―――ぱくぱくぱく……もぐもぐ……がつがつがつ……
私の目の前で今、1人の少女が一心不乱に料理を食べている。
それを私は、にこやかな表情で、見守るような感じで見ている。おいしそうに料理を食べる子供の、微笑ましい様子を見るような気分で。
ぶっちゃけ見た目がまさに子供というかそんな感じだし、私(34歳)からすればそんな風に見えてしまっても仕方ないと思うの。
実年齢はそこまで子供でもないとはいえ、それでも16歳。私の半分以下だし。
彼女の名はマリアンヌ。
これは本名だけど……原作のファンの方々には、『ミス・ゴールデンウィーク』と言った方がわかるかもだな。
その彼女の隣には、同じようにテーブルについている2人の男女。
それぞれ、Mr.5、ミス・バレンタインというコードネームを名乗っていた方々が、同じようにテーブルについて……しかし、緊張した面持ちで座っている。この2人の本名は知らない。
3人とも、そろって『バロックワークス』の残党である。もちろん指名手配中。
「おかわり」
「はいはい、どうぞ。……そちらのお2人も、遠慮せず食べなよ。お腹空いてるんでしょ?」
「えっ!? あ、あの……はい、どうも……」
「あ、ありがとうございます……」
マリアンヌと違って目の前の食事に手を付ける様子がないので、うながしてみるけど……やっぱまだ緊張してるみたい。
いや、どっちかというと怖がってるのかな? 理由は……私か。
これでも7600万の賞金首だからね。この2人、4000万かそこらのレベルでびびる程度の戦闘力だったはずだから、警戒されても仕方ないと言えばそうだ。
賞金稼ぎ結社としての側面も持ってる『BW』の一員なら、私の顔も当然知ってるだろうし。
そんな3人が揃ってなんでこんなところ(ホテルの私の部屋)にいて、そして何で私がこうして彼女達を普通にもてなして、ルームサービスで食事なんかご馳走しているのかというと、だ。
簡単に言えば、私とマリアンヌが知り合いだからである。
私が『海賊文豪』として活動する際、小説にしろ絵本にしろ、担当できるのは文章のみだ。
私には残念ながら絵心はそこまでないので、小説に入る『挿絵』は、会社が見つけてくれた絵師の人に頼むことになる。
で、マリアンヌは過去に何度か、私が書いた小説の絵師を担当してくれたってわけだ。
思わぬ形で、思いもかけない場所で原作キャラと知り合うことになって、当時はびっくりしたのを覚えている。
まだ『バロックワークス』に入る前の彼女と、何度か直接会って話したこともある。
お互いにその頃から裏社会の住人だったからか、顔を合わせるのにも逆に不都合がなかった。
その頃からマイペースというか、割とだらけ切った性格で……最初は私にも、仕事相手だとしてもあんまり興味もなさそうな感じだった。逆に、今と同じで緊張もしてなかったな。
高級お菓子おごってあげたらなんかすぐ懐かれたけど。
そんなマリアンヌが、同僚(?)2人と一緒になぜか私が借りてる部屋のプールに落ちて来たもんだから、いやーびっくりした。何事かと思ったよ。
とりあえず助けてあげて、お腹空いてるみたいだったので、部屋の中に招待して(ずぶ濡れだったので服は適当に着替えさせた。今ルームサービスで洗濯中)食事をご馳走してる、ってわけ。
マリアンヌはもともと私と知り合いだったのに加え、生来の気質がああなので、普通に遠慮なく食べて……残り2人も、おずおずとだけど、ようやく料理に手を付け始めた。
しばらくして落ち着くのを待ってから、デザートを食べてる最中のマリアンヌに事情を聴いた。
が、相変わらず口数が少なくて説明が苦手っぽいので、残り2人が補足しつつの説明になった。
さっきも言った通り、この3人はバロックワークスの残党である。
しかし、『リトルガーデン』での戦いの後、島に取り残されてしまい、つい最近までサバイバル生活をつづけていた。そのため、アラバスタ王国での一件に合流できなかった。
先日ニュース・クーが運んできた新聞を見て、バロックワークスが壊滅したことや、その一件に関わった、同僚であるメンバー達が――中には一部、見たことも会ったこともない人もいたが――逮捕されたことを知った。
いつものんびりだらけてる感じの性格のマリアンヌだが、これで結構仲間思いなところがある。
捕まっている同僚達を助け出すべく、リトルガーデンを脱出して監獄(この時点だとまだ留置所)に向かっているところだったそうだ。
