「ちょっと休憩〜!」
ペンを動かす手を止め、ぐっ、と伸びをする。と同時に、「ふぁ〜ぁ」と欠伸がでる。時計を見れば23時、気付けば配信を始めてから四時間近く経っている。イラストを描くのはあと二人、本人たちとはもちろんの如く話したことはないが……。…スタレコの一期生は私含めて七人いる。私と氷見月さん、あとは今日の配信で来てくれた三人。そして、あと二人!配信をちょくちょく見はするが、通話どころかチャットすら殆どしたことがない。多分最初にDiscord交換した時に「よろしくお願いします」と送ってから一回もしてないんじゃないかな?……これから接点はいっぱい出来そうだけど………。周りにコラボしたがる人が多すぎて…。今日だけでみんなとコラボという言葉を何度聴いたんだろう…?
「ハハ」
チャット
チャット
「眠たくはなってきたね、話してるとは言え四時間ずっと絵描いてるから、しかも夜から」
「我ながらこんなに集中力続くと思ってなかったよ」
チャット
チャット
「う…!そうだけど!しょうがないじゃん!眠いんだから!」
そう!しょうがないんだ!眠いものは眠い!私別に真面目な人間じゃないし!………これ悲しいな…。
「じゃあみんなは?授業中寝たことないの?寝たことない人は挙手!」
チャット
チャット
チャット
!!
「敵だー!!」
一人、手を挙げてる奴がいる……敵か……。敵だな!
そんな事をしているうちに、Discordの音がした。入って来てしまったらしい。アイコンを確認すると、そこにはデカデカと『ジブリル・リクター』と書かれていた……虹色で。既にやかましいなと思いながらミュートを解除し、挨拶をする。
「お疲れ様…です、えと……初めまして…」
緊張と共に…
うるさ!!声でかい!
「夜兎…です」
「あの…配信に声乗せて……大丈夫そうですか……?」
と、大声での返事をいただいたので、配信に音を乗せる。
チャット
チャット
チャット
……ジブリル・リクター、ツンと外に跳ねた腰まである長い赤髪が特徴的な男性で、とにかく!とにかく!!声がでかい!!!身長が高く、白衣を着ている。『なんでも研究する』学者らしく、普段の配信は雑談だったり、みんなが知らないであろうものを勉強するといった配信をしている。身近にあるけど名前とか知らないものを知ろうみたいな、そんな感じのやつ。
「あ、ありがとうございます…」
「えぇ!?」
急!!………事務所…いややっぱり急でしょ…。明日は別に何も用事ないし、いいんだけど。
「わかり……ました…」
チャット
「えと、質問の方……いいですか」
このままだと質問できないくらいの勢いだったので、無理やり質問をする。いやほんと、ずっと話してるよ多分この人……。
チャット
チャット
『ライオンに狙われてる小動物』……確かに………。不本意だけど…リスナーから見ればそうだろうな……私が第三者だったとしても同じ意見だ。
多分……というか絶対、私が本気で大声出してもジブリルさんの普段の声より小さい。それが普段の私なら尚更だ。もはや私の声かき消されてるんじゃないか……?
質問は聞いてくれるそうなので一つ目の質問をする。
「じゃあ……えっ…と、配信で私にしてほしいこと…何かありますか?」
『させたい』に言葉を変えた瞬間なんか嫌になるな……
「勉強配信……ですか?」
勉強か……まぁ確かに、高校生なんだからおかしくはないな…。正直もっとやばいのがくるかと思ってたから少しホッとした。とはいえ、それは果たして面白いのか?
またコラボかよ!!現状みんなコラボしたがってるんだけど!陽キャかよ!!!
