ダンジョンに訳ありデビルハンターがいるのは間違っているだろうか   作:EGO

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本日二話目です。話数のお間違えがないよう、ご注意を。


Mission06 迷宮の楽園(アンダー・リゾート)

 オラリオの地下に広がる迷宮(ダンジョン)は、その名のわりには階層構造上となっている天然の地下空間であり、何層もの分厚い地盤によって、様々な階層で区切られている。

 時には悪意に満ちた様子を見せ、自らを攻略せんと挑んでくる冒険者たちを返り討ちにする地下迷宮にも、何故かモンスターが出現しない階層──安全階層(セーフティポイント)と呼ばれる場所があるのだ。

 その最たる場所がダンジョン18階層。人呼んで『迷宮の楽園(アンダー・リゾート)』。

 青空代わりの巨大水晶に照らされ、地下であるにも関わらず昼のように明るいその場所は、冒険者たちにとってもダンジョンの中で多少は気の抜ける憩いの場所。──の筈だった。

 

「ぎゃあ!?」

 

「うわぁぁあああああああああ!!!」

 

 鮮やかに、そして激しく、鮮血が舞った。

 同時に冒険者の絶叫と悲鳴が轟き、それを塗り潰すように怪物の咆哮と、固い岩盤を削りとる異音が続く。

 逃げ惑う冒険者たちの背に襲い掛かり、その喉を食いちぎるのは青白い鱗に包まれた蜥蜴を思わせる異形──つまりは悪魔であるライアットだ。

 冒険者たちは剣を片手に果敢に挑むものの、統率の取れた群れであるライアットたちの連携、そして駆け引きに翻弄され、その爪と牙の餌食になっていく。

 青白い鱗を朱色に染めながら進軍してくるその様は、モンスターの大量発生──『怪物の宴(モンスターパーティ)』よりも強い絶望を冒険者たちに与えていく。

 そして何より冒険者たちを恐れさせたのは、ライアットを率いるように戦場を転がり回り、冒険者たちを轢殺していく異形の影だった。

 海に住むサメを思わせる背鰭を大量に生やし、その一つ一つが冒険者たちの武器や防具を遥かに凌ぐ切れ味と強度を誇る天然の刃。

 蜥蜴を思わせる体を丸め、回転しながら突撃するだけで全身が悪意と殺意に満ちた丸鋸となり、防ぐ術を持たない冒険者たちはなす術もなく轢断され、あるいは体をぐちゃぐちゃのミンチとされていく。

 ライアットの亜種──『ケイオス』。それが三体。たったの三体が戦場の掌握し、運良くケイオスの軌道から逃れた冒険者たちも、群がってくるライアットたちが惨殺していく。

 まさに死屍累々の地獄絵図。『迷宮の楽園(アンダー・リゾート)』は冒険者たちの血に染まり、冒険者たちの悲鳴と悪魔たちの勝鬨だけが響き渡る。

 

「ああ。ああ!ああ!!素晴らしい!素晴らしいですよっ!!!」

 

 そんな中、その男の声だけは生き生きとした覇気に満ち、目を血走らせる程に興奮した様子で、けれど無邪気な子供のように無垢な笑みを浮かべていた。

 彼に率いられるようにこの場に馳せ参じた闇派閥(イヴィルス)の下っ端たちは、目の前の惨劇を見せつけられ、歓喜を通り越した畏怖の念さえも感じ始めている。

 

「ヴィ、ヴィトー様!あまり声をあげないでください!奴らがこちらに来ます!!」

 

「何を言うのです?彼から渡されたものを身につけているでしょう?なら、何の問題もありません!!」

 

 部下の一人の忠言に、ヴィトーと呼ばれた男は浮かべた笑みをそのままに懐に忍ばせた小さな宝石──曰く、魔除けの品──に触れた。

 それを身につけた者には襲いかからないように調教(テイム)してあるらしい怪物たちは、群れの後方ではしゃぐヴィトーには一瞥もくれず、よく哭き、よく叫ぶ玩具で遊び続けていた。

 ヴィトーの言葉を受けても部下たちは納得した様子を見せないが、彼にとってはどうでもいいのだろう。すぐに視線の前に戻し、悪魔たちの蹂躙を、絶望に満ちた冒険者たちの最期を見届ける。

 目の前で起こる惨劇が、楽園を穢す赤い血潮が、何よりも美しいのだと、言うように、彼は加虐の笑みを深めた。

 

「冒険者たちが立ち向かうこともせず、ただ絶望に屈して斃れていく。ああ、なんと素晴らしい、なんと美しい!!」

 

亡骸(なかま)を救うこともできず、己の身を守ることもできず、『英雄』にもなることもできず、『冒険者』ですらないただの肉塊に成り果てていく!ああ、ああ……!!!」

 

「ヴィトー様、お気を確かに!?」

 

