ダンジョンに訳ありデビルハンターがいるのは間違っているだろうか 作:EGO
「こっからは時間との勝負だ。輝夜、全員連れてあのデカブツ仕留めに行け」
森の奥へと消えていったステラを睨みながら、グレイは早口気味に輝夜に指示を出す。
「貴様が戻ったきたという事は、あっちは無事に終わったということでいいんだな?」
「ああ。アストレア達が待ってる、早く行け」
輝夜からの問いかけに手短に応じ、急ぐ理由も付け加えながら行動を急かす。
女神の無事に【アストレア・ファミリア】の少女達が小さくガッツポーズをする中、「待って!」とグレイの指示に否を唱える者がいた。
「あいつは、私が……ッ」
アイズだ。剣を杖代わりにして体を支え、震える脚を叩いて喝を入れながら立ち上がった少女は、振り向きもしないグレイの背中に言葉を投げる。
「邪魔だ、退いてろ」
相手の心情など欠片も考慮せず、グレイはただの一言でもってアイズの戦意を否定する。
お前は弱い、足手纏いだと、彼が使いはしなかったものの胸中にあるだろう言葉さえも幻聴する程に、彼の言葉には感情がこもっていない。
「……ッ!」
思わず、けれど明確な殺意を彼の背に向けるが、彼は少女に意識を向けない。
背後から斬りかかられようが、魔法を使われようが、それは視線の先の相手から意識を晒していい理由にはならないと、彼の背が告げてくる。
アイズでは、脅威たりえないと残酷なまでの現実を叩きつけてくる。
「アレンもだ。作戦通りに頼むぜ」
やはり一瞥もくれず、彼が声をかけたのはネーゼに
体のあちこちに刻まれた刃傷も少しずつ癒えていくが、それでも失われた血が戻るわけではない。
何もできなかった己の非力を呪い、射殺さんばかりにグレイを睨みながら歯を食い縛る。
速さも、力も、魔力も、第一級冒険者になるまで強化された
そんな二人の睨み合いを、アレンは見ていることしかできない。介入が許されない程に、地力が違いすぎる。
だがそれが、何の意味もない諦観が、何もしない言い訳になるだろうか。いいや、否だ。
「「ッ!」」
アイズとアレン、動き出したのはほぼ同時。
「──だから、邪魔だっての」
そして、伸されるものほぼ同時だった。
振り返りもせずに放った
アレンが肺の空気を吐き出し切り、体をくの字に曲げた瞬間に首根っこを掴み、輝夜達の方へとぶん投げた。
そのままネーゼにほんの一瞬目を向け、「お前も投げるか?」と問いかける。
「いや、いい!自分で──」
「よそ見とは、随分と余裕ですね」
グレイが目を離したのは、一秒にも満たないまさに刹那の時間。
だが、その刹那がステラにとっては十分すぎるほどの隙だった。
残像さえも残さない神速でもってグレイの懐に潜り込み、ネーゼごと叩き斬らんと居合の一太刀を解き放つ。
鞘の内側に充填された魔力が解放され、爆発を伴って刀を押し出し、抜刀の速度を更に一段階上げる。
ネーゼにはもはや知覚もできない速度で刃が振るわれるが、グレイは腰に帯びた二振りの剣──ユースティティアを抜刀と共に一閃。
炎と雷、そして光が翻り、迫る刃と激突。甲高い金属音と魔力がぶつかり合う重低音を響かせながら、両者と、巻き込まれる形となったネーゼの体を吹き飛ばす。
黒翼を展開しながら空中で身を翻したグレイはそのまま翼を羽ばたかせ、吹き飛んだネーゼが地面に落ちる前に回収。
彼女を抱えたまま着地したグレイは「大丈夫か?」と問いかけ、ネーゼは「なんだって!?」と嫌に大きい声で問い返してくる。
耳をやられたかと溜め息を吐いたグレイは、アレンよりは丁寧に彼女を輝夜達の元へと投げ飛ばした。
彼女の悲鳴が遠ざかり、代わりに彼女を受け止める事になったアスタの掛け声が聞こえてくる。
とりあえず、これで冒険者を一箇所に纏められた。後は──。
「別に彼らがどこで何をしようが、私は構いませんよ」
