大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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第11話 スゥ、エリート奴隷になる

 

 

 オークションで私を買ったのは、でっぷりと太った……というかシンプルに体が巨大な、闇商人の男だった。

 

 言っちゃなんだけど、見た目はかなり醜いというか、パッと見て『ブタブタの実の能力者かな』とか思ってしまったくらいにはその……うん。

 鼻はつぶれて上を向いてるし、ニヤニヤ気持ち悪い感じにいつも笑ってるし……

 

 ワンピース世界では、このくらいの異形さ加減は十分に『個人差』でまかり通るもんだとはわかってはいても……それでも、うん。

 

「ぶひひひひ……それじゃあスゥたんには、今日から早速働いてもらうじょ。僕ちんの言うことをよく聞くんだじょ?」

 

 オマケに話し方とか笑い方がコレだ。見た目以上に色物にも程がある。

 

 この、エロ同人の世界から迷い込んできたんじゃないかってくらいに完璧な醜悪さたるや、流石の私も『ああ、私の“きれいな体”もここまでか』なんて覚悟を決めてしまうほどだった。

 だって、どう見てもどう考えてもそういうイメージが浮かんでしまうんだもの。

 

 まあ、もともと『奴隷』なんてまともな労働環境・待遇を期待できるもんじゃないってのはわかってたけどさ…………はぁ。

 

 

 

 

 

 ……購入された当初は、そんな風に考えていた私だったのだが、

 そういう意味では、いい意味で期待を裏切られた……と言っていいのかもしれない。

 

 意外にも、この闇商人は私に対して、見た目や言動からイメージされるようなゲスな命令を出してくるようなことはなく……申しつけられるのはどれも、荷物運びや家事手伝い、その他の仕事のヘルプといった、ごく普通の仕事だった。

 

 『九蛇』の船に乗っていた時や、町で『何でも屋』をやっていた時に経験のあるもの・ことばかりだったから、慣れるのに苦労することもなかったし。むしろ筋がいいってほめられた。

 仕事の量や時間とかはそこそこきついけど、それでもそこまで苦痛を伴うもんじゃない。

 

 きちんと食事も休憩も貰えるし、2日に1度はお風呂にも入れる。寝る時は大部屋に雑魚寝だけど、一応男女は別だし、そこまで閉塞感もない。

 想像、ないし覚悟していたよりは、だいぶホワイトな職場だった。

 

 もっとも、肝心の仕事そのものの方は、むしろ容赦なくブラックだったけども。

 『闇商人』というだけあって、色々ヤバいものを取り扱ってる。武器、違法薬物、盗品に横流し品、その他諸々の禁制品……金さえ積まれれば何でも取引しているようだ。

 ……おいおい、『ダンスパウダー』なんてものまであるよ。

 

 こんなものを取り扱う以上は、下手な人材を雇えば情報流出して即破滅だ。主人の命令には絶対に逆らえない、奴隷という労働力を必要としたのはそういうわけだったんだな。

 

 加えてこの闇商人が私を買ったのには、他にも理由があった。

 

 単純に腕力や知識、経験が既にある大人の奴隷を買えば、即戦力として働かせることはできる。

 しかし、彼らは自分達に対して、大なり小なり反感を抱いている。何かのきっかけで反抗されてしまう可能性は0ではない。それを、闇商人は危惧していた。

 

 そこで考えたのが……まだ小さい子供の奴隷を買い、都合のいいことをアレコレ吹き込みながら育て上げ、最終的に自分への忠誠心を植え付けた奴隷を作ってしまおう、というものだった。

 言ってみれば、光源氏計画の奴隷版である。

 

 そのために買われたのが、そのまま働くこともでき、しかしまだまだ世の中を知らない『子供』であると言える、ちょうどいい年齢の奴隷……つまりは私だったのだ。

 

 そのため私は、立場や仕事は間違いなく『奴隷』としてのものではあるけど、そこまで過酷な仕打ちとかはされず、働かせつつもあやすように、飼いならすように扱われている。

 それと同時進行で、奴隷として仕事をこなすのに必要な知識や技術を教え込まれ、それらと同時に『ご主人様は素晴らしい人である』『そんなご主人様のために働くことこそ幸せである』的な洗脳教育っぽいものを囁かれている。

 

 それに応えるように、教えられたことを生かして仕事をこなすと、きちんと褒めてくれる。なんならご褒美もくれる。

 ……別に、期待に応えてるつもりはなくて、ただ普通に仕事してるだけなんだけどね。

 

「ぶひひひ……さすがに小さすぎるかなって少し心配だったんだけど、いい買い物したじょ。この調子で僕ちんの役に立ち続けてくれたら、お小遣いもあげるし待遇もよくしてやる。その他にも、もっと色々いい思いさせてあげるからね、頑張るんだじょ!」