 悪魔たちによる蹂躙に酔いしれるように、同時に何もできずに死んでいく冒険者たちの姿に嘆き悲しむように、頬を上気させて体をくねらせるその様は、まさに異常だった。

 部下に支えられて辛うじて立っているだけの男は冒険者たちを見つめながら、彼らの流す真っ赤な血潮を眺めて恍惚の表情を浮かべる。

 

「ああ、なんと美しい……」

 

 最愛の人の笑顔を見た者のように、世に二つと無い絵画を見た者のように、あるいは星空を見上げる子供のように、口からは目の前の惨状への語彙が失せた感想が漏れていた。

 そんな感想を口にしている間にも悪魔たちの蹂躙は留まることを知らず、血を浴びて興奮しているのか侵攻の速度が上がり始める。

 

「少々予定と違いますが、このままリヴィラの街を攻め落としてしまいましょうか!」

 

 興奮に目を見開き、ダンジョンの中にあるという異色の街──世界で最も美しいならず者の街(ローグタウン)と呼ばれる街、リヴィラを攻め落とさんと宣言した。意味もなく、それができるからという理由だけで。

 ヴィトーの宣言に答えるように、悪魔たちも冒険者たちが逃げる方向に鎮座する街を見つめ、雄叫びをあげて疾走を開始。

 街で負傷した者たちを匿い、迫る悪魔を迎撃せんと冒険者たちだが、その表情は一様に怯え、腰も引けている。籠城戦となりそうな様相だが、この場に指揮官もおらず、悪魔に対する知恵を持つ者もいない。

 ライアットたちが地面に蹴り、ケイオスが地面を削りながら迫る中、構える冒険者たちの間を縫い、一人の少年が前に出た。

 

「悪い、通してくれ!ちょっと通るぞ!」

 

 盾を前面に構えて即席の壁として構えていた冒険者たちの間をすり抜け、長剣を肩に担ぎながら悪魔を睨んだのは、色褪せた瞳に殺意を滲ませるグレイだ。

 冒険者たちは命知らずの少年に戻るように怒鳴りつけてくるが、グレイは耳に手を当てて「聞こえねぇな、腹から声出せよ」と煽って返す始末。

「勝手にしやがれ!」「くたばっちまえ!」と罵詈雑言が投げ返される中、グレイは肩を竦めた更に前へ。

 

「また面倒な奴らが湧いてやがるな」

 

 冒険者たちから視線を外し、顎を撫でながらケイオスを睨んだ彼は、不敵な笑みを浮かべながらそいつを指差す。

 

「まずはお前だな、来な(C'mon)!!」

 

「カモンじゃない!さっさと戻れ、居候!!」

 

 そんなやる気満々の彼の気勢を削ぐのは、リヴィラの街で怪我人の治療や収容の手伝いを終えた輝夜だ。

 冒険者たちからケイオスの強さ──鎧だろうが、盾だろうが、剣だろうがを轢断する──を聞かされたのだろう。グレイに戻ってくるように叫んでいるが、彼は気にも留めない。

 突っ込んでくるケイオスに対し、その軌道を見切ったグレイはそれを避けるように半身になると、悪魔の群れの奥にいるヴィトーや、輝夜たち冒険者に向け、何かを宣言するように左手に握った長剣を地面と垂直になるように掲げた。

 ヴィトーはなんだと怪訝な表情を浮かべ、冒険者たちは命知らずにも程があるグレイの態度に助けに向かう者と見捨てる者に分かれるが、どちらにせよケイオスの方が速い。

 

「避けろ、間抜け!」

 

 輝夜がそれでもも叫ぶが、グレイは一切聞く耳を持たず、ケイオスを睨んだ。

 転がる丸鋸のようにダンジョンの床を削りながら迫るケイオスに対し、グレイは「いいコースだ」と褒めるような事を口にした瞬間、流れるような動作で長剣を右肩に担ぐように構える。

 そしてケイオスとすれ違う瞬間、残像を残さぬ神速でもって長剣を振り抜いた。

 甲高い金属音が『迷宮の楽園(アンダー・リゾート)』に響き渡り、ついで聞こえてくるのは金属が砕け散る破砕音。

 

『な!?』

 

 そして困惑の声をあげたのは冒険者たちだ。

 彼らの視線の先で、自分たちの盾を砕き、鎧を寸断してみせたケイオスの背鰭がバラバラに砕かれ、吹っ飛ばされる姿を目の当たりにすれば、誰だって驚くだろう。

 野球選手がそうするように、文字通りケイオスを打ち返したグレイは、不敵に笑みながら指鉄砲を吹き飛ぶケイオスに向け、発砲するフリをして見せた。

 最大の武器である背鰭を砕かれたケイオスは吹き飛ばされる勢いのまま、他のケイオスと正面衝突してしまい、身体を真っ二つに両断された。

 輝夜も言葉を失い、冒険者たちと共にグレイの背中を見つめている中で、彼はくるりと振り向くと、勝ち誇るように笑った。

 

