ダンジョンに訳ありデビルハンターがいるのは間違っているだろうか 作:EGO
地上での戦いが激化する中、新たな局面を迎えた18階層での決戦。
ヴァニタスとの融合により、世界を滅ぼす黒い刺客──
多頭の竜へと変化した
18階層の地面や壁、天井が焼き払われ、階層が溶けていく。
崩落までは時間の問題。気温もあがり、呼吸をするだけで喉が焼け、肺が悲鳴をあげる。
その中でも、ステラの疾駆は止まらない。マグマのようにドロドロに溶けた地面の上を熱気を切り裂くように疾走し、跳躍。振り回される首の一つに刀を突き立てて張り付き、そのまま首の上を走り出す。
「おいおい!あんまり先走んなよ!」
その直後、彼女と同じようにして
グレイは大剣を振り回し、首をズタズタに切り裂きながら根本に向けて走り抜ける。
だが斬ったそばから魔力の蒸気が噴き出し、傷が癒えていく。
背後から聞こえる蒸気の噴出音と肉同士が繋がり合う生々しい結合音に鳥肌を立てるが、グレイの足が止まることはない。
「斬っても治るんですよ?何度も斬るのも面倒でしょうに」
そんな力と勢いに任せたグレイの姿にステラは嘆息すると、首の根本まで一気に駆け、抜刀と共に一閃。首が根本から両断され、体と泣き別れる。
「まずは一本」
「いいや、二本だ!」
そんな彼女の言葉に素早く返されるのは、彼女の隣に着地したグレイの得意げな言葉。
ちらりと目を向けて見れば、彼女と同じように首を斬り飛ばしたグレイの姿が映り、こちらにドヤ顔をかましている。
切断された首が地面に落下し、陸にあがった魚のように数度跳ねるが、魔力の供給が途絶えたためかすぐに動きを止め、魔石を奪われたモンスターと同じように灰の山となった。
「十本あるうちの二本です。まだ先は長いですよ」
「これをあと八本だろ?楽勝だ。あとは俺がやるから後ろで休んでてもいいんだぜ?」
わざとらしく溜め息を吐き、相変わらず炎を吐きまくっている
そんなこちらを小馬鹿にしたような言動に、額に静かに青筋を浮かべたステラは彼に言う。
「なら、勝負でもしますか?どちらが多く首を落とせるか」
「言ってるそばから治ってるが、それもカウントすんのか?」
そしてステラが苛立ちのままに勝負を持ちかけると、グレイがぼこぼこと蠢く断面に後ろ指を差しながら言う。
「え?」と呑気に疑問符を浮かべ、斬った首の断面に目を向ければ、確かに頭のようなものが生えようとしていた。
「……まあ、殺すまでにどちらが多く斬ったかでいいでしょう」
欠損部位の即時再生という、自分達以上の治癒速度に僅かに狼狽えるステラに、グレイはひらひらと左手を振りながら言う。
「別に俺の腕だって生えてきたんだから今更ビビんなよ。初めてか?」
「再生される前に死ぬことの方が多いですからね」
左腕を生やした自分を引き合いに出してステラを馬鹿にするグレイと、そんなものされる前に相手を殺すと豪語するステラ。
二人はしばしの間睨み合うが、
『私の肩の上で喚くな、欠陥品と裏切り者が!!』
突如として二人の足元の肉が裂けて口となり、ヴァニタスの怒号と共に火炎が吐き出された。
素早く左右に散ってそれを避けた二人は、待ち構えるように顎を開いていた頭部に真っ直ぐに向かっていき、
「邪魔だ!」
「退きなさい!」
その顔を正面から両断。
左右に別れた頭部の隙間を縫って跳んでいった二人はそのまま空中で身を翻すと足元に
だが最初に斬った首の再生も終わってしまい、勝負は半ば振り出しへ。
だからこそ二人は背中に翼を展開し、多少の消耗を引き換えに首の切断作業を再開。
ヴァニタスの悲鳴と怒号。そして斬撃音が連続し、雨のように降り注ぐ鮮血が火の勢いを衰えさせていく。
