機動戦士ガンダム 水星の魔女 DCT 作:SakuraNoel Fayray
深夜2時。丑三つ時。薄暗い廊下。
静まり返ったその場所に、三つの人影がうごめいている。
その三つの人影は、付かず離れず廊下を進んでいく。
まるで、何かの目的のために三人が一体になって進んでいるかのように。
「え?なんて?」
チュチュは急に立ち止まり、右耳にはめられたイヤホンに指を当てながらそう呟く。
チュチュのすぐ後ろを歩いていたオジェロは突然止まったチュチュに対応出来ず、思わずぶつかってしまう。
「痛っ、おい何してんだよ!」
「ご、ごめん」
オジェロは即座に謝る。と、ヌーノも止まりきれずにオジェロにぶつかり、オジェロは再びチュチュにぶつかってしまう。
「おい、てめえら! わざとやってねーか?」
「そ、そんな。コントじゃないだから」
「コントでも、今時こんな古いネタやんねーよ」
「ですよね」
オジェロとヌーとは、ただの事故だと平謝りする。
「ったく…。あ、通信切れちゃったじゃねーか」
「ご、ごめんなさい」
オジェロとヌーとは、よく分からないまま謝罪を繰り返す。
「ま、いいや。先行くぞ」
「はい!」
三人は再び廊下を進んでいく。
「俺たち、泥棒みたいだね」
両手で台車を抱えたヌーノは、そう呟く。
「まあ、スレッタを確保しに行くんだから、間違ってはねーな」
「それ、泥棒じゃなくて、誘拐じゃ…」
三つ折りにした寝袋のような袋を抱えたオジェロは、チュチュにそうつっこむ。
「どっちでもいいんだよ。ほら、さっさと済ませるぞ」
チュチュは歩く速度を速める。ヌーノとオジェロは早足でチュチュを追いかける。
[スレッタ・マーキュリー]
そう書かれたネームプレートのある扉の前に三人はたどり着く。
チュチュは再び、右耳にはめてあるイヤホンにそっと右手の指を触れる。
「こちらチュチュ、対象の部屋の前に到着」
チュチュがそう言うと、イヤホンからその言葉に反応した声が聞こえてくる。
「こちらティル班、格納庫前に到着。いつでも突入可能です」
「こちらミオリネ、みんな準備出来たわね。では作戦を開始して」
「了解!」
チュチュは左手に持っていたカードキーで、スレッタの部屋の扉を開ける。
扉が静かに開く。三人は真っ暗な部屋の中へと入っていく。
部屋の中のベッドでは、スレッタが小さな寝息を立てて眠っている。
三人はお互いの顔を見つめ、静かに頷く。
ヌーノは、手に持っていた台車を静かに床に下ろす。
オジェロは手に持っていた袋を、寝ているスレッタの脇に静かに広げる。
「って、おい。これ“遺体袋”じゃねーか。なんでこんなもん持ってきてんだよ!」
チュチュは思わず叫びながら、オジェロの頭を右手でパーンと叩いてしまう。
「いや、これしか無かったんですもん。仕方ないよ」
「それにしても、遺体袋はねーだろ?」
「ま、まあ…」
「新品、なんだよな?」
チュチュはオジェロを睨みつける。
「備品なので、そうだと思うよ。使ったのはさすがに処分するでしょうし…」
「まあ、そりゃそうだよな。わーた、許す」
チュチュは納得して、さっき叩いたオジェロの頭を静かになでる。
ちょっと恥ずかしがるオジェロ。
「いいな…」
ヌーノがうらやましそうにその光景を見つめる。
「オジェロは両腕を、ヌーノは両足を抱えて、スレッタを袋の上に下ろしな。あ、肌に触れないようにこれをはめて…」
チュチュは腰のポーチから、着ぐるみが付けそうな肉球たっぷりのフワフワモコモコの手袋を取り出し、二人に渡す。
「これ…を?」
「あったりめーだろ? スレッタは、これでも女子なんだからな。変な気起こすなよ!こんな奴でも、そんなことしたら許さねーからな」
「も、もちろんですよ…」
オジェロとヌーノはチュチュの言葉に震えながら、しっかりとフワフワモコモコの手袋を手にはめる。
オジェロはスレッタの頭の方、ヌーノはスレッタの足の方へと移動する。
スレッタは、スヤスヤと寝息を立てて熟睡している。
「それじゃ、いくぞ」
チュチュの合図で、二人は両手と両足を掴む。
「う、うーん…」
スレッタのその声に、全員が固まる。
しばらく静寂な時間が流れる。
