大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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第108話 スゥとミーツバロック(終了)

 

 

Side.三人称

 

「そうか……お前が居ながら逃げられるとはな、バスティーユ中将」

 

『申し訳ありません、センゴク元帥。この身の処分はいかようにも』

 

「いや、いい……不測の事態がいくつも積み重なった結果だ。それに……クロコダイルを含めた、その他の重要な囚人は無事に護送できたわけだからな」

 

 グランドラインの中間地点、『シャボンディ諸島』からほど近い位置にある町……マリンフォード。

 そこにある、世界中の正義の戦力の中枢『海軍本部』。

 

 その一室で、海軍本部『元帥』の地位に就く男……『仏のセンゴク』は、電伝虫越しに部下であるバスティーユ中将からの報告を聞いていた。

 

 元々彼は、今現在大きな話題になっている、アラバスタ王国国家転覆未遂事件の最重要被疑者であり、秘密犯罪結社『バロックワークス』の社長だった男……元“王下七武海” 海賊サー・クロコダイルの身柄の護送のため、軍艦を率いて留置所に出向いていた。

 しかしそこで、クロコダイル及びその他の『バロックワークス』構成員数名を奪還するために島にやってきた残党達、およびその協力者と戦闘することになる。

 

 もっとも、バスティーユ中将からすれば、その疑いがあることは最初から分かっており、奪還を阻止するために早めにそこに赴いた背景もあったため、交戦したこと自体は何も問題はなかった。

 

 問題だったのは、そこで戦った『協力者』……『海賊文豪』スゥとの戦いの末に、彼女及び協力関係にあったバロックワークスの残党達を取り逃がしてしまったことだ。しかも、留置所内に収容していた一部の構成員をも奪還される形で。

 主犯たるクロコダイルを含めた幹部格の一部がなぜか逃げ出さず留置所にとどまっていたこと、そして追加で2名の構成員を確保できたことは、幸いと言えたかもしれないが……。

 

「ここのところ10年以上、目立った事件を起こす様子もなかった……それどころか、『偉大なる航路』から離れていたらしい、穏健派の『海賊文豪』が、なぜ今になって……」

 

『真偽のほどはわかりませんが、個人的に親しい相手が『バロックワークス』の残党、ないし構成員の中にいたようで……それに協力する形で今回の奪還に協力したとのことです』

 

「それについては調べさせてみよう。問題は、それをお前が取り逃がしてしまったこと……いや、より正確に言えば……お前ほどの実力で、『海賊文豪』を捕らえられなかったこと、か」

 

『……言い訳がましくなってしまうのですが、あの女の懸賞金額は明らかにその実力に合っていません。早急な額の更新を進言いたします』

 

 単純な剣術の腕でも、本部中将と渡り合うレベルなのに加え、攻防に変幻自在に働く、『パサパサの実』能力の習熟度合い。

 そして何より、実戦レベルで『覇気』を習得しているという事実。

 

 特に『覇気』に関しては、『偉大なる航路』でも、前半の海にいる者では、使えないどころか存在すら知らないものが大半である。これを使えるという一点が、『新世界』で通用しうるかどうかの目安の一つとまで言われている、重要かつ強力なスキルだ。

 地力がしっかりしている者がこれを使った場合、掛け算式にその力は強力になり……懸賞金額が億の大台を軽く突破することになる者も珍しくない。

 

 実際、一億二億程度の賞金首ならば単騎でねじ伏せるバスティーユが、程度こそ軽けれど少なくない傷を負い、自慢の得物である『鮫切包丁』は、研ぎ直しどころか打ち直しが必要になったという報告だったのだから。

 

 その後、バスティーユ中将は付け加えるような形で、電伝虫越しにいくつか報告をする。

 センゴク元帥はそれらを聞いた上で、

 

「なるほどな……よくわかった。それらの件についてはこちらでも検討を進めよう。ご苦労だったバスティーユ中将。護送任務が完了し次第、本部に帰投したまえ」

 

『はっ! では、失礼いたします!』

 

 電伝虫が切れた後、役目を終えたそれから視線を外し……センゴク元帥は、イスに深く座りなおして息をつく。

 

「『海賊文豪』か……できることなら、穏健派のまま、波風立てずにいてくれれば楽だったのだが」

 