「誰が間抜けだ、おい!これを見ても同じこと言えるか、あぁ!?」

 

 そして先程言われた間抜け発言を根に持っていたのか、輝夜を睨みながらそう怒鳴ると、彼の背中を狙って三体のライアットが飛びかかるが、

 

「背中を狙わないと勝てないのか?そんな雑魚はお呼びじゃねぇんだよ!」

 

 普段のそれよりもハイテンションに言葉を吐きながら、振り向き様の一閃で三体諸ともに叩き斬った。

 鮮血を迸らせながら、身体を両断されたライアットが絶命するのを見届けながら、グレイは長剣を背負い、腰のホルスターから二丁拳銃(アッシュ&ダスト)を引っ張り出し、構え、引鉄を引いた。

 重機関銃をかくやの超連射で放たれる灰色の魔力の弾丸は次々とライアットの鱗を撃ち抜いていき、その命を穿っていく。

 一方的に狩る側から、狩られる側へ。ライアットたちは突然の天敵の登場に狼狽え、抵抗も許されずに次々と撃ち倒されていくが、二体のケイオスはその限りではない。

 彼らは獣の唸り声をあげながら転がり始め、グレイ目掛けて突撃するが、彼は闘牛を避ける闘牛士(マタドール)のように、ひらりひらりと身軽に躱していく。

 

「何やってる、輝夜。ここは任せてさっさとあいつらのとこに行けよ」

 

「言われなくてもいくわ、居候!……死ぬなよ」

 

 そうして余裕たっぷりの様子でケイオスの猛攻を避け、合間合間にライアットを射殺しながら、輝夜にヴィトーら闇派閥(イヴィルス)を指差しながら告げた。

 彼の言葉にハッと我に帰った輝夜は額に青筋を浮かべながら吠え返すと、同時に心配の声を漏らした。

 彼女の言葉に小馬鹿にするように鼻を鳴らしたグレイは、途端に笑みをやめて真剣な面持ちになると「お前もな」と返す。

 今度は輝夜が不敵に笑むと、冒険者たちの掲げた盾を飛び越え、戦場に駆け出した。

 ケイオスの一体がそれに気づき、回転を止めて急停止すると共に進路を変更し、輝夜に向けて転がろうとするが、ブン!と空気が唸る音がしたかと思えば、猛烈な悪寒を感じ身体を強張らせた。

 

「──お前の相手は俺だろうが、間抜け」

 

 そしてその悪寒の原因は既に真横におり、嘲りの言葉と共にそのこめかみにショットガン──コヨーテBの銃口が突きつけられた。

 ぎょっと目を見開き、人を殺めるには十分な鋭さと強度を誇る爪を振るわんとするが、それよりも速くグレイは引鉄を引き、爆薬が炸裂したかのような音を響かせながら灰色の魔力が爆ぜ、ケイオスの頭を完全に吹き飛ばした。

 重々しい音と共に倒れるケイオスを見下ろしながら、グレイは無事にヴィトーの元にたどり着いた輝夜の背を見送り、闇派閥(イヴィルス)の陣営の横っ腹に食らいついたアリーゼとライラの姿を認め、小さく笑んだ。

 その様子を油断していると判断したライアットがその背に飛びかかるが、今度は一瞥もせずに肩に担ぐように構え、放たれた灰色の弾丸に撃ち抜かれ、絶命する。

 

「そっちは任せたぜ、正義の味方」

 

 彼はそんな独り言を呟きながら、残るケイオスとライアットたちの方に向き直り、嘲りを含んだ不敵な笑みを浮かべると、謎に格好つけたポーズを取りながら悪魔たちに告げた。

 

「さあ、遊ぼうぜ(Let's rock)!!」

 

「──【ルミノス・ウィンド】!!」

 

 最高に格好をつけ、ノリに乗っていたグレイの耳に、リオンの威勢のいい声が届くと共に、緑風を纏った大光玉に飲み込まれる悪魔たちの断末魔の叫びが届いた。

 

「……」

 

 ポーズを取ったまま、びちゃびちゃと湿った音を立てて降り注ぐ悪魔たちの血や肉片を浴びるグレイは、批判の色が強いじとっとした視線でリオンを睨みつけた。

 軽やかにグレイの隣に着地したリオンは、全身に滾る魔力の残滓を振り払い、雨のように降り注ぐ血肉を嫌がるように頭巾を目深く被り直し、周囲を警戒する。

 神の眷属(こども)なり、恩恵を授かった者の一部には、超常の力──魔法を扱えるようになる者がいるという。今しがたリオンが使い、五、六体の悪魔を纏めて吹き飛ばしたそれが、そうなのだろう。

 中々の威力と攻撃範囲だが、それはそれとして──。

 

「いいところだけ持っていくんじゃねぇよ、これからだっただろうが!?」

 

「な!?助太刀に来たというのに、何ですかその言い草は!」

 