そんな中「あいつら、マジかよ!?」とライラの驚愕の声が響いた。
「あのまま削り切ってくれねえかなぁ!まあ無理そうなんだけどよ!」
二人による一方的な蹂躙劇を俯瞰しながら、けれど吐き出す言葉に余裕はない。
二人が首を斬りまくってくれているが、それはあくまで攻撃頻度の低下でしかない。
遠巻きから見ている分でも恐ろしいが、何より怖いのは少しずつ首の動きが良くなってきていることだ。
彼らが飛び乗った瞬間に身震いしたり、あるいは他の首が噛みつきに行ったりと、確実に反撃が挟まり始めているのだ。
ヴァニタスの侵食が進んでいるのか、
「おらおらどうした!すっとろいんだよ!!」
「これで八本。余裕ですね」
「……案外いけそうだな」
──が、グレイとステラの速度がさらに上がり、反撃に更に反撃を挟み始めていく。
ライラはそんな二人の姿にちょっとだけ安堵しつつ、けれど決定打がない状況は変わらないと嘆く。
「このまま二人を援護しながら魔石を、そしてヴァニタスを狙うわ!いつも通り、階層主と戦う時と何も変わらないわ!行きましょう!」
だが、アリーゼにとってその心配もどこふく風。
相手が相手だが、冒険者にとってはいつもの修羅場と変わらないと豪語し、【アストレア・ファミリア】の少女達も頷いた。
「あれを前に『いつも通り』か!小言でも言ってやりたいところじゃが、その通りじゃな!」
「後衛は私が指揮しよう。前は任せたぞ」
ガレスがそんな少女達の姿を豪快に笑い、リヴェリアが神妙な面持ちのまま冷静に指示を出す。
リャーナ、セルティ、マリューがリヴェリアの指揮下に入り、前衛はそのまま
「来たな!
接近してくる冒険者達を見下ろしながらグレイは笑い、カウントと共に首を跳ねるが、
「それは私です。貴方は九ですよ」
ステラからのツッコミに「あ?」と額に青筋を浮かべた。
「ですから、十対九です」と淡々と告げ「数も数えられないのですか?」と煽ってくるステラ。
グレイは指折りで改めて数え、それが九で止まると「喧しい!」と理不尽にキレるが、彼女は溜め息混じりに肩を竦めるだけで言い返さず、代わりに自分に喰らいつこうとしてきた首を一刀の元に跳ね飛ばした。
「これで十一」
そして渾身のドヤ顔をしながら煽るようにグレイにそう告げ、ブン!と空間が歪む音を立ててその場から掻き消えた。
「…………馬鹿にしてんだろ、テメェ!?」
一人残されたグレイが激憤のままに叫び、羽ばたきと共に空中で宙返りして横合いから迫っていた噛みつきを回避し、宙返りの回転の勢いのままに大剣を振るい、首を両断。
「十本目。ったく、キリがねえな」
落下していく首を見下ろしながら溜め息を吐く。
さっきから斬りまくっているが治癒速度が落ちている様子もなく、何なら動きが良くなってきている。まだ対応できる範囲ではあるが、もしこのまま成長を続けていけば……。
「その前に片付けねえとな」
一瞬過った嫌な予感を振り払うように頭を振り、
行き場をなくした魔力が
ヴァニタスもそれに気付いたのだろう。爆発する首を自切し、直後に大爆発。
視界を塗り潰す大爆発にグレイが顔を顰める中、彼の脇を銀の閃光が駆け抜けていった。
「おい、ちょっと待て!?」
その先が
「……不意打ちするにしても、後にしてください」
音を置き去りに放たれた銀槍の一撃を後ろ手に回した刀の鞘で受け止めたステラは、溜め息混じりに呟いた。
「チッ!」と舌を弾いたのは、彼女諸共に
「後で相手してあげますから、今は──」
「汚ねえ口を開くんじゃねえ。黙って利用されてろ」
ステラが嘆き、アレンが静かに告げる中、彼は彼女に蹴りを放つ。
それすらも翼で受け止めた彼女は、そのまま力に物を言わせて彼を弾き飛ばす。
