大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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第10話 スゥ、売られる

 

 

 海賊船に乗せられてからしばらく経つ。

 私は相変わらず、筋トレと空想に加えて、見張りの海賊さん達とのおしゃべりで時間をつぶしながら日々の暇な時間を過ごしていた。

 

 最初に声かけてきた1人以外にも、何人か気さくに話せる人が増えた。

 なんでも、『面白い奴がいる』ってことで、海賊達の間でも噂になったらしい。牢屋に入れられても物怖じせず、むしろ見張り相手に普通に話しかけてくる女の子がいる、って。

 

 それに興味を持った人達から次々話しかけられるようになって、その都度楽しくおしゃべりしてたら、いつの間にかシフト組んでる見張り番の人達ほぼ全員とそういう感じになってた。

 

 海賊さん達は、この船に乗るようになった経緯や、乗った時期が違う人が多いからか、それぞれ違った冒険譚を多く聞けて面白かった。乗っているのは同じ船なのに、10人いれば10通りのお話を聞けるってすごいと思う。

 いかにこの『偉大なる航路』が滅茶苦茶な海で、乗組員1人1人が密度の濃い冒険をして、密度の濃い人生を歩むことになるのか……ってのを見せられてる気分だった。

 

 中には、見張り番のシフトじゃないのに、わざわざ休憩時間中にお酒とおつまみ持参で遊びに来る人までいる。何か休憩室扱いされてるよね、この部屋。

 まあ、私としても面白い話を聞けて暇つぶしになるから歓迎だけどさ。

 

 ……それにしても、だ。

 こないだ海賊の人にも言われたけど、私……普通にこの船の海賊さん達と仲良く話して、色々談笑とかしちゃってるよな……

 

 平和に暮らしていた町を滅ぼされて、知り合いに友達にいっぱい殺されて、私自身もこんな風に捕まって売られそうになってるのに……普通そんなことになったら、悲しくて悔しくて、怖くて不安で、そして何より、海賊が憎くて憎くてしかたないと思う。

 

 なのにこうして私は、その海賊たちと普通に楽しくしゃべったりしてて……

 

 ……忘れてるわけじゃないんだよ、決して、そういう感情を。

 海賊達のことは憎いとも思ってるし、町は滅ぼされたことを悔しいと、皆が死んでしまったことを哀しいとも思ってる。この状況や、これからどうなるのかってことに対して、不安も怖さもきちんと感じている。

 

 けれど……何て言えばいいのかな?

 そういうのは心の中にきちんとありつつも、『今それを表に出しても仕方ない』『無駄に反抗的な態度をとっても痛い目に合うだけ。何もできない』っていう理由で、それらを心の中にしまいこんで蓋をしている。蓋をすることができている。

 

 そして、それはそれとして海賊達の話を純粋に楽しんでいる。

 蓋をしてある感情は一旦気にしないようにして……目先の知的好奇心の方を優先している。彼らとの会話を、その冒険譚を聞くのを、普通に、本心で楽しんでいる。

 

 言ってみれば、『それはそれ、これはこれ』って感じ。

 いとも簡単に、私は心の中でそんな風に折り合いをつけて海賊達と接していた。

 

 ……改めて見つめ返してみると……私、だいぶ普通から外れた感じの対応してるよね。

 私、こんな性格だったのかなあ……何もかも奪われるほどに酷い目に遭わされておきながら、こんなドライな感じで、割り切って対応できちゃうような……

 

 私……おかしいのかな? おかしいよな……

 

 

 

 そんなことを考えながら過ごしていたわけだけど……数週間後、遂にその時は来た。

 私達を売却する相手がいる島にたどり着いたのである。

 

「……シャボンディ諸島に連れていかれるのかと思ったけど、違うんですね」

 

「まあ、あそこにも『職業安定所』はあるが……むしろよく知ってるな、嬢ちゃん。何、この手の取引の場所はどこにでもあるもんなんだよ」

 

 規模としては、シャボンディ諸島のヒューマンショップには劣るものの、今の時代、人身売買は海賊やギャング、マフィアなんかにとってメジャーな収入源の1つであり、裏社会ではその手の人材を欲しがる人はたくさんいる。

 その取引のための場所は、世界中あちこちにあるんだそうだ。それこそ、グランドラインですらない、『4つの海』にすら。

 

 私がこうして連れてこられたのも、そういう名もなき取引場所の1つであり、海賊団にとって、得意先と言っていい奴隷商人の店舗だった。

 そこで私と、他の何人かが奴隷として売却されていた。

 

 そこそこいい値段で売れたみたいで、海賊の船長が嬉しそうにしていた。

 

 そんで商品(つまり私ね)の引き渡しの時、今まで仲良くしてくれた海賊の皆さんが、

 

「楽しかったぜ、お嬢ちゃん」

「奴隷商の旦那のいうことよく聞けよ!」

「新しいご主人様のところでも行儀よくしろよ!」

「いい人に買ってもらうんだぞ!」

「ぐすっ……達者で暮らせよ!」

 