 グレイはこれからが楽しい所だったのにと、掴みかからんばかりの勢いでリオンに詰め寄るが、彼女は彼の指摘に対して真っ当な怒りをぶつけ、睨みあう。

 

「そんな事してる場合かよ!アリーゼたちに合流するぞ!」

 

 そんな二人に対し【アストレア・ファミリア】所属の獣人、ネーゼ・ランケットがツッコミを入れ、奥の草原で戦うアリーゼたちと合流すべく、走り出すのだった。

 

 

 

 

 

 ほんの僅かに時間を巻き戻し、アリーゼとライラが闇派閥(イヴィルス)と戦闘に入ってすぐのこと。

 

「まさか、この広い18階層の外周を回り込んでくるとは。なかなかどうして、面白いことをするものですね」

 

「ふふん!正義の為なら多少の無茶も押し通すのが私たちなのよ!」

 

「お前に付き合って走らされたアタシの身にもなれよな、ホント」

 

 初手の奇襲で闇派閥(イヴィルス)の下っ端たちの大半を打ち倒したアリーゼとライラに、ヴィトーは賞賛とも取れる言葉を投げ、愛用の短剣を手元で弄ぶ。

 そしてアリーゼが吐いた『正義』の一言と、彼女らの容姿で察したのだろう。柔和で、けれど侮蔑の色を孕んだ笑みを彼女らにむけた。

 

「なるほど、貴方がたが噂の【アストレア・ファミリア】。小賢しく、叶いもしない、ご大層な信条を掲げる愚人」

 

「我々が愚人なら、貴様らは屑だな。唾を吐きつけた後に、丁寧に踏み躙ってやろう」

 

 グレイの大立ち回りで掻き乱された悪魔の群れの中を突っ切ってきた輝夜もまた、侮蔑の言葉を吐くと共にヴィトーに斬りかかった。

「おっと」と危なげなくそれを避けたヴィトーは卑怯にも奇襲してきた輝夜を狐のように細めた目で見つめ、肩を揺すりながら笑みをこぼした。

 

「いやぁ、正義を掲げておきながら容赦のない。存外に面白い方々のようだ」

 

 くつくつと喉を奥を揺らし、肩を揺らしながら笑う男の姿に、輝夜は警戒を強めた。

 狐のように細められた目。口には上辺だけの笑み。武器は短剣の一振りのみで、纏う黒の戦闘衣(バトル・クロス)は神官が着る祭服のよう。

 だが時には人々を救い、導く彼らと同列に語るには、あまりにも冒涜的な気配を纏っていた。

 

「……どうして『冒険者狩り』なんてするの?それに、あのモンスターはなに?」

 

 アリーゼは数十M(メドル)後方に広がる血の海に意識を向けながら、ヴィトーに問うた。

 相手の動機を知るのもそうだが、調教(テイム)し、従えている新種のモンスターというのは、いよいよをもって洒落にならない事態だ。

 

「質問の多いお方だ。私にも答えられないことはありますが、どうして『冒険者狩り』をするのか程度なら教えて差し上げます」

 

「私はただ美しいものが見たいのです。澄み渡る青空を仰ぎ見るように、色とりどりの花を愛でるように、私は何よりも美しい真っ赤な血を見たい。それだけです」

 

 不気味な笑みを浮かべ、自分の動機──美しいものを見たいから人を殺めるという、文字通り狂った理由を口にすると、輝夜が多大な嫌悪と共に吐き捨てた。

 

「破綻者だな」

 

「実にいい響きです。次からはそう自称いたしましょう」

 

 輝夜の唾棄さえも心地よさそうに受け止めたヴィトーは、さながら道化のように笑い出し、狂気の声が辺りに響く。

 そんなイカれた男に向け、アリーゼは剣を向ける。

 

「──貴方みたいな人は、一生牢獄の中にいた方がいい。抵抗するなら力づくでやるけど、どうする?」

 

「力づくっても、さっきの輝夜の攻撃を避けた感じ、ただの下っ端じゃねぇよな?だが、テメェみたいな幹部がいるなんて情報はねぇ。何者だ」

 

 アリーゼの言葉にライラは滲んだ汗を拭いながら問うと、ヴィトーは「ああ、申し遅れました」と仰々しく、芝居じみた動作でもって一礼した。

 

「一応はヴィトーと名乗っておりますが、どうにも特徴がないのが特徴のようでして、悲しいことに仲間内では『顔無し』などと呼ばれているのですよ」

 

 ヴィトーはこれまた芝居のように大げさに、そして嘆くように肩を竦めた。

 確かに彼の顔で特徴らしい特徴はなく、強いてあげるなら濃赤色の髪程度のもの。

 ふとした拍子に忘れ、そのまま記憶の彼方にしまい込んでしまうような、悪い言い方をすればどこにでもいそうな(モブキャラのような)顔だ

 そんな自分を自嘲するように二つ名代わりの『顔無し』を名乗ったヴィトーは、うっすらと片目を開けた。

 

