながらも知ることができた。
負けてなるものか。このまま後塵に拝してなるものか。先を走らせてなるものか。置いていかれてなるものか。
その想いはオッタルだけのものではない。アレンも、ヘディンも、ヘグニも、ガリバー兄弟も、普段はいがみ合う彼らとも、珍しく意見が一致していた。
フレイヤはオッタルを見つめ、都市を見下ろし、
「ここから見守っているわ。貴方達の戦いを」
「はっ」
短い声の後、揺るぎなき忠誠の言葉が紡がれる。
「必ずや、御身に勝利を」
下界の住民は神時代以降──神々が降臨して間もなく、『冥府』の存在を信じた。
かつて架空の存在だったものも、それを司る神の登場や全知たる神が『ある』と明言する事で架空は現実となり、朧げだった輪郭が明確なものへと変わっていった。
故に人類は恐れた。死した後に魂が行き着くのは空の上か、地の底か。
地の底の更に奥深く、深淵の中に揺蕩う原初の幽冥とは、どれほど恐ろしいものなのか。
そして、そんな恐怖の象徴たる『冥府』が下界に顕現するとすれば、まさに『今』なのではないか。
『死の七日間』、七日目。地獄の釜の蓋に手はかけられ、こじ開けられるまで時間はない。
「──だから、これは突貫で用意したものよ」
都市北東、【ヘファイストス・ファミリア】
殺人的な熱を孕んだ空気に支配されるその片隅で、
額を伝う汗を拭い、疲労で震える手を握りながら、目を向ける先にいるのは一人の少年。
いつか来るだろう決戦に向け、
「流石、神様。いや、まあ、俺にはよくわかんねえんだが」
そんな女神の鍛治仕事さえも、グレイからすれば割とどうでもいい事だった。誰が用意しようが使い物になるのなら使う、ただそれだけなのだから。
そんな彼の前にあるのは灰色の
少年はコートを撫で、
「素材に頼り切った防具なんて、私らしくないけど……」
ヘファイストスは腕を組み、額に手をやりながら嘆息した。
『大抗争』後の混乱の中、他の冒険者達の装備の整備や調整を手伝う中で椿や他の鍛治師に無理を言って手を借り、最終手段として『
こんなものを使わせるなど鍛冶神の矜持が許さなかったが、今回ばかりは仕方がない。
「これでもどこまで耐えられるか、わからないんだし」
そこまでの苦労をして用意した装備でも、今回ばかりは頼りがない。
仮想敵がステラだとすれば──『
それでもグレイは「いいや、助かる」と笑みを浮かべた。
もしかしたら一太刀は防いでくれるかもしれない。もしかしたら、その一瞬の延命が勝敗を分けるかもしれない。
「ありがとうよ、女神様。これであの馬鹿どもをぶちのめせる」
女神の、そしてこれを作るように命じただろうフィンの気遣いに感謝していると、バタバタと工房の奥が騒がしくなる。
何事とグレイとヘファイストスが目を向けると、奥からグレイの大剣を抱えた椿が顔を出す。
「おお、グレイ!お主の得物、研いでおいたぞ!」
かっ開いた右眼は血走り、その下には濃い隈が浮かんでいた。
『大抗争』から数日、文字通り無休で冒険者達を支え続けた
日付が変わる頃に行われた冒険者達の集会が解散となるや、グレイの大剣を半ばぶんどる形で奪い、この時間になるまで必死こいて研いでいたのだが。
「作業前と大して変わらんのが業腹だがな!はははっ!!」
その刃は鏡のように磨き上げられ、壊れたように笑い続ける彼女の顔を無駄に綺麗に映し出す。
必死こいて研いだと言えば聞こえはいいが、実際のところは磨き上げたという方が正確だろう。こびりついた返り血を軽く拭っただけでほぼ万全状態になっている剣など、
「そりゃ魔界の業物だからな。人界産の武器とじゃ根本から違うのは当然」
彼女から大剣を受け取り、背負いながら苦笑を漏らしたグレイはヘファイストスが用意した
「死ぬでないぞ、グレイ。お主のその剣、今度はじっくりと見てやるからな」
「私からも同じ言葉を贈るわ。そんな突貫品を着せるだけでも罪悪感が凄いんだから、ちゃんと帰ってきて、仕上げをさせて」
「任せとけよ」
椿とヘファイストスの言葉に不敵な笑みを返し、
夜明け前の
フィンの宣戦布告直後は活気に満ちていたその場所も、冒険者達が都市中に散った今ではすっかり静かになっていた。
「ダンジョンからの震動、強くなってきたな」
「それにしたって静かね。これから戦いが始まるなんて、信じられない」