 ちらりと、自室の本棚に目をやる。

 そこには、軍学書などのいかにも軍人らしい愛読書に混ざって、いくつか大衆向けの物語ないし小説のようなものが入っていた。

 そしてその中には、今話題に上った『海賊文豪』ことスゥの著作もいくつかあった。

 

 

『仁義なき海戦(たたかい)

 

『大洋にほえろ』

 

『北の海から』

 

 

 海軍に籍を置く物としては、海賊が書いた書籍を置いておくことは好ましくはないのかもしれないが、特に何もいかがわしい啓発の類が書かれているわけでもなく、本当に何の変哲もない、ただ面白いだけの物語である。中には部下から勧められたり、贈られて読んだものもあった。

 

 そもそも、センゴク元帥が彼女の本を読んでいるのは、彼女が指名手配される前からであるし、彼女の首に懸賞金がかかる原因になった理由が何であるかも知っていた。

 

 ゆえに、大っぴらに言うようなことこそなけれど、別に撤去するようなこともなく、本棚にこうして置いてあるままだし、たまに気が向いた時に目を通したりもしていた。

 彼女が世間的に悪者になったからと言って、彼女が今まで書いた本を捨てるだの燃やすだの、そんなことをしても意味がない、虚しいだけだというのはわかっていた。

 

 ……ただ、必ずしも世間や、海軍が掲げる『正義』はそう考えるとは限らない。

 自分の部下には、『悪は可能性から根絶やしにする』という苛烈かつ徹底的な、しかしそれゆえに強く支持されている信条を持つ男もいる。

 

 時に正義は、その考え方に則して動かなければならない時もある。それを彼は知っていたし、今迄に何度もそういう場面を経験していた。

 それこそ、本人、あるいはその周囲にそのつもりがない……あるいは、そもそも本人達にはどうしようもないことですら、それを『悪』と定めて罰せざるを得ないようなケースすら。

 

 例えば、そう……

 

「出自を考えれば、懸念ではあった。政府の思惑と、混乱を避けるために周知してはいなかったが……これ以上何か、こちらに弓を引くようなことになるようであれば、相応の対処をせざるを得ないだろうな」

 

 ふと、センゴク元帥は窓の外を見る。

 雲一つ、とまでは言わないが、透き通るような青空が広がり、日の光が降り注ぐ好天だった。

 

 その、遮るものが何もない空が見えるのを見て、彼はどこか安心しつつ、机に向き直った。

 

 

☆☆☆

 

 

 今回の奪還作戦……後になってから『ミーツバロック作戦』とマリアンヌ達が名付けていたそれの結果としては、おおむね成功、と言ってよかったと思う。

 しかし同時に、苦い思い出が残る決着でもあった。

 

 留置所からは、ミス・ダブルフィンガー、ミス・メリークリスマス、Mr.4、およびその愛犬(愛銃?)ラッスー、それと、ボンちゃんの部下達を救出できた。

 

 しかし、Mr.0ことサー・クロコダイルと、Mr.1ことダズ・ボーネスの救出には失敗。

 というか、『気分が乗らねェ』という理由で、その2人は自分から脱獄を拒否したらしい。……予想しないじゃなかったけど、何でまた……?

 

 まあ、そのへんは本人たちにしかわからない価値観的なアレだろうから、考えても仕方ないかもしれない。

 

 加えて、逃走の際にしんがりを務める形で残ったボンちゃんが、海軍に捕まった。

 さらに、全く関係ないところでMr.3も捕まってた(どこでいつの間に)。

 

 そのため、先に述べた3人と1匹(と、部下達数十名)の救出には成功したものの、新たに捕まった2人を含む4人は囚われたままになってしまった。

 そしてそれを私達が知ることができたのは、新聞に大々的に『クロコダイル他3名、インペルダウン収監決定』の記事が出ていたからだ。

 

 奇しくも、原作と同じ展開になったわけだ……ルフィがインペルダウンに潜入することになったあの時、彼を助けたメンバーが、原作通り大監獄の内部にそろった形である。

 ……喜ぶべきなのかどうかはわかんないけども。

 

 

 

 助けられなかった、あるいは助かる気がなかった面々の話はこのくらいにして。

 

 続いて、今回の一件で助かった方の人達についてなんだが……作戦終了後、マリアンヌ達から相談を受けた。

 曰く、『強くなりたい』とのこと。

 