「あとは、私と関わりを持った方のほとんどを始末しておりますので、そのせいかと」

 

 血を求めて鋭く輝くぶらぶらと指にぶら下げている短剣を弄びながら、酷薄な笑みを浮かべてアリーゼらを見やる。

 今まで情報は皆無であったが、目の前の男の危険度はそれなり以上に高い。ここで取り押さえなければ、きっと取り返しのつかない事態となる。

 アリーゼ、ライラ、輝夜の三人がそうと察し、宣言通りに力づくでヴィトーを取り押さえんと構えた直後、遠くから魔力の爆ぜる音と、彼女らからすれば馴染みのある魔力の波動のようなものを肌で感じた。

「おや?」と眉を寄せて悪魔たちのいる筈の方に目を向けたヴィトーは既に悪魔たちが全滅していることと、こちらに迫る正義の増援の姿を認め、肩を竦めた。

 

「どうやら、そちらにもかなりの手練れがいる様子。恐ろしいので、今のうちに──」

 

 アリーゼらに気絶させられなかった僅かな手勢を纏め、撤退の選択を取ろうとした瞬間、頭上からブン!と空間が歪む音が発せられ、同時に猛烈な殺気がヴィトーに降り注ぐ。

 何事だと考えるよりも早く、何が起きたのかを察するよりも早く、彼は本能に従い、弾かれるようにその場を飛び退いていた。

 直後、彼のいた場所に灰色のコートを纏う少年の縦一閃が叩きつけられた。

 固いダンジョンの地盤を簡単に砕き、刃が深々と地面にめり込むほどの加速と技を乗せた、当たれば即死間違いなしの一閃。

 ぎょっと目を見開くヴィトーを睨みながら、グレイは不敵な笑みを浮かべて「よく避けたな、いい勘してるぜ!」と称賛の声を投げる。

 

「今の一撃、確実に私を殺すためのもの!どうやら、正義の【アストレア・ファミリア】にも血の気の多いお方がいるようだ」

 

 そしてある種の同胞を見つけたと歓喜するように、同時に今の一撃で彼には勝てないと察してしまった己を鼓舞するようにヴィトーが言うと、グレイは鼻を鳴らして長剣を肩に担いだ。

 

「おいおい、俺は【アストレア・ファミリア】じゃないぜ。誤解すんなよ」

 

「ああ。こいつはただの居候だ」

 

「まだ一晩しか泊まってないんだがな」

 

 輝夜の訂正の言葉にあとで金払わされそうだなと身震いしたグレイは、話題を変えるべくヴィトーに話しかけた。

 

「それで、あの化け物どもはどこから仕入れてきやがった?それを話してくれりゃ、半殺しで済ませてやるよ」

 

「残念ながら、それは教えられませんね。そういう契約なのです」

 

 浮かべた不敵な笑みをそのままに、慈悲の欠片をチラつかせるグレイに対し、ヴィトーが突きつけた答えはNo。

「そうか」と肩を竦め、小さく息を吐いた彼は、独白のように言葉を漏らした。

 

「師匠からは下らない仕事はしても、殺しの仕事だけは請け負うなって厳命されてるし、俺自身殺しはあんまり好きじゃねぇ」

 

 師匠から教わった便利屋としての最低限の矜持(プライド)。仕事を持ってくるのはそちらの勝手だが、受けるか否かはこっちの勝手だという、ある意味で依頼人泣かせの決まり事。

 実際それで数万ドルから数十万ドルという報酬を手放し、代わりにたかが数百ドルのくだらない仕事(雑魚悪魔退治)を請け負うのだ。

 口先だけの男ではないのが何とも師匠らしいと、基本的にだらしのない男でもグレイが尊敬しているのは、そういった理由がある。

 だが、何事にも例外はあるのだ。特に、『悪魔絡み』であれば。

 

「──だがあの怪物どもを従えるとなっちゃ話は変わるぜ、イカれ野郎」

 

 グレイは不敵な笑みを消し、顔から感情らしいものを排除しながら、冷たい声音でそう告げた。

 同時に放たれた凄まじいまでの殺気にぞくりと背筋を震わせたヴィトーら闇派閥(イヴィルス)が、無意識の内に後ろに下がる中、グレイは言う。

 

「最悪、口が効ければそれでいいか」

 

 ずっと色褪せた目を細め、纏う魔力がほんの僅かに魔力が揺らいだかと思った瞬間、ブン!と空間が歪む音と共にかき消えた。

 先程と同じ事が起きると直感したヴィトーは近くの部下の肩を力任せに掴むと自分の盾になるように前へ押し出す。

 直後、その部下の目の前に現れたグレイがV字を描く剣戟を放ち、その手足を一瞬にして斬り裂いた。

 突然の事態に何が起きたかもわからないまま手足を失った部下が、重力に引かれて地面に落ちるのと、グレイが切り返した刃をヴィトーに振るったのはほぼ同時。

 だがヴィトーが懐から小さな爆弾を取り出し、地面に叩きつける方がほんの僅かに速かった。

 パン!と警戒な破裂音と共に周囲にばら撒かれたのは、一寸先さえも見通せなくなるドス黒い煙と、万人の嗅覚を完膚なきまで破壊する猛烈な悪臭だ。

 アリーゼたちがその臭いに悶絶し、煙に紛れて撤退する闇派閥(イヴィルス)を見失う中、グレイは、

 

