大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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第102話 スゥと仕事と休暇

 

 

 ワンピース原作主人公・ルフィの手配書が出回ったってことは、原作が始まって……すでにもうアーロン一味の壊滅までは少なくとも終わったってことだ。

 

 となると多分、この後の彼らは……ローグタウン行って処刑台で死にそうになって、でもやっぱ生きてて、スモーカーさんから逃げて……『偉大なる航路』に入ってくる。

 そこからは結構なハイペースで、えーっとウイスキーピーク行ってビビ拾って、リトルガーデンにドラム島、チョッパー加入からのアラバスタ王国だっけか。

 

 もう30年以上も前のことなのに、結構覚えてるもんだな。偉いぞ私。

 

 で、まあ、そんな感じで原作勢がこれからたどる道筋は思い出せたわけだけども……別に私は、その旅路に合流したいとか、それを眺めていたいとか思ってるわけではない。

 

 全然興味がない、というわけでもないけど……もう私も、この世界に生を受けて34年だ。

 私にとってこの世界はもう、『ワンピース』という物語の世界というより、自分がこうして生きている1つの世界という認識である。原作の物語をたどったり、あるいはそこに介入して楽しみたいとか……そういう気持ちも、今となっては特にないのだ。

 

 もしかしたら、私がこうして生きてこの世界に加わったことで、もうすでに『原作』から離れた部分とかが生まれてるかもしれないしね。

 

 ……なんだかんだで、一部のキャラに関してはだいぶ深くかかわった自覚あるし。

 レイリーやシャッキー、はっちゃんにハンコック、あとは……パパとかもか。

 

 もちろん、その『原作知識』を生かして、楽しめる部分は楽しんでいきたいとは思うものの、今言ったように、積極的に何かしら介入しようとか、そういうことは特に考えてない。

 

 だから今までもこれからも、私は自分から彼ら……『麦わらの一味』には関わらないつもりだ。せいぜい、新聞でその活躍を読むなり何なりして『頑張ってるなー』とか思う程度だと思う。

 

 もっとも、そのスタンス自体ももしかしたら、この先変わっていく……かもしれないけどね。

 結局、未来のことなんて、いざ来てみないとわからないとこあるし。

 

 それに、あくまで基本的にはそうであっても、何か特別に理由があれば、その時は関わりを持つ機会がないとも限らない。

 

 例えばそう、もうしばらく後に……直接彼らに関わるつもりはなくとも、その原作のストーリーが展開される場所に、ちょっとだけお邪魔するつもりでいるから。

 もしかしたらその時に、原作キャラの誰かに会う、かもしれないね。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 で、やってきたわけだが。

 

(これは……砂漠の国だってことを差し引いても、熱気がすごいな。戦争って怖いわ)

 

 ただいま私は、アラバスタ王国の王都・アルバーナにいます。

 適当な高い建物の上に登って、眼下に広がる光景……反乱軍と国王軍の衝突を見下ろしている。そう、アラバスタ編最終盤のアレである。

 

 ビビと麦わらの一味が反乱軍と国王軍の衝突を止めようとして、けどBWの妨害に遭って結局止められず、戦いが始まってしまう。

 その裏で、BWと麦わらの一味の戦いが始まって……という場面。

 

 それも、始まってからもう割と時間が経っている。ついさっき、王宮の中でドでかい砂嵐が起こって、その一角が砂になるのが見えたし、ルフィとクロコダイルの戦いも進んでいると見た。

 そこからさらにもうしばらく経つので、そろそろ……

 

 

 お、時計台の文字盤が開いた。

 

 そこから、大きな鳥が飛び立って、巨大な丸い何かを上空に持ち去っていき、

 

 

 ド ォ ン!!

 

 

 雨が降り始めた。

 

 ほぼ同時に、王都の一角の地面が吹き飛んで、中から……クロコダイルが飛び出してくる。

 というか、ルフィに殴り飛ばされたわけだが。

 

 ビビの、チャカの、イガラムの、そしてコブラ王の言葉が響き渡り、彼らは真実を知る。

 戦場の狂気が収まり、涙に変わっていく。

 

(さて、じゃあ……今のうちに)

 

 コブラ王は、最初、『歴史の本文(ポーネグリフ)』が安置されている地下聖堂にいた。

 ルフィとクロコダイルの戦いの決着も見届けた。

 

 彼がここにいるのは、その後にルフィが、ロビン共々助け出して地上まで連れてきたからだ。

 

 ということは、今、その『歴史の本文』があるここ(・・)には、もう誰もいないというわけで。

 

「うっわ、もう崩れる寸前じゃん……あんまり長くはもたないな」

 

 さっき、クロコダイルが飛び出てきた穴から、体を紙にして入り込んだ私は、その『歴史の本文』の前に立っていた。

 これがそうか……わかっちゃいたが、大きいな。

 

 そして……やっぱり全然『読めない』。

 

 部屋の崩落は、これも紙をあちこちに張り付けて補強する形で防いでるが、それでも長くはもたないだろう……さっさと用事を終わらせよう。

 じゃ、さっそく。

 

