機動戦士ガンダム 水星の魔女 DCT 作:SakuraNoel Fayray
「あなた達はいったい…」
「なぜ水星に来たんだ」
スタッフがスクリーンに向けて叫ぶ。
「ここにはパーメット鉱石があるからよ。鉱石は月にもあるけれど、月は地球の目の前でエアリアルは目立ちすぎるわ。だからここを選んだの」
「俺達を利用していたのか?」
「そうとも言えるかもしれないけれど、エアリアル、いえ、GUNDのために必要だったからここを選ぶことは必然だったの。それは、あなた達にも利益があるでしょ?」
それは確かにそうなので、スタッフは反論が出来ない。
「あなた達が採掘をして、それを私が技術に昇華させる。お互いにウィンウィンの関係よ。悪い話では無いはずよ」
「しかし、それならなぜ水星が攻撃されるんだ。あなた達がやってることに何か関係が… まさか…」
エルノラはニヤリとした笑みを浮かべる。
「そう、GUNDフォーマット。ガンダムよ」
「ガンダム!?」
司令室が蒼然とする。
「私とこの子エリクトは、ガンダムであるエアリアルであなた達を全力で守るわ。そのかわり、パーメット鉱石を私たちのために採掘してちょうだい。悪い提案では無いはずよ」
「いや、悪い」
スタッフが声を上げる。
「GUNDフォーマットは評議会から禁止されている。そんなことに協力は出来ない」
そうだそうだという声が司令室に響き渡る。
「我々は、魔女に手を貸すことは出来ない。水星の資源は、スペーシアンやアーシアン全体のものだ」
そうスクリーンに叫んだスタッフは、スクリーン越しにエルノラの目を睨みつける。
「いい目をしてるわね… でも、あなた達がそのつもりなら、私たちは力づくでここを奪うことになってしまうわよ。それでもいいの?」
睨み返すようなエルノラのその言葉は、彼らにとっては魔女の脅しという印象であった。
「それなら我々は、全力で水星を魔女の手から守ることになります」
「そう、わかったわ。わたしたちをこれまでかくまってくれたことには感謝するわ。でも、こうなってしまっては敵同士ね。容赦はしないわよ」
「それは覚悟の上です。私たちも全力でここを守ります」
エアリアルとの通信が切れる。
「おい、警報を出せ。避難させられる者は今すぐ区画外へ避難させろ。民間人の避難を優先しろ」
施設に警報が鳴り響く。スタッフが慌ただしく駆け回る。
静まり返ったエアリアルのコックピット。
「エリクト」
「どうしたの?お母さん」
「水星の人たちね、私たちのこと嫌いだって。お父さんを殺した人たちの仲間になるんだって」
「ええ、どうして?今までお友達だったのに…」
「そうよね、ひどいよね。私たちのこと裏切るなんて」
「うん、ひどい。でもどうしたらいいの?」
「水星の人たちも敵になっちゃったので、倒さないといけなくなるの。出来る?」
「倒さないとどうなるの?」
「わたしも、エアリアルも、全部あなたのもとからいなくなっちゃうわ」
「それはやだ」
「嫌なら戦うしかないわね。わたしもエアリアルも、両方残せるように」
「逃げたら一つ、進めば二つ」
「そう、偉い子ね」
エリクトの瞳が深紅に染まる。
「Aブロック退避完了、Bブロック退避中、Cブロック退避完了」
「退避を急がせろ。あと、地球への緊急連絡を…」
司令室が真っ白な光に包まれ、言葉がそこで途切れる。
巨大なビームで基地は一瞬で蒸発する。
ビームはその後も地中深く進み続け、遂には水星を貫いてしまう。
大爆発が起こり、水星全域を巨大地震のような激しい揺れが襲う。
かろうじて残った居住区にもその揺れが襲いかかる。
揺れが収まった後、水星基地があった周辺には巨大な穴が開いていた。
そしてその上空には、白い機体のエアリアルが赤い目を光らせて浮かんでいた。
「基地が…」
「わたしたちはどうなるの?」
「魔女だ…」
人々は地獄のような光景の前で、為す術が無かった。
水星からの反応が無くなったことを確認する、エルノラ。
「よくやったわ、エリクト」
エリクトの頭をそっとなでる。
「えへへへ。ありがと」
「これで水星の人たちは、私たちに協力してくれるはずよ。あなたのおかげよ」
「よかった」
エリクトは満面の笑みで母親に寄りそう。
母の体のぬくもりで、エリクトの気持ちは次第に収まっていく。
瞳の色が、普段の水晶のような水色に戻る。
「頑張ったら、少し眠くなってきちゃった」
「疲れたわよね。あとは私がやっておくから、あなたはゆっくり寝ておきなさい」
「うん。おやすみない」
「おやすみ、わたしの大事なエリクト」
エリクトはゆっくり目を閉じる。
「…さい、…きなさい、起きなさい」
雑踏の中で聞こえる母の声。
眠気を振り払いながらゆっくりと目を開けると、そこには母の顔があった。
「おはよう、スレッタ」
「お母さん、おはよう。どうしたの?」
慌ただしく周りを駆け回るスタッフを見て、スレッタは不思議そうに母に尋ねる。
「学校へ行くのよ」
「学校?」
「そう、あなたはこれから学校に行くの。アスティカシア高等専門学園。行きたかったでしょ?」
スレッタの眠気が一気に覚める。
「行かなきゃ」
ゆっくりと母のひざの上から起き上がるスレッタ。
その姿を見ていたスタッフの一人が声をかける。
「スレッタちゃん、まもなく出港よ。早く船に搭乗して」
「はい、ありがとうございます」
「それじゃあ、いってらっしゃい。気をつけてね」
「行ってきます。お母さんも早く来てね」
「ええ、“用事”が終わったらすぐ行くわ」
「それじゃ、よろしくお願いします!」
「はい、では一緒にいきましょ」
スタッフと一緒に宇宙港の打ち上げ施設へと歩いていくスレッタ。
その姿を見送りながら、プロスペラの口元には笑みが浮かんでいた。
「頼んだわよ、私の娘たち」