「!?──……」

 

 様々な都合で人よりも何倍も鋭い嗅覚がその悪臭を一切の無駄なく拾い上げ、脳みその奥底を直接殴られたかのような衝撃に襲われていた。

 ほんの一瞬意識を飛ばし、剣を構えた姿勢のまま倒れかけるが、そこは気合いで復活し、息をしないように気を遣いながら、勢いよく長剣を振るって煙を霧散させた。

 

「げほ!げほ!くっさ!?何今の、髪にも服にも臭いがこびりついたんだけど!?」

 

「ああ、くそ!『対異常』で毒は効かねぇが、臭いはどうにもならねぇか!やられた、クソ!」

 

「奴らは、あそこか!」

 

 目に涙を浮かべ、げほげほとむせながら、アリーゼ、ライラ、輝夜は逃げていくヴィトーら闇派閥(イヴィルス)の背中を素早く見つけた。

 18階層の東に広がる大森林に向け、一目散に逃げていく。

 追いかければ追いつける。だが、その絶妙な速度は、こちらが追ってくるように誘っているようにも見える。

 

「狡い策を張り巡らせているのか?……深追いは禁物か」

 

 輝夜は憎々しげな表情を浮かべながら敵の狙い──森に【アストレア・ファミリア】を誘い込み、地の利と罠を利用して迎撃する──を察し、追撃は断念する判断を告げた。

 彼女の意見にアリーゼとライラも否はなく引き下がるが、三人から遥かに遅れて復活したグレイが、先のあまりにもあんまりな失態を誤魔化すように鼻を鳴らした。

 

「追いかける必要はねぇよ。まだ射程距離(・・・・)だからな」

 

 中腰になりながら長剣を逆手に持ちかえ、一気に魔力を込めていく。

 刀身をバチバチと音を立てて魔力が這い回り、灰色の鈍い輝きを放つ中、グレイは目を細めてヴィトーの背中に狙いを定めた。

 長剣に込められた濃密な魔力に、アリーゼ、ライラ、輝夜が慌ててその場を飛び退き、射線を開けた瞬間、グレイは極東における抜刀術の要領で長剣を袈裟懸けに一閃。

 

ぶっ飛べ(Drive)!!」

 

 刃に纏っていた灰色の魔力がそのまま斬撃となり、ダンジョンの地面を削り取りながら高速でヴィトーらの背中に迫っていった。

 師匠直伝の飛ぶ斬撃(ドライブ)は、掠めただけで闇派閥(イヴィルス)の下っ端たちの半身や手足を抉り取り、時には命を、時には戦闘能力を奪い、ヴィトーの背中に迫っていく。

 見せつけられる不条理を前に舌打ちを漏らすヴィトーは、片腕を犠牲にしてでも避けようと身を翻した瞬間、森から二つの影が飛び出し、斬撃とヴィトーの間に割り込み、それぞれの左腕に構えられた大盾を前に突き出した。

 直後、灰色の魔力が大爆発を起こして盾を構えた二人とヴィトーを飲み込むが、グレイはその手応えに舌を弾く。

 まず間違いなく防がれた。並の悪魔だろうが諸共に消し飛ばす魔力を込めたにも関わらず、真正面から受け止められた。

 巻き起こる爆煙を突っ切り、更に数を減らした闇派閥(イヴィルス)たちが森に駆け込んでいく中、ヴィトーは自身を庇った二人の人物──正確には漆黒の鎧を纏い、同じ素材で作られた大盾と大剣で武装した動く鎧(アンジェロ)に、意味もないとわかっていながら感謝の言葉を投げた。

 だがアンジェロたちはそんな物に興味がないと言わんばかりに表面が焼け焦げ、ぶすぶすと音を立てて煙を吹く大盾を構え直し、大剣を肩に担ぐ。

 その姿はさながら、聖者を守らんとする聖騎士のようだ。

 対するグレイもやる気十分といった様子で身構えるが、アンジェロたちはヴィトーを庇いながらその背中で森の方に押していき、撤退する姿勢を見せた。

 ならこっちからとグレイが前に出ようとするが、水晶の光が届かない森の奥から感じるアンジェロの魔力の数が、二桁に達することを察知して構えを解いた。

 

「流石に、あの数は相手できねぇな」

 