「もらっていきますか……“エニグマ”!」

 

 私が触れた瞬間、能力が発動し……『歴史の本文』が変容していく。よし、上手くいった。

 

 どでかい立方体だったそれは、見る見るうちに小さく……いや、『薄く』なっていき、数秒もしないうちに、同じ大きさの1枚の紙になってしまった。

 私はそれをくるくると巻き取って、いつものように体内に収納してしまう。

 

(ロビンが読んだ後だし、別に誰が必要とするわけでもないだろうから……もらっちゃっていいよね。これはパパへのお土産にするとして……おっと、早く脱出しないと生き埋めになっちゃうな)

 

 そろそろ支えてるのも限界だ。

 私は体をまた紙に変えてばらけさせ、崩れ落ちてくる瓦礫の間を縫って飛翔。さっさと地下空間を後にしたのだった。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 その後、私は特に原作キャラの誰と会うこともなく、アラバスタを後にした。

 

 船には今回もお供であるハニーを待たせてあったので、今は彼女に操船を任せ、電伝虫で知り合いとちょっとしたお話をしているところだ。

 相手は私の、『海賊文豪』としてのお得意様。

 

『クワハハハ、なるほど、やはりこの一件、裏で動いていたのは『麦わらの一味』か』

 

「お? 『やはり』ってことは、あらかた予想ついてたの、モルガンズ?」

 

 今や世界最大規模の新聞社の社長を務め、表裏両方の世界にその名を知られる男。

 『新聞王(ビッグ・ニュース)』ことモルガンズである。

 

『それはもちろん、少しでも情報というものに通じている者なら、今回の件の内情を察することは難しくないからな。大方、色々と慌てて包み隠そうとしたんだろうが、毎度のことながらずさんな隠蔽だよ』

 

 モルガンズ曰く、

 

 クロコダイルは腐っても『王下七武海』だ。海軍本部の精鋭とはいえ、大佐程度が雑兵を揃えたくらいで勝てるような相手じゃない。

 『犯罪結社』のボスとして、名の知れた犯罪者である部下達を率いていたのならなおさら。

 

 それ以上の将校クラスを動員した様子もないし、そもそもアラバスタ周辺は、海軍と政府が、他ならぬクロコダイルを信頼して、ほとんど海兵を常駐させていなかったのだ。動員できる戦力が都合よく揃ってるわけがない。

 

 加えて、なぜか偶然その渦中のアラバスタ、あるいはその付近にいたらしい『麦わらのルフィ』の懸賞金が、一億の大台にまで上がった。

 何か、事件らしい事件が起きたわけでもないのに、いきなり上がった。不自然。

 

 他にも細々とした情報・疑念はいくつもあるが、それらをひっくるめて考えれば、『クロコダイルを倒したのは麦わらのルフィ。海軍と世界政府は面子のためにその事実を隠蔽し、手柄を横取り。スモーカー大佐を英雄に仕立て上げた』という形になるわけだ。

 

『面白い事実ではあるが、残念ながら今回は記事にはできんな。さほど機密性の高い情報とは言えんし、政府に睨まれるのと天秤にかけるにしては、インパクトが小さい』

 

「そっか、そりゃ残念」

 

『だが、今度アラバスタ王国に関する特集記事を組むことになってね。やばい事実には触れずに、紛争が起きた国家の凄惨な現実とかそのあたりをフィーチャーしようかと思ってるんだが……スゥ、またコラム頼めるか? ちょっと時間がないんだが』

 

「そう言うと思って色々取材して、何ならもうすでに色々書いてあるよ。もちろん、こんな感じで書いてくれっていうリクエストがあれば今からでも書くし」

 

『クワハハハ、さすがだ先生! よし、今アラバスタ王国の近くだな? そこからだと、ちょうど今、うちの特派員がその近くにいる。お互いに移動して中間地点あたりで会うとして……キューカ島で会うのが一番近いな。すぐ向かってくれ! 記事の内容は……』

 

 そのまま電伝虫でモルガンズから話を聞き、どんな感じで書いてほしいかをまとめてから、通話を終了。

 

 横で聞いていたハニーが『目的地変更ね』ってため息交じりに言って舵輪を回してくれた。

 うん、ごめんだけどよろしくね。お詫びにキューカ島では羽を伸ばしてゆっくり遊ぼうね。

 

 引き続き操船はハニーに任せ、私は今から、モルガンズのリクエストに沿った形で記事を書いていく。

 

 机の上に、使い慣れたペンとインク瓶を置き、原稿用紙を広げる。

 モルガンズから指示のあった文字数のあたりに目印をつけ、その文字数に収まるように、頭の中でしばし書く内容を組み立てていく。

 

 その後、執筆開始。

 

 ―――カチンッ! 

