機動戦士ガンダム 水星の魔女 DCT 作:SakuraNoel Fayray
「…さい、…きなさい、起きなさい」
ぼんやりとした意識の中、雑踏の音の中に次第に聞こえる母の声。眠気を振り払いながらゆっくりと目を開けると、そこには母の顔があった。
「おはよう、エリクト」
「お母さん、おはよう。どうしたの?」
慌ただしく周りを駆け回るスタッフを見て、エリクトは不思議そうに母に尋ねる。
「敵が来たのよ」
「敵?」
「そう、あなたのお父さんを殺した敵が」
エリクトの眠気が一気に覚める。
「戦わなきゃ」
ゆっくりと母のひざの上から起き上がるエリクト。その姿を見ていたスタッフの一人が声をかける。
「エルノラさん、エリクトちゃん、あなたたちはすぐに逃げなさい。エアリアルで」
「逃げるのはダメなの」
「そうね、あの時逃げたから、あなたはお父さんを失ったの。逃げたから、お母さん一人だった。逃げたら一つ、進めば二つ」
「うん。今度は進んで二つ守らないとね」
「そうよ、偉いわエリクト」
親子は右往左往する人々の間を抜け格納庫へと歩いていき、エアリアルへと搭乗する。
スクリーンに映る大艦隊と多数のモビルスーツ。まるで水星を殲滅しに来たかのようなその異様な状況に、スタッフは恐れおののいていた。
「なぜここに?」
「私たちが何をしたというんだ」
施設が爆発する音が聞こえ、その度に司令室は地震のように大きな揺れに見舞われる。
「もう終わりなのか?」
「せめて住人だけでも…」
彼らが絶望しかけたその時、画面に白い光が現れる。
「なんだ?」
「エアリアルじゃないか?」
「逃げなかったのか?」
驚きと期待が訪れた一瞬も、他の機体が見えないことで不安に変わる。
「一機じゃ無理だろ」
「早く逃げろ」
次の瞬間、その白い機体は画面を縦横無尽に走り回り、敵を次々と破壊していく。沸き立つ司令室。
しかしその喜びも、本来一機のモビルスーツでは破壊し尽くせないような量を破壊していく様に、次第に恐怖を感じるようになっていく。
「これは…、いったい何なんだ?」
逃げ惑うモビルスーツや艦隊も、容赦なく白い光が破壊し尽くしていく。そこには慈悲も何も無かった。
その光景に言葉も無い人々。
我に返った時には、スクリーンにはエアリアルただ一機と、画面いっぱいの爆発の光だけになっていた。
そこにエアリアルから通信が入る。
「やっつけたよ、みんな。お母さんも水星のみんなも守ったよ」
そう笑顔で話しかけてくる少女に、人々は恐れおののくだけだった。
「魔女だ…」
エリクトの後ろに座るエルノラの口元に笑みが浮かぶ。