 タイマンの真っ向勝負なら、十回だろうが百回だろうが負けるつもりもないが、一度に十体の相手はできない。それに向こうには地の利もあるだろう。

 下手に仕掛けて死にかけるだけならまだしも、アリーゼたちにも多大な迷惑をかけてしまう。ここは彼女らの顔を立ててやろう。

 故に追撃を中止し、長剣を振り血払いしてから背中に戻した。

 

「四人とも、大丈夫ですか!?先程の魔力は!」

 

 それから間を置かず、魔物を撃滅した直後、奇跡的にもまだ息のあった冒険者たちをリヴィラの街に運んでいたリオンたち【アストレア・ファミリア】の面々と合流を果たした。

 リオンは合流早々に直線的に抉り取られた地面を見ながら問うと、グレイは肩を竦めてなんて事のないように言う。

 

「俺のだ。まあ、得意技の一つとでも思ってくれ」

 

「……?貴方も魔法が使えるのですか?」

 

「いいや。ただの小手先の技だ」

 

 グレイの言葉を自分達の定規を当てはめ、彼にもとっておきの技──冒険者たちにとっての魔法のようなもの──があるのかと問うが、グレイはすぐに否定の言葉を吐いた。

 

「ま、やろうと思えばお前らでもできるだろうよ」

 

 相変わらずの不敵な笑みを浮かべ、何の根拠もなくそんなことを告げたグレイは、再び視線を鋭くして抉り取った地面と、その奥に広がる森林地帯を見つめた。

 

「……次こそは殺してでも聞き出してやる」

 

 足元で手足を失い、ジタバタともがくしかできない闇派閥(イヴィルス)の下っ端を見下ろし、「お前は何も知らなそうだな」と溜め息を漏らす。

【アストレア・ファミリア】の治癒師(ヒーラー)──マリュー・レアージュが、一応は捕虜扱いであろうその下っ端に最低限の治療を施し、とりあえずの延命を行った。

 とりあえず、これで今回の襲撃は防げたということなのだろうが。

 リオンは振り返り、悪魔たちの蹂躙の爪痕を──ライアットに体中を食い散らかされた遺体や、ケイオスの背鰭にダンジョンの地面ごと肉や骨を削り取られた遺体を見遣り、苦渋の表情を浮かべながら憤激に身を震わせた。

 

「もう少し、本当にあと少しでも早く駆けつけられていれば……っ!」

 

「つけ上がるな、間抜け。英雄でも気取っているのか?未熟な今の私達では、全てを救えるわけがなかろう」

 

 そんな潔癖なエルフを唾棄するように、輝夜は酷く醒めた口ぶりで罵った。

 

「……っ!訂正しろ、輝夜!たとえ至らない身であっても、最初から救えないと決めつけて実践する正義など、間違っている!」

 

 リオンは輝夜に詰め寄り、彼女にこびりつく強烈な悪臭に顔を顰めながら、それでもと彼女を睨みつけた。

 正義の派閥(アストレア・ファミリア)でありながら、手を伸ばせば届くかもしれない命を最初から諦めるという輝夜に、我慢がならなかったのだろう。

「おい、やめろよ」と、悪臭を嫌がって離れていたネーゼが嫌そうな顔をしながら輝夜からリオンを引き剥がそうとするが、それよりも早く動いたのはグレイだ。

 彼は無言のまま、いつかのように至近距離で睨み合う二人の後頭部を掴み、情け容赦なく強制頭突き(ヘッドバット)

 ゴッ!と二人の額がぶつかり合う鈍い音と共に大気が震え、弾かれる勢いのままに背中から地面に倒れた。

 

「〜っ!!こ、これで二度目だぞ!?糞雑魚妖精、貴様のせいだぞ!」

 

「な!?わ、私に責任を転嫁するな!そもそも輝夜があんな事を口にするから……!」

 

 額を押さえ、痛みに表情を歪めながら二人が口喧嘩を続けていると、グレイは腰に両手を当てながら溜め息を吐いた。

 

「別にどっちも間違ってねぇだろ?理想を語るのも、現実を見るのも、どっちも正解だ」

 

 もっと相手の意見を聞け、尊重しろと、対して己と年齢が変わらない青年に説教される二人は、見るからに苛ついた様子を見せるが、言っていることは正しいと理解しているのか口答えはしない。

 

「……テメェのありがたい言葉はとにかく、あれしかやり方ねぇのかよ?その内、二人の頭割れちまうぞ」

 

 言葉もなく悔しげにグレイを睨む二人を他所に、ライラは額を押さえながら彼に問うた。

「他にやり方を知らねぇ」と肩を竦めたグレイは、顎に手をやってふむと唸る。

 

「喧しい二人組を黙らせるには、こうするのが手っ取り早いって教わってな」

 

「喧嘩する度に頭突きさせられてんのか、その二人」

 

「黙れって言われたのに喋ってるからだな。仲はいいぞ、その二人」

 

「随分と理不尽な話だな」

 