どうやってステラから逃すかだが、どうやらその問題は解決したようだ。
グレイに殴られた事で破れ、先の衝突でボロボロになった頭の包帯を鬱陶しそうにしながら、ステラはグレイのみを注視してそう告げる。
「私が望むのは超克です。新たな
戦士としての覚悟と貪欲なまでに強さを求める悪魔の本能を宿した双眸でグレイを睨み、けれど声音は恐ろしいまでに淡々としている。
戦士の理性と悪魔の本能を確かに両立させ、纏う魔力がより濃密なものに変わっていく。
ついに耐えきれなくなった包帯が千切れ、宙を舞ったそれは炎に巻かれて燃え尽きた。
炎に照らされる彼女の顔は、女神を思わせる程に整っていた。
目、鼻、口は神の造形の如く黄金律を描き、無表情なのもあわさっていっそ人形のようにさえ見え、恐ろしいという感情を抱かせる程に美しい。
戦いなど知らないと言わんばかりに白い肌は傷一つなく、なぜ包帯を巻いていたのかを疑問に思わせる。
あるいはそんな顔を忌み嫌い、自ら蓋をしていたのか。
未だ幼さを残し、これから研ぎ澄まされていくだろう『美』が、何よりも恐ろしい『覇者』から感じられる矛盾。
グレイはそんな矛盾を鼻で笑い、右手に持つユースティティアの切っ先を彼女に向けた。
「顔にデカい傷跡でもあるか、ミイラにでもなってんかと思ってたが、予想が外れちまったな」
「美しかろうと醜かろうと戦闘には関係のない話です。けれど、時折この顔を見ただけでこちらを下に見る愚者がいますので」
「まあ、自分より弱い奴に上からあれこれ言われんのはムカつくよな」
「ええ。自分より弱い相手になめられるのは、本当に苛立ちますよ」
二人はお互いを睨んだまま、戦闘前とは思えない──下らない愚痴を言い合うだけの気の抜けたやり取りを終えると、その場から消えた。
より正確には何者も補足できない速度でもって瞬時に前に踏み込み、お互いを相手の間合いへと飛び込ませたのだ。
『覇者』の間合いとはそれ即ち『死地』だ。だが、臆さず死地に飛び込まねば『覇者』には勝てぬ。
炎と雷をそれぞれ纏う二刀が、蒼い魔力を纏う刀が、敵を滅さんと振るわれた。
瞬き一つの合間に数十の斬撃が交錯し、魔力の入り混じる火花が二人の周囲で舞い踊る。
一撃一撃がまさに必殺。人外の速度で放たれる斬撃が一度でも振り抜かれれば相手を殺す。
二刀の都合、手数はグレイが上。だが手数の差を埋める程にステラの方が速度は上。
隙がない。隙を作ることもできない。ただ全力で、相手の防御を突き崩さんと正面からの斬り合いを演じる。
拮抗した競り合い──と言えば聞こえはいいが、実際は意地の張り合いだ。
防いでみせろ。捌いてみせろ。できないのなら死ね。
二人は超高速でそんなやり取りを繰り返し、自分の限界を隠しながら相手の限界を見定める。
つまりは命懸けの様子見だ。二人の殺し合いは、そうして緩やかに激しさを増していく。
「とにかく、我々は居候の指示通りに動くぞ。あんなものに巻き込まれたら死ねるわ」
「違いねえ。ありゃ、援護もくそもねえって。レベルが違いすぎる」
視線の先で始まった超常の戦いに輝夜が額に冷や汗を流しながら、グレイの指示に従うむねを口に出し、ライラが応じる。
【アストレア・ファミリア】の面々も頷く中、ライラは首を横に向けた。
「そっちの【剣姫】と【
彼女の視線の先にはグレイとステラの斬り合いを睨みつけながら、割り込む隙を探している二人の姿があった。
だが、行かない。いや、行けない。
都市最速の猫人でも、己を超える速度を悠々と叩き出す二人に着いていけないと悟ってしまう。
風を纏う剣の姫であっても、絶死の領域に踏み込むことを躊躇わせる。
だが、行かねばならない。行かなければ──。
「待て、アイズ!」
「お主もじゃ、【
死に向かおうとする二人を止める者がいた。