 

 どうやら、『見込みアリ』としてお気に入り認定されたようだ。

 今後、さらに色々な知識を教え込まれ、仕事を覚えさせられることになるんだろうな。将来的に、この闇商人の手足として仕事に励む優秀な奴隷を作るために。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 そして更に数か月。

 闇商人の元で、私は奴隷としての英才教育を受け、順調に『エリート奴隷』への道を歩みつつあった(笑)。

 

 様々な『仕事』に関する基礎知識――闇取引のやり方とか注意するべきこととか、本物偽物の見分け方とかその他色々――に加えて、そういう現場で働く奴隷達を指揮して仕事をさせるための、まとめ役としての知識も教えられた。経験もセットで。

 今の私は、なんて言えばいいのか……バイトリーダー的な立ち位置で働いている。

 

 10歳も20歳も年上の男の奴隷達もいる職場で、弱冠13歳の少女が――あ、こないだ誕生日が来て13歳になりました――色々指示して仕切っているというのは、自分で言うのもなんだけど、中々シュールな光景なんじゃないかと思う。

 

 それに加えて、私に多少なり剣術の心得があるということが知られて以降は、護衛としての役割もこなせるように、そっち方面でも育てられるようになった。

 

 2~3日に1回だけど、雇われの用心棒の人が稽古をつけてくれたり、模擬戦の相手をしてくれたりする。その他は自主トレで、素振りとか筋トレとかして力をつける日々。

 ……町で自主的に鍛えてた頃とあんまり変わらない生活送ってる気がする。

 

 いやむしろ、修行に関しては今の方が充実してるというか、順調かもしれない。

 

 何せ、仮にも裏稼業の用心棒だけあって、戦闘能力はかなりのものだ。

 町での修行は、対人戦にしても自警団の人達くらいしか稽古の相手がいなかったけど、ここでは本当に命の取り合いが前提の戦いを切り抜けてきた人達に見てもらえる。

 

 まあ、皆さん割と粗野で乱暴で、『ガキの相手なんて面倒くせェが、あくまで仕事だからやってやる』って感じではあるんだけど、経験になるのなら何でもいい。

 折角だから、少しでも多くのことを学ぶために毎回頑張っている。

 

 ……衣食住面倒見てもらえて、色々な場面で役に立つ(と思う)職業訓練もしてもらって、経験も積ませてもらって、実戦的な戦闘訓練の手配までしてもらってる……。

 体壊さない程度に休暇もあるし、仕事で成果を上げたらご褒美も適宜出る……。きちんとやることやっていれば、酷いこともされないし無茶も言われない(少なくとも今は)……。

 

 ……あれ、奴隷だけどすっごいホワイトだぞこの職場。

 

 いやまあ、労働の内容自体がブラックそのものなのは今更として。

 それさえ目をつぶれば、割と条件がよくて理想的な職場な気も……

 

 あーでも待て待て、そもそもあの『ご主人様』は、私を自分に忠誠を誓う奴隷として育てようとしてるんだった。

 『居心地のいい居場所だ、ずっとここで頑張りたい』とかそんな風に考えたら思うつぼじゃん。危ない危ない……。

 わかってたはずなのに洗脳されるとこだった。気を付けろ私。チョロいぞ。

 

 それに、私の『忠誠心』が出来上がったと闇商人が判断したら、今までとは違う仕事を任されたり、今まではなかった命令をされたりもするかもしれないしな……。

 

 未熟なうちは任せることができなかった、今までの私には見せなかった汚い現場、汚い仕事をこれからは任せる、みたいな感じで。

 自分への忠誠心ができているなら、裏切らないし嫌とは言わないだろう、と判断して。

 

 実際、今まで私が関わってきた仕事って……ガッツリ違法は違法だけど、そこまで刺激的な内容のものはなかったと思う。

 けどあれってもしかして、今の私が知るのはまだ早い、と判断されて、わざと隠されてたんだとしたら……?

 

 あるいは、護衛としての実力が確かなものになったら、その武力を利用して『ちょっと○○の(タマ)取ってこいや』とか言われたりするかも。

 用心棒の人達も、たまにいなくなったと思ったら、次の日の朝、商売敵が海に浮かんでた……ってことが何度かあったし。限りなく黒だと思われます。

 

 ……それと……当初危険視してた『きれいな体』云々に関しても、もしかしたらそういうことなのかもしれない、と思い始めてます。

 

 思えば、購入された当初からそうだったんだけど、『ご主人様』が私を見る目にははっきりと情欲の類の色が乗ってるし、それがあったからこそ、あの時は『あ、やばい』って思ってたんだ。

 その後、思いのほかホワイトな労働環境だったから忘れてたけど……そういう目つき自体は、今に至るまで変わってないんだよね。

 