吹き飛ばされた勢いのまま、彼を丸呑みにせんと迫っていた首を銀槍を回転させた斬撃でもって解体する。
すぐに回復が始まるが、その断面に飛び乗ったアレンはそのまま首を駆け下りながら槍を振り回し、大量の肉塊を量産した。
「冒険者でもどうにかなるようですね」
ぼとぼとと音を立てて地面に落下していく肉塊の山を見送ったステラはその後に「まだ、ですが」と言葉を付け加え、迫っていた首を一太刀で両断。
胴体に槍を突き立て、両脚を鱗にめり込ませながら睨みつけてくるアレンを見下ろしながら「その調子で頼みますよ!」と激励する。
その声にびきりと青筋を浮かべるアレンだが、足元に口が開いたのを合図にその場を離脱。吐き出された炎が明々後日の方向へと飛んでいく。
「あっちは大丈夫そうだな。……大丈夫だよな?」
首を跳ね飛ばし、その断面の上に乗ってほんの数秒の休息を取ったグレイが、ステラとアレンの連携──アレンが殺しに行き、それをステラがいなし、結果的に連携となっている──光景に首を傾げるが、風を纏った数十の光球が
鱗が砕け、肉が爆ぜ、光球の集中砲火を浴びた首の一本がもげていく。
だが、胸部はそうはいかない。光球が直撃し、盛大な爆音と共に炸裂しても傷一つつかない。
「私の魔法では無理ですか」
グレイの隣。蠢く傷口の上に着地したリオンが嘆息すると、グレイは肩を竦めた。
「なら、俺がやる。どうせ魔石砕かねえと終わらねえんだし」
いよいよ本命を狙っていくかと、ごきりと首を鳴らしたグレイが飛び出していくと、リオンもそれに続く。
四肢と剣に炎を纏ったアリーゼもまた「待たせたわね!」と二人に合流し、迫り来る首の一つに斬りかかる。
紅蓮の炎を纏う一閃が首を捉え、肉を抉りながら大きく仰け反らせるが切断には至らない。
「よくこんなのポンポン斬れるわね、嫌になっちゃうわ!」
その結果に悔しそうに歯軋りし、普通に斬りまくっているグレイ、ステラ、アレンとの
だがそんなものどこ吹く風。すぐさま二度、三度と攻撃を重ね、手数でもって首を破壊する。
「でも、どうにかできない程じゃない!いけるわよ、皆!」
返り血を浴び、それでもなおいつものように快活な笑みを浮かべるアリーゼに、【アストレア・ファミリア】の少女達も答え、魔法や道具を総動員して首を破壊していく。
「【
「どおりゃあああああああああ!!!」
冒険者達の合流により、首の破壊の速度が増していく。
ヴァニタスはそんな彼らの奮闘を鬱陶しそうに唸り、飛び上がらんと翼を広げた瞬間、その一つをリヴェリアの合図で放たれた魔法の斉射により破壊され、逃亡さえも封じられる。
『下等生物どもがぁああああああああ!!!』
そしてリヴェリア達を吹き飛ばそうと、
「さっきから欠陥品だの裏切り者だの下等生物だの、語彙力ねえのかよデカブツ!」
だが、それを撃たせないのがグレイだ。
ゴリアテに包まれた右拳による
階層を揺らす大爆発が起き頭部が弾け飛ぶが、やはりと言うべきか
すぐさま頭部の再生し、魔力の再充填が始まろうとするが、グレイは下顎に大剣を突き刺し、そのまま喉を掻っ捌くように首を駆け下りていく。
大量の鮮血がぶち撒けられ、彼の灰色の
魔力の充填は止まるが、代わりに傷口から大量の炎が溢れ出し、傷を溶接するようにして無理やり治療されていく。
だが、それが終わる頃にはグレイは胸部へとたどり着いていた。
狙うは一点。
鱗を貫き、骨を穿ち、肉を破り、魔石を砕き、ヴァニタスを殺す。
ただそれだけに集中し、切先に魔力を集中させていく。
突き立てた大剣を引き抜き、足元に
切先に灰色と銀色の入り混じる魔力光が灯り、大気が唸る。
『ッ!?』
ヴァニタスが息を呑み、迎撃しようと多頭の首を動かそうとするが、それをステラが、アレンが、冒険者達がねじ伏せる。