30秒、いや1分経っただろうか、その後もスヤスヤと寝ているスレッタを見つめ何も変化が無いことを確認し、三人は目で合図をする。
せーの
心の中でそう掛け声をかけ、オジェロとヌーノはスレッタの手足を持ち上げる。
スレッタの体がベッドから浮き上がる。
チュチュはスレッタの背中に両手を入れ、体を安定させる。
しっかりと持ち上がったところで三人は再び目で合図を送り、袋の上へとゆっくりと移動させていく。
袋の位置に達したところで再度目で合図を送り、スレッタの体をゆっくりと下ろしていく。
スレッタは、袋の中へと静かに入っていく。
スレッタの体が全て袋の中に入ったところで、チュチュは勢いよくチャックを閉める。
「ふう…」
三人に安堵の表情が浮かぶ。
「じゃあ次は、これを台車の上にな」
ヌーノはベッドの横に台車を寄せる。
「よし、いくぞ」
オジェロとヌーノは、それぞれ袋の頭側と足側を抱え上げ、台車の上へと移動させていく。
と、二人の手元が滑り、袋はスレッタが入ったまま台車の上へと自由落下を始める。
「あ」
三人がそう叫んだ次の瞬間、
ドン
という音と共に、袋は台車に激突する。
「あいた!」
スレッタは衝撃の痛さに思わず声を上げる。
「やべ」
「なにやってんだよ」
「手が滑っちゃって…」
「いたた、あれ?なんで真っ暗なんですか?ここはどこなんですか?」
スレッタは完全に目を覚ます。
「おい、いくぞ」
チュチュはそう言うと急いで駆け出し、部屋の扉を開ける。
オジェロとヌーノは台車の上のスレッタの入った袋の位置を調整すると、二人で台車を押し始める。
ガタガタと音を立てて進む台車。
「いたたたた、これは何なんですか?」
台車の振動でスレッタは声を上げる。
「浮上モードはねーのかよ?」
「そんなのこんな台車には付いてないよ」
「使えねーな」
三人は早足で廊下を駆け抜けていく。
ガタガタと音を立てて進む台車。
「痛い、痛い、やめてください」
スレッタのそんな声を無視して、三人は進んでいく。
右へ、左へ、台車は深夜の通路を走り抜けていく。
数分間走り続けたところで、台車はピタリと止まる。
スレッタは、痛さと疲れと眠けで声が出なくなっている。
「ここか」
チュチュはポケットから別のカードキーを取り出し、扉のパネルにそれを当てる。
プシューという音と共に扉が開く。
三人は、台車と共にゆっくりと部屋に入る。
ビュウーーーーー
袋のチャックをチュチュが開ける。
「チュチュさん!? みんな!?」
スレッタはそこで初めて、チュチュ達が自分を連れ出したことに気付く。
「スレッタ、あんたにはしばらくこの部屋にいてもらうからな。食事とかはちゃんと用意するから、大人しくしてな」
「え? どうして?」
「どうして? じゃねーだろ?自分が何を言ったか、ここで反省してな」
「そういうことなので」
「それじゃ」
三人はスレッタを置き去りにしたまま部屋から出ていく。
プシューという音と共に扉が閉まり、厳重にロックが掛かる。
「どうして!?」
スレッタは状況がつかめないまま、暗い部屋に一人で取り残される。
「こちらチュチュ班、作戦完了」
チュチュは、右耳にはめたイヤホンに指を触れながらそう呟く。
「こちらティル班、了解しました。エアリアルは問題無く停止していますので、これから戻ります」
「こちらミオリネ。作戦完了ね。みんなお疲れさま」
「チュチュ班も戻ります。みんなおつかれ!」
チュチュ達は、一仕事終えたという雰囲気で暗い廊下をコツコツと足音を立てながら、ミオリネの待つ病室へと戻っていく。
「16話 エアリアル奪還作戦」と「17話 魔女再臨」の間の話です。
本来は、16話でこの内容まで書くつもりだったのですが、動きが多いシーンなのでわたしの表現力が追いつくかどうかが分からなかったのと、2期放送までに24話まで書ききるという時間の関係もあったので、16話からはカットしていました。
17話は、この部分をカットしても話が続いてるように感じるように書いたつもりではあったんですけれど、やっぱり「奪還作戦」と言いながら一番肝心なこの部分抜けてるのはね…というのはずっと思っていましたので、追加エピソードとして書くことにしました。