 どういうことか聞いたら……今回の件で、自分達はどうにか追っ手から逃げきることができたけど、それは自分達の力じゃなく、助けられてのことだったから、と。

 

 バスティーユ中将を私が、Tボーン大佐をハニーが、そしてヒナ大佐をボンちゃんが足止めし……その間に雑兵達を蹴散らして逃げることで、自分達は逃走に成功した。しかし振り返ってみれば……ほとんど最初から最後まで助けられっぱなしだった。

 

 なんなら、ここに来るまでの道のりそのものですら、私が船出して運んであげたしね。途中からボンちゃんと合流して海軍船使ったけど。

 

 思い返してみれば、自分達では何もできていなかったと。マリアンヌ、ミキータ、ジェムはうつむいて語った。

 助けられた側である、ザラ、ドロフィー、ベープ、そしてボンちゃんの部下達も同様だった。脱獄に成功したはいいけど、ボンちゃんを置いてくることになり、彼(彼女?)を助けることができなかったと、悔やむように言っていた。

 

 そして、二度とこんなことが起きないように……そしていつか叶うならば、囚われの身になったボンちゃん達を助け出すために……自分達を強くしてほしい、と。

 

 正直、こういう、哀しみや後悔を乗り越えて強くなる的な展開、王道だと思うし個人的にも大好物なんだけど……だからと言って、私がつきっきりで彼女達を鍛えるわけにもいかない。

 けど、なんだか力になってあげたい気持ちはあるし……さあどうしよう。

 

 悩んだ末に私は、『パパ』を頼ることにした。

 

 あの人なら……あの人自身が人を育てることに長けてるってわけじゃないにしても――私を鍛えた時も半ばフィーリング重視の実戦訓練だったし――抱えている人材の層は厚いから、指導できる人はいそうだと思う。……マリアンヌの暗示とか、特殊すぎるスキルはさすがに無理かもだが。

 

 それにパパは、いつも配下に有為な人材を集めているし……お眼鏡にはかなうと思う。

 今はまだ皆、『前半の海』でもせいぜいが中堅どころってレベルの実力だと思うけど、まだまだ伸びしろがありそうでもある。ポテンシャルを最大限発揮できていないと私でも分かる人も多い。

 磨けば光る原石、と言っていいと思う。

 

 彼らが力を求めるなら、そしてパパの傘下という立ち位置になってもいいのであれば……有意義な関係を構築できるかもしれない。

 そう提案して、少し思案した後……マリアンヌ達はそれに頷いた。

 

 で、その後パパのところに行って事情を説明し、無事に受け入れられたので……今頃は、傘下の人達に色々鍛えてもらってる頃だと思う。もちろん、パパやその配下の海賊達の仕事その他を手伝いながら、だろうけど。

 ちょくちょく会いに行くつもりではいるけど……次に会った時には、前までよりももっと強くなってるかもね。皆。

 

 

 

 ……にしても皆、『パパ』のことを聞かされた時はびっくりしてたな。そんな大物と私が繋がりがあったのか、って。

 

 まあ、無理もないというか……むしろ当然かもしれないが。

 知名度やインパクトで言えば、彼ら彼女らのボスだったクロコダイル以上だからな、確実に。

 

 そして、私と『パパ』の関係を知った時はもっとびっくりしてた。

 無理もないけどね……これに関しては、私が言うのもなんだけど、予想しろって方が無理だし。

 

 何せ、外ならぬ私自身、そしてパパ自身にとっても、予想外そのものだったんだ。

 出会いから何から……最終的にこういう関係に落ち着くところまで、ホント何から何まで全部。

 

 

 

 思い返せば、本当にほんの偶然から始まったことだった。

 

 果たしてアレが『運命』って奴なのか……それともやはり、ただ単に『偶然』でしかないのか。

 それとも……

 

(『ママ』がそう望んだから、か……なんてね)

 

 気付けばふと、私の脳裏には……あの時のことがよぎっていた。

 私と『パパ』が出会い、そして……『ママ』のことを知ることになった、あの時の出来事を。

 

 

 

 はい、じゃあ……回想入ります!

 

 

 

 




ちょっと短いですが、これにて本章は終了になります。

次回から『メルヴィユ編(回想)』スタートです。

今後ともよろしくです。

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