その際、『カラーズトラップ』で恐竜を操って飛んでたんだけど、その途中で雨でインクが流れて暗示が解けてしまい、振り落とされてしまった。
で、落ちた先がここ、私が借りてた部屋のプールだった……ということのようだ。
「ごちそうさま。美味しかった」
「はい、お粗末様。そっちの2人も、もう大丈夫?」
「あ、ああ」
「ええと……ご、ごちそうさまでした」
『リトルガーデン』では、持ち込んだ食べ物以外は、恐竜の肉とか果物ばっかりだったらしい3人は、久々に食べるという文明を感じる料理を堪能した様子だった。
最後の方、Mr.5とミス・バレンタインも結構楽しんで食べてたみたいだったしね。
……若干、もうどうにでもなれっていう自棄な感じがあった気もしたけど。
さて、じゃあまあ、腹ごしらえもして落ち着いたところで、この後どうするのか聞いてみた。
「乗せてって」
「おっと、初手でいきなり要求から入ってきたか。……まあ予想はできてたけど」
ここでも相変わらず言葉足らずなマリアンヌの言いたいことを、ちょっとばかり想像で補いつつ翻訳してみると……引き続きというか、海軍留置所に仲間を助けに行きたいから、そこまで送ってもらいたい、と言ってるんだろう。
恐竜に乗ってここまで来たって(そして墜落した)ってことは、ここからその留置所まで行くための足がないってことだ。
というか、この島を脱出する手段がそもそもあるまい。
彼女達なら、船を借りるなり盗むなりしてどうにか足を確保する手もあっただろうが、幸いにも知り合い(私ね)がこの島にいたので、ちょっと助けてというか、手伝ってもらおうと考えた。
私が1人、ないしは少人数であちこち回ってるのも、マリアンヌは知ってたはず。行きたいところに送るくらいは協力してもらえるかな、とか思ったのかも。
まあ、個人的にはマリアンヌのことは嫌いじゃない。
普通に友人としても仲はいい方だと思うし、何度も私の小説に美麗なイラストを描いてもらったって点でお世話になってるし――マリアンヌ的には単なる仕事だったとしても――困っているなら、できれば力になってあげたいと思う。
ただ、彼女の目的のことを考えるとなあ……要するに、留置所襲撃して、犯罪者を脱獄させようっていうことでしょ? 完全に海軍とかに喧嘩売る形になるタイプの悪行だなあ……。
あんまり海賊ないし犯罪者らしいことやると、結構本格的に海軍に睨まれることになるから、私普段、そういうのあんまりやらないんだけど……。
百歩譲ってやるとしても、そういう時は隠密に最大限気を使って、バレないようにやるし。こないだのアラバスタの『歴史の本文』の時みたいに。
いやまあ、どの道賞金首なんだから、今更と言えば今更だけどさ。
睨まれるようなことをしようがしまいが、海軍は普通に私のこと捕まえに来るし……そもそも私自身、完全にクリーンな身の上じゃない。海賊扱いされるようになってからは色々あったし、色々やってる。
まだ公になっていないとはいえ、今の私の『立場』のこともあるし……心情的にはともかく、人のこと言えたもんじゃない。
しばし悩んだ末に、
「ま、いいか」
「「「!」」」
「近くまで乗っけてあげるだけだよ? さすがに、そのお仲間を脱獄させるための戦闘とか小細工に協力することはできないからね。そこは自分でやって。それでもいい?」
留置所に乗りつけるのもダメ。たしか海軍のそういう施設は、1つの島がそれ単体のための目的で管理されてる場合が多いから、隠れて乗り付けるのも難しい。
その近くの島までならなんとかなるから、そこからは船を借りるなり盗むなりして自力で何とかしてもらうことになる。
「うん、大丈夫。ありがとう」
とりあえず、足としてだけ協力してあげることにした。
バロックワークスのお仲間達を助けるのは、マリアンヌ達できちんとやること。私にそこまでする義理はないってことで、そのあたりには手は貸さない。
これくらいならセーフでしょ。
何がセーフかって? 私の価値観というか、独断と偏見的な基準、かな。
「そちらのお2人さん……ええと、Mr.5とミス・バレンタインだっけ? そっちもそれでいい?」
「あ、ああ、もちろんだ。運んでくれるだけで十分助かるよ」
「そうね……そこから先は私達でやるわ。もともとそのつもりでいたわけだしね」
「なら結構。じゃあハニー、ちょっと予定よりは早いけど、支度して。ぼちぼち出発しないと」