 グレイがどこか懐かしむように笑いながら「あいつら元気にしてんのかな?」なんて漏らしていると、ライラはその二人に対して同情的な顔をした。

 グレイ本人が喧しい割に、周囲の騒ぎには人一倍敏感で、時と場合によっては問答無用で黙らせるのは理不尽な話だろう。

 そうか?と首を傾げるグレイを他所に、彼という共通の敵を前にした輝夜とリオンは喧嘩をやめ、立ち上がった。

 彼のことは文字通りムカつくが、言っていることが正しいのも事実。

 

「これ以上、お前と頭をぶつけ合えば馬鹿が移りそうだ。ここは手打ちとしよう」

 

「ええ。このままでは貴方の正義感を訂正する前に頭を割られかねない」

 

「ほぅ。このポンコツエルフ様は私の性根を叩き倒せるとでもお思いで?」

 

「いきなり猫を被るのは──ハッ!?」

 

 お互いに仲直りの言葉を言うだけでいいというのに、また喧嘩を始めそうな雰囲気を醸し出す二人だが、リオンは背後に不穏な気配を感じた振り向いた。

 

「……」

 

 そこには無言のニコニコ顔でこちらを見やるグレイの姿があり、いい加減静かにしろと細められた瞳が訴えかけてくる。

 ぐぬぬと歯を食い縛り、吐きかけた言葉を飲み込んだリオンが輝夜から離れると、グレイは纏っていた不穏な気配を消してアリーゼに目を向けた。

 

「で、次は?今からでもあいつら追いかけるか?」

 

 彼はヴィトーたちが消えていった森の方向を睨みながら問うが、アリーゼは「いいえ」と首を横に振り、血の海となっている平原に足を向けた。

 びちゃびちゃと湿った音をたてながらたどり着いたのは、ライアットに全身を貪り食われ、もはや人としての原型を留めていない遺体の前だ。

 血に汚れることも厭わずに膝をつき、最期の瞬間まで助けを求めるように、生にしがみつくように地面に指を食い込ませていた手に触れる。

 

「……まずは遺体を回収しましょう。一人でも、少しでも多く、地上に戻れるように」

 

 目を閉じ、様々な感情を去来させると立ち上がる。

 

「グレイはあのモンスターに詳しそうだから魔石を回収しておいて。ドロップアイテムがあれば、それも一緒に」

 

「……?その必要はないだろ」

 

 アリーゼが【アストレア・ファミリア】の面々とグレイに指示を出すと、彼は苦笑混じりに肩を竦めた。

 

「そんなよくわからん、魔石なんて物は入ってない。これに関しては断言してやるよ」

 

 だが、鱗だの爪だのは何かに使えるかもなと、とりあえず指示通りにライアットやケイオスの死体の方向に足を向ける中、その背中にアリーゼが困惑の声を投げた。

 

「魔石がない?え、でも、モンスターよね?」

 

 彼女の疑問は当然だ。彼女の知るモンスターには、人間でいう心臓にあたるもの──魔石が身体のどこかに存在している。

 形も大きさも様々ではあるが、例え強大なモンスターでも魔石を砕かれてしまえば絶命する、文字通りの急所。

 それがないモンスターなど、存在するのか。

 アリーゼの混乱がファミリアの少女たちにも伝播していく中、グレイは手頃なライアットの首を跳ね飛ばし、念のためのトドメを刺しながら言う。

 

「ああ。俺の故郷の近くで稀によく出る、化け物(モンスター)だ」

 

「いくら殺してもどこからともなく湧いてくる、厄介極まりない連中だよ」

 

 返り血で灰色のロングコートを赤く汚しながら、グレイは振り向き様に乾いた笑みを零した。

 酷く疲れているようにも、摩耗しきっているようにも見えるそれは、果たして素の顔なのか演技なのか、まだ出会ったばかりのアリーゼたちには判別できないが、あのモンスターに酷い目に遭わされたのだろうということは理解できた。

 それと同時に、彼は色褪せた瞳に昏い輝きを灯しながら、告げた。

 

闇派閥(イヴィルス)とかいう奴らが、こいつらを従えているんなら容赦しねぇ。誰だろうが、容赦なくぶっ潰す」

 

 闇派閥(イヴィルス)の話を聞こうが、街を見て回ろうが、どこか他人事のように受け流していた彼が、途端にやる気に満ちた声で宣言し、アリーゼたちに背中を向けた。

 そのまま彼は黙々と悪魔たちへのトドメを刺していき、その横でアリーゼやリヴィラから出てきた冒険者たちが協力し、死んでしまった者たちの遺体をかき集めていく。

 ある者は泣きながら、ある者は強がりでしかない悪態を吐きながら、ある者は心ここにあらずといった様子で、少しでも同胞の亡骸を地上に持ち帰ってやろうと手を動かす。

 血に染まった『迷宮の楽園(アンダー・リゾート)』は冒険者たちの嗚咽の声で満たされ、血の香りを孕んだ静かに包まれるのだった。

 

 

 

 

 

 

 




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