アイズを止めたのはリヴェリア。アレンを止めたのはガレスだ。
輝夜達が
「リヴェリア……」
アイズは二人の無事に纏っていた剣呑さを弱くしつつ、腹部に残る弾痕に目を向けた。
見るまでもなく致命傷。彼女が助かったのは【アストレア・ファミリア】の献身が起こした奇跡だ。
リヴェリアは大小様々な刃傷が刻まれたアイズの体を抱き寄せ、「無理はするな」と声を震わせながら囁いた。
アイズは抱き締められたままこくこくと首を縦に振り、ぎゅっと彼女を抱き締め返す。
その横ではアレンの肩を掴むガレスが、人外の速度と威力が生み出す超常の斬り合いを眺める。
あれを前に血が滾らないのかと言われれば答えは否だ。あんなものを見せつけられて、戦士として何も思わない者など一人もいない。
だが今は戦士ととしてではなく冒険者として、成すべきことがある。
「行くぞ、アレン。儂らには儂らの仕事がある」
ガレスはグレイとステラの戦いから目を離し、『
何かを探すように周囲を見渡し、苛立ちをぶつけるように火炎を吐くその姿は、まさに世界に破滅をもらたす怪物だ。
あれを止めなければ、目の前の光景が地上でも広がる事になる。それはどんな手を使ってでも止めなければならない。
後ろで殺気立つアイズをリヴェリアが諌める声を聞き流しながら、アレンはステラへと目を向けた。
自分達を欠片も警戒していない傲慢な『覇者』の横顔を睨みつけ、そこに飛び込んでいけない己の非力を呪う。
アレンが視線を外し、【アストレア・ファミリア】を先頭に移動しようとした瞬間だった。
「ッオラ……!!!」
「シッ!」
グレイの気合い一閃と、ステラの鋭い吐息の音が同時に冒険者達の耳に届いた。
弾かれるように二人の方に目を向ければ、二人が同時に牙突を放っており、切先同士が寸分の狂いなく激突した。
直後、甲高い金属音と共に突風と衝撃が周囲を駆け抜け、二人を囲むように広がっていた炎が一斉に消える。
切先同士で競り合う異様な光景を繰り広げながら、グレイは一瞥もくれずに冒険者達に向けて叫ぶ。
「さっさと行けよ、冒険者ども!モンスター退治はそっちの専門だろうが!!」
「ああ、こちらは任せたぞ!」
彼の叫びにガレスが応じ、アレンを半ば引き摺りながら先行する彼に続いて冒険者達が動き出す中、僅かに意識がそれた一瞬をステラは見逃さない。
「無視は困ります、ねッ!」
競り合う切先を鞘で下からかち上げ、グレイの体を仰け反らせる。
左腕を振り上げた体勢から逆手に握る鞘を順手に持ち直し、彼の脳天を叩き割らんと振り下ろす。
魔力を纏う鞘が脳天を撃ち抜く間際、ユースティティアをギリギリのタイミングで割り込ませ、受け止める。
甲高い金属音と共に衝撃を全身が駆け抜け、両足を踏ん張る地面がひび割れる。
「無視してねえよ、構ってちゃんがよ!」
渾身の一撃とはいえ、たったの一撃を受けただけで痺れる腕を無視しつつ、グレイは不敵な笑みと共に前蹴りを放つ。
彼の反撃に見てから対応せんとしたステラは、だが面白そうだと獰猛な笑みを浮かべ、彼同様に蹴りを放つ。
それぞれの靴裏が、互いの腹部にめり込んだ瞬間、重々しい衝撃音が二人の腹から漏れ出し、骨が砕ける異音が溢れ、互いの体が同時に後方へと吹き飛ぶ。
飛んだ距離はステラの方が長い。純粋な筋力ならばやはりグレイの方が上か。
二人は同時にペッ!と血の混じった唾を吐くと、ステラはナイトメアγを装着した左腕を前に突き出し、グレイは両腕を胸の前で交差させながら双銃を構えた。
銃口から魔力が迸り、バチバチと音を立てて
そして互いの魔力が限界まで濃縮された瞬間、同時に引鉄を弾いた。
強靭な肉体が仰け反る程の反動を地面に足をめり込ませる事で殺しきり、魔弾越しに相手を睨む。
二人の中間距離で衝突した魔弾は大爆発を伴って互いに相殺しあうが、その爆煙を貫くように更なる魔弾の連射がステラに迫った。