鮮血が雨のように降り注ぐ中、グレイは空中で踏み込むと同時に空間を抉る牙突を放つ。
「【スティンガー】!!!」
切先の魔力光が一直線の残像を残し、渾身の一撃が胸部に撃ち込まれた。
切先と胸部の鱗が激突した瞬間、階層を揺らす衝撃と、大銅鑼にも似た凄まじい衝突音が鳴り響き、
階層主さえも葬るだろう一撃。だが、グレイは舌を弾いて忌々しそうに相手の胸部を睨みつけた。
「硬え……っ!初めてだぜ、こんなの!」
刃が通っていないのだ。
鱗を──より正確にはさらにそこを包むように発生した魔力の結晶が、グレイの一撃を完全に防いでみせた。
迎撃は無理と判断したヴァニタスが、すぐさま魔力で新たな外殻を形成。その防御力がグレイの攻撃力を超えたのだ。
大剣をさらに押し込もうとしたグレイだが、あまりにも硬質な手応えにすぐに諦め、そこを足蹴にして一度離脱。
「ったく!こうなるならステラ相手に本気でやるんじゃなかったな!」
「だとしたら、貴方はもう死んでいますよ」
さてどうすると眉間に皺を寄せて思案する中、切り落とした首を足蹴に飛び出したステラが外殻に切り掛かる。
振り抜かれた一閃はその表面を薄く削るが、破砕するには程遠い。
「本当に硬いですね。どうすればこんな硬度になるんです……っ」
自分達の鱗よりもなおも硬いそれに、ステラも悪態をついてしまう。
「そんだけ死にたくねえんだろ!悪魔のくせによ!」
「なるほど。悪魔なのに死ぬのが怖いと」
グレイが適当な推理を口に出し、ステラがそれに同意する。
ヴァニタスは『この程度も突破できないとはな!』とそんな二人を嘲るが、二人はならばと左右に散った。
「このまま攻める!援護任せたぞ!」
グレイの指示に冒険者達が応じ、迎撃せんと鎌首をあげていた首をリヴェリアの魔法が吹き飛ばし、リャーナとセルティの魔法が更なる援護を行う。
「これ、段々硬くなってねえか!?」
「多分!いいえ、確実になってるわね!」
ライラが爆薬を利用してまで首を攻撃する中、過った予感を口に出した。
そこにすかさずアリーゼの肯定の言葉が飛び、三度の攻撃で破壊できた首を、五度目の攻撃によりようやく破壊する。
「じゃが、やるしかあるまい!」
「壊さねえなら下がってろ。邪魔だ」
ガレスが首を殴り飛ばしながら、アレンが一瞬で解体しながら放った言葉に、輝夜が舌を弾きながら抜刀の一撃で首の一つに傷をつける。
だが切断するには至らない。その傷口にすかさずライラが爆薬を放り込み、爆破することで無理やり破壊した。
「まだいける!いけるけどよ!」
「ジリ貧だな。このままではこちらが先に潰れる!」
飛び散る肉片が頬に貼り付き、それを忌々しそうに剥がしながらライラが吠え、輝夜は濃赤の着物をさらに紅く染め上げながら刀に血払いをくれる。
その瞬間、グレイとステラが配置につく。
二人がたどり着いたのは
「前から駄目なら──」
「──横からぶち抜く!」
ステラがぼそりと呟いた言葉に、グレイが続く。
無論互いに聞こえているわけではない。けれど阿吽の呼吸でもって二人の刃が同時に
可動域を確保する為か、胸部のそれよりも柔い部位を的確に貫いた二振りはそのまま鍔まで
『づぅああああああああ!?』
ヴァニタスは凄まじい痛痒に悲鳴をあげ、他の首も苦悶するように剥き出しにした牙を食い縛る。
だが魔石まで刃が届かない。最短距離である胸部から大きく回り込んでいるのだから当然だ。
ならばとグレイはその場でくるりと回り、ステラは大きく腰を捻りながら右手を引き絞る。
そして、
「しゃおら!!」
「ハッ!!」
グレイは後ろ回し蹴りを、ステラは掌底をそれぞれの得物の柄頭に叩き込んだ。
金槌で打たれた釘の如く、大剣と刀が