 ―――ガガガガガガ……

 

「……いつもながらとんでもない速さね、それ……」

 

 呆れと感心交じりでハニーがそう言う。

 その視線の先で私は……まあ確かに、自分で言うのもなんだけど、常軌を逸した速さで文章を書き上げていた。

 

 手は軽く残像ができるくらいの速さで動いてるし、金属のペン先が走った紙の上から、摩擦熱で小さく煙が上がり、わずかに焦げ臭いにおいがしてきている。

 なお、この熱のおかげで、速乾性ってわけでもないのに、インクが速攻で乾く。別に狙ってはいないんだが、嬉しいおまけである。

 

 それでいて、これも自画自賛だけど、字は丁寧だしインクが飛び散ったりもしていない。紙にしわが寄ったりもしないし、そもそも原稿用紙のマス目からはみ出しすらしていない。

 時折『カチンッ!』の音とともにインク瓶の中にペン先を突っ込んで補充しつつ、書き続ける。

 

 20年近く物書きなんか続けて、しかも戦闘面の修行と同時進行で鍛えていた間に、こんなことができるようになっちゃったよ、私。

 

 とか考えている間にはい完成。

 

 モルガンズに指定された文章量、400字詰め原稿用紙3枚半。

 執筆に要した時間、およそ1分弱。まあまあだな。

 

 まあでも、こんだけのスピードで書けたのは、書く内容を単語レベルであらかじめ考えておいたからだ。

 考えながら書くとなると、さすがにもっと時間はかかる。いつもの小説とかね。

 

 ここから、キューカ島の特派員とやらと一緒に、内容を整理したり、言い回しを変えたり、削ったりつけ足したりといった編集作業を行って草稿(ゲラ)を作っていくわけだが……ま、今の時点ではこんなもんでしょ。

 

「よーし仕事終わった。ハニー、そろそろ着く?」

 

「着くわけないでしょうが、まだ進路変更して5分も経ってないわよ」

 

「あっはっは、冗談冗談。安全運転でよろしくね」

 

「はいはい、途中で代わってよね」

 

 笑いながらうなずいておく。

 

 キューカ島か……行くの何気に久しぶりだな。

 せっかくだし、一番いいホテルに泊ってしばらく滞在しよう。食べ物もおいしいんだよね……何食べようかな。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 その数日後には、私とハニーは無事、キューカ島に到着。

 

 すでに到着していた『世界経済新聞社』の特派員さんに原稿を渡し、その場で色々と内容のチェックやら打ち合わせやらを終えた。

 

 あと、何かに使ってくださいってことで、取材中に色々な場所の写真を取っといたやつも資料として渡しておいた。

 普通の新聞記者じゃ危険すぎて行けないような場所の写真も何枚かあるので、モルガンズになら喜んでもらえると思う。

 

 特派員さんは、最終校正は本社で行いますので、と言ってさっさと帰っていった。

 報酬はいつも通り裏から、海軍や政府に睨まれない形で私に渡るようにしてくれるそうだ。

 

 そんな感じで仕事は早々に終わったので、じゃあ後はバカンスだってことで、高級ホテルの一番いい部屋―――屋上のペントハウス(プール付き)を1週間ほどまとめて借りて滞在開始。

 

 美味しい食事、楽しい娯楽、購買意欲をそそる様々な品々……『キューカ島』の名の通り、休暇を楽しく過ごすためには事欠かないラインナップが揃っている島だ、ここは。

 このまましばらく、仕事のこととか色々忘れて普通に休暇を楽しむつもりだ。

 

 

 

 ……いや、そのつもりだったんだけど……。

 

 

 

 それは、滞在4日目あたりに起こった。

 

 プールサイドにビーチチェアーを置き、ハニーと2人、水着姿になって、トロピカルなドリンクを片手に日光浴しながら優雅なひと時を過ごしていた。

 ……プール付きの部屋借りといてアレだけど、私ら2人とも、能力者だから泳げないからね。プールに入るって選択肢がね、ないのよ。何やってんだろね。

 

 で、そんな時に……それは、やってきた。

 

 やってきたというか、降ってきた。

 

 

 

ゃぁぁぁぁあぁぁあああああぁああ―――っ!?

 

 

 

 ―――ドッッボォォオオォン!!

 

 

 

「ぅ、んぇっ!?」

 

「な……何!?」

 

 

 突然、何かが空から降ってきて……盛大な水音と水柱を立てて、プールに落下した。

 

 悲鳴、みたいなものが聞こえた気がする……ってことは、人!?

 

 びっくりして起き上がった私とハニーが、水しぶきがちょうど収まったところだったプールを見ると……そこには、3人の人間が。

 内1人は浮いていて、2人は……沈んでいる。

 

 浮いている1人は……なんかリンゴのような赤いほっぺと、幼稚園児みたいな恰好と、小さな体が特徴的な少女だった。

 着水の衝撃で目をまわして気絶してしまっている。

 

 そして沈んでいる2人は……金髪にワンピースの若い女性と、サングラス(運よく外れてなかった)と、毛の広がったボンバーヘッドにロングコートといういで立ちの男性だった。

 

 ……あれ、何だろ……見覚えあるな、こいつら?

 

 特に、浮いてるちっちゃい子の方は……

 

 

 

「……え、マリアンヌ?」

 

 

 

 

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