ナイトメアγは確かに強力だが、その分連射力はグレイの双銃が遥かに勝る。
ナイトメアγによる迎撃は不可能と即断したステラは、迫り来る魔弾を前に刀を風車のごとく回し、刃で魔力を絡めとるようにして無力化していく。
やがて濃密な魔力光が銀色の軌跡が円を描くようになった頃、ついに魔弾に貫かれ続けた爆煙が霧散する。
煙の向こうでは相変わらず双銃を向けるグレイの姿があり、全てを防がれた事実に思わず舌を弾く。
二人の視線が交錯した瞬間、ステラは刀を逆手に持ちかえ、刃に纏った魔力を放つ。
「『ドライブ!』」
「それは師匠の技だ、パクんな!!」
地面を削りながら迫る斬撃を前に、グレイは悪態と共にゴリアテを装備した左腕を突き出す。
手のひらに内蔵された魔力吸入口が開き、迫り来る魔力を吸収。籠手の内側の炉心で炎に変換され、放出口から火の粉が溢れる。
『Fire!!』
掌底の如く手を突き出すと共に火球が放たれ、進路上の全てを焼き焦がしていくが、やはり彼女だけはそうはいかない。
迫り来る火球を睨みつけ、ゆっくりと刀を鞘に納めた彼女は半身になりながら、柄に手を添える。
ゆっくりと息を吐きながら柄を握り込み、火球が間合いに入った瞬間、抜刀。
縦一線に駆け抜けた閃光が火球を両断し、返す刃で舞い散る火の粉と左右に割れた火球の残骸を絡め取り、刃に炎を
そのまま切先をグレイに向けながら矢を番えるように刀を引き絞り、左手で刃を支えるように添える。
見惚れるほど美しい牙突の構えにグレイが警戒する中、彼女は地面を割るほどの踏み込みと共に刀を突き出した。
ヒュン!と鋭い風切り音を立てながら、炎が
掠めた余熱で毛先が焼けるが、グレイは構う事なく大剣に手をかけながら疾走し、ステラとの間合いを一気に詰め、
「オラッ!」
大剣を抜刀と共に叩きつけるように振り下ろす。
対するステラはそれを避けようともせず、鞘を左手で掴んで鯉口を切り、
「シッ!」
鋭く息を吐きながら抜刀。
縦一文字に振り下ろされた一撃を、その横合いから打ち据えるように真一文字の一閃が放たれる。
階層に重衝音が轟き、先程ぶりの鍔迫り合いが起こる。
刃に通された魔力が干渉しあい、熱を帯び、交差した刃が赤熱していく。
飛び散る火花越しに睨み合った二人はこの状況が無駄だと悟ると同時に飛び退き、間合いの外へ。
「お互い、温まってきたな」
「ええ。
グレイが大剣を肩に担ぎ、ステラが刀を鞘に納めながらそう言うと、二人の魔力が更に高まっていく。
踏みしめた地面にヒビが刻まれ、階層全体を揺らすほどの圧力を生み出される。
それぞれのコートが揺れ、髪と瞳に魔力の輝きが宿る。
「「『デビルトリガー』」」
二人が告げたのはほぼ同時。
瞬間、魔力の爆発と共にグレイは竜鎧を纏った悪魔の姿へと変化を──より正確には本来の姿へと回帰する。
そして、それはステラもまた同じ。魔力に当てられた銀色の髪が背中を隠すまでに伸び、額から天を貫く一本角が生え、全身を黒く変色した強靭な肌と鱗が覆う。
腰の当たりから一対の翼が生え、魔力の粒子を撒き散らしながら大きく揺れる。
鞘は鱗に覆われた左腕と一体となり、それ一つで新たな凶器へと変化していた。
グレイのそれと比べ女性的な曲線を描くその姿は、けれど彼と同じく絶対強者たる竜種、あるいは翼を携えた『鬼』とも呼ぶべき異形の姿。
その姿はやはり二人が同じ計画により生み出された事の証左であり、二人が兄妹である事の何よりの証拠だ。
同時に、彼女がグレイ以上に体を弄られた証拠でもある。
人の姿を捨て、悪魔の力を全開にした二人は睨み合い、翼を広げて突撃体勢となる。
『ルゥオオオオオオオオオオ!!!』
『ガアアアアアアアアアアア!!!』
そして人を捨て、怪物のそれとなった
遠くから聞こえる
「さてどう攻める」
「どうもこうもねえ。轢き殺す」