だが、その静寂を引き裂くのが足元から伝わってくる鳴動。
『
「あ〜、緊張してきた。『
そんな中で思わず弱音を吐いたのは獣人のネーゼだ。
乱暴に頭を掻き、つい先程フィンに伝えられた憶測を思い出す。
「アストレア様が『
フィンの導き出した憶測はまさにそれだった。
誘拐した正義の女神を使って破滅を地上まで運び、彼女の『送還』と共にバベルを崩す。下界を、そしてそこに生きる人類を絶望のどん底に落とすには十二分なそれが、
どうやって女神をダンジョンに送ったのか、そんな疑問は最初からない。相手には距離も、障害物さえも無視して移動する手段を持つステラがいるのだ、ダンジョンへの行き来を封じる検問など意味もあるまい。
うがー!と一人怒りに震えるネーゼから視線を外したリオンは、無言のまま周囲を見渡した。
「彼はまだ来ないようですね」
そんな彼女の気持ちを代弁したのは、目の下に濃い隈を溜め込んだアスフィだ。
何かが詰め込まれた箱を胸に抱える彼女は、そわそわと落ち着かない様子で誰かの到着を待っている。
「アンドロメダ、大丈夫ですか?その、先程から落ち着きがないのですが……」
「え?ええ、大丈夫です。これを早く彼に渡したいと、気持ちだけが先走ってしまって」
リオンがアスフィの不調を察して声をかけるが、当の彼女は気にする素振りも見せずに微笑みを浮かべ、きょろきょろと周囲を見渡し始める。
絶対に大丈夫ではないと心配するリオンを他所に、アスフィはついに
少し遅れてリオンも気づき、同時にゆっくりと目を見開いた。
灰色に統一された
コートの袖を肘の辺りまで織り込み、下に着込んでいる黒の
その姿は誇り高い騎士のようでいて、あるいは凄腕の狩人のようでいて、英雄の如き覇気さえも全身から滲ませる。
雰囲気は初めて出会った時とは決定的に違う、けれど随分と彼らしい格好に戻ったと、ほんの僅かな安堵が湧き出す。
「待たせたな」
コートの裾を風に揺らしながら到着したグレイは、軽く右手を挙げながらリオン達に声をかけると、そのまま様変わりしたリオンとアリーゼ装備に目を向けた。
リオンは白と紺を基調とした
アリーゼは炎を思わせる紅の
自分同様に決戦用の装備に用意してもらったのだろう。リオンに関しては新たな得物である木刀を腰に帯びている。
「似合ってるじゃねえか。いよいよって感じだな」
「ええ。貴方の方こそ、見違えました」
彼の直球の称賛を軽く受け流し、リオンもまた彼に称賛の言葉を向けた。
「そうか?」と自分の体を見下ろしたグレイは、「まあ、でも落ち着く」と苦笑を漏らす。
「久しぶりにまともな格好になった。狙ってるわけじゃねえだろうが、師匠みたいなのもいい」
『大抗争』以前から、彼は一張羅であるコートを焼失してしまっていた。それからは
自分はお伽話に出てくるような蛮族でも、野山をかける獣でもない。こうして服を着れるだけでも大変ありがたい。
「それでアスフィ。できたか?」
そのまま彼が視線を向けるのは、大事そうに箱を抱えていたアスフィだ。
「ええ」と頷いた彼女は箱を置き、慎重に蓋を開けて中身を取り出す。
最初に差し出されたのは
グレイがそれを腰に巻き終えると同時、アスフィが差し出したのは双銃。
見た目こそ似通っているものの、細部や内部構造がまるで違う双子の銃は、稀代の
グレイはそっとそれを手に取る。アスフィの手で修復され、磨き上げれられ、新品同然になった双銃は、ここが自分達の居場所だと言わんばかりに誇らしげな輝きを放つ。
グレイは不敵な笑みを浮かべ、顔を上げた。
その両手が華麗な舞いを見せ、双子の銃が優雅に、優美に、宙を踊り狂う。
重さなどを感じさせない、上質なタップダンスのような動き。
途中から銃に回転が加わり、それ自体に生を得たように踊り始める。
両手の動きに一瞬たりとも遅れる事なく追随し、身体の一部であるように自然に、滑らかに、彼に馴染んでいく。
冒険者達さえも魅力する銃の演舞の終わりと突然だった。
その場でくるりと回り、コートを翻したかと思えば、胸の前で腕を交差させるお得意のポーズを決め、軽く双銃に魔力を込める。
様変わりした主人の魔力に当てられて銃口から銀色の魔力光が漏れ出した。
「こっちはいけそうだ」
「なら、次はこちらです」
そのまま笑いながら双銃を
