機動戦士ガンダム 水星の魔女 DCT 作:SakuraNoel Fayray
「…タ、…ッタ、…レッタ、スレッタ」
心地いい優しい声が聞こえる。
その声に促されるようにゆっくりと目を開けると、そこには白銀の毛に覆われた美しい顔立ちのキツネがスレッタを覗き込むように立っていた。
「ミオリネさん、おはようございます」
スレッタはそのキツネをミオリネと呼んだ。
「おはよう、スレッタ」
ミオリネと呼ばれたキツネは、笑顔でそう答えた。
二人は見つめあう。
「うなされていたけど、怖い夢を見たの?」
「うん、そんな気がするけど…」
「けど?」
「忘れちゃった、えへへ」
「あは」
ミオリネはスレッタをやさしく抱きしめる。
銀色の毛が肌に触れて心地いい。
スレッタは、ミオリネを抱きしめている焦げ茶色のフワフワした自分の手を見て、自分がタヌキであることを思い出す。
「まだ人間じゃなかった」
スレッタはしょんぼりする。
「スレッタは、人間になりたいのよね?」
「はい。人間になって、人間のお友達をいっぱい作るんです。お友達といろんなことしたいな。今ね、やりたいことリスト作ってるんです」
「いいわね。わたしもなろうかしら、人間に」
「ミオリネさんも!?」
「スレッタが人間になるのならね」
「うれしい!ミオリネさんと一緒なら安心です」
「わたしも、スレッタと一緒なら…」
さわやかな風が二人の毛並みをやさしく揺らす。
青空の下、緑の丘の上にある大きな木の下に、二人はたたずんでいた。
「人間になったら…」
「ん?」
「人間になったら、ミオリネさんを忘れちゃったりしないかな?」
「そうね、そうなったらわたしもスレッタのこと忘れちゃうかもね」
ミオリネはちょっと意地悪そうな顔をしながら、スレッタの顔を見つめる。
「えええ、それは嫌です。ミオリネさんとは、人間になっても、人間になっても、一緒にいるんです!」
「わたしもよ」
「ミオリネさん!」
スレッタは頬を赤らめ、ミオリネを強く抱きしめる。
ミオリネも、スレッタをしっかりと抱きしめる。
「忘れることは無いわ。わたしも、あなたも」
「はい!」
「忘れないように、おまじないを掛けておきましょう」
ミオリネは抱きしめていた手をゆるめると、右手の人さし指でスレッタの鼻をチョンと触る。
「わ、わ、わ、わ…、こ、これは、これは忘れませんよ、絶対! お、お、お、おまじないですからね、うん」
「あははは、そうよ。永遠のおまじない」
二人は笑顔で見つめあう。
太陽が空の一番高いところに登ったのに気付くミオリネ。
「そろそろお昼ね。今日はうちでご飯食べない?」
「ミオリネさん、料理出来るの?」
「出来るわよ、たぶん、、、トマト料理だけだけど…」
「わたしトマト好きですよ」
「ええ、知ってるわ」
ミオリネは笑顔で答える。
ググーウ
スレッタのお腹が大きな音を立てて鳴る。
「あ”」
スレッタは慌てて両手で自分のお腹を押さえる。
ミオリネはその様子をしっかりと笑顔で見つめる。
「お腹空いたのね」
「空きました。あはは」
「じゃあ、家へ行きましょう」
「はい!」
二人は立ち上がると、並んでゆっくりと丘を下り始める。
「夢、叶うといいな」
「叶うわよ、スレッタなら」
二人は森の中へと消えていく。
やさしい風がこの世界に吹き続けている。