何かを探すように周囲を見渡す巨竜を睨みながらガレスは髭を扱き、あれんは鋭く言い放つ。
「あれもモンスターであるのなら、魔石を破壊できれば殺せる筈だ。問題はそれがどこにあるかだが」
「それなら私の魔法が役に立つかもしれません!」
リヴェリアの語る
「勝手にやってろ。俺は行くぞ」
そう言うや否や、彼は一陣の風となって冒険者達の視界から消えた。
次いで起こるのは
都市最速の冒険者は誰よりも早く、そして速く、世界に終末を与える巨竜へと挑んでいった。
「あの馬鹿が!一人でどうにかなる相手ではないだろうが……!」
その姿に輝夜が思わず毒を吐く中、その背後から「確かに無謀ですね」と聞き馴染んだ声が投げられた。
冒険者達が一斉に振り向くと、そこにはリオンの姿があった。
彼女の後ろには周囲を警戒しているアリーゼと、
「皆、無事?」
マリューに支えられながら歩くアストレアの姿があった。
「アストレア様!」
輝夜を始め、【アストレア・ファミリア】の少女達が安堵と喜びの声をあげる中、そこに横槍を入れるのはここにいない筈の男神。
「やあやあアストレアの娘達。再会に水を差して悪いんだけど、あれ、何とかできそうかい?」
ヘルメスはアレンの猛攻で体中の肉を抉られながらも健在の
確かにアレンの攻撃で抑え込んではいるが、断ち所にその傷は癒え、砕かれた竜鱗はより強固なものとなり、抉られた肉はより強靭なものとなって再生していく。
アレンですら火力不足。そんな怪物をいまだ未熟な少女達を含めた、たかが十五人の冒険者でなんとかできるのか。
「何とかするしないじゃなく、何とかするの!それしかないわ!」
ヘルメスの問いかけに答えるのはアリーゼだ。
勝算は低く、勝ててもグレイにも勝ってもらわねばどうにもならない
それでも彼女は笑い、そして告げた。
「グレイだって頑張ってる!上の人達だって頑張ってる!なら、私達も頑張りましょ!」
そんな彼女の言葉に応えるように、階層が揺れた。
震源はもはや言わずもがなグレイとステラの戦闘地点。遠目からでもわかるほど濃密な魔力が漂うその一角は、既に異界と成り果てていた。
それでも耳を済ませば聞こえてくるのは、
彼は戦っている。なら自分達も戦わねば。
「さあ、行きましょう!いつも通り、モンスターを倒すだけなんだから!」
そして愛剣の切先を
これはいつも通りのモンスター退治だと。世界の命運を賭けた戦いを、いつも通りのそう評したのだ。
彼女の能天気ともとれる言葉に、けれど冒険者達は馬鹿にしなかった。
この状況でも笑える人がどれだけいる。この状況を『いつも通り』と豪語する人はどれだけいる。
そしてその笑顔が、どれだけ大切かを知らない者は一人としていない。
「アストレアはオレ達に任せてくれ。我が真名に誓って、護る」
静かに士気を高めていく冒険者達の背中に、ヘルメスが誓いの言葉を投げかけた。
アストレアもまた彼女らの無事を祈るように胸の前で手を組んだ。
「こんな事しか言えなくてごめんなさい。でも、頑張って」
『はい!』
女神からの激励に【アストレア・ファミリア】の少女達が応じ、そして走り出した。
「儂らも行くぞ。アイズ、行けるか?」
「うん、大丈夫」
その背を追いかけようとしたガレスが、隣で息を荒くしているアイズに声をかけた。
竜を前に感情が昂っているのだろう。瞳の奥に黒い炎がちらついている。
リヴェリアはそんな彼女を嗜めるように頭に手を置いた。
「今度は私達もいる。無理はするな」
「……うん!」
頭を撫でるリヴェリアを見上げながら、アイズは頷いた。
いまだに瞳の奥に黒い炎が燻っているが、それでも先程に比べれば幾分かマシというもの。
「ならば、行くぞ!」
グレイとステラ。冒険者達と
それぞれの戦いが、幕を開けるのだった。
感想等ありましたら、よろしくお願いします。