続いてアスフィは少々重そうに箱から取り出すのは、やはり彼女が修繕したショットガン──コヨーテB。
両手で差し出されたそれを片手で受け取ったグレイは、先程の舞いとは真逆の豪快さでもってショットガンをぶん回し、ヌンチャクのように振り回し、それに耐えきった耐久性に満足げに頷き、革雑嚢《ホルスター》に突っ込んだ。
「こっちも問題なさそうだ」
「なら良かったです。ほとんどが貴方の指示通りに作業しただけですが、学区製の機構武器を参考に私なりの改良もしてあります。後で感想を聞かせてください」
彼の満足げな表情にアスフィは微笑み、眼鏡の位置を直しながら言う。
グレイは「学区?」という聞き馴染みのない言葉に首を傾げるが、まあ改良してくれたのならありがたいととりあえず疑問を飲み込んだ。
「所有者の魔力を礫に換えて投射する。もっと機構を調べて時間と素材を確保できればより強力な武器も作れそうではありますが……」
顎に手をやり、思案顔でぶつぶつと独り言を漏らすアスフィ。
悪魔由来の素材だとか、魔界由来の何かがあればだとか、不穏な事を口にする彼女の目は、かつてない程に生き生きとしているようにさえ見える。
リオンは変な方向に思考が飛び始めている友人から目を逸らし、改めて武装を終えたグレイの姿を見つけた。
初めて会った頃とよく似た、けれどより実用性を増し、彼らしくもありながら
彼女の視線に気づいたのだろう。グレイはフッと微笑みを浮かべ、「見惚れてる場合かよ」と彼女を小馬鹿にしたような事を口にする。
「な!?み、見惚れてなどいない!その、素晴らしい装備だなと……」
彼の言葉に素早く訂正を入れるリオンだが、周囲からの生温かい視線に言葉は尻すぼみとなり、顔が耳の先まで赤くなる。
やがて言葉をなくした妖精が俯くと、グレイは彼女の次に自分に熱い視線を向けてくる相手に顔を向けた。
【アスレトア・ファミリア】の背後。『
一人目はガレス。二人目はリヴェリア。そして三人目は、
「…………」
何やら複雑な視線をグレイに向けるアイズだ。
金色の瞳はグレイを前に明確な迷いを抱き、斬るべきか斬らざるべきかで悩んでいるように見える。
先日割と本気で殺そうとした相手が今度は味方なのだ。幼い彼女ではそう簡単に割り切れず、けれど斬ってはいけないと理性がせめぎ合う。
そんな剣の姫の視線にグレイは肩を竦めると彼女に近づき、片膝をついて視線を合わせる。
「なに?」
アイズは不満げに口をへの字に曲げた。
そういえばこの人に叩きのめされていた。喧嘩を打ったのはこっちだが、割と本気で、言い訳できない程にぶちのめされたのだ。
少女がすっと目を細め、背負う剣に手を伸ばそうとした瞬間、
「ほい」
「むぎゅ!?」
グレイは両手で彼女の頬を摘み、無理やり口角を上げさせた。
「むむむむむ…………!」
アイズは自分の頬を摘み男の手首に掴み掛かり、引き剥がそうと力を入れるが彼の手は微動だにしない。
リヴェリアとガレスの二人も瞠目し、リヴェリアが止めに入ろうとした間際、グレイの口が動く。
「そんな怖い顔すんなよ。もっと笑った方がいいと思うぜ?」
「……?」
ぐにぐにとマッサージするようにアイズの頬を弄んだグレイは、不意に手を離した。
赤くなった頬を摩りながら疑問符を浮かべるアイズだが、そんな少女に向けてグレイは言う。
「復讐のためだかなんだか知らねえが、心まで殺す必要はねえよ」
「……っ!」
彼の言葉に、アイズは眦を裂いた。
こちらの事情など欠片も知らないというのに、まるで全てを知っているとでも言いたげな彼の言葉が単純に癇に障ったのだ。
そして感情のままに言葉を吐こうとした瞬間、
「そんなもの、お前の両親が望んじゃいない」
静かに告げられた言葉に、思わず声を無くしてしまう。
「悪魔の俺がなんと言おうがあんまり響かないのは百も承知だけどよ、これだけは言わせてくれ」
トンと彼女の胸に指で小突いたグレイは普段の飄々とした雰囲気を霧散させ、不敵な笑みさえも消し、神々を思わせる荘厳ささえも纏いながら少女に告げた。
「両親から受け継いだのは力だけじゃ無いはずだ」
「え……?」
「ま、俺はお前の両親のことなんざ知らねえし、興味もねえ」
それはどういう意味だと聞き返す間も与えず、いつもの雰囲気を纏ったグレイは適当な事を言いながらアイズの頭を乱暴に撫で、そのまま彼女の頭を支えにして立ち上がる。