 それに、ご主人様の周りには、何人も見目麗しい女の奴隷がいるし、夜にその人達を部屋に呼んでるのも何度も見た。

 その後深夜、あるいは翌朝になって、その女の人達が部屋から出てくるところも。

 

 奴隷じゃないけど、明らかに『そういうお仕事』の人達を部屋に呼んでる時もあったし、そういうお店に出かけて行くこともあった。

 そういう人は私を見かけると、『お嬢ちゃんにはまだ早いわね』なんて言って、ウインクしてから歩き去って行ったりする。

 

 今はまだ、私が子供だから。『女の子』であって『女』じゃないから。

 それに、無理やりにそう言うことをして反感を買ってしまうかもしれないから。まだ、自分……すなわち、ご主人様に対する好感度とか、忠誠心が足りないから。

 だから、そういう目では見つつも、ただ働かせて、育てるだけ。手は出してこない。

 

 ……けれど、もうちょっと私の『体』と『忠誠心』が育ってきたら、多分……

 

 正直、勘弁してほしいけど……逃げようと思って逃げ出せるほど私に力はまだないんだよなあ……最悪、覚悟決めなきゃいけないだろうか。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 さらに数か月。

 

 そろそろヤバい気がする。

 何が? 私の『きれいな体』が。

 

 ここ最近、なんか私、成長期来たみたいで……自分で言うけど、割とあちこち育ってきてるんだよね。

 それっぽく言いますと、『ボン・キュッ・ボン』な感じに。

 

 それに伴って、最近、ご主人様の視線が露骨にそれっぽくなってきたし……他の男の奴隷とかからも、以前までとは違う目で見られてるように感じる。

 

 13歳って言ったら、まだ中1か中2くらいの年齢だよね……こんな育つもんなの?

 しかも、ここ数か月……育ち始めてから、まだ1年経ってないんだけど。

 

 いやまあ、この世界なら『個人差』の一言で済んじゃう話なんだろうけどさ。

 

 一応、体が育ってきたことについてのメリットはある。

 

 力やスタミナといった、フィジカルの部分が底上げされる形で強化された。

 そのおかげで、戦闘能力が大幅に上がったのである。

 

 これはうぬぼれとかじゃなく、実際そうだと実感できる出来事がいくつもあった。

 これまで軽くあしらわれていた用心棒の人達に、模擬戦でかなり食い下がれるようになったり……一部のメンバーには勝つこともできた。

 

 剣術も、腕力と握力が上がったことで掛け算式に強力になった。今使ってる剣の重さじゃ物足りなくなってきたし、男相手でも力負けすることはそうそうないくらいになってきた。

 

 力負けしたところで、上手くいなして技で勝負できるようにもなった。もともとそっち……テクニックの方は、まだ未熟だったころから特に鍛えてたし、その『技』が使えるようになるまでに体がようやく育ってくれた、って感じなんだと思う。

 

 最近、めきめきと成長を実感できる。もっと頑張れば、もっと強くなれる。それがわかる。

 だから最近は、仕事も修行もすごく充実している。

 

 ……しているんだけど、そろそろどうにかして逃げるなりなんなりしないと、最初に言ったように『きれいな体』でいられなくなりそうなんだよ……。

 

 どうしようかなホントに……とか考えていた、ある日のこと。

 呼び出されたので事務所に行った私は、ご主人様から次の仕事についての説明を受けていた。

 

「ぶひひひひ……スゥたん、次の仕事はかなり大きな取引だからね、いつも以上に気を引き締めて臨んでほしいじょ」

 

「はい、わかりました。それで、当日私はどのように?」

 

「取引は僕ちん達で全部手順とかは設定して、準備もしておくからね。スゥたんにはその場の護衛と、兼ねて雑用の奴隷達の指揮監督もお願いするじょ。まあ、護衛は他にも雇って配置するから、スゥたんは基本的に指揮に集中してオッケー。何かあった時は戦ってね」

 

「承知しました」

 

「頼りにしてるじょ。この取引が無事に終わったら、僕ちんの商会はさらに大きくなる。スゥたんにもその部下達にもご褒美をたっぷりあげられるから、頑張るんだじょ」

 

「はい、全力を尽くします。……それでは、これで失礼します」

 

 一礼して、部屋を出る。

 ……最近は割といつもそうだけど、途中からご主人様、私と話してるのか私の胸と話してるのか分かんなかったな、もう。

 

 しかし、どうやら次の取引はかなり重要な奴みたいだ。

 ということはそれに比例してリスクも大きいものになる。基本的にはいつもどおりやればいいはずだけど……不測の事態が起こる可能性も考慮しておいた方がいいな。

 

 誰が相手のどんな取引なのかはまだわからないけど、何事もなく終わってくれればいいんだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちくしょう、フラグだったか。

 

 

 

 


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