「かまわないけど……もうしばらく待てないかしら? 今動くのはちょっと危険そうだから」
と、ハニー。
水着の上にパレオを着て、ドリンク片手に引き続き優雅な時間を過ごしていたようだ。
シャワーで軽く汗を流した後なのか、髪の毛がしっとりと湿っていて、色っぽい。
「危険、っていうと?」
「今この島に、結構な数の海兵が来てるみたいなのよ。『バロックワークス』の残党狩りで、ね」
それを聞いてぎょっとする3人。
まさに彼女達3人がその『残党』だからだろうけど……それ以上に『何で!?』とも思ってるだろうな。今さっき、しかも偶然このキューカ島に『墜落』したところだったのに、何でもう追手がここに来ているのか、って。
が、どうやらそれは勘違いである。
この島にいる海兵が探している『残党』ってのは、彼女達のことじゃなかったのだ。
ハニーはテーブルの上においてある新聞を手に取る。
これは『世経』ではなく、このキューカ島で独自に作られている地域ローカル的なやつだ。このホテルに泊まっている人には、無料のサービスとして毎朝の朝刊が届けられる。
その中に挟まっていたチラシを2枚抜き出して、こちらに見せてくる。
そこに乗っていたのは……
「! Mr.3!」
「と、このオカマもか! こっちは……捕まったけど脱走したって書いてあるな」
「Mr.2の能力ならそれも可能ってことね……彼らもこの島にいるの?」
かつての自分のパートナーの写真を見て、思わずその名前を呼ぶマリアンヌ。
同時にMr.5とミス・バレンタインも、もう1枚の手配写真に書かれた、ワンピース世界屈指の人気キャラであるオカマの顔に反応していた。
Mr.3だけでなく、こっちも知り合いだったみたいだ。原作での絡みはなかったはずだけど。
「どういう情報でそう判断したのかはわからないけど、海軍はそう思っているみたいね。そうでなくとも私達は賞金首だし、目当ての『残党』じゃなくても見つかれば騒ぎになるわ。無駄に騒ぎを起こすのも馬鹿らしいし……少し待って、海軍がいなくなった後か、警戒が緩んだタイミングで出発したほうがいいんじゃないかしら」
「……わかった」
ハニーの提案に、うなずいて了承するマリアンヌ。他2人も異論はないようだ。
早く仲間を助けたい気持ちはあるだろうけど、そのために逸って行動して、逆に墓穴を掘って捕まりました、じゃ元も子もないからね。
「けどよ海賊文豪、待ってる間にあいつらが、留置所から監獄に護送されちまうってことはねえのか? 危険でもなるべく早く動いた方がいい気がするんだが……」
「いえ、それは多分、大丈夫だと思うわ」
Mr.5が少し不安そうに言うけど、それに反論を返したのは、テーブルの逆側にいたミス・バレンタインだった。
「どうして?」
「護送するなら一気に全員運ぼうとするはずだからよ。犯罪者を輸送するわけだから、それなりに設備も戦力も整った護送艦が用意されるはず。ましてやボス……サー・クロコダイルなんて大物もいるわけだし、将官クラスが確実に来ると思うわ。そんなの頻繁に用意できないし、なんなら、今探してる『残党』もなるべくまとめて運ぼうとするはずよ。同じ案件の関係者だから、なおさらね」
「なら、アラバスタでこの一件が起こったのはつい最近だから……諸々の手続きを考えれば、急ぐ必要はない、ってことね。それなら逆に、この島が静かになったと同時に動くのは、タイミング的にはちょうどいいんじゃないかしら?」
ミス・バレンタインに続く形で、ハニーもそう言う。
「ただもちろん、逆に余裕があるわけでもないわ。この島から海兵がいなくなるってことは、護送を止めておく理由が消えるってこと。そうしたら、留置所に捕まってる彼らも運ばれてしまう」
「なら最善は、護送を止める理由が健在……警戒は緩んだが、まだ『残党』が捕まっていないうちにどうにかして島を出て、留置所を襲撃するってことか? おいおい、タイミングがシビアだな」
「ギリギリのタイミングを狙うのは難しいから、むしろ、見つからなくてちょっと海兵の気が緩んだタイミングですぐに動く方がいいと思うわ。残党狩りが今日から始まったのなら……2、3日後かしら。もちろん、様子を見ながらだけど」
すらすらとそんな感じのスケジュール管理が出てくるミス・バレンタイン。裏稼業だとしても、やけに手馴れてる感があるけど……ひょっとして、こういうの得意?
