機動戦士ガンダム 水星の魔女 DCT 作:SakuraNoel Fayray
もう何日経ったんだろう。この同じ天井を見続けて。
ようやく目を開けて意識を巡らせることは出来るようになってきたのに、重力に逆らって体を動かすことがままならない。
時々来て声をかけてくれる人たちはいるけれど、わたしの心には届かない。
最後の日まで、このまま時が流れるのだろうか。
そう思いかけた時、わたしの思考に飛んできた火花のようにはじける言葉に、わたしの心が熱く反応する。
…タ …ッタ …レッタ スレッタ
そう、あの娘から始まって、わたしは今ここにいるんだ。
動かなきゃ 動かなきゃ
前へ進まなきゃ
右腕がゆっくりと上がる。
周りからざわめきが聞こえる。
「あ”」
声とは思えないような音が口から漏れる。
…さん …ネさん …リネさん …オリネさん ミオリネさん
周りから、私を呼ぶ声が聞こえる。
そう、わたしはミオリネ。
ベッドと共に上半身がゆっくりと起き上がる。
「あ”、、、き”も”ち”わ”る”い”」
わたしの第一声はその言葉だった。
歓声が上がり、華やかな空気が部屋に満ちていく。
そう、わたしはここに帰ってきたかったんだ。
「ただいま」
「おかえりなさい」
「というわけなんです」
ティルはこれまでの経緯を説明する。
「そう、みんなには迷惑かけたわね」
ミオリネは頭を下げる。
「そんな、ミオリネさんだって大変だったんですから」
「そうですよ」
「それは同意するね」
「みんな…」
ミオリネの目に涙が浮かぶ。
「で、スレッタの野郎をどうするかっていうのが、今喫緊の課題で…」
チュチュがそう言いかけた時、病室の扉が開く。
誰もが看護士さんかな?と思って振り返ったそこには、制服姿のスレッタが立っていた。
「スレッタ・マーキュリー、ただいま戻りました!」
「お前…」
「スレッタ!?」
「先輩!?」
あまりのタイミングに、一同困惑する。
「おお、みなさんお揃いで。これお土産です。はい、はい、はい、はい…」
スレッタは一人ずつにお土産「転煮饅頭」を渡していく。
ミオリネの前に来ると、スレッタはその大きな瞳をうるうると輝かせる。
「ミオリネさん、ミオリネさん、わたし決めたんです」
「なにを?」
「わたし、ミオリネさんと結婚式します!」
一同、目が点になる。
「は?」
「ああ、ごめんなさい。ちゃんと説明しなきゃダメですよね。わたしね、修業してたんです。山で。お母さんと。そして決めたんです、ミオリネさんとの結婚式をしようって」
スレッタのあまりにも一方的な話に、全員言葉が出ない。
「結婚式には大きな大きなウェディングケーキを用意して、ミオリネさんと一緒にケーキカットするんです」
「ケーキ?カット?」
「そうなんです。地球をケーキに見立てて、二人で、エアリアルでカットするんです。ケーキ(地球)カット!」
スレッタは両手を振り下ろして、ケーキを切るポーズをする。
「は? は? はあ? 地球? 今、地球って言ったか?」
チュチュが鬼の形相でスレッタを睨みつける。
「地球です。青く美しい地球。あれがケーキだったらすごく素敵ですよね。いいと思いませんか?みなさん喜んでくれますよね?」
「お前、本気で言ってるのか?」
「もちろん本気です。だって、ミオリネさんとの結婚式ですもん」
「おい、こいつ殴っていいか?」
右腕を振り上げたチュチュを、周りにいた全員が取り押さえる。
「おい、離せよ。こいつは地球を…、地球を…」
「スレッタ先輩、冗談ですよね?」
リリッケが恐る恐るスレッタに尋ねる。
「冗談なんかじゃないですよ。素敵な素敵な結婚式にしたいんです。地球のケーキ、素敵ですよね?」
スレッタは満面の笑みで答える。
「てーめーえー!」
チュチュは精いっぱいの力でスレッタに襲いかかろうとするが、周りの人間が慌ててそれを押さえ込む。
「許さねえ、許さねえ、てめえはぜってえー許さねえ!」
チュチュの声が病室に響き渡る。
「ウソだろ」
「それはないよ」
「先輩、ウソって言って…」
スレッタはポケットから端末を取り出し、コロニーを切断した際の映像を全員に見せる。
「ほら、冗談でもウソでも無いでしょ?」
ミオリネはあまりのショックにまた寝込んでしまう。
「あれ?ミオリネさん寝ちゃった?まだお疲れなんですね。じゃあわたしは、修業で汚れたエアリアルを綺麗にしに行ってきますね」
あまりの内容にぼう然とするメンバーを後に、スレッタは扉を出て行く。
「お掃除、ピカピカ、エアリアル!」
「やばすぎるよ」
「ほんとやばすぎです」
「くそ」
少し落ち着いた地球寮のメンバーは、再び目を覚ましたミオリネと共に対策を練っていた。
「みんなの言う通り、スレッタはやばすぎだわ。なんとかして止めないと」
ミオリネは頭を抱えている。
「どうやって?」
「修業してるから、一筋縄じゃいかないかも」
「だよね」
「うーん」
「そういえば…、スレッタって一度眠るとなかなか起きないから、寝てるところを拘束したらいいんじゃないかな?」
「それだ!」
「どこかの部屋を借りて、そこに閉じこめておけば…」
「そうね。スレッタを動けなくしてしまえば、危険性は無くなるわね。ただ…」
「ただ?」
「スレッタが気付いてエアリアルに乗り込まれてしまうと、この計画は失敗してしまうわ。先にエアリアルを押さえておいた方がいいわね。スレッタを拘束するのはその後で」
「それがいいね」
「エアリアル奪還計画だね」
「奪還?それおかしくない?エアリアルって、スレッタ親子のものでしょ?俺たちが奪ったら、奪還じゃなくね?」
「ううん、奪還でいいのよ。今エアリアルは、株式会社ガンダムの所有物だから。スレッタ親子はそれを使用しているだけで、現在の所有者では無いわ」
「なるほど」
「じゃあ、奪還で」
「エアリアル奪還!」
「では、ティルとアリヤとリリッケはエアリアルを押さえる班、わたしとヌーノとオジェロとチュチュはスレッタを拘束する班。二手に分かれて行動しましょう」
「はい!」
「ちょっと待って」
チュチュが会話を静止する。
「おまえ、まだ体が本調子では無いんだし、ここで休んでな」
「でも、これはわたしとスレッタの問題でもあるので…」
「だからこそ、いざという時のためにスレッタの敵にはならない方がいい」
「チュチュ…」
全員の気持ちが一致する。
「分かったわ。じゃあ、エアリアル班はティル、スレッタ班はチュチュが指揮をとって。わたしはここで通信で全体の指示を出すわ」
「じゃ、それで」
「決行は、深夜2時。みんな寝坊しないでね」
「了解!」