「……コラボ………」
チャット
チャット
………内容は地味だけど、たまにやって、毎回別の人に教えてもらう勉強配信……ちょっと面白そうかもな………。何より、多分私も、他の人がいないとちゃんと勉強しないだろうし………。
「わ……かりました、検討しときます」
そんな感じで、一つ目の質問を終える。今のところのジブリルさんの印象はうるさいけど、思っていたよりは常識持ってそうと言ったものだ。色々考えた上で勉強配信が出たなら、正直真面目な人なんだろうなぁと思う。声がでかい変な人なだけで。
ジブリルさんに二つ目の質問をしようとしたところで、部屋の扉から『コンコン』とノックの音がした。ジブリルさんやリスナーのみんなに「親が来た」と言って少しミュートにする。
「はーい」
返事をすると、扉が開いた。正直、ノックがするとは一切思っていなかったので、心臓がバクバクしているのを感じる。
そう言って、いくつかのおにぎりを乗せたお皿を持っていたのは、お母さんだった。いつのまにか帰ってきていたらしい。……全然気付かなかった。
「おかえり……うん、ありがとう」
………
「今日は帰ってくるの早かったね」
…確かに、お母さんは……というかお父さんもだけど、二人とも夜は遅くに帰ってくるし朝は早くから仕事に行くけど、二人とも、私が不自由しないようにしてくれてる。謝ってもらうようなことじゃない。むしろ私が、「ありがとう」と伝える側なんだけど……。
「ううん、私こそ、ありがとう」
「……」
数秒の沈黙を終わらせたのはお母さんだった。
「うん」
そうして、お母さんは部屋を出て行った。……空気からわかる通り、気まずい関係、というやつだ。別に、仲が悪いわけではないが、随分と昔から今のような生活だったからか、あまり話すようなことがなかった、というだけだ。ちなみにお母さんは私のVtuber活動を知っている。なぜなら、スタレコに入る際に、保護者の同意が必要だったからだ。同意を得たのは応募した後だけど……。
「お待たせしました!」
「あぁ、えと、お母さんが、お腹すいただろうからって夜食持ってきてくれて」
チャット
チャット
少し話した後、ジブリルさんに2つ目の質問をする。
「学力テスト…」
その言葉が出た瞬間、チャット欄の流れる速度が一気に速くなった。
チャット
確かに面白そうだ。
「面白そうです…!」
ただ、実際、どうやってやるんだ?
「…でも、問題とか………どうするんですか?」
「なるほど…」
今の話を聞いて、ジブリルさんに対しての印象が少し変わった。通話を繋いだあたりでは声のでかい変な人だと思ってたけど…、企画を考えるのが上手いし、リスナーのみんなを楽しませようとする気持ちが伝わってくる。真面目でいい人なんだろうなと感じた。
そして、また……最後の質問だ……。
「で、では、最後の質問です……」
「早いよ!?!?」
待て待て待て!!まだ質問言い終わってないんですけど!!!
「だとしてもですよ!!早いですよ回答が!!」
最後の最後でぶちかましてくれましたよ!!!
少し深呼吸をして、落ち着く。
「えと………まぁ、ありがとうございました……?」
「あっはい、ありがとうございました…!」
そうして、ジブリルさんは通話から抜けた。
そして!配信を始めて5時間が経った頃、遂に!1期生のSDイラストが完成した!!
「ようやく完成したー!!!」
チャット
「時間がかかってしまった……!とても……!」
「疲れたー!!!!」
結構、というかとても、疲れた……。が達成感もある。これは絵を描いてないとわからないね!!………結局最後の一人は来なかったな……。まぁ、私としては一番関わり辛い人だったからある意味助かったかもしれないけど…。
それから5、6分ほど話してから配信を閉じようとする。そして……そしてだ。
ピロンと音がした………。
「ア…」
反射的に配信をミュートにする。
「はい……どう…も」
入ってきたのは…スタレコ一期生最後の一人、
「あっ、はい」
チャット
チャット
明星伽羅はギャルである、私から見れば、であるが。大学一年のお洒落な女の子といった感じの子だ。名前の通りの伽羅色の長い髪を可愛く結んでいて、かわいい服を着て、声も綺麗。ギャルというより、陽気で美人な年上のお姉さんといった感じだろうか。あと……胸がでかい…。ぎゅっって抱きついて甘えたい……!