彼の体重をかけられたアイズが「ぷぎゅ!?」と変な声をあげて体をぐらつかせる中、立ち上がったグレイはそのまま彼女に背を向け、バベルの方向へと足を向けた。
「待って!」
「嫌だね。何でもかんでも教えてやると思うなよ、ガキンチョ」
「……っ!私はガキンチョじゃない!」
「へ〜、そうか。ちびっ
「〜〜〜!!!」
アイズは何かを──自分の殻を破る切っ掛けを与えてくれそうな言葉の真意を問おうとグレイを追いかけるが、グレイは背中に伸びる彼女の手をのらりくらりと避けながら口撃を挟む。
頬を膨らませながら追い縋ってくる少女にグレイは溜め息を吐き、本格的に無視を決め込む。
教えないと言ったのにいきなりヒントをやるなど、それこそこの
そこに心底鬱陶しいと言わんばかりに、舌打ちが放たれた。
「何だよ、ご機嫌斜めか?」
「うるせえ」
グレイが視線を向けた先。瓦礫の山に寄りかかりながら腕を組んで不服を露わにしていた冒険者は、殺意さえも滲ませる瞳を彼に向けた。
風に揺れる
「【
『都市最速』の冒険者にして【フレイヤ・ファミリア】副団長、アレン・フローメル。
頬が赤くなったアイズを気遣いながらリヴェリアが投げかけた問いかけに「当たり前だ」と返した猫人は、グレイを睨みつけた。
「俺も、テメェらも、そいつが負けた時の保険だろうが」
アレンの言葉に肩を竦めたグレイは「そりゃそうだろ」とさも当然のように言う。
「俺じゃなきゃステラに勝てねえんだし」
アレンをはじめ、『
一つは『
もう一つはダンジョンに潜んでいるだろうステラの撃破。
前者は冒険者、後者はグレイが受け持つ算段ではあるが、片方が失敗した場合は生存しているメンバーで残敵を殲滅する事になる。
アレンが討伐隊に組み込まれたのは最悪の中での最悪。グレイが敗北した場合にステラを撃破する為の戦力としてだ。
ステラへの
「無理すんなよ。後でマタタビでもやるからさ」
「テメェから轢き殺してやろうか」
文字通りアレンを虚仮にするグレイの言葉に、猫人の戦意と殺意が膨れ上がる。
銀槍が閃き、向けられた穂先のいるのはグレイ。
「先に言っとくぞ、悪魔野郎。テメェの妹は俺が殺る。邪魔すんな」
都市最速の冒険者の殺意を正面から浴びながら、それでもグレイは不敵な笑みを崩さない。
【アストレア・ファミリア】の少女達はグレイを悪魔呼びした事に、そして同時に行われた妹の殺害宣言に怒気を滲ませるが、肝心のグレイは気にしない。
むしろ殺せるものならやってみろと言わんばかりに鼻を鳴らし、バベルに視線を向けた。
フィンを通してザルドの情報はオッタルに渡した。
オラリオで確認できた悪魔の情報を冒険者達に流せた。
覚悟も決めた。既に殻も破った。装備も、体調も整えた。できうる限りの準備は終えた。
間もなく夜明けだ。普段から闇の眷属たる悪魔達が去る時間だが、血と恐怖に包まれた都市に今更昼夜など関係ない。
決戦が始まる。長い戦いが始まる。
英雄の都を守護せんと、冒険者達が武器を握りしめた。
この地に冥府を召喚せんと、
殺戮の宴に酔いしれようと、悪魔達が嗤った。
己の宿命を断ち切り、過去から繋がる使命を果たすべく、
闘争を求める魔狼の女王が、都市を見下ろしながら微笑みを浮かべた。
「潮時、というやつだな」
その呟きが、合図となった。
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!』
『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!』
「討伐隊、出るぞ!」
「続けぇ、ひよっこ共ぉ!!」
リヴェリアとガレスの号令に合わせ、冒険者達は走り出す。
アレンが舌打ち混じりにダンジョンに吹き込む風となり、リヴェリア、ガレスと続いてアイズが続く。
【アストレア・ファミリア】もその後ろに続き、アレンも舌打ち混じりに踵を返し、彼らを抜き去る形でバベルに──そしてダンジョンへと消えていく。
「──よし、行くか」
彼らを追いかける形でバベルの門を潜り、地下へと降り、ダンジョンの入り口に向かう。
今日、全てが決まる。この世界の未来が、勝者と敗者が、己の運命が。
「──終わらせるぞ、クソッタレども!」
背から大剣を抜き放ち、片手に
感想等ありましたら、よろしくお願いします。