「……ミス・バレンタイン、詳しいのね」
「まあ、ね。私、もともと運び屋だったから、海軍とかの警戒が緩んだタイミングで動くのは、割と昔から慣れてるの」
へー、そうなんだ。
んじゃまあ、ひとまず今日はこのまま宿で一泊するってことで。
島の警戒がちょっとでも緩んだタイミングで、ささっと移動して出ることにしようか。目立たないように。場合によっては早めに切り上げて出る必要があるかもね。
その場合はホテル側には……予定が変わったとか適当に言っとけばいいか。宿泊代の返金は求めないって言えば、悪い顔はしないだろう。
「あ、それとお2人さん。名前教えてもらってもいい? コードネームじゃなくて本名」
と、話を終える前にMr.5とミス・バレンタインに聞いておく。
「かまわないけど……何で?」
「街中でそんな、コードネーム感丸出しの名前呼ぶわけにはいかないでしょ? 目立つし、人の記憶にも残っちゃうし。本名嫌なら偽名でもいいけど、呼ばれてわかんないとかならないように注意してね」
「いや、本名でいい……ジェムだ」
「私はミキータ。思えば、他人に名前を名乗るのなんて久しぶりね」
「違いない。ここ数年、ずっとエージェントとして動いてたし……互いの本名すら今知ったしな」
「社訓が『謎』だから仕方ない。私はマリアンヌ」
マリアンヌはもう知ってたけど、私にってよりは、他の2人やハニーに対してだったようだ。
今Mr.5とミス・バレンタイン……もとい、ジェムとミキータが言ってたように、彼女達3人も互いの名前を今まで名乗らずに行動してたわけだし。
……名前も知らない、けど確かに長い時を一緒に過ごした、仲間と呼べる相手のために、何の迷いもなく命を懸けて戦える覚悟……美しい友情…………あっ、何か思いつきそう。
インスピレーションが、創作意欲が……いいのが書けそう。
………………
「ごめん、やっぱ出発来週とかでもいい?」
「「「何で!?」」」
「あんた、またでしょ……」
ガビーン、って感じの表情になる3人と、私の性格と行動パターンをわかっているハニーの呆れた視線を受けることになった。
無理か、無理だよね。仕方ない、船で書こう。
☆☆☆
その日の夜。
海軍が臨時に設けている駐留所にて。
この島に来ている海兵達の指揮官である将校が、2名の部下……変わった形のサングラスの海兵と、両手に鋼鉄のメリケンサックをはめた海兵の報告を受け取っていた。
「初日は成果なし、か……まあ、そんなに早く結果が出はしないものよね。辛抱強く探しましょう」
「了解しました、大佐殿! 引き続き我々一同、全ッ力で残党共を捜索いたします!」
「島の主要な港はもちろん、船を隠せそうな入り江なども発見次第捜索・警戒進めておりますので、どうぞ吉報をお待ちください!」
「頼むわよ。政府もこの件は重く見てるから、きちんとケリをつけないとね……」
「ただ、大佐殿。どうやらこの島に、他の海賊などの目撃情報もいくつかあるのですが……」
「まあ、元々色々なアウトローがお忍びで来ることもある島だから、それは仕方ないわ。現在優先すべきはBWの残党狩り、この点に変更はなしよ。もし何かしら看過できないようなことがあれば、その時に対応する。……ちなみに、今この島にいると思われる海賊って誰かわかる?」
「こちらにリストと手配書を用意しております!」
「それと一緒に花束も用意しております!」
「花束はいらないわ。リストだけちょうだい」
「「…………」」
その女海兵は、縦線効果を背負って落ち込む部下二人からリストを受け取ると、簡易的に冊子のようにまとめられているそれに目を通していく。
そして、その何ページ目かで、よどみなく動いていた手をふいに止め……
「…………ヒナ驚愕」
そこに載っていた、ある見知った女性の顔を見て、思わずといった様子でつぶやいた。