「あっ」
「一つ目の質問!」
ニコッと笑ったような声で言う。待って好きになりそう。
「あ、ありがとうございます、じゃあ」
「私に、配信でして欲しいことってあ、ありますか……?」
配信じゃなくてもいい?それってどう言うことだ??
やばい、ギャルだと勝手に言っていた自分をぶん殴ってやりたい……!いや、ギャルが悪いわけじゃないんだけど。いい人感というか、清楚感みたいなものを感じる。
「……」
「あっはい!えと、動画でもいいか…ですよね!はい!!大丈夫です!!」
「vlog……ですか?」
vlog……確か動画を撮って、後から声を映像に載せる……みたいな感じのやつだっけ…?
……これまでの何よりもいいかもしれない。誰とも話さなくていいし。私からすれば他の…今までのやつはぜーんぶコラボだったから、うっ、てなってたんだよね……。
「……今度…やってみます!」
こんなに喜んでくれるとは……これは本気でやらないと……!!
チャット
チャット
………もう既に期待されてるぅ…!!!やばいよ!いい物作らないと!!アンチがコメント欄で暴れる!!!!
「……頑張らせていただきます………」
「じゃあ……二つ目の質問も…良いですか?」
フゥーと大きく空気を吸って、二つ目の質問を聞く。
「私としたい配信ってありますか?」
ゴクッ、と唾を飲む。一体、何を言うのだろうか……。一つ目のように優しい物で……!!お願いします!!!
「◯◯を擬人化?」
「……面白そう……!」
面白そうだ。擬人化か…私もあんまり、擬人化イラストとかって描いたことないな………。ネットで見たことはあるし、私も描いてみたいと思ったことはある……やってみたいかも……しれない。………というか伽羅さんもイラスト描けるんだ……何というか、意外だ。描いてるイメージがあんまりない……。
「今度……やってみたいです………!!!」
チャット
チャット
また、なんかいる……。この展開前もあったぞ……。
すごいなこの人!チャット越しにメンバーと話してるんだけど…!!私とはどうやら世界が違うらしい……。
「そういえば、明星さんって結構一期生の人たちとコラボしてるイメージが……」
そう、明星伽羅の配信内容は主に、メンバーとのコラボなのだ。私はまだ氷見月さんとしかしたことないんだけどね。ゲームや対談、企画などなど、基本的に何でもできるオールラウンダーった感じである。
意外だ……!いや、意外というか、他の人たちが有無を言わさずコラボ決定させてるだけなんだけど……。この人、明星さんは私の意思を汲み取ってくれるらしい。………そういうと他の人が悪いみたいだな。いや!そんなこと思ってないんだけど……!!何故か、理由を聞こうとした時、その前に明星さんから、その答えが返ってきた。
……え?聖女か?この人が聖人か?生まれてから今までこんないい人見たことないぞ……??
チャット
チャット
「…ありがとうございます……!!」
そして、最後の質問をする時がきた。
「あの……とても申し訳ないんですけど……」
チャット
「今の下着の色って……なんですか……?」
そりゃそうだよな……。そりゃ、答えにくいに決まってる。数時間前の私は何でこれを聞こうと思ったんだ……!!今すぐにでも数時間前の私をぶん殴ってやりたい……!
ぐっ!!!!!!!破壊力が高過ぎる……!!!
「わかりました!!!」
チャット
チャット
いけない!興奮が……!
「あっ、はい」
!!
「…ありがとうございます!!」
そう言った後、明星さんは通話から抜けていった。
「みんな、今日私は、天使と女神に会えたよ」
チャット
チャット
軽く、深呼吸をする。
「みんな!今日は長い間ありがとうございました!!出来上がったイラストはまた出すね!」
「じゃあ………おつラビー!!」
そして、私の初めての誕生日配信は終わった。
遅くなりましたが十二話です!
夜春ちゃん(夜兎ちゃん)の誕生日配信が終わってしまいましたね…。次回からはコラボ三昧になりそうな予感……頑張れ!