 何だこの……売り払われたというか、送り出されたというか……。

 特に最後の方の人、涙ぐんでた気がしたんだが……うん、はい、頑張って行ってまいります。

 

 そんな光景を見て、ゴリラパワーの船長さんや、取引相手の奴隷商人さんは、やはりというか珍獣を見るような目で私達を見ていた。

 

 あんな風に、笑顔や涙すら浮かべて送り出される奴隷なんてみたことなかっただろうしな……。送り出される私も『元気でねー』って笑顔だし。

 うん、そらそうなるわ。

 

 ともあれ、そんな感じで私は久々に牢屋から出て、海賊船から降り……奴隷商人に売られた。

 

 

 

 買われた先……すなわち奴隷商の店に行くと、これからオークションに『出品』される奴隷達がそれぞれその時を待っていたので、彼ら彼女らと談笑しながら時間をつぶす。

 

 もっとも、皆不安でいっぱいで、話す相手になる人なんてほとんどいなかったけど。

 数少ない、比較的マシな精神状態の人達とだけ話していた。

 

 中には、『貧困国の生まれで、人さらいに捕まった後の方がいいもの食えた』なんて経歴の人もいて、色々あるもんだな、って感心させられた。

 

 さて、そろそろ私の番だな

 

 さっきちらっと言った通り、私は『オークション形式』で売られるそうだ。

 

 首についてるのは、普通の革製の首輪。けど、頑丈で壊すのは到底無理そう。

 原作のシャボンディ諸島編で出てきたような『爆発首輪』の類ではないようだけど、どっちみち私達みたいな何の力もない一般人に外せる代物じゃないのは確か。

 

 そもそも見た感じ、ここ無人島だな。オークションやるためだけにここに集められたのか。

 足もないし……うん、逃げ出すのは無理だな。

 

 ……少しでもマシなご主人様に買ってもらえることを心待ちにするばかりである。

 

 

 

 あ、呼ばれた。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

Side.三人称

 

 オークションより数日後。

 

 とある海賊団が、海の上にて……壊滅した。

 

 彼らは数週間前、愚かにも『九蛇海賊団』の縄張りである町に手を出し、壊滅させ、略奪を働いていた。

 女ばかりの海賊団など怖くない、報復に来れるものなら来てみろと高をくくって。

 『九蛇』の名を、その強さを甘く見て……そして、その代償を払う羽目になった。

 

 すでに、その海賊団は全員、海戦の末に命を散らしていた。

 

 戦いは最初から一方的。船員のほぼ全員が『覇気』使いたる彼女達に敵うはずもなく、唯一の能力者たる船長も早々に討ち取られ、降伏も命乞いも聞き入れられず。

 尋問のために残しておいた数名も、つい今しがたトドメを刺されたところだった。

 

「報告します、船長。……やはり、拉致された者達は、既に売られてしまったようです」

 

「そう……なら、追いかけるのは不可能ね」

 

 何日も前に既にオークションは開催され、奴隷商人たちも、『商品』を購入した客達も、すでに解散してしまっているはずだ。

 取引をした奴隷商人なら、なんとか追いかけて潰せるかもしれないが、それをやっても、人は戻っては来ない。

 

 海賊達へのけじめはつけさせたが、生き残った町の者達には、残念な報告をしなければならないと、『九蛇海賊団』船長・シャクヤクはため息をついた。

 

「……それと、船長。尋問でわかったのですが……」

 

「……?」

 

「どうやら、売り飛ばされた者の中に……スゥもいたようです。話を聞いて、特徴が一致します」

 

「な、なんですって!?」

 

「そんな、スゥが……」

 

「……そう」

 

 報告を聞いて部下達に動揺が走る。

 シャクヤクも……表面上は冷静な態度を崩さないが、内心は悲しみを覚えていた。

 

 『奴隷』として売られた者のゆく末がどんなものであるか、シャクヤクはよく知っていた。

 海賊という商売を続けていれば、そういう、世界の『闇』に関わり、それを知る機会など腐るほどある。 

 

 長くはないが短くもない期間、確かに『仲間』として船に乗り、苦楽を共にした少女が……今、どことも知れない場所で、過酷な運命に身を沈めてしまったのかと思うと……いつものたばこの味も、なんだか苦みが増したように感じられていた。

 

 出来ることなら助けたい。だが……行方を知るすべもない。

 

 せめて彼女が、つらい中でも無事でいることを……シャクヤクは祈った。

 故郷を滅ぼされ、海賊船に乗り、決して楽ではない船旅の中でも、いつでも笑って楽しそうにしていた彼女なら……幼さに反してどこまでも強い心を持っていた彼女なら、

 

 どんな苦境も乗り越えて、笑っていられるんじゃないか。そうあってほしい。

 そう願って、船の中に戻っていった。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 一方その頃、

 

「ぶひひひひ……いいかい、今日から僕ちんが君のご主人様だ。僕ちんの言うことは何でもよく聞いて、死ぬ気で働くんだよ、いいね?」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

(あ~……これ失敗したかな、ご主人様ガチャ)

 

 

 

 

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