ハッと二人は目を見開き、グレイが「ざっけんな!」と声を荒げた。
「魔石ズラシやがったな!?どんだけ死にたくねえんだよ!!」
彼の怒号に
だが、二人の攻撃はまだ終わっていない。
二人が何かを避けるようにその場を飛び退いた瞬間、先ほど得物を打ち込んだ穴のすぐ隣からグレイの方には刀が、ステラの方には大剣が飛び出してくる。
それを空中で体勢を整えながらそれを握った二人は
『──────ー!?!?』
肉片と共に大量の血を撒き散らし、悲鳴をあげるヴァニタス。
グレイとステラはそのまま脇腹を掘り進め、魔石を露出させんと攻撃の速度をあげるが、不意にぐちゅりと音を立てて肉が蠢いた。
「「っ!?」」
二人が飛び退いたのはほぼ同時。そして掘削した脇腹からさらに首が生えてきたのは一拍後だった。
二人はそのまま呑み込まんと迫る新たな首を瞬時に解体するが、距離が離されてしまう。
「今のでも遅えのか。参ったな」
「もう一度、はないですね。首が邪魔です」
刀に血払いくれるグレイと、大剣を背負うステラ。
今の攻撃を警戒してか、結晶化した外殻は胸部からさらに広がり始め、脇腹や背中にまで至ってしまう。
あれの破壊が現状無理となると、やるべきは──。
「魔力が切れるまで斬りまくるか?」
「流石にそれは無理です!先にこちらの限界が来てしまいます!」
相手の魔力が枯渇するまでの長期戦の想定を口にするが、大粒の汗を滲ませるリオンが待ったをかけた。
グレイとステラの圧倒的なまでの魔力は、それを生成する強靭な
だが全快には程遠い。アストレア、ステラとの連戦と、その時に負った傷の回復。それらによる消耗が確実に彼にのしかかる。
「どうにか全快できりゃ、無理やり破れそうではあるが……」
すっと目を細めながら胸に手を当て、
無理やり魔力を捻出させようとするが、それを阻止せんと複数の火球が放たれる。
「おっと!まあ、待ってくれねえよな!」
その場を飛び退き、くるりと宙返りを挟みながら着地したグレイが肩を竦めた。
他の首もグレイに向けての掃射を行おうとするが、それを冒険者達が阻止すべく首に攻撃をしかける。
だが硬度が上がり始めた首の破壊に手間取り、そのペースは最初はどの勢いはない。
(手を緩めたら誰か死ぬな、こりゃ)
彼が下した判断は『冒険者達の力不足』という残酷なまでの事実だった。
グレイとステラが攻撃に参加することで辛うじて拮抗しているが、今この瞬間にも天秤は向こうに傾いている。このまま回復に専念してしまえば、まず間違いなく
魔力の回復をそこそこに、グレイはその場を飛び出して首の破壊に参加。
相手に何もさせず、回復で魔力を浪費させる作戦に乗り出す。
(だが、リオンが言ったとおりだ)
同時に先ほどのリオンの言葉が脳裏をよぎる。
こちらも出し惜しみなどできないこの状況で、いつ来るからわからない限界が来るまでひたすら粘るなど、消耗した冒険者では無理だ。
だが、それを覆せるものが何一つとしてない。グレイとステラの魔力も、翼を生やす程度なら大丈夫だが完全な
ヴァニタスの魔力を減らし、外殻の防御力が下がるまで粘る。
(業腹だが、これしかねえか……!)
グレイは胸中で舌を弾きながら、
だがその手応えは先ほどに比べても段違いに硬く、僅かに感じる痺れに表情を険しくさせた。
それはステラも同じこと。グレイの大剣をぶん回しながら首を破砕するが、やはり最初のように手際よくはいかない。
(あまりやりたくはないのですが、仕方ありませんね)
首を破壊しながら溜め息を吐いた彼女は、血に汚れながらも鏡のようにこちらを反射する刀身を見つめ、そこに映る自分の顔を睨みつけるのだった。
感想等ありましたら、よろしくお願いします。